「90%の罠」を脱し、AI時代のデータ基盤へ 越えるべき5つのハードルとグーグルが提示する解決策

写真:グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 濱田真氏・櫻井芽生氏

AI エージェントが、「同僚」として業務プロセスに組み込まれる時代。
その「仕事ぶり」に人と同等以上の信頼を置けるかどうかが、AI 活用の新たな重要テーマとなっている。
AI に安心して仕事を委ねるために、導入企業が越えるべきハードルとは何か?
グーグル・クラウド・ジャパンの濱田真氏と櫻井芽生氏に聞いた。

AI 時代のデータ基盤は
「SoI」から「SoA」へ

「90% の罠」という言葉をご存じだろうか。AI エージェントが人の仕事を肩代わりする時代になりつつある今、多くの企業が直面している深刻な課題だ。

「架空の情報を、あたかも事実であるかのように出力するハルシネーションが AI の大きな課題であることは周知のとおりです。調べものやレポート作成であれば人が誤りを修正できますが、業務プロセスに組み込んだ AI エージェントが間違った判断や指示を下してしまうと、業務そのものがおかしくなってしまいます」

そう語るのは、グーグル・クラウド・ジャパンの執行役員で、データクラウド事業本部を統括する濱田真氏である。

重要な業務を委ねる AI エージェントの正確性は、「90% 間違いない」というレベルでも不十分である。これがすなわち 90% の罠だ。100% の正確さがなければ信頼は置けないが、そのレベルに到達させるには「いくつものハードルを越える必要があります」と濱田氏は指摘する。

まず、大前提として濱田氏が提言するのは、企業のデータ基盤の「役割」や「立ち位置」の見直しだ。「従来のデータ基盤は、過去のデータを基に現状の『答え合わせ』や予測をするための分析基盤(System of Insight:SoI)でした。しかし、AI エージェントが 24 時間 365 日、業務プロセスの中で自律的に稼働する今日においては、エージェントが常に最新のデータを参照し、日々の事業・サービス運営のために直接アクションを起こす業務データ基盤(System of Action:SoA)に転換させる必要があります」(濱田氏)。

写真:グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 執行役員 データクラウド事業本部 濱田真氏
グーグル・クラウド・ジャパン合同会社
執行役員
データクラウド事業本部
濱田 真

既存のデータ基盤を Agent-Ready(AI エージェント対応)に変えるのは、そう簡単なことではない。濱田氏は、「実現のためには、少なくとも 5 つのハードルを乗り越える必要があります」と語る。

1 つ目は、AI エージェントが常に最新の情報で判断、アクションするためのデータ基盤のリアルタイム化。2 つ目は、「90% の罠」を突破するのに重要な「セマンティック コンテキスト(意味・文脈)」レイヤーの整備。3 つ目は、既存の業務システムやデータと、AI エージェントを柔軟かつ安全に連携させる「ユニファイド アーキテクチャ」の構築。4 つ目は、爆発的に増大しかねないコストを抑える仕組みやサービスの導入。そして 5 つ目は、自然言語でのシステム利用を踏まえた「AI 活用の民主化」とそれを継続的に管理、改善し続ける仕組みの構築だ。

「グーグルは、AI エージェントが浸透するかなり前から、これらのハードルが立ちはだかるのを予見してきました。それらをすべて乗り越え、お客様が SoA を当たり前に動かせるようにするための基盤として、データ、AI モデル、オペレーショナル データベースを単一の行動するシステムに統合したデータクラウド『Agentic Data Cloud』を提供しています」(濱田氏)

では、具体的にどんな機能が用意され、Agent-Ready なデータ基盤の整備・運用を支援してくれるのだろうか?

「90% の罠」を突破する
データクラウドの最前線

グーグル・クラウド・ジャパンのテクノロジー本部 データ アナリティクス技術部長の櫻井芽生氏は、「グーグルは Agentic Data Cloud を、SoA が当たり前に動くようにする脳や神経回路のようなものと定義しています。当社は TPU などのチップを自社開発し、クラウド サービスから大規模言語モデルに至るまで、AI 活用に必要な全レイヤーを垂直統合で提供するアーキテクチャを構築しており、Agentic Data Cloud は、その中のクラウド レイヤーに当たります」と説明する。

Agentic Data Cloud には、SoA の構築・運用を支援する 400 以上の機能が用意されており、2026 年中には新たに 100 以上の機能が追加される予定だ。これらの機能群は、大きく「Universal Context」「Agentic-First Experiences」「AI Native, Cross-Cloud Lakehouse」の 3 つの柱に分類されている。

Universal Context は、「90% の罠」からの脱却を支援する重要な機能群だ。「AI エージェントが読み取るデータを信頼に足るものにするには、データの整理だけでなく、意味づけや、他のデータとの関連づけなどを明確にする必要があります。そのためには、メタデータ、ビジネス セマンティクス(ビジネス上の用語や指標などの定義づけ)、パーソナライゼーションの 3 つのレイヤーでコンテキストを整備・運用する必要があり、Universal Context はそれを支援する機能群で構成されています」(櫻井氏)。

写真:グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 テクノロジー本部 データ アナリティクス技術部長 櫻井芽生氏
グーグル・クラウド・ジャパン合同会社
テクノロジー本部
データ アナリティクス技術部長
櫻井 芽生

例えば、Knowledge Catalog という機能は、データの鮮度や利用頻度、他のデータとの関係性といったコンテキストごとの分類ができるデータカタログだ。後述するように Agentic Data Cloud では、Borderless な Cross-Cloud Lakehouse というサービスを利用して、Google Cloud 以外の環境にあるデータや業務システムを移動させることなく AI エージェントと連携することができるが、Knowledge Catalog では、他のクラウド サービスから取り込んだデータもコンテキストを含む状態でカタログ化ができる。

「このカタログをベースに、散在するデータの関係性をグラフ化する『BigQuery Graph Analytics』や、ビジネス上の用語や指標を基にデータの意味づけを行う『BigQuery Measures』などの機能を掛け合わせることで、AI エージェントの思考が強化され、アウトプットの精度と速度が格段に高まります」と櫻井氏は語る。

2 つ目の柱である Agentic-First Experiences は、データの専門家だけでなく、一般ユーザーでも AI エージェントを実務ニーズに応じて、自由にカスタマイズできるようにする機能群だ。

「代表的な機能の一つである Google Cloud Data Agent Kit を使えば、グーグルが提供する Gemini などのファースト パーティ エージェントをベースとして、個別の利用目的に合わせた AI エージェントが簡単に作成できます。ひと握りの社員や経営層だけでなく、すべての社員が思いどおりに活用できる AI の民主化が進むはずです」(櫻井氏)

クラウド間の壁を越えて
日本企業の変革に伴走

最後の柱である AI Native, Cross-Cloud Lakehouse は、グーグルの AI を他のクラウド サービスにも適用できるようにする機能群である。先述した Cross-Cloud Lakehouse が、代表的な機能だ。

「SoA の実現に向けて乗り越えなければならない『5 つのハードル』のうち、既存のシステムやデータと AI を連携させる『ユニファイド アーキテクチャ』の構築は、とりわけ高いハードルの一つです。すでにさまざまなクラウド サービス上に構築されている業務システムやデータを、AI 活用のためだけに 1 つのクラウド サービスに大移動させるというのは現実的ではありません。そのハードルを乗り越えていただくため、他のクラウド サービス上にあるデータを移行させることなく、直接接続してグーグルの AI や分析能力を適用できる仕組みとして Borderless な Cross-Cloud Lakehouse を用意しました」と語るのは濱田氏だ。

先ほど櫻井氏が説明したように、グーグルの AI アーキテクチャは、チップからクラウド、モデルまで、あらゆるレイヤーを垂直統合でカバーしている点が大きな強みだ。これが、AI エージェントの活用に不可欠な処理スピードの速さや、コストの全体最適化といった価値をもたらしている。

ただし、「垂直統合は大きな強みですが、同時に私たちは、お客様の利便性を最優先して、よりオープンな環境を実現することにも力を入れています。それこそが、SoA 構築のために不可欠な条件であると考えているからです」と櫻井氏は語る。

写真:グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 濱田真氏 櫻井芽生氏

あくまでもユーザーのビジネスの発展のために。それが、グーグルのデータクラウド事業における基本的な哲学であり、Agentic Data Cloud の機能群には、その思想が色濃く反映されているのだ。

もう 1 つ、グーグルがユーザー企業のために取り組み始めようとしていることがある。それは、Agentic Data Cloud の機能群を「最初のユーザー」としてグーグル自らが活用し、それによって得た成果や成功事例を発信する「Customer Zero」としての取り組みだ。

濱田氏は、「検索連動広告を主力事業としてきたグーグル自身が、今まさに AI 起点の業務変革を進めています。急成長するクラウド事業を支えるため、米国のグーグル本社の現業部門において、AI エージェントを前提とした組織づくりを実践しています。こうした事例を紹介することで、日本のお客様による AI エージェント活用の発展に貢献できればと思っていますので、ぜひご期待ください」と語る。

AI エージェントの活用が黎明期から発展期へと移行する中、「信頼に足る AI」の実現を目指すグーグルのサービスは、頼もしい力となりそうだ。


グーグル・クラウド・ジャパン合同会社