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テクノロジーの世界的なトレンドに詳しい尾原和啓氏を迎え、AIが企業経営にもたらす変化について、オフィスステーションAI研究室が迫る。前編では、AIの世界的なトレンドに詳しい尾原和啓氏に、AIによる経営の変化と管理部門の未来について聞いた。後編では、生成AIと連携する管理部門の姿と使命を深く掘り下げる。カギになるのは「スキルの可視化」と「人のウィル(will)」だ。

#1

生成AI時代の価値創造は「保有」から「再配分」へ

売り上げやコストと同レベルで「スキルと人材」を管理せよ

生成AI時代の価値創造は

「保有」から「再配分」へ

売り上げやコストと同レベルで

「スキルと人材」を管理せよ

単なる「AI活用」を超えて世界は「自動化を前提とする新ルール」に突入キャプション 単なる「AI活用」を超えて世界は「自動化を前提とする新ルール」に突入キャプション (左)株式会社エフアンドエム オフィスステーション事業本部 本部長 森中 健斗氏、 (右)IT批評家 尾原 和啓氏
森中

生成AIの活用が進むにつれ、「何が企業の強みになるのか」という問いそのものが変わりつつあるように感じます。こうした中で、企業が価値創造に向けて意識していくべきことは変わってくるのではないでしょうか。

尾原

私は価値創造の源泉が「保有」から「再配分」へと移っていくと考えています。これからは、人材や資金などのリソースを「どれだけ持っているか」ではなく、「どれだけ速く正確に組み替えられるか」も企業の競争力を左右するようになります。なぜなら、環境変化の激しい現代社会では、価値そのものが移り変わるスピードもますます速くなっているからです。

分かりやすい例が、コロナ禍で実践された米ユニリーバの取り組みです。同社は生成AIが登場する以前から、社員一人ひとりのスキルや能力を詳細にデータベース化していました。そんな中、コロナ禍が起きました。多くの事業部門で売り上げが急落し、当面、回復できない状況になりました。

しかしその一方で、衛生用品や消毒液を扱う事業など、コロナ禍で需要が急騰した部門もありました。そこで、ユニリーバはすぐに人材データベースを活用し、需要が伸びている部門が求めているスキルや能力を特定し、それを持つ人材を社内からリストアップしたのです。売り上げが急落した部門から、需要が急増した部門へ、あっという間に人を再配置しました。その結果、急激な売り上げ減を食い止めただけでなく、むしろ業績を伸ばしたのです。

ここから分かることは、「ビジネス環境の変化が激しい時代には、売り上げの予実管理だけでは不十分」ということです。売り上げを計画して進捗確認するだけでなく、その売り上げを作るための人を再配置する「スキルの予実計画」が欠かせません。そこに生成AIを活用すれば、人材配置の動的な最適化をリアルタイムに近い形で実現可能になります。これが「リソースの再配分」の真意です。

#2

生成AIで実現する「成果につながる人材活用」

スキルベース組織を目指す企業が続々

生成AIで実現する

「成果につながる人材活用」

スキルベース組織を目指す

企業が続々

経営OSの書き換えがおこりAI時代に再定義される管理部門キャプション 経営OSの書き換えがおこりAI時代に再定義される管理部門キャプション
森中

経営OSの変化によって管理部門が「情報ハブ」としての役割を強める中、普段からスキル情報を蓄積・可視化している人事部門が、スキルの予実計画を最適化し、リソースを再配分する役割を担うということですね。

尾原

そう考えています。これからの人事部門は、売り上げやコストなどと同じように、スキルの需要、人材現状、そしてそのギャップを常に可視化し、社内のリソースを「意図をもって再配分するための司令塔」になっていく必要があります。

実際に米国では、スキルベースで人材をマネジメントしようとする企業が増えています。例えば、大手コンサルティング会社のDeloitteは、約18万人の従業員を対象に従来型の「シニア・コンサルタント」や「マネージャー」といった階層型タイトルを廃止し、専門スキルの表記に置き換えるという改革を発表しています。こうした取り組みを通じて、生成AI時代に即した「スキルベースの組織(SBO)」への移行を目指しているのです。

森中

生成AIを活用した人材活用は、アメリカのようなジョブ型雇用でより成果につながりやすくなると。

尾原

確かに、日本では生成AIと人の協働について、「ジョブ型への移行」とセットで考えることが多いです。しかし、より正確に言うと、重要なのは「ジョブを業務に分解し、業務単位で必要なスキルを可視化すること」となります。これを前提に、「何を生成AIに任せ、何を人間が担うのか」という最適なバランスを見極め、生成AIを監督していくことが、人間の役割になっていきます。

また、生成AIで自動化すべき業務と、人間がやるべき業務、そこに求められるスキルが明確になれば、足りないスキルを「新たに採用する」「内部の人をリスキリングして充当する」「生成AIに投資してさらなる自動化を目指す」といった合理的な判断ができるようになるでしょう。これも、新しい人事部門の重要な仕事の一つになるはずです。

#3

管理部門が企業成長のエンジンになる

AI時代に輝く「スキル×ウィル」の掛け算

管理部門が企業成長の

エンジンになるAI時代に輝く

「スキル×ウィル」の掛け算

見えなかった価値を読む生成AIが解き放つ「ダークデータ」とはキャプション 見えなかった価値を読む生成AIが解き放つ「ダークデータ」とはキャプション
森中

生成AI活用が進むと、「人間にしかできないこと」の定義がますます重要になってきます。そうした中で、尾原さんは管理部門に最も必要な視点は何だとお考えですか。

尾原

私は「スキル(skill)×ウィル(will)」の掛け算だと思っています。スキルを「人ができること」と定義するならば、ウィルとは「人がやりたいこと、情熱を捧げられること」です。


これまで話してきたように、生成AIはスキルの可視化や再配分が得意です。しかし、それだけでは、企業は魂の抜けた組織になってしまうでしょう。人間はやる気、すなわちウィルが伴ってこそ、本来の能力を発揮できるからです。だからこそ、これからの管理部門は「ウィルの予実管理」までを視野に入れることが求められます。

変化の激しい時代になると、急に「明日から違うことをしてください」と言われることが多くなります。当然、多くの人が不安になるでしょう。そこを「生成AIを使いこなせば大丈夫」「変化は成長のチャンスだから、むしろ楽しい」と思えるように、社員を支えていく必要があります。

例えば、各人が挑戦したいテーマや、伸ばしたい能力を四半期ごとに申告してもらいます。それを、本人のポジションや担当プロジェクト、教育や研修の内容、人事評価などと連動させながら予実管理していきます。本人のモチベーションを最も発揮しやすい場所を用意し、それを事業のKPI(重要業績評価指標)と結びつけることができれば、その企業は強いです。内発的な動機づけが持続することで成果の実現が早まり、社員のエンゲージメントやウェルビーイングにもつながるからです。

このように、社員一人ひとりの「働いて楽しい」「もっと学びたい」「変化が楽しい」といったウィルをどう可視化し、育てていくかは、これからの管理部門にとって重要な使命になるのではないでしょうか。

#4

「生成AI上司」で促進する社員の自律性

コモディティ化を防ぐ「歪み」が重要に

「生成AI上司」で促進する

社員の自律性

コモディティ化を防ぐ

「歪み」が重要に

見えなかった価値を読む生成AIが解き放つ「ダークデータ」とはキャプション 見えなかった価値を読む生成AIが解き放つ「ダークデータ」とはキャプション
森中

私たちの事業本部内でも生成AIの活用やウィル管理は大きなテーマであり、これまでも実験的なものを含めて様々な取り組みを行ってきました。各事業部内におけるAIによる自動化・効率化はもちろん、ウィル管理によってメンバーの一人ひとりが自らの挑戦テーマや伸ばしたい能力を明確にし、その達成度を主体的に振り返ることができる仕組みも整えています。

こうした「自律性」を基盤にした組織運営をさらに進化させるため、私たちは「AI上司」というプロジェクトも行いました。生成AIを専門性の高い上司に見立て、各メンバーが設定したテーマに沿って相談しながら業務を進める試みです。

普段なら会議や決裁のような遠回りを強いられる案件でも、AI上司に相談すると論点が瞬時に整理され、メンバーは自分の判断で効率的に業務を進めることができました。これは、ウィル管理が目指す「自律的に働ける人材」を後押しする結果でもあります。

しかし同時に、AI上司は平均化した答えしか出しません。それを妄信すると、オリジナリティが失われていきます。ウィル管理においても「AIが何を担い、人が何を担うのか」という線引きが必要であり、自らの意志と評価軸を持つことの重要性を改めて認識した事例となりました。

尾原

それは非常に鋭く、本質を突いた実体験ですね。AIの判断の多くは確率論的には正しいのでしょう。しかし、そのまま任せていると、答えがコモディティ化します。「企業らしさ」は、平均値からあえて外れた選択や、一見すると遠回りに見える挑戦から生まれる、いわば「歪み」のようなものですから。

森中

尾原さんはAIと人が協働する未来においてコモディティ化を防ぐための線引きを、どうお考えですか。

尾原

「アウトサイド・イン」と「インサイド・アウト」のバランスを取ることが重要です。外の世界の情報を取り込んで答えを導く「アウトサイド・イン」は、まさにAIが得意とするアプローチです。これにより解答の80%くらいまではAIで高速化できますが、それを100%、120%に高める過程でもAIに頼りすぎると、他社と同質化し、ありふれた製品やサービスになってしまうでしょう。「ウチはこれでいく」という形で、自分流の価値観を中心に置く「インサイド・アウト」の考え方を導入し、自社のカラーを打ち出していく必要があります。

森中

AIは効率化や最適化には大きな力を発揮する一方で、企業独自の価値や意思まで代替できるわけではない、ということですね。そう考えると、生成AIとは結局、コントロールの道具なのでしょうか。それとも人をエンパワーする(力を与える・能力を高める)存在だと捉えるべきでしょうか。

尾原

エンパワーする存在であるべきです。生成AIをコントロールの道具として使うと、監視と指示に偏り、組織は縮こまってしまいます。逆にエンパワーの装置として活用すれば、社員のモチベーションを向上させ、学習速度を高め、挑戦の回数を増やし、失敗コストを下げていきます。

前編の冒頭で申し上げた「AIでやれば100倍速くなるのに、人間が入るから遅くなる」という現実を直視しつつも、「人間が介在することの意味」を考えていくことが重要です。責任のある意思決定により、企業ごとの物語を紡いでいく。これは人間にしかできません。だからこそ、生成AIによって効率化できる業務は積極的に任せる一方で、人にしか担えない判断や価値創造に、組織の力を振り向けていく必要があります。

そのかじ取りを担うのが、管理部門です。管理部門は生成AIを活用しながら、社員のスキルを最適に再配置し、一人ひとりのウィルを引き出し、企業らしさを生み出す司令塔になっていく。それこそが、生成AI時代に企業が伸びるための近道だと思います。

森中

ありがとうございます。尾原さんのお話を伺い、管理部門こそが「企業の司令塔」として、社員のウィルを支える存在になると確信しました。AIという相棒と共に、その企業ならではの「らしさ」を磨き、未来を創る。そんな新しい使命に、私たち自身も挑戦していきたいです。

前編まとめキャプション 前編まとめキャプション
尾原和啓 尾原和啓

IT批評家

尾原 和啓

京都大学大学院で人工知能を研究。卒業後は新規事業や事業投資の領域に従事し、プラットフォーム型ビジネスを展開する企業で事業開発を経験。独立後はその知見を生かし、内閣府「新AI戦略」の策定に参画したほか、産業技術総合研究所(AIST)人工知能研究センター(AIRC)の立ち上げに関与。インターネットやAIを「情報をつなぐ技術」と捉え、つながりの拡張を通じて人々の自己実現を促進する社会の実現を目指す。

森中健斗 森中健斗

株式会社エフアンドエム オフィスステーション事業本部 本部長

森中 健斗

株式会社エフアンドエム オフィスステーション事業本部 本部長。5万5000社(※)の人事・労務変革を牽引するSaaS「オフィスステーション」の事業責任者。従来型の「守りの管理部門」を、テクノロジーによって「攻めの戦略拠点」へと再定義するための先駆者として活動。生成AIを活用し、組織の熱量を最大化させる組織開発の実践にも注力している。現場の解像度と、AI時代の経営の在り方を俯瞰する視点を往復しながら、次世代型組織へのアップデートを提唱している。※2026年2月末時点

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