header
坂内 勝実 氏

ADP Japan
営業本部長
坂内 勝実

人的資本データを経営会議の議論材料に

「『開示』は手段であり、本質は『人的資本データを経営判断に活用すること』が一番重要になってくるのではないでしょうか。そのように考えています」と語りかけるのは、ADP Japanで営業本部長を務める坂内勝実氏だ。
今年夏のコーポレートガバナンス・コード改訂に向け、4月に金融庁が「コーポレートガバナンス・コード(改訂案)」を公表した。今回のガバナンス改訂は、「『守りのガバナンス』から『稼ぐためのガバナンス』、成長するためのガバナンスへ方向転換するということです。株主などに代表されるステークホルダーに対して、企業価値を中長期に向上させていくための体制が本来のガバナンスです」(坂内氏)という趣旨であり、その中で『経営資源配分の説明責任』や『取締役会の機能強化』が重要なポイントで、「『人的資本投資』が設備投資・R&Dと並ぶ主要項目として明示されました。つまり、『人にいくら投資し、どうリターンを得ているか』を取締役会が検証・説明する責任が生じたということです」(坂内氏)。

成長するためのガバナンスには人的資本データの活用が必要

成長するためのガバナンスには人的資本データの活用が必要

2023年に有価証券報告書での人的資本情報の開示が求められるようになり、各社とも開示資料を作るために数字を集めている。その上で坂内氏の問題意識は、「『開示資料を作るために数字を集めるだけで終わっていないか?』ということです」(坂内氏)。言葉を変えれば、『その数字は、経営会議の議論材料になっているか?』、さらに『投資判断(どこに追加投資すべきか)に使えているか?』、なかなかできていないのではないかとの見方だ。

『INPUT(投資)』の人的資本データが把握できていない

そのような状況の中で、グローバル企業が直面している課題として坂内氏は、「可視化の欠如」「統制の不在」「比較不能」「スピードの欠如」の4点を挙げる。
「可視化の欠如」は、日本企業は国ごとにばらばらに各国で給与計算しているところが多く、各国の人件費は連結決算をする時に会計システムから上がってきた丸まった数字しか集まらない。「統制の不在」は、各国の与計算のプロセス自体がブラックボックス化している。「比較不能」は、人件費データの細かい項目が分からず、項目別データがあったとしても各国で項目ばらばらなので、地域別、国別での比較ができず、経営会議の場で議論できる数字にならない。「スピードの欠如」は、M&Aの後に人事データや給与データの統合に時間がかかり、場合によっては、そのまま放置で統合せず、買ってしまった会社のデータが全く見えない状況にある。
この結果として、「『どこに・何人・いくらかかっているか』が見えなければ、取締役会は資源配分の妥当性を議論できない。そもそも資源配分を語る妥当性がないという形になってしまいます」(坂内氏)。

INPUT(投資)が見えない3つの課題

INPUT(投資)が見えない3つの課題

『投資判断』はシンプル考えると、『INPUT(投資)』に対してどれくらい『OUTPUT(成果)』が得られるかということだ。人的資本データの活用に当てはめると、「OUTPUTはエンゲージメントスコアやスキルなどで、まさに人的経営資本開示に関連する項目です。各社ともここに関しての意識は高い」(坂内氏)。これに対して「INPUTの部分は投資実態で、『グローバル人件費総額』や『国・拠点別コスト構造』などを把握してない各社が多い」(坂内氏)と現状を見ているという。
具体的に『投資の実態が見えない ─ INPUT側の課題』として坂内氏は3つを挙げている。1つ目は『定義がバラバラ』。国ごとにばらばらのシステムやベンダーを使っていると、そもそも『「人件費」の範囲が国・拠点で異なる』、結果として『比較できない数字が並ぶ』ことになる。2つ目は『データが分散』。ばらばらのシステムからばらばらのデータを集めてきて、『Excelなどで手作業集計』している状況にある。3つ目は、そのような状況なので『集計が遅い』ため、スピーディーに意思決定にデータを使うことができない。
さらに、「INPUTとOUTPUTがきちんとつながっていかが重要になってくる」(坂内氏)とも考えているという。

「グローバルペイロール」で可視化基盤を構築

そのような課題を解決するために、ADPが提供しているサービスが「グローバルペイロール」だ。「給与計算は国ごとに法律が違うので、国ごとにばらばらに行っている会社が多いと思います。われわれのコンセプトは、1つのプラットフォーム、1つの標準化されたプロセスで、グローバルに給与計算を行います。ただ、法律系、例えば税金や文書、書類などのローカルのレギュレーションへの対応、つまりコンプライアンス対応に関してはローカルに行くという形です。1つのプラットフォームとローカルのコンプライアンス対応という形がコンセプトになっているサービスです」(坂内氏)と説明している。

1つのプラットフォーム、1つの標準化されたプロセスでINPUTを一元化

1つのプラットフォーム、1つの標準化されたプロセスでINPUTを一元化

坂内氏によると、『投資の実態が見えない ─ INPUT側の課題』は、「グローバルペイロール」を導入することで、INPUTの一元化を実現できるという。
プロセスが標準化されるので、『統一定義』が実現でき、『全拠点で「人件費」の定義を標準化』される。グローバルでデータが1つになるので、わざわざ月次締めを待たず、『リアルタイム』で、ダッシュボードなどでデータが確認できる。標準化されたデータになるので、国、地域、部門間での『比較可能性』が実現できる。さらに、各国のシステムを統合すると、単純にシステムの数が減り、脆弱性の数も減るので、セキュリティリスクの解決策につながるとの利点もある。CIOにはデータガバナンスの強化も求められているので、給与計算の項目が整ったきれいなデータがそろうようになれば、AIがデータを活用できる可能性が広がる。
「グローバルペイロール」の導入の次に必要になるのは、「ほかのシステムとの連携」(坂内氏)だという。タレント・エンゲージメント・スキルなどのデータを集計するHCMや、会計に関するERP、「これら3つをまとめることによって、『統合分析基盤』という形でINPUTとOUTPUTのひもづけができる形になってきます」(坂内氏)。

リスクの可視化を起点に説明責任を果たす

リスクの可視化を起点に説明責任を果たす

坂内氏によれば、「要求されていることは、本来のガバナンスの姿を実現することです」という。それは『中長期の企業価値最大化』であり、「取締役会はゲートキーパーではなく『成長戦略の司令塔』になり、『経営資源配分の説明責任』が求められ、『投資対効果の継続的検証』が必要になってきます」(坂内氏)。そのために必要なのは「見えないリスクは、見えるようになって初めて対処できる」(坂内氏)との考え方だ。「データだけではなく、プロセスとして何が行われているかを『可視化』する。それをきちんと『統制』する。正しいことを『証明』する。そのようなことが必要になってくると考えています」(坂内氏)。つまり、「『人への投資は企業価値を高めているか?それを説明できますか?』に対する答えが今後さらに求められる体制になってくると考えています」(坂内氏)。

日本では約20年前からビジネスを展開

ADPの創業は1949年、米ニュージャージーに設立され、今年で77年目を迎える会社だ。「最初は、アイスクリーム屋さんの2階で給与計算のアウトソーシングを始めた会社です。そのころは手作業でしたが、IBMの汎用機を導入して、給与計算の自動化を一番に進めたパイオニア的な企業です」(坂内氏)。
今から50年くらい前に海外へ進出、「日本では約20年前からビジネスを展開し、約400社に給与計算のサービスを提供しています」(坂内氏)。ADP全体として従業員は6万7000人、サービス国は140カ国以上の規模だ。

坂内 勝実 氏