2026年6月12日

日本「再成長」の鍵は人材とデジタルに
経営者対談、AI時代の人材戦略を語り合う

スペシャル対談:SBIホールディングス 北尾会長兼社長 ×ベトナム FPT ビン会長

SBIホールディングス北尾会長兼社長とFPTビン会長の対談

企業がAIとデジタルの時代を勝ち抜く鍵は人材にある——。ここに異論の余地はないだろう。必要な人材を全て自社で賄うには限界がある中で、重要となるのが外部人材の活用、つまりDXの変革ストーリーを共に歩むパートナー選びだ。そして今、変革の「触媒役」として日本に旋風を巻き起こしつつあるのがベトナムのICTリーディングカンパニー、FPTコーポレーションである。FPTの可能性をいち早く見いだし、20年近く親交を深めてきたSBIホールディングスの北尾吉孝代表取締役会長兼社長と、FPTのチュオン・ザー・ビン会長の対談を通じて、AI時代で活躍する人材について考える。(聞き手は日経BP総合研究所 イノベーションICTラボ 大和田尚孝)

——SBIホールディングスの北尾会長と、FPTコーポレーションのビン会長にはいくつかの共通点があると思います。まず、自ら創業した企業を一代でグローバル企業に成長させた経営者であること。それからデジタル技術に精通しているという点と、人材の育成を重視しているところです。人材については、どのような点を重視されていますか。

北尾:私は創業当初から一貫して「才より徳を重視する」という考えで採用を行ってきました。そのうえで、正しい倫理的価値観を持ち、判断力・実行力を備え、自社だけでなく広く社会に貢献しようという志や国際的な視野を持つ人材を求めています。なぜならば、才能の高さそのものよりも、徳を備え、しっかりとしたプロセスを経て能力を身に付けていく人の方が、大きく成長するからです。才能に恵まれた人は傲慢になったり努力を怠ったりしがちですが、努力を積み重ねてきた人の方が人間としての土台が築かれると考えています。

ビン:私も同じ考えですね。私はまだベトナムが不安定だった時期に海外に留学し、事業を起こし、といったことを経験してきました。簡単には行きませんでしたが、厳しい壁を乗り越えてきたこと自体に価値があると思っています。北尾社長もきっと同じような経験をされているはずです。採用にも、そういった考えが反映されますよね。

北尾:ビン会長は本当に素晴らしい徳をお持ちですよ。私の母は昨年、2025年に亡くなりました。100歳を超えるまで生きてくれました。私は仕事の合間を縫って、この10年間、毎日欠かさず母の面倒をみてきました。ビン会長とは会うたびに母の話もしていたので、事情を知ってくれていました。昨年、母が亡くなった際にも日本でビン会長とちょうどお会いする予定があり、ビン会長は一緒に泣いてくれました。

AI人材育成で先頭を走るFPT


——2022年に生成AIが登場して以降、社会のあらゆるところでAI活用が急激に進んでいます。これによって企業の人材育成にも何か変化が起こりますか。

北尾:どの産業であっても、競争力を高めるためにAIに関連した人材の育成は欠かせなくなるでしょう。

ビン:同感です。全ての業種がAIをベースにした働き方をするようになるはずです。製造業や投資家、病院など、あらゆる業種でAIが必須になるでしょう。

北尾:当社グループでは単にAI人材を育成するだけでなく、グループ全体を完全にAIドリブンな組織へと進化させていく方針を掲げ、AIを活用し生産性と付加価値を高めていくことが重要だと考えています。

その実現に向けて、人材の育成と同時に、実務の中でAIを活用する環境づくりが不可欠です。SBIグループでは生成AIが登場した2022年ごろから、AI活用を前提とした組織づくりや人材育成を進めており、ベンチャー企業への人材派遣やSBI大学院大学でのAI講座の設置などにも取り組んでいます。しかし、それでもなかなか実践力を持った人材を育てるのは難しい。ですから、ベンチャー企業に全面的な協力を仰ぎながら徹底的な協業体制を構築するなど、一段と加速する技術の進化に応じて戦略を進化させ、戦略に従って組織を構築しています。FPTグループはAI人材の育成において先行しておられ、私も多くのことを学んでいます。

ビン:人は社会に出るまでに約20年間教育を受けますが、今の変化の激しい社会の状況からすると、2年後の仕事のやり方すらも予測できません。

一方で、今後もAIを使うことは確実です。だからこそ教育段階から、学習支援や指導、評価にまでAIを活用し、AIと共に成長する環境を整えることが重要だと考えています。先日、ベトナム政府に対してもこうした考えを提案しました。

FPTは教育段階での取り組みとして、小学校1年生から高校3年生までの期間において、連続的なAI教育を行っています。年齢に応じて「考える力」「問いを立てる力」「AIを使いこなす力」を段階的に育て、最終的には人間がAIをどう設計し、判断に生かすかまでを学ばせます。

AIと競争するのではなく、AIと共に成長できる人材を育てたいと考えています。

教育手法としては、Flipped Classroom(反転授業)を重視しています。知識は事前にデジタル教材やAIを活用して自ら学び、教室ではディスカッションやプロジェクトを通じて理解を深めるのです。こうした学び方によって、指示を待つのではなく、自ら考え、学び続ける力が身に付くと考えています。

——FPTは独自に大学まで運営しているのですね。

ビン:はい。大学以外にも様々な教育機関を運営していますよ。小学校から大学まで毎年15万人ほどの学生に、技術や日本語を教育しています。

 FPT大学は2006年の設立で、テクノロジー企業によって設立されたベトナム初の私立大学です。設立以前は、ベトナム全体の情報系の学生を集めてもFPTが求める人数に満たない状況でした。国としても高い能力を持つ人材を育てることが必要になっていたタイミングでしたので、FPT大学をつくることを決めました。

 現在、ハノイ、ダナン、ザライ、ホーチミン、カントーの5都市にキャンパスがあります。5万人が通っています。3つ学部があり、このうちテクノロジー学部にAI学科があります。テクノロジー学部は第2言語として日本語を必修にしているので、AIと日本語の両方についての高い能力を持つ学生が育っています。

人間がしっかり価値判断することが必要


——企業がAIを活用する上で、気を付けるべき点はありますか。

北尾:企業での活用に限りませんが、AIの「制御権」を人間が絶対に手放さずに、コントロールし続けることが欠かせないと考えています。今後、シンギュラリティー(技術的特異点)と呼ばれる状況が起こり得ます。以前、シンギュラリティーは2045年ごろに起こり得るのではないかといわれていましたが、最近のAIの進化からすると、2030年代には起こりそうな状況になってきました。そして、AIの進化のスピードが速すぎる一方で、人類は進化していないという矛盾があります。AIが勝手に新たなAIを生み出すような事態を避けるためには、人間がAIを常にモニタリングし、しっかりと価値判断した上で新しいAIをつくる必要があります。これは企業がAIを活用する場合においても全く変わりません。

ビン:私も同意見です。AIは人間以上に優秀な点がありますが、人間がAIの操り人形になってはいけません。AIの制御権を手放さないよう、しっかり主導権を握り続ける必要がありますし、そうした人材を育成することも必要です。

北尾:AIが自律的にAIをつくる状況は避けられないとしても、AIの設計には人間が必ず関わる必要があります。それができる人材を育てて行かなくてはなりません。その際には「人間としての尊厳を保つ」ということを大前提とし、技術力だけでなく倫理観を備えた人材が求められます。そして企業は、そうした前提のもとでAIをどう活用していくかを考え、全ての産業がAIを前提とした形に変わっていくことが欠かせないでしょう。

対談の様子①
対談の様子②
対談の様子③
対談の様子④

IT・デジタルが苦手な経営者も、必ずAI活用に目が向くようになる


——「全ての産業がAIを前提にしたものに変わっていく」というお話でしたが、現状ではデジタルやITに苦手意識を持つ経営者も多いと思います。この状況は変わりますか。

北尾:変わりますね。間違いありません。AIは大幅に生産性を高めるので、導入しない訳にはいかないでしょう。ほかの企業がAIを活用して業務効率を高めている状況で、「うちは絶対に使わない」と言っていたら競争に負けてしまいます。

 SBIグループのSBI新生銀行では行内業務をAIを活用したプロセスに移行しています。AIの活用によって、2年間で各業務で平均約30%の業務効率化を達成しています。今後はSBIグループ全社でAIエージェントを導入し、コスト構造の改革と新たな収益源の獲得の両立を図っていきます。「あらゆる人に最適な金融体験を自律的に提供できるAIエージェントを開発する」という戦略的指針のもと、グループ全体をAIドリブンな組織に再構築しているところです。

ビン:AIに限りませんが、テクノロジーが発展する際には必ずグローバルなコラボレーションが必要になります。当社は主にベトナムと日本でビジネスを展開していて、両国の市場や文化などに精通しています。こういった立場を生かして、両国がAIに関してグローバルでエコシステムをつくる際の架け橋になれれば、と考えています。