dentsu Japan BXプレジデント
電通 統括執行役員(BX)
吉田 晃 氏
DXやAIの進展によりビジネス環境が激変する中、多くの企業が変革に取り組んでいる。
しかし、相次ぐ号令に現場は疲弊し、ロジック(論理)の正しさだけでは組織が動かない「変革疲れ」が
ボトルネックとなっていると、dentsu Japan BXプレジデントの吉田晃氏は指摘する。
長年にわたりクライアントのBX(ビジネス・トランスフォーメーション)に伴走してきた同氏に、
変革を阻む要因と、それを乗り越えるdentsu Japan(国内電通グループ)ならではのアプローチを聞いた。聞き手 日経BP 経営メディアユニット長補佐 山崎 良兵
山崎 BXの重要性が増す一方で、その実践に苦労している企業は多いと感じています。変革が進まない理由はどこにあるとお考えですか。
吉田 大きく3つあると考えています。1つは「変革疲れ」、次に「行動を促す設計の不足」、そして「未来視点での設計不足」です。特に最近は、変革そのものが常態化していることで、現場の疲労が蓄積している印象があります。
山崎 確かに、短いスパンで変革を繰り返していると、「またか」と受け止められてしまいかねません。
吉田 実際、これまで支援してきた企業様の中でも、似たようなキーワードやプロジェクトが乱立しているケースが数多く見られました。

吉田 晃 氏
dentsu Japan BXプレジデント
電通 統括執行役員(BX)
山崎 このような「変革疲れ」に対して、dentsu Japanではどのような支援を行っているのでしょうか。
吉田 我々は、いくつも走っている変革プロジェクトを単に整理するだけではなく、1つの大きな「ナラティブ(物語)」として編み直す必要があると考えています。大きなストーリーとして捉え直すことで、現場の理解と納得を得やすくなります。その際に重要なのは、対象となる人や組織のインサイト(洞察)を深く掘り下げることです。表面的な課題ではなく、本質的なボトルネックを見極めたうえで、心の変化と行動の変容を促す。そのために、クライアント様の内に入り込む伴走型の支援を行っています。
山崎 2つ目の「行動を促す設計の不足」にもつながる視点ですね。
吉田 行動を変えるには、まず人間の心に働きかける必要があります。dentsu Japanは広告ビジネスを通じて、人の気持ちを動かし、行動を促す施策を行ってきました。こうした経験が、BX支援においても大きな強みとなっています。
山崎 その強みは、実際の支援においてどのように生かされているのでしょう。
吉田 エンゲージメントの向上やビジョンへの共感、カルチャーの変革など、心理的な変容を起点とした取り組みは、いずれも大きな成果を上げています。ある企業の変革プロジェクトでは、“自社らしい”ビジョンやスローガンの策定(What to say)から情報発信のあり方(How to say)までを包括的に設計しました。その結果、社員の共感が広がり、行動変容を通じて変革につながった例もあります。
山崎 では、3つ目の「未来視点での設計不足」についてはいかがでしょうか。
吉田 急激な環境変化や短期的成果の追求により、多くの企業は目先の対応に追われがちです。それが、未来から逆算した計画を描けない要因と捉えています。
山崎 この課題に対しては、どのようなアプローチが有効なのでしょうか。
吉田 私たちはこれまで、未来視点のプロジェクトやラボの運営、大型博覧会や国際見本市、スポーツ競技大会など数々の支援に携わってきました。生活者や社会の視点から未来を描き、事業・体験に落とし込み、実装していく。dentsu Japanが得意とするこの一連のプロセスをBXの現場にも提供し、クライアント様とともに未来を構想してまいります。
山崎 人的資本・企業文化領域でも新たな取り組みが始まっています。「dentsu Japan Human Capital Growthセンター(HCGC)」を新設された背景には、どのような狙いがあるのでしょうか。
吉田 人財の捉え方が人的資本へと変わる中、人財の獲得や育成といった個別の取り組みに加え、全体最適の観点で人事戦略を見直したいというニーズが高まっています。企業文化に課題を感じている経営層の方も多くいらっしゃいます。そういった領域へのニーズに幅広くお応えしたいということがございます。また、我々自身が労働環境改革に取り組んできたことも背景にあります。そうした実践知を、より統合的なかたちでクライアント様に還元したいと考え、創設しました。

dentsu Japan Human Capital Growthセンター(HCGC)では、
事業と人事、戦略と施策を横断的につなぎ、
人と組織の熱量を引き出す設計で、
価値創造と競争優位性の確立を目指す
山崎 HCGCの概要を教えてください。
吉田 当センターは、グループ各社の専門人財やケイパビリティを結集し、人財・組織変革の戦略立案からタレントマネジメント、人事制度設計、採用ブランディング、基盤開発、企業文化変革など、具体的な施策までを一貫して提供できる体制を整えています。「事業」と「人事」、「戦略」と「施策」といった複数の要素を1つのストーリーにつなぎ合わせ、組織の「熱量」を高めることで、人的資本の成長と個人の市場価値拡大を目指しています。
山崎 グループ連携によって、どのような価値を提供できるとお考えですか。
吉田 企業には人を採用し、育成し、価値を創出することで、事業成長や変革につながっていくという一連の流れがあります。HCGCでは、このプロセス全体を見据えながら、人財を“資本”として高める支援を行います。我々自身も人的資本レポートの作成を進めており、その知見をもとに、実効性のある取り組みを提案していきたいと考えています。
山崎 最後に、今後の取り組みや展望についてお聞かせください。
吉田 AIによって企業のバリューチェーンは大きく変わりつつあります。戦略から事業プロセス、マーケティング、顧客接点に至るまで、あらゆる領域に影響が及ぶでしょう。その中でも、人が担うべき「戦略」「顧客接点」には、引き続き人的資本を集中しつつ、それ以外ではAIを活用することで、より迅速で成果につながるBX支援を実現していきます。とりわけ、顧客接点の変革はdentsu Japanの強みでもあり、AI時代においてこそ価値を発揮できると確信しています。
日経BP 経営メディアユニット長補佐 山崎 良兵
繰り返される変革の号令に現場が疲弊してしまう「変革疲れ」。多くの企業が直面するこの課題に対し、論理だけではなく、物語(ナラティブ)の力を用いて人間の心に働きかけるアプローチが非常に印象的でした。「変革しよう」といくら叫んでも、そこで働く多数の従業員が共感し、自分事として捉えられなければ、一人ひとりの「行動」は変わりません。AIによる効率化が進む時代だからこそ、企業の競争力の源泉は「人」にあることを再認識しました。人的資本を最大化し、未来を見据えたBXを実現しようとするdentsu Japanの今後に期待しています。