次世代システム運用コンソーシアムが描く「憧れる仕事」としての運用の未来
デジタル化が急加速する昨今、日々さまざまなサービスが安定稼働しているのは、システムやITインフラを管理し、時には現場に駆けつけ作業する「運用人材」の活躍があるからこそだ。システム運用が社会に与える影響はかつてなく大きくなっているが、同職種にスポットライトが当たることは少ない。その貢献は見えにくく、人材は慢性的に不足し、働き方の課題も山積したままだ。こうした現状を抜本的に変革しようと設立されたのが、競合他社の垣根を越えて46社が結集した「次世代システム運用コンソーシアム」である。その設立の狙いと活動の実像について、コンソーシアムのメンバーに聞いた。
システム運用を非競争領域と捉えて、業界全体で底上げ
―― コンソーシアム設立の背景と目的をお教えください。
山下 ITシステム運用を取り巻くさまざまな課題の解決と価値提供を目的に、2024年に設立しました。IT企業とユーザー企業が組織の垣根を越えて、システム運用の高度化や自動化の推進、それを支える人材の育成に貢献する活動を推進しています。
次世代システム運用コンソーシアム
広報・編集委員会 委員長
山下 文彦 氏
(キンドリルジャパン株式会社 技術理事)
ビジネスでは競合関係になることが多く、当初はどれだけ賛同を得られるか心配していましたが、「システム運用は非競争領域として協創し、世の中全体を底上げしよう」という価値観への共鳴が広がり、現在46社がともに活動しています。
背景には強い危機感と、「自分たちが強いられている苦労をそのままにせず、よりよい形にして次世代の人たちに渡したい」という思いがありました。
運用の価値はシステムの安定稼働、つまり「なにも起こらない」状態です。古いレガシーシステムから最新のクラウドまでが混在し、システムが柔軟に変化する時代では、レジリエンシーとアジリティも運用の重要な価値です。運用は高度な技術力やノウハウ、そして「自分たちが社会を支えている」という誇りによって実現しているのですが、残念ながらそこにはスポットライトが当たっていません。
神沼 すると経営者もコストとして捉えがちになり、運用の現場はコスト削減と効率化に追われます。その結果、知見が属人化してしまったり、新しい技術を吸収する余裕がなくなったりして、いずれ運用が立ち行かなくなるリスクも高まるのです。
働き方にもメスを入れる必要があります。休日・夜間の対応、緊急呼び出しへの対応、24時間のシフト勤務、台風が近づくと会社で寝泊まりするといった、ワークライフバランスが確保できない職場では簡単に人は集まりません。
つまり、運用を人的資本に基づいて見直し、現場の苦労によって安定を支えられてきた成功体験から抜け出さなければなりません。もちろん、各社が独力で運用のあり方を変革するのは困難なので、当コンソーシアムが主導し、業界全体で運用をあるべき姿へと引き上げる大きなムーブメントを起こそうとしているのです。
株式会社IDホールディングス
コーポレートコミュニケーション部
担当部長 兼 人事部担当部長
神沼 直人 氏
各社の「よりどころ」となる基準を作る
―― 主にどのような活動をしていますか。
山下 本活動は、ワーキンググループ(WG)による体系的研究、事例共有の勉強会、他団体や経済産業省との連携、そして成果発信の4つの柱で構成されています。
現在は主に会員企業間での成果共有と議論の深化に注力しており、今後はこれらの成果を整理・高度化した上で、白書や動画などを通じて広く社会へ発信していくことを目指しています。
こうした一連の活動を支える基盤となっているのが、WGの取り組みです。技術が重要なのは言うまでもありませんが、併せて運用プロセスの変革を行わなければ業務は変わりません。さらに、どう人をモチベートし、長期的なキャリアを築くかという組織・人材の視点も不可欠です。2025年度は技術研究、運用プロセス変革、組織・人材変革の3つのWGで総勢217名、13チームが活動しました。今年度からは、既存の3領域に収まらないテーマを扱う自由研究WGの活動も始まっています。
これらは単に研究で終わらせず、実践に根ざした標準化を意識し、最終的には立場を問わず誰もがよりどころとするモデルとして提示しようとしています。
小針 大上段に構えるのではなく、実践で得た、現場で使える基準を積み上げていくイメージです。
| WG | 活動内容 |
|---|---|
| 技術研究WG |
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| 運用プロセス変革WG |
|
| 組織・人材変革WG |
|
| 自由研究WG |
|
―― すでに成果として活用されているものはありますか。
小針 コンソーシアムでまとめた、運用技術者のキャリアパスのガイドブックは、その一例です。昔は徒弟制度のような関係が自然と結ばれ、優秀な先輩を真似しながら順当にキャリアを重ねることができていました。
ところが人材の流動性が高まるなどした現在では、「次はこのレベルを目指せばいい」と分かる物差しがなければ立ち行きません。運用に関連する資格としてITILやITサービスマネージャなどの資格がありますが、それだけで技量を測るのは困難なため、各社が独自の認定制度を作っているのが実情です。
とりあえず関係がありそうな資格を目指すのではなく、将来の運用の姿を見据えて今何を学ぶのか、という観点で捉え直すのに役立つガイドブックとなっており、自社に持ち帰って展開している企業もすでにあります。
山下 特に若い方は、ガイドブックで求められるレベルをはっきりさせたほうが、ゲーム感覚で取り組みやすいと思います。そうした価値を伝える広報では、次世代の担い手である若い方を念頭に、文章だけでなく動画など多様な手段で活動していきます。
株式会社NTTデータ
ソリューション事業本部
ビジネスプロセスサービス事業部
ITアウトソーシング統括部
統括部長
小針 隆幸 氏
AIが運用の価値と人材像を再定義する
―― 近年はDXの取り組みが積極的で、運用にも追い風だったのではないでしょうか。
神沼 注目されるのはアプリケーションばかりですが、その効果を得るには、新しい運用の定着が重要です。従来、華やかに映る開発者を目指す学生が多いのですが、DXにおける運用の魅力をしっかり伝えることで状況を変えたいところです。
山下 AIの影響にも注目していただきたいですね。これからはAIが処理した結果の正しさを判断することが人の役割の中心となります。また、運用は確実なオペレーションが不可欠であるため、どこにAIを適用すべきなのかを見極めることが肝心です。運用でのAI活用が遅れている日本だからこそ、こうした新しい役割を担ってくれる次世代運用人材の登場に、大きな期待が寄せられています。
飛行機のパイロットは「花形」の職業ですが、担っているのは操縦というオペレーションです。システム運用にも、人々の生命や財産を左右する難しさと充実感があるのに、それが知られていません。実際、開発よりも運用の方が新しいことに取り組めるからと人気になっているユーザー企業もあると聞きます。そうした実態を正確かつより魅力的に見せて発信していく重要性を感じます。
まず私たちは、「オペレーター」「運用SE」などと一括りにするのではなく、人材のロールを細かく定義することで専門性を伝えようとしています。
小針 運用を「縁の下の力持ち」で終わらせず、社会を支える「主役」として正当に評価される未来を創りたいですね。
次世代システム運用の
研究成果を伝える発表会を都内で開催
次世代システム運用コンソーシアムは、5月26日に東京都内で「次世代のシステム運用における研究発表会 〜次世代運用モデルの研究と運用現場での実践にむけた取り組み〜」を開催。各ワーキンググループが1テーマずつ研究成果を紹介しました。
技術研究WG
障害対応の迅速化を目指す人とAIの協働モデル
SOMPOシステムズ株式会社
尾島 佳亮 氏
キンドリルジャパン株式会社
南波 邦雄 氏
再現性が低く原因特定が難しい障害対応を対象に、復旧スピードの最大化を目指す研究です。デジタル化が遅れている「仮説の検討・共有プロセス」に着目し、情報整理・仮説生成・可視化・保存をAIが担い、人は検証と判断に集中する協働モデルを設計しました。AI支援ツールを試作し検証した結果、専門家の到着を待たずに初動調査を始められる効果が確認されました。
このWGでは、SOMPOシステムズ 尾島佳亮氏、キンドリルジャパン 南波邦雄氏が登壇。南波氏は、「MCPでは製品サポートとのやり取りには対応できない部分もある。それでも、推定31時間・4日間の対応を1日は短縮できる見込みが得られた」と、現場目線のリアルな課題と手応えを語りました。
組織・人材変革WG
次世代の運用人材に必須なロールと
それに必要なスキルに関する調査・研究
株式会社NTTデータ先端技術
金田一 啓史 氏
SOMPOシステムズ株式会社
髙田 章吾 氏
SOMPOシステムズ株式会社
岩﨑 由華 氏
約10年後の課題を想定し、次世代運用人材のロール・タスク・スキルなどを体系化しました。AIによる代替や人材不足、システムのブラックボックス化といった課題に対し、技術・知恵・人で解決する3つのシナリオを設定し、7つのロールを定義しました。シナリオマップやスキル標準定義書など5種類の成果物を活用することで、システム運用の仕事を誰もが憧れる仕事に変革できるものの、次世代人材に対して「正確な認知」のための発信が必要であると結論づけています。
このWGでは、NTTデータ先端技術 金田一啓史氏、SOMPOシステムズ 髙田章吾氏、SOMPOシステムズ 岩﨑由華氏が登壇。岩﨑氏は、若手エンジニアとしての実感を交えてこう語りました。
「開発者は映画やドラマに登場してキラキラしたイメージがある。でも運用というと、どうしてもそうじゃない方のイメージが先行してしまう。だからこそ、ワクワクとキラキラ、魅力的なものにしていく必要がある」
運用人材のイメージ変革をどう実現するか、会場で活発な議論が繰り広げられました。
運用プロセス変革WG
AIコーチングとゲーミフィケーション理論を用いた
教育の高度化
アフラック生命保険株式会社
佐藤 考英 氏
クオリカ株式会社
森 憲一 氏
一時的な効率化ではなく「人が育ち、改善が循環する持続可能な運用」を作るために、目標明確化・継続・成長可視化が可能な「ゲーミフィケーション」と、各社のガバナンスやプロセスを取り込んだ「AIコーチ」の2つを組み合わせたアプローチにより、人が教える前提から脱却した自律的な育成を目指しています。プロトタイプでの実証では、ナレッジや判断の「繰り返し学習できる単位」への変換を確認し、次期活動の下地を固めました。
このWGでは、アフラック生命保険 佐藤考英氏、クオリカ 森憲一氏が登壇。アフラック生命保険の佐藤氏は、実際に試作したゲームのデモを披露。モンスターを相手に正解するとHPが減り、不正解では自分がダメージを受けるという「本格RPG仕立て」の学習ツールが、会場を沸かせました。森氏は「失敗してもそれを糧にしながら成長できるような仕組みが考えられた」と語りました。
発表会のクロージングでは、次世代システム運用コンソーシアムの副代表理事を務める舩越真樹氏が登壇しました。
舩越氏は、「この次世代システム運用コンソーシアムは私の20年間の夢でした。各チームの発表に共通していたのは現場を『見て、知って、問う』という姿勢であり、失敗を恐れない組織文化を築くことが重要だ」と総括。「いつか『ミッション:インポッシブル』に登場するような、ミッションをこなすシステム運用部隊にしたい」という言葉で締めくくると、会場は大きな拍手に包まれました。
参加者からの質問も途切れることなく、運用の現場で抱えるリアルな課題や期待が飛び交う、熱気ある一日となりました。
株式会社IDホールディングス
代表取締役社長 兼 グループ最高経営責任者
舩越 真樹 氏
