CS(カスタマーサクセス)のパイオニア、Gainsightと挑む! 顧客の成果を生み出す パナソニック コネクトの「コト売り」ビジネス変革

ハードウエアビジネスで世界を席捲した国内製造業。しかし、モノ売りからコト売りへシフトするには、製品だけでなく、事業を支える仕組みの変革が求められる。パナソニックグループのB to Bソリューション事業を担うパナソニック コネクトは、先行するIT企業やスタートアップから学び、ソフトウエア中心の事業に適した組織・開発プロセス・業務オペレーション・ガバナンスの構築と変革を進めている。その一環として取り組むのが、顧客の体験と成果の向上を支える「CS(カスタマーサクセス)」だ。同社はGainsight(ゲインサイト)との協業を通じてCSの実践を進めるとともに、パートナーと互いの知見を持ち寄り、エンドユーザーの成果につながるコト売りへの転換を目指している。

パナソニック コネクトグループ SaaSビジネスユニット ダイレクター 牛島 敏氏
パナソニック コネクトグループ
SaaSビジネスユニット
ダイレクター
牛島 敏氏

ハードウエアのコモディティ化が加速する。危機感を強める国内製造業では、モノ売りからコト売りへのシフトを急ぐ。しかしその道のりは険しい。「これまでに何度もハードウエアとソフトウエアを組み合わせた事業の創造に挑み、失敗しました。私も苦い経験をした1人です」と、パナソニック コネクトグループ SaaSビジネスユニット ダイレクター 牛島敏氏は率直に話す。

パナソニック コネクトグループ SaaSビジネスユニット ダイレクター 牛島 敏氏
パナソニック コネクトグループ
SaaSビジネスユニット
ダイレクター
牛島 敏氏

過去の課題の一つは、従来のハードウエア事業に最適化されたプロセスや仕組みの中で、ソフトウエア事業を進めてきたことだった。その流れを変えたのが、パナソニック コネクトで9年間CEO(最高経営責任者)を務めた樋口泰行氏による変革だ。その核心について牛島氏は言及する。

「ソフトウエアビジネスを成長させていくためには、従来の製品販売とは異なるソフトウエアビジネスに適した考え方や運営手法が必要になります。そのため、SaaSビジネスにおける優れた事例やノウハウを学び、自社の取り組みに取り入れていく必要があると考えていました」

同社は先行するIT企業やスタートアップから学び、ソフトウエア中心の事業に適した仕組みを一から構築・変革している。営業、開発、品質管理などが一体で取り組むプロダクトチーム制をはじめ、アジャイル開発、CS、IT・業務オペレーション、権限委譲を含むガバナンスまでを見直し、事業の成功を目指している。

売り切り型のビジネスでは、製品の販売時に収益が生まれる。一方、継続利用を前提とするSaaSでは、契約後も顧客に価値を届け続けることが事業の成長につながる。だからこそ、導入企業が目指す成果の実現を継続的に支援するCSは、ソフトウエア事業に適した仕組みを構築する上で重要な役割を担うのだ。

売るためではなく、
顧客に届けられる成果とは何か

製造業で“CS”といえば、カスタマーサポートが思い浮かぶ。「製品販売後の運用を支援するカスタマーサポートに対し、カスタマーサクセス(CS)はお客様がサービス導入で達成したいビジネス上のゴールや課題解決への貢献に焦点を当てます」(牛島氏)

パナソニック コネクトグループ SaaSビジネスユニット マーケティング部 SaaS営業1課 エキスパート 安藤 香苗氏
パナソニック コネクトグループ
SaaSビジネスユニット マーケティング部
SaaS営業1課 エキスパート
安藤 香苗氏

2025年度に、同社では顔認証クラウドサービス「KPASクラウド」のプロダクトチームの中にCSチームを設立。そのCSをリードするパナソニック コネクトグループ SaaSビジネスユニット マーケティング部 SaaS営業1課 エキスパート 安藤香苗氏は、顧客数やパートナー数の拡大に伴い、属人的な活動から脱却し、再現性の高い組織へ変革する必要性を感じていたと話し、説明を加える。

パナソニック コネクトグループ SaaSビジネスユニット マーケティング部 SaaS営業1課 エキスパート 安藤 香苗氏
パナソニック コネクトグループ
SaaSビジネスユニット マーケティング部
SaaS営業1課 エキスパート
安藤 香苗氏

「CSは営業、開発、マーケティングなどプロダクトチーム全体を巻き込むことが必要です。私は営業出身であるため、CSと営業で組織を切り分けず、営業組織の中でCSの立ち上げを進めました。しかし、組織として再現性を持って活動できるようにするためには、CSの取り組みを体系化し、それを支える効果的なツールを導入すべきだと感じていました。いろいろと調べる中でCSのグローバルスタンダードであるGainsight(ゲインサイト)と出会い、お声がけしました」

Gainsight 代表取締役社長 絹村 悠氏
Gainsight
代表取締役社長
絹村 悠氏

Gainsightは、CSという考え方を体系化して世の中に広め、市場そのものをつくり出したパイオニアだ。GainsightがKPASクラウドのプロダクトチームに対し最初に行ったのは、ツールの単なる操作説明などではなく、ワークショップだった。その内容について、Gainsight 代表取締役社長 絹村悠氏は話す。

Gainsight 代表取締役社長 絹村 悠氏
Gainsight
代表取締役社長
絹村 悠氏

「ワークショップではプロダクトチーム全員に集まっていただきました。売るためではなく、お客様に届けられる成果とは何か。その成果を届けるためのカスタマージャーニーはどうなるべきか。こうしたことを整理し具体策に落とし込んでいきました。ポイントは、プロダクトチームの機能を横串で捉えることです。お客様が成果を得る上で課題となるポイントは、プロダクトや売り方など様々だからです」

コト売り化提言①カスタマーサクセス(CS)はカスタマーサポートではない

Gainsightが定義するCSとは、カスタマーアウトカム(CO=顧客が得る成果)とカスタマーエクスペリエンス(CX=顧客の体験)、この両方を最大化して届けることだ。

CS(Customer Success:顧客の成功)=CO(Customer Outcome:顧客の成果)+CX(Customer Experience:顧客の体験)

顧客は体験だけでなく成果を求めてサービスを利用しており、成果が出なければ継続する理由がなくなる。この観点から、顧客が機能を利用するためのサポートとは本質的に異なる。

モノ売りからコト売りへの転換がITベンダーを席巻した2000年代初頭、従来の売り切り型と異なり、顧客が継続的にシステムを利用する仕組みを構築しなければ、ビジネスが成り立たなくなった。そこで顧客の業務改善を継続的に支援し成果創出へ導く、CSという考え方が誕生。Gainsightはこの知見をベースに、2011年の米国本社創業以来CSを体系化し、企業のビジネス成長を支援してきた。

現在、SAP、IBM、Anthropic他グローバル企業に加え、国内でもSoftBank、日立ソリューションズ、SansanなどがGainsightを導入し、CSの推進に挑んでいる。

Gainsightの画面例
Gainsightの画面例。CSの知見を集約したオールインワンのプラットフォームを提供している

CSの実現に向けて
型化による標準化を推進

サービス導入により求める成果は顧客によって異なる。CSでは「このお客様はどのような成功を目指したいのか」といった目標設定とアクションをつなぐ。大事なのは、属人化ではなく誰もが同じようにできること。そのためにGainsightでは、顧客への支援計画を型化し可視化する機能(サクセスプラン)を提供。「Gainsightのノウハウが凝縮した型化機能を使って、営業やCSメンバーを中心に自分たちの型をつくりました」と安藤氏は話し、付け加える。

「この型化により、CSや営業メンバーのノウハウをサクセスプランに取り込んで、全員で実践していくという提案活動の変革ができつつあると感じています。お客様の状況や時代のニーズに合わせて、型は改善していきます」

型化の重要性について絹村氏は話す。「売り切り型のハードウエアビジネスでは、販売に向けたメッセージをどう伝えるかが重視されます。一方、継続利用を前提とするソフトウエアでは、お客様に成果を届け続けることが重要になります。ハードウエアで培ったノウハウをそのままでは生かせず、新しい考え方と動き方が求められます。組織全体で新しい考え方を実現するためには、まずプロセスの型化が実践的かつ有効な手法です」

CSは顧客の業務変革に関わる。そのため、組織の壁を含めて突破できないケースもある。

「当社とお客様との定例会では、当社の提案をお客様は聞くだけとなるケースも多くあります。それを解消する方策として、Gainsightから『お客様の決裁者を含めた定例会(ビジネスレビュー)の開催』『サービスに関するROI(投資利益率)データの提示』などを提案するというアドバイスを受けました。決裁者や経営層を巻き込むことで、トップダウンで話が進むとともに、お客様側の体制整備にもつながります」(安藤氏)

CSは利用だけではなく成果を求めるため、関係者は多岐にわたる。「お客様に成果を届けるためには、営業プロセスの課題の解決が必要なこともあります。CSの本質は、お客様の成功に必要なことを常に考え、タイムリーに支援すること。当社ではCSはもとより営業、マーケティングなど各分野のノウハウを持つメンバーをそろえています」と絹村氏。「営業プロセスについてもGainsightに相談しました」と安藤氏は話し、「CS以外でもここまで対応してもらえることに驚くとともに、CSの本質を体験していると感じました」と付け加える。

コト売り化提言②ソフトウエア事業に適した仕組みを構築する

コト売りへの転換には、製品やサービスだけでなく、事業を支えるプロセスや仕組みの見直しも必要となる。パナソニック コネクトは、ハードウエア事業に最適化された仕組みの中でソフトウエア事業を進めてきた経験を踏まえ、先行するIT企業やスタートアップから学び、ソフトウエア中心の事業に適した仕組みづくりを進めている。

その取り組みは、プロダクトチーム制やアジャイル開発、CSの導入にとどまらない。IT・業務オペレーションや、権限委譲を含むガバナンスも見直し、開発から顧客支援、事業運営までを支える仕組みを一から構築・変革している。CSは、この変革の一環として顧客の成果創出と継続利用を支える役割を担う。

パナソニック コネクトの組織図(2025年7月現在)
パナソニック コネクトの組織図。SaaSビジネスユニットでは、ソフトウエア事業に適したプロダクトチーム制を採用し、事業を支える仕組みの構築・変革を進めている

こうした取り組みを支える基盤として、GainsightではCSに関する知見やノウハウだけでなくインフラを提供する。従来、様々なシステムに分散していた面談履歴、契約、利用状況など顧客に関する情報を統合し可視化を実現。営業やCSメンバーが必要な情報を知りたいときに即座に把握できる。

パートナーとともに、
エンドユーザーの成果をどう生み出すか

KPASクラウドのビジネスは、パナソニック コネクトが直接提供するだけでなく、多くのパートナー企業のサービスに組み込まれて展開されている。そのため、パートナー数およびエンドユーザー数は多く、従来はサービス提供開始後の利用実態を把握することが難しかった。利用率の低下やエラー発生などの兆候をタイムリーに検知できないことが課題だったが、現在はGainsightを活用し、利用状況やログデータといったシステム運用データに加え、CSの観点から重要となるオンボーディング進捗、活動ログ、ステージ管理などのデータを定義・蓄積し、一元的に可視化している。これにより顧客の状態把握やリスク検知だけでなく、利用拡大や成功事例の創出につながる兆候も把握できるようになった。

「Gainsightの機能を使って異変に対しアラートが上がる仕組みとしています。アラートを受けたタイミングで優先順位に応じてフォローアップを行っています」(牛島氏)

今後はパートナーおよびエンドユーザーにいかに成功体験を体感してもらうかが重要テーマとなる。その実現には、自社だけの視点でCSを推進するのではなく、パートナーとの連携が不可欠だ。

「自分たちの考えだけでは、パートナーやエンドユーザーにCSの取り組みを受け入れてもらうのは難しいと感じています。パートナーからは業界特有の知識や現場の情報を学ばせていただき、当社からはサービスに関する知識に加え、利用状況の可視化やリスク検知、活用促進といったCSの実践ノウハウを提供していく。お互いの強みを生かしながら、ともに成長していきたいです」(安藤氏)。牛島氏は「CSによる小さな成功の積み重ねを、パートナーに見せていくことが大切です」と話す。

コト売り化提言③CSは自社だけでは完結できない

パートナー経由でサービスを提供するビジネスでは、メーカーとパートナーが協働し、エンドユーザーの成果を支えることが重要となる。Gainsightは単なる顧客管理ツールではなく、顧客の成功を支援するためのプラットフォームである。クラウド上に顧客の利用状況データを収集・可視化し、両者が顧客の状況を理解するための共通言語として活用できる。

パートナーとの共創を通じてエコシステムを形成し、その先にいるエンドユーザーへ継続的な価値を提供していく取り組みを支えている。

パートナー企業とパナソニック コネクトが知見を相互に共有し、エンドユーザーに価値を届けるエコシステムのイメージ図
パナソニック コネクトはサービスおよびCSのノウハウを、パートナーは業界知識や提供サービスに関する知見を持ち寄り、相互に共有しながら価値創出を進めていく。こうした協業を通じてエコシステムを強化し、その成果をパートナーの先にいるエンドユーザーまで届けることが、CSの目指す姿となる

こうした相互の学びと実践を重ねることで、エコシステムを強化し、生み出される価値をエンドユーザーの成果につなげていく。

SaaSビジネスユニットでは、SaaSプロダクトが次々と誕生している。「KPASクラウドで培ったCSの知見やノウハウを他のプロダクトに展開していきたいと思います。最終的な目的は、SaaSビジネスを伸ばすことではありません。ソフトウエアとハードウエアを融合する土台づくりこそが、私たちのミッションだと考えています。また、歴史のある製造業でも、CSを含めモダナイズされたコト売りへシフトできることを証明し、産業の活性化に貢献していきたいと思います」(牛島氏)

SaaSビジネスユニットが取り扱うプロダクト。現場映像活用サービス「Cameleo」、顔認証クラウドサービス「KPASクラウド」、公的モバイルID認証サービス「VeriMe」、ロボット制御プラットフォーム「Robo Sync」
SaaSビジネスユニットが取り扱うプロダクトはKPASクラウドだけではない。CSの知見やノウハウを横展開し、ソフトウエアとハードウエアを融合する土台づくりを進める

GainsightではAIの活用を進める。「ソフトウエアビジネスは、継続利用で収益を生みます。多くのお客様やパートナーを抱えながら、ビジネスをさらに拡張していくために、AI活用による効率化は重点テーマです。例えばAIを利用した型化の自動作成などにより、CSをお客様に届ける質とスピードアップの両方を実現していきます」(絹村氏)

「現場から 社会を動かし 未来へつなぐ」というパーパスを掲げるパナソニック コネクト。GainsightのCSプラットフォームを通じて顧客の体験と成果の向上に寄与し、産業全体の活性化に貢献していく。

パナソニック コネクトのオフィスで語り合う絹村氏、安藤氏、牛島氏

Gainsight株式会社 企業概要

本社 東京都港区赤坂9-7-1 ミッドタウン・タワー18階
設立 2022年4月(日本法人)
概要 米国本社の創業は2011年、カリフォルニアにて。カスタマーサクセス分野のパイオニアとして、製品体験、コミュニティエンゲージメントに焦点を当てたCustomer-Led Growthプラットフォームを世界2,000社以上に提供し、あらゆる活動の中心に顧客を据えたヒューマンファーストの活動を可能にしている。豊富なデータ分析により、リスクのある顧客を特定し、課題を解決するための体系的なプロセスを構築。さらにデータドリブンのエンゲージメントにより顧客の成果を追跡、分析、自動化することで、企業の製品活用を高め、解約率を低減するとともに製品適用範囲の拡大により、企業のビジネス成長を加速させている。
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