合同会社デロイト トーマツ
Technology Strategy & Transformation
パートナー
中川 貴雄 氏
多様な業界で、IT・DX戦略立案、IT組織・ガバナンス、アーキテクチャ、IT M&Aなど、テクノロジーストラテジー領域のコンサルティングに従事。グローバル案件に強みを持ち、システム実装の知見を生かして、戦略・構想策定から変革実行までを一貫して支援し、CIOに対してアドバイザリーサービス・CIOプログラムを提供している。

AIが企業に深く浸透し、業務は大きく変わろうとしている。その中で、企業のCIO(最高情報責任者)とCHRO(最高人事責任者)は、かつてないほど密接な連携が求められていると、デロイト トーマツは提言する。CIO、CHROそれぞれの視点から、協働の重要性について語った。
現代の企業を取り巻く環境は、世界情勢の変化やサプライチェーンの分断などにより激動の渦中にある。過去のグローバル統合の時代とは異なり、不確実性を前提に稼ぐ力を身に付けるための経営基盤が必須だ。
また、テクノロジーの観点では、AIの飛躍的な進化がビジネスを根幹から変えようとしている。2022年末の生成AI登場から、現在はエージェンティックAIの活用へと一気に発展。さらに今後はAIエージェント同士が連携するマルチエージェントの活用や、生産現場でのフィジカルAIの進展が重要な潮流となるだろう。
AIが業務に深く組み込まれるこの時代に、デロイト トーマツでは、企業内でテクノロジーを統括するCIOと、人事戦略を担うCHROの役割は劇的に変化し、かつてないほどの重なりを見せていると分析する。
まずCIOは、AIを活用した企業変革を主導するため、設計と統制、ガバナンスを担うことが主要な役割となる。デロイト トーマツのパートナー 中川貴雄氏は、「グローバル企業ではすでに、CIOおよびIT部門の役割が、従来のテクノロジー導入・運用から、企業変革を主導していく役割へと大きくシフトしています」と語る。

合同会社デロイト トーマツ
Technology Strategy & Transformation
パートナー
中川 貴雄 氏
多様な業界で、IT・DX戦略立案、IT組織・ガバナンス、アーキテクチャ、IT M&Aなど、テクノロジーストラテジー領域のコンサルティングに従事。グローバル案件に強みを持ち、システム実装の知見を生かして、戦略・構想策定から変革実行までを一貫して支援し、CIOに対してアドバイザリーサービス・CIOプログラムを提供している。
企業のIT部門には、AI前提で業務や組織のあり方をゼロベースで再設計する設計力と、AIのハルシネーションなどのリスクを管理して安全な環境を整備するガバナンス力が求められている。さらに今後は、AIエージェントを作成・オンボードし、適宜、評価の上リスキルやリタイヤを行うといった、デジタルワーカーを管理する新たな役割が必要になるだろう。
一方のCHROおよび人事部門も、AIによって職務の前提が大きく変わろうとしている。同じくデロイト トーマツのパートナー 古澤哲也氏は、人事部門が直面する現実を次のように説明。
「AIが導入されたことで、仕事はAIと人で分担して行うようになっています。そのため、仕事の評価を純粋に人だけに行うことが非常に難しくなってきています。その際、AIが果たせる能力については人事部門では分からないため、テクノロジーの専門家であるCIOとCHROが協働することによってベストミックスを導かなければいけません」
この過程でCHROは、人が本当に担わなければならない役割に向き合い、人材の評価や配置を検討することになる。「状況によっては、正規分布の中央ではなく、端のほうに寄った人材を選ぶ決断が必要な場面も出てくるでしょう。人の意思や独自の発想、パッションや共鳴といったソフトスキルに、これまで以上にフォーカスする必要があります」(古澤氏)。
AIを前提としたテクノロジー戦略・業務設計や、AIをワークフォースとして認識し、組織・人材戦略を立てなければいけない時代に、CIOとCHROはそれぞれの立場を超えた密接な協働が不可欠となる
AIと人が共創するためには、まず業務プロセスの変革が必要だ。「CIOとCHROが協働し、AIが実行する部分と人間が担う部分を、1つのプロセスとして描き直すことが重要です」と古澤氏は語る。
また、AIは進化が速く、変わり続けるものだ。そのため企業組織には、継続的な変化への適応力であるダイナミックケイパビリティが求められる。中川氏は、AI時代に必要な人材について、「すべての組織において、まずはAIを使い、自分の業務を効率的に回せる環境をつくることができる人は強いですし、それをスケールさせられる人材が求められます」と指摘した。
世界を見渡すと、AIによる大きな役割変化に向けて、先駆けて取り組む企業も存在する。この変革のアプローチは大きく3つあると、中川氏は説明。「まず、IT部門自身がカスタマーゼロとなって成功体験をつくり、事業部門へ横展開する例。次に、全社横断のプロジェクトとして予算と人を集中投下しトップダウンで進める形。そして、次世代リーダーを集めた“特区”的な組織を作って、ゼロベースで新たなAIをベースとしたオペレーティングモデル・組織をデザインする形態があります」。さらに進んで、CIOとCHROの機能を統合した役職を設置する企業も登場しているという。
だが、全社的な変革を推し進める中で、CIOとCHROの間には、根底にある考え方の違いから見えない壁が立ちはだかることも多い。企業がAI導入を進めるアプローチには、テクノロジー起点の「AIセントリック」と、人起点の「ヒューマンセントリック」という対立しやすい思想が存在するためだ。
AIセントリックは、圧倒的な速度と精度で処理を行うため、業務プロセスの自動化によるコスト削減や生産性向上という経済合理性を得やすいメリットがある。その半面、人間が担うべき創造性や倫理的判断が必要な領域までAIに移管してしまい、業務品質や従業員のエンゲージメントを低下させるリスクを伴う。さらには、ハルシネーションによる誤判断の検証コストを増大させるデメリットも抱えている。
一方のヒューマンセントリックは、人間が担うべき業務を先に明確にし、AIを補助的に用いる考え方だ。人権や倫理、従業員の働きがいといった観点でメリットが大きく、組織の多様性を確保しやすい。しかし、人の能力と量が最終的な成果の制約条件となるため、AIセントリックほどの効率化インパクトが得られず、経済合理性に限界が来てしまう。
古澤氏は、この思想の違いによる組織内の分断について、「テクノロジー側の人たちは、業務の効率化や収益性を一番に、AIに置き換えられるものは全部置き換えるのが合理的だと考えます。一方で人事側は、人間の権利を守ることを最重要課題とするため、人ができないことや煩雑な部分をAIにやらせるべきだという立場を取る傾向があります。両方とも正しい思想の問題ですが、この根底の思想の違いを理解した上で話をしないと、なぜ分かってもらえないのかという話が延々と続きかねません」と説明。
機能的な役割分担の議論の前に、互いの思想の違いを深く理解し、自社としてどこに落としどころを置くのかを徹底的に対話することが欠かせないのである。

合同会社デロイト トーマツ
ヒューマンキャピタル
パートナー
古澤 哲也 氏
20年以上にわたり、組織・人材コンサルティングに従事し、経営課題を組織・人事面から解決する支援を行う。とくにグローバル人事戦略の立案、各種人事基盤の設計から組織風土改革までを、総合的に支援する経験が豊富。CHROに対してアドバイザリーサービス・CHROプログラムを提供している。
このように、AIトランスフォーメーションは、単一領域の専門家では太刀打ちできない、極めて多様な要素の掛け合わせが必要だ。このような難易度の高い全社的な組織変革において、デロイト トーマツは総合ファームとしての独自の強みを発揮している。
「業界知見に加え、ファイナンスやサプライチェーンといった業務知見、AIに代表されるテクノロジー知見をはじめ、経営からミドル、現場までの課題を捉える視点、さらには戦略構想からグローバルでの実行力に至るまで、お客様の多様なニーズにお応えできる専門人材をそろえています」(中川氏)
AI時代の労働力の課題に対し、デロイト トーマツは、全社トップダウンでのAI変革推進を基本としつつも、ミドルマネジメントや現場の丁寧な巻き込みを並行して行うアプローチを採用しているという。また、グローバルデファクトのSaaSパッケージへのFit to Standardに苦戦している企業も多い一方で、AIベースの業務再設計において、日本の強力な現場力とAIの民主化を結びつけることが、大きな価値を生む可能性にも着目している。
また、人事コンサルティング領域では、日本最大規模のチームを擁しており、変革に伴う「チェンジマネジメント」のパートナーとして、企業におけるAIと人の問題を支援するという。「AI導入は非常に大きな変革であるため、丁寧に行わなければ現場に大きな混乱を招いてしまいます。当社はそれぞれの立場による心配事を一つひとつ整理し、解決策を提示することで、人の心に寄り添うサポートを重視しています」(古澤氏)。
そして古澤氏は、AI導入はとくにミドルマネジメント層にとって大きな復権のチャンスになると指摘。これまでの管理職は、労務管理や情報共有などの業務が積み重なり、「管理職の罰ゲーム化」が起きていたが、AIがこの現状を変えると古澤氏は見ているという。
「労務管理や内部の情報共有といった業務をAIがやってくれるようになれば、本来注力すべき部下のモチベーション管理や人材育成に時間を割けるようになります」(古澤氏)。AIがミドルマネジメント層の負荷を劇的に軽減し、中間管理職の存在意義を再び高める原動力になるのだ。
AIがビジネスのあり方を根本から覆すこの時代は、企業にとって変革の好機である。「テクノロジー要素はあらゆるCxO(Chief x Officer)のアジェンダに不可欠であり、経営陣の横断的な協働は避けて通れません。CIOには技術論だけではなく、ビジネスインパクトを語るけん引力が求められています。AIのリスクに目が向かう傾向がありますが、CIOをはじめテクノロジーに携わる人が変革をリードするときが来た、と考えています」と中川氏は語る。
また古澤氏は、「人事はこれまで閉じた世界で活動することが多かったかもしれませんが、もうそのような時代ではありません。人事がCIOやIT部門の方々と深く対話することが不可欠です。CHROはその先頭に立つ必要があります」と人事部門の活躍を後押しする。
中川氏は最後に、「今回我々が発信する内容を、活躍のフィールドが広がるチャンスと捉えていただき、CIOとCHROが一緒に話すきっかけになってくれればとてもうれしいです」と語った。社内での積極的な対話が、未知の時代に企業を成長させる一歩となるだろう。