大規模な供給可能性を持つ
自然系カーボンクレジット
──日本国内におけるGX-ETSの本格運用開始などを契機として、企業のカーボンクレジットに対する関心が高まっていますが、カーボンクレジット市場の動向について教えてください。
姫野氏:2026年度に本格運用が始まったGX-ETSでは、政府が対象事業者にCO₂(二酸化炭素)の排出枠を割り当て、実際の排出量が排出枠を超える場合には、不足分を補填するための対応が求められます。その手段の一つとして、適格カーボンクレジットを活用することが認められています。
GX-ETSでは、排出枠の取引価格に上下限価格が設けられていることから、コンプライアンス目的でクレジットを調達する事業者にとっても、この価格水準が重要な目安となります。そのため、この価格レンジを意識しながら、必要な数量を中長期にわたり安定的に確保できるクレジットへのニーズが高まっています。
そこで注目を集めているのが、森林保全や土壌管理などを通じて創出される自然系カーボンクレジットです。これらのプロジェクトには、大規模なクレジット創出が見込まれる案件も多く、まとまった数量を中長期的に確保できる可能性があります。特に、GX-ETSへの対応や、排出枠・クレジットの取引を見据える企業を中心に、関心が高まっています。
ただし、こうした安定調達を実現するためには、プロジェクトの組成段階からの投資や長期購入契約が必要となるケースも少なくありません。市場や制度がなお発展途上にある中、企業には、将来のクレジット調達を見据え、どの案件に長期的に関与すべきかを見極めることが求められています。

Sustainability Unit
シニアコンサルタント
姫野美希 氏
──自然系カーボンクレジットについては、関心はあっても、投資や購入に踏み切れない企業が少なくないと聞きます。何がハードルとなっているのでしょうか。
聶氏:森林や土壌などの改良を伴う自然系プロジェクトは、10年、20年と長期にわたって投資し続ける必要があるため、「途中で制度が変更される恐れはないか」「現地でプロジェクトを担当するパートナーが長く信頼できるかどうか」といった懸念が常に付きまといます。そうした先行きの不透明さやリスクの多さが、ニーズと関心はあってもなかなか踏み込めない理由の一つだと思います。
また、「想定通りにクレジットが創出されるのか」「将来にわたって価値が認められるのか」「投資に見合うリターンが期待できるのか」など確認すべき論点が多岐にわたり、社内で投資・購入判断の根拠を説明しにくいことも、多くの企業が悩まれている点です。
私たちデロイト トーマツは、自然系カーボンクレジットに関する課題は大きく3つあると考えています。
1つ目は、技術面の課題です。自然系の排出量削減には、森林のほかに、農業や畜産、土壌管理など様々な手法があり、自社が目指す削減効果を実現するには、どの国・地域で、どの手法を適用するのがふさわしいのかという技術的な課題をクリアする必要があります。
2つ目は、データの取得と証明です。先ほどお伝えしたように、自然系のプロジェクトは何十年にもわたって継続します。その間、現地のデータを継続的に取得し、将来、第三者の認証機関が確認した際に、妥当性を判断できるだけのものが提供できるかどうかが問われることになります。
Operations, Industry & Domain Solutions Unit
シニアマネジャー
聶 佳 (じょう か)氏

両社の強みを融合して
戦略策定から投資判断・実行まで支援
──それでは、3つ目の課題は何でしょうか。
聶氏:プロジェクトの運営です。自然系カーボンクレジットを調達するためのプロジェクトは、主に東南アジアの森林保全や土壌管理など、海外での案件が中心となります。つまり、クレジットを調達する企業の既存事業とは異なる領域のプロジェクトを、海外の現地のパートナーと組んで進める必要があるのです。
そのためには、現地パートナーの人員体制や財務状況、許認可の有無などはもちろん、プロジェクトに関連する現地の法令などもしっかりと確認しなければなりません。
このようなプロジェクトの経験がない企業にとっては、非常にハードルが高い取り組みですし、不確実性を総合的に評価できる仕組みが整っていないと、投資に踏み切るのも困難ではないかと思います。だからこそ、技術、制度、事業性、地域社会との関係、将来にわたる価値といった多面的な観点から、案件を総合的に評価することが欠かせません。
──そうした課題を解決するため、デロイト トーマツは、デロイト トーマツ サステナクラフトと共同で、自然系カーボンクレジットの調達などを支援するサービスを提供しているとうかがっています。そもそも、デロイト トーマツ サステナクラフトはどんな活動をされているのでしょうか。
ドナー氏:サステナクラフトは2021年10月に創業したスタートアップで、カーボンクレジットの調達戦略策定から、プロジェクトの案件探索、評価、調達・償却等の取引までを一貫して支援してきました。各国のカーボンクレジットに関する制度に精通し、案件の形成・評価・実行に関する実務知見を蓄積してきました。加えて、森林や土壌の状況を分析する衛星リモートセンシングや、データの管理・可視化を支えるデータエンジニアリングにも強みを持っているのが特徴です。
一方、デロイト トーマツは、カーボンクレジットに関することはもちろん、多様なアドバイザリーサービスを多くの企業に提供しています。そのため、企業全体の事業戦略および経営課題とニーズを深く理解し、それに沿った脱炭素戦略を提案・実行できるのが強みです。
この両社の強みを融合し、戦略策定から、案件探索、契約締結、プロジェクト実施後のモニタリングまで一気通貫のサービスを提供できるようにするため、サステナクラフトは、2026年4月にデロイト トーマツの完全子会社となり、デロイト トーマツ サステナクラフトとして再出発したのです。
シニアスペシャリスト
ジュリア・ドナー 氏

卓越したコンサルティング力と
実務能力、専門性が融合
──両社が一体化したことによるシナジーについて、詳しく教えていただけますか。
サティア氏:デロイト トーマツ サステナクラフトには、豊富な実務経験を持つ人材に加えて、科学的な専門性を持ったプロフェッショナルも多数在籍しています。
例えば、衛星リモートセンシングの技術を持つ人材においては、衛星画像を使って森林や土壌の状態を分析し、計画通りに森林が創出されているか、伐採や土壌破壊がされていないかどうかといったことをモニタリングします。これによって、プロジェクトの進捗状況を継続的に把握できるようになるわけです。
また、森林や土壌の過去の履歴状態を確認しながら、最適な土地利用用途や経済性の高い土地管理方法といったことも分析して提案することができます。
──投資先や調達先を探索する上でも、プロフェッショナルによる科学的なアプローチが行えるわけですね。
サティア氏:その通りです。ただし、衛星データで分かることには限界があるため、現地を訪れて森林減少の要因やコミュニティの状況を確認し、資料だけでは見えないリスクを把握することも重視しています。
こうした科学的な専門性と、デロイト トーマツのコンサルティングスキルを組み合わせて、案件の探索・評価から投資・購入判断に必要な材料の提供まで、お客様を一気通貫で支援できることが、両社の一体化によって生まれた最大のシナジーだと思います。
シニアスペシャリスト
エネス・サティア 氏

──デロイト トーマツは、両社のシナジーについてどうお考えですか。
姫野氏:私たちの強みは、企業の経営戦略や脱炭素戦略の策定を長年支援してきたことです。カーボンクレジットを単独で捉えるのではなく、事業戦略や調達戦略、投資計画といった経営全体の文脈の中で、どのように活用していくべきかをご提案できます。
また、デロイトは世界各国にメンバーファームを有しており、各国の政策動向や市場の変化、企業の先進的な取り組みに関する知見をグローバルに蓄積しています。そうした知見も活用しながら、日本企業が中長期的な視点で脱炭素戦略やカーボンクレジット活用を検討できるよう支援しています。
そこにデロイト トーマツ サステナクラフトの実務経験や科学的な専門性が加わったことで、戦略策定からプロジェクト評価、実行支援まで、より実効性の高いサービスを提供できるようになったと感じています。
投資家・オフテイカーの立場から、各社の企業戦略を踏まえて個別案件を総合的に評価し、投資・購入判断まで支援するプレイヤーは、日本ではまだ限られています。私たちは、科学的知見、現地調査、事業性評価、戦略策定を統合することで、「良いクレジットか」だけでなく、「その企業が投資・関与すべき案件か」を判断するための材料を提供しています。リスクを完全になくすことはできませんが、案件ごとの論点を多面的に整理し、企業の戦略や目的に照らして投資・関与の妥当性を評価することが、私たちの役割です。
聶氏:デロイト トーマツのもう1つの強みは、企業支援を通じて得た知見をもとに、脱炭素に関する政策・制度の調査研究や政策提言にも取り組んでいることです。今後も、産業界のニーズや課題を客観的に整理し、より実効性のある制度や市場環境のあり方について提言していきたいと考えています。
社会と産業が共にWin-Winとなる
取り組みを目指す
──両社には多種多様なバックグラウンドを持つプロフェッショナルがそろっていますが、これまでに培ってきたキャリアや、現在の仕事で感じている「やりがい」について教えてください。
姫野氏:シンクタンクや他のコンサルファームを経てデロイト トーマツに参画しました。一貫して、脱炭素政策および炭素市場に関するご支援に携わっています。複雑で不確実性の高いテーマについて、多様な情報を整理・統合し、企業の意思決定を支援できることにやりがいを感じています。デロイト トーマツには、政策、事業性評価、財務など異なる専門性を持つメンバーが集まっており、それぞれの知見を結集しながら企業の脱炭素化を支援できることも大きな魅力です。
ドナー氏:地球科学の博士号(PhD)を取得し、アカデミアでの研究を経て、デロイト トーマツ サステナクラフトに入社しました。現在は、その科学的バックグラウンドと多文化環境での経験を生かし、日本企業と海外のプロジェクト関係者をつなぐ橋渡し役を担っています。国境を越えた協業を後押しし、それを通じて大気中のCO₂濃度の上昇という複雑かつ重大な課題の解決に貢献できることに、最もやりがいを感じています。
聶氏:コンサル業界一筋でキャリアを重ね、現在は食料・農業分野の脱炭素支援を推進しています。自然系の取り組みは、CO₂削減だけでなく生物多様性や地域活性化といった「コベネフィット」を生む意義深い領域です。データ分析や法規制など異なる強みを持つメンバーと学び合えることが活力になっています。
サティア氏:大学院で森林科学を学び、海外でのクレジット組成やNGOでのモデリングなどを経験してきました。現在は二国間クレジット制度などを通じ、企業のニーズと現地の環境・生活者双方に還元できる仕組みづくりを行っています。現地を訪れてローカルデベロッパーと協力しながら事業を動かせることに大きなやりがいを感じています。
──デロイト トーマツ サステナクラフトは、新しい人材を積極的に募集しているとうかがっています。どんな人材に来てほしいですか。
サティア氏:脱炭素を通じて、森林・土地などの自然資源にどのような事業性を持たせられるのかを専門的な観点から理解し、仕事に取り組める人と一緒に働きたいと思っています。
自然系カーボンクレジットの仕事は、クライアントである企業や現地のオペレーター、政府や第三者認証機関など、様々なステークホルダーと直接向き合う仕事ですので、コミュニケーション力の優れた方にとって魅力を感じられると思います。
ドナー氏:カーボンクレジットの領域は、制度だけでなく、需要側のニーズやクレジットを創出する側の状況も常に変わり続けています。そうした日々の変化を刺激として受け止め、様々な専門性を持つ仲間と互いに学び合いながら、社会や企業に貢献したいと考える方と一緒に仕事がしたいですね。
──最後にデロイト トーマツのお二人から、自然系カーボンクレジットの調達を検討している企業にメッセージをお願いします。
姫野氏:不確実性の高さから慎重な姿勢を取る企業も多いと思います。しかし、不確実性が解消されるのを待つこと自体が、機会損失につながる可能性があります。
とりわけ森林保全などの自然由来のプロジェクトは、構想からクレジット創出までに長い時間を要します。そのため、将来の選択肢を確保するという意味でも、早い段階から検討を始めることに大きな意義があります。
重要なのはリスクがゼロになるのを待つことではなく、どのようなリスクが残っているか、どこまで低減できるかを把握し、社内で説明可能な形で意思決定することです。
私たちは、リスクと機会の両面を踏まえながら、企業ごとの状況に応じた判断やプロジェクト形成を支援しています。関心をお持ちの企業の皆様には、ぜひお気軽にご相談いただきたいと思います。
聶氏: デロイト トーマツとデロイト トーマツ サステナクラフトの強みは、脱炭素戦略や投資評価、リスク管理の知見と、自然資本・カーボンクレジットに関する科学的な専門性、現地での実態確認を1つにつなげられる点です。企業ごとの戦略やニーズに合う機会を見極め、「その企業が投資・関与すべき案件か」という観点から判断材料を提供し、投資・購入の判断から実行後の検証まで伴走します。農業自然由来の脱炭素の取り組みは環境負荷削減だけではなく、生産者支援や地方課題解決等複数のコベネフィットがあることが魅力です。ご関心や課題感がある企業の皆様、ぜひお気軽に意見交換や問い合わせをいただければと思います。
