現場社員を巻き込む「相互理解型採用」3つのアプローチ ―NTTデータグループ、アサヒグループジャパン、富士通の実践

村上裕一氏 金澤佳寛氏 溝口望美氏
株式会社NTTデータグループ 村上裕一氏、アサヒグループジャパン株式会社 金澤佳寛氏、富士通株式会社 溝口望美氏

企業が学生を選ぶだけでなく、学生からも選ばれる時代になった。そこで重要性を増しているのが、現場社員との対話を通じて、学生と企業の相互理解を深める採用だ。企業は、現場をどのように巻き込み、採用成果や入社後の定着につなげているのか。2026年7月開催の「BizReach Conference 2026」で紹介された、NTTデータグループ、アサヒグループジャパン、富士通の実践例から、その効果とポイントを探る。

現場社員の主体性を尊重
入社前の相互理解で
ミスマッチを防ぐ
現場社員の主体性を尊重 入社前の相互理解でミスマッチを防ぐ

「BizReach Conference 2026」は、2026年7月にビズリーチが開催したHRイベントだ。同イベントでは、学生と社員の接点づくりを支援する「ビズリーチ・キャンパス」を活用し、現場社員を巻き込んだ「相互理解型採用」に取り組む3社の事例が紹介された。

最初に紹介されたのが、NTTデータグループの事例である。

「学生からの社員訪問依頼数は2020年の1181件から2026年には8583件と、6年で7.3倍になりました。社員との対話を通じて、会社や仕事の中身をもっと深く知りたいという学生のニーズが年々高まっていることを実感します」と語ったのは、株式会社NTTデータグループ 人事本部 課長の村上裕一氏である。

同社の「ビズリーチ・キャンパス」へのOB/OG(同社社員)の累計登録者数は2019年の853人から2026年には1818人と、7年間で2倍以上に増えている。運用にあたっては、採用活動への参加や面談内容について、現場社員の自主性を尊重している。社員それぞれの経験や言葉で、学生と向き合ってもらうという考えからだ。

株式会社NTTデータグループ
人事本部 課長
村上 裕一

研究開発部門にてAIをはじめとした情報活用領域のR&Dに従事。そこで得た知見を武器とし、データサイエンティストとしてデータ分析を用いた顧客の課題解決の支援や、コンサルタントとして情報活用を軸とした新たな顧客の業務の立案など、業種・業界横断で活躍。現在は新卒採用全般を担当。

村上 裕一氏

OB/OG訪問が学生の入社意思決定に影響を与える点に手応えを感じる一方、同社が「ビズリーチ・キャンパス」の活用を強化した背景には、早期離職を防ぐ狙いもあった。

「ポジティブな理由なら問題ありませんが、“何となく”辞めてしまう社員が発生するのはあまりにももったいない。入社時点で、会社や仕事、将来のキャリアパスを具体的にイメージできていないことが、早期離職につながっているのではないかと考えました。

採用前の面談には工数がかかりますが、コストをかけた末に、入社後にミスマッチで離職するより、入社前に相互理解を深めるほうが、企業と学生の双方にとって望ましい。だからこそ、良い面だけでなく、仕事の厳しさや課題も含めたリアルを伝えることが重要です。その結果、学生が選考に進まないことも、ミスマッチを防ぐという意味では一つの成果だと考えています」(村上氏)

OB/OG訪問は、面談に対応した社員のエンゲージメント向上にもつながる可能性が高いと、村上氏は見ている。

「面談経験年数が長い社員ほど、会社の事業価値や仕事の意義、仲間の魅力、自社にいる理由を『再認識した』という割合が高くなっています。学生に話す機会を通じて、会社や仕事の魅力を“棚卸し”できるのでしょう」(村上氏)

また、学生時代に多くのOB/OG訪問を経験した社員ほど、入社後の採用活動への参画意欲が高い傾向も見られた。学生時代に受けた支援が、次世代の学生を支える意欲へとつながっている。

村上氏は「OB/OG訪問の“場”は用意できたので、今後は採用数の確保や定着率の向上をさらに促すため、質の向上を図っていきたい」と語った。

面談経験年数に応じて自社や仕事の魅力への再認識度合いが高まる

NTTデータグループでは、OB/OG訪問への対応経験が3年以上の社員は、2年以内の社員に比べ、「事業価値・社会的影響」(3.85→4.12点)をはじめ、「仕事の意義・やりがい」「仲間の魅力」「自社にいる理由」の全4項目で、自社・仕事の魅力への再認識度合いが高いことが、同社社員163人を対象にした調査で明らかになった

入社時の社員訪問経験が多いほど採用活動への参画に積極的

NTTデータグループの社員を対象にした調査では、学生時代の社員訪問経験人数が多いほど、入社後に「面談機会を増やしたい」と考える割合が高く、訪問経験人数0人では16%にとどまる一方、同10人以上では38%に達した

段階的な拡大と
改善サイクルが成果を生む
OB/OG訪問の有無で
選考遷移率に差
段階的な拡大と改善サイクルが成果を生む OB/OG訪問の有無で選考遷移率に差

次に紹介されたのは、アサヒグループジャパン株式会社の取り組み事例である。

同社は、新卒採用市場の変化に十分対応できていないことに課題を感じていた。

「“人財獲得競争”が激化し、ジョブ型採用など学生の選択肢も広がる中、自社の『人』や『カルチャー』への理解を深めてもらう重要性が増しています。一方、人事部門のリソースは限られ、OB/OG訪問の仕組みもなかったため、学生と現場社員の接点はインターンシップや面接などに限られていました」

そう説明したのは、アサヒグループジャパン タレント開発部 Talent Acquisition リーダーの金澤佳寛氏である。

アサヒグループジャパン株式会社
タレント開発部 Talent Acquisition リーダー
金澤 佳寛

技術系出身。工場エンジニアリング部門にて製造設備更新や新ライン立ち上げ、品質・安全施策を担当。その後、生産戦略・経営企画部門において全社設備投資予算管理、SCM再編計画、経営会議事務局、BCP策定業務に従事。現在は人事・タレント開発領域にて採用・人財戦略を推進し、新卒・キャリア・障がい者採用を統括するリーダーとして、グループ横断での人財獲得力強化に取り組んでいる。

金澤 佳寛氏

そこで同社は、「ビズリーチ・キャンパス」を活用してOB/OG訪問の仕組み作りを行い、2021年卒採用から運用を開始した。ポイントとなったのは、協力体制を段階的に広げながら、改善サイクルを回し続けたことだ。

まず、社員に一律に協力を求めるのではなく、段階的に成功事例を積み重ねながら、社内の理解を広げていった。

「1年目は有志による手挙げ形式でスタートし、2年目は事務系職種から技術系職種に対象を広げるなど、段階的に拡大し、少しずつ社内の理解と協力を得ていったのです」(金澤氏)

さらに、協力した社員を対象にサーベイを実施し、そこで抽出された課題を基に翌年度の施策を見直すことで、継続的に運用を改善してきた。

その結果、OB/OG訪問を実施した学生は、実施していない学生より各段階の選考遷移率が高く、72%が訪問後に志望度が上昇した。

「協力した社員の約90%が、自社の魅力を再認識できたと回答しています。今後は、取り組みをグループ全体へ広げていきたい」と金澤氏は今後の展望を語った。

社員訪問の効果1 選考遷移率の向上

アサヒビールの26卒選考結果によると、OB/OG訪問を行った学生はすべての選考フェーズで訪問していない学生より遷移率が高く、とくに「内定→内定承諾」では82.76%対11.11%と最も差が開いた(「情報取得→ES提出」は52.10%対6.39%、「ES提出→内定」は13.74%対1.71%)

社員側への効果-自社魅力の再認識-

アサヒグループジャパンでOB/OG訪問に対応した社員のうち、「事業価値・社会的影響を再確認できた」は88.7%、「自社にいる意義・入社理由を再確認できた」は87.6%と、いずれも9割近くが肯定的に回答。学生との対話が、対応した社員自身の自社理解を深める効果も裏付けられた

人事部門主導から
事業部門主導の採用へ
現場が学生を惹きつける
体制を構築
人事部門主導から事業部門主導の採用へ 現場が学生を惹きつける体制を構築

最後に紹介されたのは、富士通株式会社の取り組み事例だ。

富士通は、ジョブ型人材マネジメントへの転換を進め、人材配置の権限を人事部門から各事業部門へ移している。2026年4月入社の新卒採用にもジョブ型人材マネジメントの考え方を適用している。

富士通株式会社
Employee Success本部 人材採用センター マネージャー
溝口 望美

大学卒業後、約10年間、国家公務員として施策立案を行うとともに、新卒採用業務に従事。2024年5月に富士通株式会社へ入社。新卒採用担当として、採用ブランディングをはじめ、ジョブ型人材マネジメントを新卒採用に適用していくにあたっての選考企画、有償インターンシップ等に関わる業務を中心に担う。現在は新卒採用・キャリア採用の母集団形成等の担当マネージャーを務める。

溝口 望美氏

具体的には、学歴別初任給を廃止し、ジョブや職責に応じて処遇する仕組みを新卒採用にも導入した。学生が自らに合うジョブを選ぶには、部門や職種への具体的な理解が欠かせない。そこで、有償インターンシップに加え、「ビズリーチ・キャンパス」を活用したリクルーター活動などを展開している。

このように説明したのは、富士通 Employee Success本部 人材採用センター マネージャーの溝口望美氏だ。

「従来は人事部門がリクルーターを任命していましたが、現在は各事業部門が自職場の社員を推薦することで、より自職場の魅力を直接伝えられる仕組みにしました。また、リクルーターとしての活動が社員自身の成長機会にもつながる面もあり、採用活動以外の副次的な効果もあると考えています」(溝口氏)

同社は、リクルーター面談や研究室・学校訪問、採用イベントへの登壇を通じて、学生の事業・職種理解を深め、“適所適材”の新卒採用を目指している。

「リクルーター活動を活性化するため、年間の活動成果を表彰する制度も設けました。優秀なリクルーターのノウハウを全社で共有し、職場自らが学生を惹きつける採用をさらに広げていきたいと考えています」(溝口氏)

富士通:リクルーター制度の変遷

富士通は、リクルーター制度を人事主導・一括任命型から、各事業部門が自職場の社員を推薦する職場主体型へと転換した。会社全体の魅力発信に加え、職場・職種ごとの魅力を学生に直接伝えられるようになり、適所適材の人材確保や、対応する社員自身の成長機会の創出にもつながっている

採用貢献を可視化し称える表彰制度

富士通は、事業部主導のリクルーター制度をさらに強化するため、優秀なリクルーターを表彰する制度を設けている。評価軸は「面談満足度」「意思決定への影響度」「採用活動への貢献度」の3つで、学生・内定者・採用担当者など複数の関係者の声を統合して評価。表彰を通じて社員の参加意欲を高めるとともに、ノウハウの共有によって採用活動全体の効果向上を図っている

紹介した3社に共通するのは、現場社員との対話を採用の仕組みに組み込み、学生の企業・仕事理解や志望度、社員の自社理解を高めている点だ。そのアプローチは、社員の主体性を尊重する、段階的に協力者を広げる、事業部門へ権限を移すなど、企業によって様々である。自社に合った形で現場を巻き込み、双方が納得して意思決定できる環境を整える「相互理解型採用」が、新卒採用の新たな潮流になりつつある。

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