事業継続の鍵を握るサプライチェーンのレジリエンス ファイナンス・トランスフォーメーションでいまこそ変わるべきCFOの役割

半歩先も読めない不確実な時代の中で、企業のCFO(最高財務責任者)に求められる役割は大きく変わっている。財務を「守る」だけの役割から脱却し、いかにして「攻めの経営」を後押しする存在となるべきか? デロイト トーマツの3人の専門家に聞いた。

CFOの役割は
「ブレーキ役」から「コ・ドライバー」へ

松本氏
合同会社デロイト トーマツ
Accounting&Finance カテゴリーリーダー
パートナー
松本 淳
会計・ファイナンスアドバイザリー部門の責任者と、Corporate as a Service(CaaS)の責任者を担当。CaaSでは、アドバイザリーとオペレーションを融合し「安心・信頼して任せられる日本の経理部」の実現を目指す。

──近年、企業を取り巻く環境は目まぐるしく変化し、複雑性と不確実性が高まり続けています。先行きの見えない状況の中で企業が生き抜くために、CFOが果たすべき役割はどのように変わっていくのでしょうか?

松本 あまり大きな変化がなかった時代は、財務を健全な状態に保つという「守り」に徹すれば、CFOとしての役目を果たすことができました。

 しかし、今日のように不確実性が高く、環境変化が激しい時代には、「守り」に徹しているだけでは持続的な成長は困難です。データに基づいて、見えにくい未来を見通し、相応のリスクを取りながら「攻めの経営」を実践していく必要があります。

 最終的な意思決定をするのはCEO(最高経営責任者)ですが、その判断をサポートするCFOにも「攻め」のマインドが求められているのです。

──具体的に、CFOの役割はどう変わっていくべきだとお考えでしょうか?

三上 これまでは、新規事業への投資やM&A(合併・買収)などの戦略的意思決定はCEOや事業部門が主導し、CFOはそれらの投資案件に対する財務的なリスクを適切に評価して、場合によっては中止を促す役割を担ってきました。つまり、前者は「アクセル役」、後者は「ブレーキ役」だったと言えます。

 しかし、今日のように先行きが見えにくい時代には、相応のリスクは承知の上でブレーキを緩め、ドライバー(CEOや事業部門)にアクセルを踏み込ませなければならない局面も訪れるはずです。これからのCFOは、そうした加速・減速やハンドルさばきを指南する「コ・ドライバー」(運転助手)になるべきだと考えています。

三上氏
合同会社デロイト トーマツ
Finance Transformation
オファリングリーダー
パートナー
三上 徳朗
大手製造業を中心に国内外のファイナンス領域の業務改革(BPR),SSC/BPO,システム構築, など数多くのプロジェクトに従事。Deloitte JapanにおけるFTオファリングリーダー兼GBSオファリングリーダー。

──つまり、CEOによる“会社の運転”を助手として支えていくわけですね。

三上 おっしゃる通りです。これからのCFOに求められる役割は、「将来予測」「リスクテイク」「リーダーシップ」の3つであると我々は考えています。

 自動車競技のラリーにおけるコ・ドライバーの役割に例えると、イメージしやすいかもしれません。

 コ・ドライバーはコースの詳細情報を記したペースノートを持っていて、「この先に何が待っているのか?」という情報をあらかじめドライバーに伝えます。同じように、CFOも様々なデータを分析し、会社や市場の将来予測をCEOに伝える役割を担います。

 また、コ・ドライバーは、ペースノートを見ながら、「ここではアクセルを踏んで良い」「ここはブレーキをかけないとコースアウトしてしまう」と判断して、ドライバーの運転に反映させます。CFOにも、事業や市場環境に潜む様々なリスクを評価し、「取るべきか?」「回避すべきか?」を判断して、CEOに最終決定を委ねる役割が求められます。

 さらに、コ・ドライバーは、ドライバーだけでなく、チーム全体のサポートスタッフを動かし、クルマが問題なく走り続けられるようリーダーシップを発揮する必要があります。同様に、CFOも社員を動かし、やるべき仕事を着実に進めていかなければなりません。単なる財務の専門家ではなく、会社を引っ張っていくリーダーシップが要求されるわけです。

「健全なリスクテイク」を心掛けることが大切

川島氏
合同会社デロイト トーマツ
Finance Management Advisory ユニットリーダー
パートナー
川島 悦朗
CFO組織の変革支援を自身のアジェンダとして活動。「ファイナンスで事業を変革するためのCFO組織」を支援するために、ファイナンスPMI関連業務、企業価値価値向上のためのFP&A等のサービス展開を行うチームを統括する。

──守りの立場が多かったこれまでのCFOが「アクセルを踏んでも良い」と判断できるようになるためには、意識や姿勢を変えなければならないのではないかと思います。「攻め」の姿勢にシフトチェンジするために、CFOが持つべき意識とは何でしょうか?

川島 元来、CFOの役割は「ビジネスや財務状況がどうなっているのか?」という過去の事実を、数字に基づいて可視化することにありました。この物事を「可視化」できる能力こそがCFOの最大の武器であり、「攻めの経営」を主導する上でも存分に発揮できると考えています。

 そのため、まずは企業のリソース・ケイパビリティを正しく認識し、「過去の振り返り」だけでなく、「未来の可視化」にまで生かそうとする意識を持つべきだと思います。

 これからのCFOに求められるのは、未来を可視化するだけでなく、それを構造化し、実行に落とし込むところまで責任を持つことです。

 例えば、売り上げが1000億円伸びて、前年比20%になったことは、数字として可視化できますが、伸びた要因が新規事業の成長によるものなのか、それとも為替の影響なのかといったことは、全体の数字を見るだけは分かりません。そこで、より詳細に分析し、1000億円のうち500億円は為替の影響だったということが分かれば、来期は同じような伸びが期待できないかもしれないという課題が明確になります。これが構造化です。

 ここまでは「過去」の領域ですが、「未来」に向けて「攻めの経営」を行うためには、構造化された事実に基づいて、為替の影響を小さくするために取引構造や生産拠点を見直すといった具体的なアクションを起こす必要があります。

 その判断に対して、社内の誰よりも強い確信を持ち、「リスクを取ってでも進めるべきだ」と強く提言できるのは、事実の可視化、構造化によって「見えにくい未来」を比較的高い解像度で予見できているCFO以外にいません。

 自らのケイパビリティに自信を持ち、必要なリスクは恐れずにテイクする「攻めの経営」をリードすべきだと思います。

──「リスクをテイクする」という行為は、どうしても「危険を冒す」「賭けに出る」といったネガティブなイメージで捉えられがちですが、リスクに対する向き合い方についてはいかがでしょうか。

川島 おっしゃるように、リスクは「危ないもの」という印象がありますが、リスクの本来の意味は「不確実性」であり、損失の可能性だけでなく、期待される利益機会など、プラスの意味も含んでいます。言い換えれば、相応のリスクを取らなければ、新たな収益のチャンスも得ることができないということです。

 「リスクは避けるべきものだけではない」という前提に立って、「健全なリスクテイク」を心がけるのが望ましいと考えます。

──「健全なリスクテイク」とは、どんなものでしょうか?

川島 端的に言えば、組織として体系化された枠組みを整備した上で、必要な成長やリターンのために戦略的にリスクテイクすること、ではないでしょうか。許容度(リスクアペタイト)を定める、客観的な指標や判断基準を持つ。それに基づいて、取るべきか、取らざるべきかの判断プロセスを整備し、取ったリスクをモニタリングする仕組みや行動基準を決めておく。その上で、最後は勇気を持って決断するという胆力も、これからのCFOには求められると思います。

「冷静さ」と「情熱」の二面性が求められている

──書籍『ファイナンス・トランスフォーメーション ~企業価値向上をリードする次世代CFOの条件~』(日経BP刊)の中に、「これからのCFOには、『冷静さ』と『情熱』の二面性が求められている」と書かれています。なぜ、この2つが必要なのでしょうか?

松本 数字を司り、事実に基づいて判断を下すCFOに「冷静さ」が求められることは言うまでもありません。その一方で、変革の担い手としてリーダーシップを発揮し、人を動かしていくためには「情熱」も不可欠だと考えます。

 従来のCFOは、どちらかと言えば「冷静さ」に偏りがちでしたが、あまりにも事実に重きを置いたマネジメントを行ってしまうと、人や組織が動かなくなる懸念があります。なぜなら、数字を裏付けとする事実は強すぎるので、誰も反論できなくなるからです。

 正論だけで押しても、人はついてきません。数字を示しつつも、ストーリーや情熱、ナラティブ(語り)で人を動かしていく。そのバランスが大事だと思います。

 私たち、デロイト トーマツは、「ファイナンス組織の変革」と、「ファイナンスによる事業の変革」を同時に推進する「ファイナンス・トランスフォーメーション」を提唱しています。この中で、とくに重要な要素の一つとなるのがCFO自身の変革なのです。

──『ファイナンス・トランスフォーメーション』には、「攻めの経営」に転換するために、ビジネスの基盤となるシステムのあり方も見直すべきだと書かれています。見直しのポイントは何でしょうか?

三上 これまでは、「過去に何が起こったのか?」ということを分析することは比較的すぐに分かりましたが、「なぜ、それが起こったのか?」を掘り下げるのには時間がかかっていました。変化の激しい時代を生き抜く「攻めの経営」を実践するためには、「なぜ起こったのか?」に加え、「これから何が起きそうか?」「それに合わせて何をすべきか?」ということまで示唆してくれるシステムに置き換えていく必要があると考えます。

 現在、多くの企業がERPの更新時期を迎えていますが、既存のシステムをそのままアップグレードするのではなく、AIやデータといったテクノロジーを駆使して将来の“先読み”に貢献できるようなシステムに刷新するのが望ましいと思います。

──最後に、次世代CFOへの進化を模索している読者に、メッセージをお願いします。

三上 テクノロジーの急速な発展によって、AIやデータを生かしながら、より効率的に変革を成し遂げられる環境が整ってきました。ぜひ、その環境を生かしながらCFOとしてのリーダーシップを発揮し、会社の成長に貢献してください。

松本 これからのCFOには財務知識だけでなく、事業に関する豊富な知見や経験も求められます。「冷静さ」と「情熱」を兼ね備えるためにも、財務の枠を飛び出して、事業の経験も重ねていただきたいですね。

川島 三上が言ったように、テクノロジーの進化によって経営判断のための材料は格段に入手しやすくなりました。最後に問われるのは、人にしか持てない「リスクを取る勇気」や「人を導くリーダーシップ」です。その力を備えていただけるように、我々デロイト トーマツも日本のCFOの皆さんを全力でご支援します。

ファイナンス・トランスフォーメーション
~変革のための次世代CFOとファイナンス組織の条件~

ファイナンス・トランスフォーメーション ~変革のための次世代CFOとファイナンス組織の条件~
デロイト トーマツは、ファイナンス部門のみならず、ファイナンスによる事業の変革をリードすることが、次世代CFOの役割であると考えている
ファイナンス・トランスフォーメーション
ファイナンス・トランスフォーメーション
企業価値向上をリードする次世代CFOの条件

デロイト トーマツ グループ(著)

■価格:2,420円(税込)

■発行日:2026年04月17日

デロイト トーマツが長年にわたる企業支援の中で蓄積してきた知見をもとに、ファイナンスの力で事業を変革へ導くために不可欠な「リスクテイク」と「リーダーシップ」をはじめとする5つの条件など、次世代のCFOに求められる要素・役割を体系化し、徹底解説している。