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テクノロジーの世界的なトレンドに詳しい尾原和啓氏を迎え、AIが企業経営にもたらす変化について、オフィスステーションAI研究室が迫る。前編では、生成AIが引き起こすビジネス構造の転換、その本質をひもとく。人口減少が進む日本では、労働力不足を補う存在としてAI活用が語られがちだ。だが、世界ではすでに「業務の自動化を前提とした新しい競争ルール」が走り出している。こうした潮流の中で、かつて“コストセンター”と位置付けられてきた管理部門の役割は終わりを告げ、企業競争力を左右する“司令塔”へと進化しつつある。

#1

単なる「AI活用」を超えて

世界は「自動化を前提とする新ルール」に突入

世界は「自動化を前提とする

新ルール」に突入

単なる「AI活用」を超えて世界は「自動化を前提とする新ルール」に突入キャプション 単なる「AI活用」を超えて世界は「自動化を前提とする新ルール」に突入キャプション (左)株式会社エフアンドエム オフィスステーション事業本部 本部長 森中 健斗氏、(右)IT批評家 尾原 和啓氏
森中

尾原さんは世界のAI活用の動向をウォッチし、企業や政府へのアドバイスや事業支援に尽力されています。現在はシンガポールを拠点に活動されていますが、移住されたきっかけを教えてください。

尾原

「常に新しいものが生まれる場所の近くにいたいから」です。世界人口の中心が、東南アジアへ移っており、新しいものが生まれる活気にあふれています。私はそこで地元のスタートアップを支援したり、日本企業が国内では時間のかかるDXを東南アジアですばやく展開し、うまくいけば日本へ持っていくような活動を支援しています。日本のDXは、シンガポールより2周ほど遅れているように感じます。

森中

確かに、日本では2040年には約1100万人の労働力不足が予測されており、DXやAIによる業務効率化は、もはや選択肢ではなく必須課題となっています。私たちが支援する現場でも「AI活用で労働力不足を解決したい」という声をよく聞きますが、AIによる労働力の置き換えについて、世界はどのような状況だと見ていますか。

尾原

まずAIによって「ゲームのルールそのものが変化している」という現実を認識しておく必要があります。

AIにより、人間の仕事がどんどん自動化されています。そしてAIで自動化された領域では、処理のスピードが格段に向上します。そのプロセスの途中に人間が介在すると、かえってそこがボトルネックとなり、競争力を大きく失ってしまうことがあるほどです。つまり、「AIでやれば100倍速くなるのに、人間が入るから遅くなる」といった状況が、現実になりつつあります。そして、この圧倒的な「回転速度」の差こそが、今の世界で勝敗を分ける新しいルールになっているのです。

言い換えると、AIで自動化していかなければ、企業競争に勝てない時代が来ているのです。変わるのは、ホワイトカラーの仕事だけではありません。AIはロボットや自動運転、工場システム、物流機器といった様々なプラットフォームをつなぎ、社会全体の業務を自動化、最適化しています。

#2

経営OSの書き換えが起こり

AI時代に再定義される管理部門

経営OSの書き換えが起こりAI時代に再定義される管理部門キャプション 経営OSの書き換えが起こりAI時代に再定義される管理部門キャプション
森中

人間の業務がAIに次々と置き換わっていくと、企業の意思決定の仕組みや業務プロセス、社員の行動指針など、いわゆる「経営のOS」と呼ばれるものが変化していくのではないでしょうか。

尾原

経営OS、いわば企業の「基本ソフトウェア」は確かに変化を迎えます。特にAI時代の経営OSへの刷新は、「自動化による高速回転」を前提としたシステムへと書き換えることを意味します。

先ほどお話ししたように、これからはビジネスをいかに速く、正確に回転させるかがより重要になります。そのため、AIがサービス同士をつなぎ、あらゆる業務を最適化していく流れの中で、企業の構造そのものが「データのつながり」を中心とした高速なものへと進化していく。これが経営OSの刷新の本質です。

森中

経営OSが刷新されたとき、管理部門はどのように再定義されると見ていますか。

尾原

一言で言えば、管理部門は単なる事務作業の場ではなく、経営を支える中枢、すなわち「企業の司令塔」へと進化するでしょう。

なぜなら、新しい経営OSを動かすための中核データ——すなわち、「人の流れ、物の流れ、金の流れ、契約の流れ」という4つの要素に関するデータがすべて蓄積されている場所こそが、管理部門だからです。AIによってこれらのデータがリアルタイムで更新・可視化されるようになると、管理部門はあらゆる情報を集約し中継する「情報ハブ」となり、その結果、企業の次なる一手を指し示す「企業の司令塔」として、重要性がより一層高まると考えています。

森中

先日ラスベガスのHR Techイベントを視察した際に、様々な企業のお話を聞き、私自身「管理部門が経営の中枢になる」という未来をリアルに感じました。しかし、様々な業務が自動化されていく中で、そこで働く人間がすべき仕事も変わってくるのではないでしょうか。

尾原

人間がすべき仕事は、大きく分けて「データに基づく意思決定」と、その前提となる「データ基盤の整備・管理」の2つに集約されると考えています。

一つ目は、データを正しく扱い、その材料をもとに「企業の方向性を判断すること」です。AIは実行のプロであっても、自ら「目的地(ビジョン)」を定めることはできません。事業計画を必要なスキルの予算へと分解し、AIと人間の役割を設計した上で、最終的な判断に責任を持つことは、人間にしか担えない重要な役割です。

二つ目は、AIが正しく機能するための「基盤の整備と管理」です。どれほど高性能なAIであっても、各領域の情報が分断されていたり、人手による管理で品質がばらついていたりすれば、正しい判断を下せません。つまり、AI活用の成否は、管理部門が担うデータ基盤の質に大きく依存するのです。

これからの時代、管理部門に集まってくる経営データは企業価値創造の源泉であり、「宝の山」になります。管理部門が「情報のハブ」としての機能を正しく果たすことで、これまでの「コストセンター」から「企業経営を支える中枢」になっていくでしょう。

#3

見えなかった価値を読む

生成AIが解き放つ「ダークデータ」とは

生成AIが解き放つ

「ダークデータ」とは

見えなかった価値を読む生成AIが解き放つ「ダークデータ」とはキャプション 見えなかった価値を読む生成AIが解き放つ「ダークデータ」とはキャプション
森中

「管理部門に集まってくる経営データは『宝の山』になる」というお話ですが、この「宝の山」とは、具体的にはどのようなものを指しているのでしょうか。単なる数値データだけでなく、これまで活用しきれなかったデータまでをも含むイメージですか。

尾原

その通りです。「宝の山」の正体は、数値化された既存データに加え、これまで企業が活用しきれずに捨ててきた「ダークデータ」までを含むあらゆるデータを指します。


これまで活用できたデータは、AIが処理しやすいようにExcelなどで整理された「構造化データ」が中心でした。しかし、企業活動において本当に重要な情報の8割以上は、実はまだ整理されていない、活用不能だった非構造化データの状態で眠っています。私たちはこれを、宇宙空間を満たしているダークマターのように「見えないけれど価値が高いもの」という意味で「ダークデータ」と呼んでいます。この膨大な「見えない価値」を経営や企業価値の創造に生かせるようになることこそが、大きなチャンスなのです。

森中

「ダークデータ」から情報を引き出し、経営に生かす。このようなことが可能になったのは、生成AIの登場があってこそですよね。

尾原

はい。生成AI、特にLLM(大規模言語モデル)の登場によって、これまで活用が難しかった「非構造化データ」から、高度な文脈や意味を抽出できるようになったという背景はあります。

もちろん、従来のAIでも画像や動画といった非構造化データを扱うことは可能でした。しかし、生成AIのすごさは、膨大なデータ学習を通じて、人間が話す自然言語の背後にある「パターン」や「文脈」を、極めて高い精度の推論から「生成」できるようになった点にあります。

このようにAIがLLMという武器を手に入れたことで、商談の録音、メール、議事録、さらにはミーティング中の表情といった、数値化しづらい混沌としたデータの中に眠る「お客様の本音」や「現場の切実な空気感」までも、意味のある情報として取り出せるようになりました。これらを企業価値創造の源泉として活用できる状態こそが、新しい経営OSの神髄と言えます。

森中

では、実際にこのダークデータを活用して、具体的な価値を生み出した事例などはあるのでしょうか。

尾原

非常に面白い事例が世界中で出始めています。例えば、ある大手企業では、社員一人ひとりの日報や過去のプロジェクトでの振る舞いといった非構造化データをAIで解析し、本人すら気づいていない潜在的なスキルや「ウィル(意志)」を可視化することに成功しています。

これにより、変化の激しい局面でも、最適なスキルを持つ人材を瞬時に再配置し、売り上げの減少を食い止めるだけでなく、新たな成長機会をつかむといった「リソースの動的な再配分」が可能になっているのです。これは、従来の「適材適所」をはるかに超えるスピードと精度で行われます。

こうした、AIによるスキルの可視化や、人間の「やりたい」という熱量をどう経営成果に結びつけていくかが、これからのビジネスに大きな影響を与えていくはずです。

前編まとめキャプション 前編まとめキャプション

前編では、2040年の労働力不足という社会的危機を背景に、AIが「経営のOS」を書き換え、管理部門がコストセンターから“企業の司令塔”へと進化する構図を描いた。後編では、生成AIとの協働で進化する管理部門の未来と、その具体的な実践論について掘り下げる。

尾原和啓 尾原和啓

IT批評家

尾原 和啓

京都大学大学院で人工知能を研究。卒業後は新規事業や事業投資の領域に従事し、プラットフォーム型ビジネスを展開する企業で事業開発を経験。独立後はその知見を生かし、内閣府「新AI戦略」の策定に参画したほか、産業技術総合研究所(AIST)人工知能研究センター(AIRC)の立ち上げに関与。インターネットやAIを「情報をつなぐ技術」と捉え、つながりの拡張を通じて人々の自己実現を促進する社会の実現を目指す。

森中健斗 森中健斗

株式会社エフアンドエム オフィスステーション事業本部 本部長

森中 健斗

株式会社エフアンドエム オフィスステーション事業本部 本部長。5万5000社(※)の人事・労務変革を牽引するSaaS「オフィスステーション」の事業責任者。従来型の「守りの管理部門」を、テクノロジーによって「攻めの戦略拠点」へと再定義するための先駆者として活動。生成AIを活用し、組織の熱量を最大化させる組織開発の実践にも注力している。現場の解像度と、AI時代の経営の在り方を俯瞰する視点を往復しながら、次世代型組織へのアップデートを提唱している。 ※2026年2月末時点

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