❶北海道羅臼町
世界自然遺産・羅臼にみる自然保全と地域社会の関係
創立以来、一貫してリベラルアーツ教育を実践してきた立教大学。その多彩な学びを結集させた「環境学部」が2026年4月にスタートした。文理を超えた多角的な学びを通し、環境正義を模索する次世代の「環境リーダー」を育成する「環境学部」とはどのような学部か。学部創設に尽力された先生方にお話を伺った。
2024年に創立150周年を迎えた立教大学は、これまで培ってきたリベラルアーツ教育をより一層深化させた「Global Liberal Arts & Sciences」を究める大学を目指している。「文理融合の環境学部は、これまでリーダーシップ教育等、本学が学士課程教育の中で取り組み、蓄積してきたありとあらゆる知を結集させた結晶のような学部として創設しました。環境を軸として学際的な教育を展開できる教員を招へいし、多角的に学べる体制を整えました」と西原廉太総長は語る。
環境学部創設のために、2年前から小林潤司学部長、二ノ宮リムさち学科長が準備をしてきた。「2年前に着任したときに、西原総長と石川副総長からは二ノ宮学科長と2人でリベラルアーツに基づいたリーダーシップ教育と環境正義という理念をもとに、自由に環境学部を作ってください、と言われました。大学としての覚悟の大きさと懐の深さを感じました」と小林学部長は振り返る。
西原 廉太
NISHIHARA Renta
立教大学総長。京都大学工学部卒業後、関西学院大学神学研究科にて博士(神学)取得。2007年、立教大学文学部キリスト教学科教授に就任。2021年より現職。専門はアングリカニズム、エキュメニズム、組織神学、現代神学。
環境学部の特徴の1つは「環境正義」の理念を掲げていることだ。これは環境問題をただ解決すればよいということではなく、社会を公正なより良いものにしていこうという考え方である。「環境正義という言葉自体はまだ一般的には広がっておらず、環境重視が正義だと押し付けてくる理念なのではないかと誤解されることもあります。こうした中、公正な社会の実現と、環境問題の解決を両輪として進めていくという考え方に正面から取り組めるのはキリスト教に基づく本学ならでは、と思います」と二ノ宮学科長は言う。
環境正義の実現において重要視されていることの1つはリーダーシッププログラムだ。立教大学では独自のリーダーシップ教育を展開してきた。「これまでのリーダーシッププログラムに共通しているのはリーダーシップとは強さではなく他者に与える影響力と定義していることです。環境正義を考えた場合、他者がどういった状況に陥り、どういう扱いを受けているのかに思いをはせることがスタートです。自身と他者を相対化しつつ他者を尊重するという考え方をまずしっかり勉強することが、環境リーダーへの出発点となります」(小林学部長)
環境学部の教員の専門性は多岐にわたる。入試が文系方式と理系方式に分かれていることもユニークな点だ。「1つの課題にさまざまな角度からアプローチして、たくさんの補助線を引けること、自分自身の視点とは別の視点があることを理解することが大切なのです。環境学部は、教員も学生も完全にミックスされる、本物の文理融合なのです」と西原総長は胸を張る。
小林 潤司
KOBAYASHI Junji
環境学部長。東京大学理学部卒業、同大学大学院博士(理学)課程単位取得退学。国際基督教大学教養学部准教授などを経て、2024年より立教大学環境学部設置(25年より開設)準備室教授、26年より現職。専門は環境化学、有機化学。
木材が使われる通路の天井
19号館の南東外観
屋上の太陽光パネル
環境学部の教育・研究拠点となる19号館は木造3階建て。高度な省エネ性能と太陽光発電による創エネを組み合わせ、一次エネルギー消費量を実質75%以上削減する「Nearly ZEB」*を達成した。環境教育の「生きた教材」となるよう、庇や木格子による日射制御、太陽光パネルによる発電効果の「見える化」など学生が日常的に環境技術の効果に触れられるパッシブデザインを随所に採用している。
*Nearly ZEB(ニアリー・ゼブ):ZEB(Net Zero Energy Building)の4分類のうちの一つ。省エネと創エネにより、従来の建物で必要なエネルギーの消費量を75%以上削減した建物のこと。
環境問題には万能の解があるわけではない。自分が最適と思える答えは、より多くの人を納得させ、幸せにすることができるのかを常に問い直す経験は、今後の人生に生きてくることだろう。「1年次の環境フィールドスタディは、カリキュラムの大切な柱です。全学生が全国9コースの行き先に分かれ、文理をまたぐ専門性を持つ教員とともに環境問題の現場を訪問します。現場で何が起こっているのかを間近に知り、考えることは学生にとって大きな学びの場となるはずです」(二ノ宮学科長)
こうした経験を通して身に付けてほしいことは、世の中の情報で正しいとされていることだから真実に到達している、と思いこまないことの大切さだ。いろいろな事象の背景にはその時の社会的な構造があり、権力を持つ側から発信されている情報が広く正しいものだと認識されていく傾向は多々見受けられる。その時に社会的な公正さに目を向ける意識を持つこと、立場や価値観の対立を乗り越える力を持つことが持続可能な社会を作っていく大きな力となる。「異なる立場の人たちであっても、大切にしたいことが交わるところがどこかにあるはず。そこをすり合わせていくプロセスとしての対話と協働を大切にしていきたい、そこに参画していく経験を積んでほしいと思います。そんな経験の入り口をたくさん提供できればいいなと思います」と二ノ宮学科長は力を込める。
「環境学部では、卒業論文の代わりに卒業プロジェクトを選択することもできます。環境問題の解決を目指した計画を立案、実践し、振り返りまで1年かけて取り組みます。社会を変えていく力を身に付ける貴重な実体験だと思います」と話すのは小林学部長だ。
「新設されたばかりの学部なので、出口がちょっと心配と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかしお話ししてきたように、150年以上にわたる本学の蓄積の上に丁寧な準備を経て創設された学部です。ここで学んだスキルとマインドを持った学生は、必ず社会で必要とされ、どんな場所でも活躍してくれるだろうと楽しみにしています」。西原総長はそう力強く語った。
二ノ宮リム さち
NINOMIYA-LIM Sachi
環境学科長。国際基督教大学教養学部卒業、東京農工大学大学院連合農学研究科博士(農学)課程修了。2024年より立教大学環境学部設置(25年より開設)準備室教授、26年より現職。専門は環境教育学、ESD(持続可能な開発のための教育)論。
「フィールドスタディ」は1年次の必修科目の1つ。全学生が全国9コースの行き先に分かれて、地域の経験から学ぶ場。文理をまたぐ多様な専門性を持つ教員とともに2泊3日、3泊4日程度、もしくは日帰りで複数回訪問(日数は行き先により異なる)して、環境問題の「現場」に身を置いてみる。さまざまな立場の方と出会い、状況を知ることによって、自分なりの問題意識が育まれる。
教室の中だけにとどまらない学びで、対話と協働の力を身に付けることが狙いだ。
世界自然遺産・羅臼にみる自然保全と地域社会の関係
人は循環する水とどう付き合ってきたのか?
里山に根ざした資源利用と人の暮らしの知恵
島という場所から考える海と環境のつながり
公害の経験から問い直す環境正義の意味
自然とどう共生するか風力発電から考える再生可能エネルギー
災害と原発事故から考える地域復興の現場と課題
都市近郊で学ぶ農業と野生動物をめぐる現状
巨大都市が抱える水と廃棄物処理の仕組み
中央アジア、東南アジア、ヨーロッパ、オセアニアなど、海外でのさまざまなフィールドワークも現在調整中。国内とは異なる自然環境、社会経済・文化的状況に触れ、柔軟な思考と実践力を養う。
本学と酪農学園大学(北海道江別市)は、環境学分野における相互協力・連携に関する協定を2025年2月20日に締結した。都市型の本学と広大なフィールドを有する酪農学園大学それぞれの強みを生かし、多彩な研究・教育分野での連携を模索していく。