事業継続の鍵を握るサプライチェーンのレジリエンス 企業の信頼を守り抜く「サードパーティーリスクマネジメント」とは

社会インフラの一部である金融業界。そのビジネスの安全性と持続可能性を確保するために、「サードパーティリスクマネジメント」への対応が強く求められている。国際的な規制の動向や実際の対応状況、検討すべき取り組みについて、 5人の識者に聞いた。

サードパーティリスク管理
(委託先等の管理)のグローバル基準

サードパーティ(業務委託先等の取引先全般)がサイバー攻撃や地政学的な影響を受けることで、業務やサービスに悪影響を与えてしまうサードパーティリスク。その管理はあらゆる業界において重要な取り組みだが、重要な社会インフラの一部である金融業界は、とくに厳格な対策が求められている。

デロイト トーマツのマネージングディレクターとして、サードパーティリスクマネジメント(以下、TPRM)のフレームワーク構想・設計・導入を支援する中山崇氏は、現在の規制動向について次のように述べている。

中山氏
合同会社デロイト トーマツ
マネージングディレクター
中山 崇

「近年、ランサムウェアインシデント等により、サプライチェーンの混乱が相次いでいます。金融業界のTPRMについては、各国当局や規制団体が様々な法規制やガイドラインを公開していますが、中でもバーゼル銀行監督委員会(BCBS)による『健全なサードパーティリスク管理のための諸原則(BCBS諸原則)』に示されるガイドラインは、日本の金融庁のガイドラインとも共通する観点が多いものとなっています」

中山氏は、金融機関がTPRMを実践するにあたり、このBCBS諸原則を参照して管理プロセスを整備し、TPRMを運用することをアドバイスする。具体的には、計画・選定といったリスク評価から、デューデリジェンス・契約、オンボーディング・モニタリング、そして終了に至るまで、ライフサイクル全体を通じた「End-to-End」の管理が不可欠だとしている。

「実際の管理プロセスにおいては、固有リスク評価に基づく統制評価を行った上で、モニタリングや是正・予防措置の頻度・深度を調整するのが望ましいアプローチです。サードパーティが担う業務そのものが持つ固有リスクと、それに対するサードパーティの統制状況を評価し、最終的な『残余リスク』が許容範囲内かを見極めることが重要です」

また、効率よく実効性の高いTPRMを実践する上では、管理対象とするサードパーティに濃淡を付けることも重要だ。BCBS諸原則では、金融機関の存続可能性、重要業務、または法令・規制順守義務を果たす能力を著しく損なう可能性のあるサービス提供者を「重要なサードパーティ」と定義している。

さらに、中山氏は特定の委託先や国への依存度が高まる「集中リスク」やサードパーティの取引先である「Nthパーティ」リスクについても警鐘を鳴らしている。

「なるべく分散しているつもりでも、委託先の委託先(再委託先)や再々委託先に業務が集中してしまう『Nthパーティリスク』もあり、これについても規制やガイドラインに基づく管理が求められています」

こうした複雑化するリスク管理に対し、単独の金融機関だけで対応するには、精度やリソース面で限界がある。中山氏は、「金融機関同士や業界ぐるみの共助、外部サービスの活用」にも言及し、社会全体でレジリエンス(回復力)を高めていく必要性を強調した。

経済産業省が進める
サプライチェーン全体のサイバーセキュリティ対策

委託先が抱えるリスクを多面的に評価し、自社や業務の存続を脅かしかねないリスクを最小化することがサプライチェーン全体の安全性を確保する上で重要となる。その管理を徹底するためには、委託元が相応のリソースを投入して、委託先のリスク対応状況を継続的に調査しなければならない。

しかし、「調査のための予算や人員などのリソースには限界があり、評価やモニタリングが思うように行き届かないのが実情だと言えます」と語るのは、経済産業省 商務情報政策局 サイバーセキュリティ課 課長補佐の大久保佐太郎氏である。

大久保氏
経済産業省
商務情報政策局 サイバーセキュリティ課
課長補佐
大久保 佐太郎

実のところ、こうした委託先への調査は、調査を受ける委託先側にも相当な負担を強いている。経済産業省が、あるコンソーシアムに参加している大手企業23社にアンケートを行ったところ、約7割の大手企業が、委託先に対してセキュリティ対策評価のための調査を実施していると回答した。これほど多くの大企業が調査を行っているということは、委託先も複数企業からの調査の要請に応えている可能性が高いということだ。

「複数の取引先から様々な対策を要求されることは、中堅・中小企業も多い委託先にとって過分な負担となっています。そこで経済産業省では、発注側と受注側双方にとって『共通のものさし』となるセキュリティ対策の評価制度づくりを進めており、2026年度末ごろに運用を開始する予定です」と大久保氏は語る。

これは、「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)」と呼ばれるもので、サプライチェーンを構成する企業等のIT基盤(クラウドを含む)に適切なセキュリティ対策が講じられているかどうかを可視化するための制度だ。

経済産業省は、サプライチェーン間の結びつきが強固で複雑な製造業や、流通、金融業等で優先的にこの制度の利用を促進する方針であり、「金融業界のTPRMを高度化、効率化する効果も期待できると考えます」と大久保氏は説明する。

SCS評価制度では、サプライチェーン企業のセキュリティ対策について、「ガバナンスの整備」「取引先管理」「リスクの特定」「攻撃等の防御」「攻撃等の検知」「インシデントへの対応」「インシデントからの復旧」の7項目を評価。対応状況に応じて星(★)の数で可視化を行う。「★3」は「全サプライチェーン企業が最低限実装すべき対策」、「★4」は「標準的に目指すべき対策」と定義されている。

大久保氏は、制度の普及に向けた具体的な支援策とコスト負担の考え方についても言及した。「中小企業が円滑に★を取得できるよう、現状診断からITツールの導入、専門家による人的支援までをパッケージ化した『サイバーセキュリティお助け隊サービス(新類型)』の枠組みを構築中です」。

さらに、多くの企業が懸念するコスト負担については、「公正取引委員会と連携し、対策費用を適切に価格交渉・合意するための想定事例及び解説を整備しました。セキュリティ対策経費は物件費や人件費と同様の間接経費として計上され得るものであり、発注者と受注者がパートナーシップを築いて円満に費用負担を解決できる環境づくりを推進しています。こうした仕組みを最大限に活用し、サプライチェーン全体の安全性を共に高めていただきたい」と締めくくった。

TPRMを高度化、
効率化する仕組みとは?

TPRMを高度化、効率化するためには、AIやプラットフォームといった最新テクノロジーを活用するのが有効である。

「従来のTPRMは、委託先に郵送やメール等でチェックリストを送り、回収した内容をエクセルなどで管理するのが一般的でした。委託先に直接接触する1線業務と、全社のTPRMを統括する2線業務との間でも、データのやり取りはメールやエクセルなどで行われることが多く、管理の高度化や効率化を妨げる原因となっていました」と語るのは、ServiceNow Japan リスク&セキュリティ ソリューション事業部の亀山慶人氏である。

亀山氏
ServiceNow Japan合同会社
ソリューション営業統括本部
リスク&セキュリティ ソリューション事業部
事業部長
亀山慶人

加えて、亀山氏は、日本の金融機関と海外の動向における大きな違いを指摘した。「国内ではTPRMを単体で導入・検討するケースが多いのに対し、海外では統合リスク管理(IRM)やIT資産の構成管理データベース(CMDB)と一体のものとして導入するのが主流です」。

その象徴的な事例が、30カ国以上に展開する欧州の保険グループVIG(ウィーン保険グループ)だ。同社は欧州のデジタル運用レジリエンス法(DORA)という厳しい法律に準拠できる点からServiceNowを導入した。

「具体的には、サイバーレジリエンス強化のため、第1四半期で本社・子会社・関連会社を含むグローバルSOC(セキュリティ・オペレーション・センター)の設置とServiceNow上に資産管理(CMDB)を構築し、第2四半期にはServiceNow上でITリスク管理とTPRM管理をパイロット拠点に同時に本番稼働させています。その後、第3四半期には100+拠点もの組織へ同仕組みを一挙に展開を完了させました。このように、資産管理(CMDB)を起点にリスク情報を紐づけ、リスク全体として統合管理することで、組織横断的なダッシュボードによる可視化が可能となります。結果として、取締役会レベルでの透明性が確保され、サプライチェーンにおける『見えないリスク』の排除と、サイバーレジリエンスの劇的な向上を実現しています」

さらに、ServiceNowのソリューションは、ここ数年、生成AIやAIエージェントの採用によって大きく進化を遂げている。

「デューデリジェンス時におけるサードパーティからの膨大な文書をAIが要約したり、AIエージェントを活用したボイスによる会話形式のやり取りからインサイトを導き出したりするなど、TPRMの迅速化、精緻化に資する進化を実現しています。今後も半年に1度のバージョンアップのたびに利便性がどんどん高まっていくので、ご期待ください」と語った。

デロイト トーマツ×ServiceNowで実現する
TPRMプラットフォームの可能性

TPRMを高度化させるためには、委託先への調査を含めて多大なリソースが不可欠となる。国内外共に限られたリソースの中で、効率化と高度化を両立するために最新技術の活用が加速している。

「海外の取り組み事例の中には、日本の金融機関や金融業界の参考になるものがいくつもあります」と語るのは、デロイト トーマツのシニアマネジャーの大関 聡氏である。

大関氏
合同会社デロイト トーマツ
シニアマネジャー
大関 聡

例えば英国では、政府が定めたサイバーセキュリティ認証制度である「Cyber Essentials」(以下、CE制度)を、政府調達のみならず民間企業においても調達要件等に採用する動きが広がっている。

「『Cyber Essentials』の認証取得をサプライヤー選定や取引の条件とすることで委託先にも一定の対策を促し、自社のTPRMを高度化する取り組みが実施されています。日本においても経済産業省が制度化を進めている『SCS評価制度』のような認証制度を活用・参照することで、日本の金融機関のTPRMにも応用できる可能性があります」

続けて、大関氏は北米の金融機関において、個社の対応による「自助」だけではない「共助」によるTPRM高度化の事例を紹介した。

「金融機関同士が『共助』している例を挙げ、調査項目の標準化や評価結果のシェアを推進しています。業界全体で重複作業を排除し、コスト削減とリスク低減を両立しています」

また、中小企業のサプライチェーンサイバーリスク管理においては、サイバー保険やASM(Attack Surface Management:攻撃対象領域管理)がサプライチェーンサイバーセキュリティに活用されているという。

「米国では大企業がASMツールを用いて委託先のセキュリティ対策を評価するほか、サイバー保険の加入を取引上義務付けることが一般化しています。サイバー保険会社もASMを用いて引き受け審査を行っており、保険加入が企業そのもののセキュリティの信頼性を示しているほか、早期のインシデント対応にも寄与しています。

英国のCE制度においても、中小企業の認証取得企業には24時間365日のインシデントホットラインとサイバー保険が提供されています」

大関氏は、「最新テクノロジーによるTPRMプラットフォームやASMツール・サイバー保険の活用は、単に予防をするだけではなく、何かが起きたときにレジリエンス(回復力)を高めるための有効な手段の一つだと言えます」と評価する。

そうしたTPRMプラットフォームは、デロイト トーマツも提供している。ServiceNowを基盤とし、海外の取り組み事例を参考にしながら、国内金融業界のTPRMの高度化、効率化に寄与するものだ。

「委託先集中リスクや地政学リスクの分析、再委託先を含む包括的なリスク管理など、広範囲にわたるサードパーティリスクを管理できるTPRMプラットフォームです。他のツールが個別に対応する機能をすべて包括的に有しており、金融業界の運用課題をこれ1つで全方位的に解決できることをコンセプトとしています」と説明するのは、デロイト トーマツ シニアマネジャーの田中允崇氏である。

田中氏
合同会社デロイト トーマツ
シニアマネジャー
田中 允崇

デロイト トーマツが提供しているTPRMプラットフォームはServiceNowを基盤としながら、日本の金融業界の企業が使いやすいよう、国内の業務慣行に合わせて事前に設定がされており、早期に利用を開始できるという。

「これにより、発注元から再委託先までのやり取りも、メールやエクセルを使わずプラットフォーム上で迅速かつスムーズに完結します。さらに、日本の金融機関の業務目線に立ち、AIエージェントによる自動化やリスク評価の高度化をすでに機能として取り入れており、今後もさらなる業務負荷削減と管理態勢の強化に向けて、継続的に投資・強化していきます」

このほかデロイト トーマツは、専門知見を生かして金融機関のTPRMのオペレーションや委託先のアセスメント、リスク評価チェック項目の更新などを支援するマネージドサービスも提供している。

田中氏は、「専門人材不足がボトルネックとなって、高度なTPRMを実現できていない金融機関も少なくありません。デロイト トーマツは、TPRMプラットフォームの構築までトータルに支援できますので、お気軽にご相談ください」と呼び掛けた。

最後に大関氏は、「デロイト トーマツは、個々の金融機関の解決策を提案し、伴走支援をするだけでなく、日本の金融業界全体としてTPRMを高度化させるための業界団体への支援や課題解決を手掛けていきます。ぜひ、ご期待ください」と語った。

金融機関のサードパーティ管理を行う責任者に向けて、2026年2月上旬に開催された。上記で登場した5人の識者が、国際的な規制動向や、各企業の対応状況、最新のソリューションやサービスについて解説。参加した国内大手金融機関のTPRMの責任者や担当者からは、「海外でソリューションをスムーズに導入した事例は、自社の取り組みを検討する上で参考になった」(メガバンク・リスク統括部)、「昨年に続き参加したが、金融機関側の共通課題が再確認できた。今後は管理の効率化に加え、実効性を高める高度な対策が求められる。デロイト トーマツの横断的知見とリレーションを活かした業界全体の推進力に期待したい」(大手生保・リスク管理統括部)といった感想が聞かれた。