
Safety Driving Award 2025 受賞企業を発表
去る11月21日、「Safety Driving Forum 2025」が開催された。本イベントは社用車の交通事故削減の取り組みに光を当てる「Safety Driving Award 2025」の受賞企業を表彰し、その取り組みを紹介するイベントである。
警察庁によると※1、交通事故件数は2022年度まで減少傾向にあったものの、この2年間は横ばいとなっている。テクノロジーを活用したドライバーへの注意喚起や運転の自動化など自動車は進化を続けているが、それらを活用してもいまだ交通事故の発生を防ぐことは難しいのが実情だ。
営業車や配送車など社用車は事業に不可欠であるが、交通事故を起こしてしまうと、事業に大きなダメージを与えかねない。当事者の心身のケアはもちろん、事後対応に多くの時間と手間がかかり、企業イメージを毀損する恐れもある。
本アワードはこの重大な経営リスクへの対策に光を当て、各社の取り組みを広く共有することで、社会全体の交通事故削減につなげたいとスタートした。2024年に初めて開催され、今回で2回目を迎えた。一般参加者は前回に比べて増え、注目度の高まりがうかがえた。
当日は受賞企業の発表と審査員による講評、受賞企業各社によるプレゼンやパネルディスカッションも開催され、受賞内容を深掘り。授賞式後の交流会に至るまで多くの参加者で賑わった。
本記事では受賞した各社の取り組みを紹介する。ぜひ参考にして、自社の交通安全活動に役立てていただきたい。
※1 公益財団法人 交通事故総合分析センター 交通事故統計表データ(令和5年)版
審査のポイント・審査委員
本アワードでは、優れた取り組みが広く社会に共有されることを目指し、以下を審査のポイントとした。
①実効性 交通事故削減の高い効果が出ている
②再現性 一過性ではなく、確立された手法に基づいている
③波及性 社内外に好影響を与えている
④先進性 事故削減の進化に繋がる新しい挑戦である
エントリー受付期間は、2025年6月10日から8月29日まで。期間内に送付された資料を基に1次審査を行い、通過した企業に対して2次審査としてヒアリングを実施。6人の審査委員による審査会を経て受賞企業を選出した。
審査委員は以下の6人。

安部 誠治
関西大学名誉教授
関西大学梅田キャンパス長

井上 悦希
一般財団法人全日本交通安全協会
事務局長

上西 一美
一般社団法人日本事故防止推進機構
理事長

大杉 雅人
日本カーソリューションズ株式会社
取締役副社長

土居崎 寿滋
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
執行役員

川上 裕幸
GOドライブ株式会社
代表取締役社長
営業車部門 受賞企業
最優秀賞ヤマハ発動機株式会社
ヤマハ発動機株式会社
浜北製造部 総務課・主事
山川 侑己 氏
ヤマハ発動機の創業の地にある浜北工場では、主に二輪車のエンジン部品を製造している。同社は約800人の従業員を対象に、通勤時や自家用車の業務利用を含めた交通安全管理施策に取り組む。具体的には職場対抗の「交通安全選手権」を実施。各活動に交通安全ポイントを設定して職場ごとに活動している。年間チャンピオン職場を目指して、楽しみながら安全活動に参画する仕組みを構築した。
ヤマハ発動機株式会社
浜北製造部 総務課・主事
山川 侑己 氏
その際重要視したのが、“ごめんなさい”から“ありがとう”への意識変革である。交通事故を謝罪するだけでなく学びの場と捉え、工場全体で再発防止に取り組んだり、積極的な交通安全の取り組みに対して賞賛や感謝を表すことで個人の意識や文化の変革につながった。
同社は輸送機器メーカーとして交通事故ゼロを目指しており、そのためにJAFや警察と連携し地域の交通安全活動推進にも貢献。地域での模範的な安全運転推進事業所として、警察署から表彰されている。
ヤマハ発動機の山川氏は、「運転は一人の空間で行うため、運転者個人の意識が極めて重要です。自発的に楽しく参加できる仕組みを取り入れ、安全意識を高める文化を築いてきました。2019年から継続的に取り組んだ結果、組織全体に安全最優先の文化が深く根付いており、当初と比べ加害事故を62%削減できました」と語った。
優秀賞丸尾興商株式会社
丸尾興商株式会社
代表取締役社長
丸尾 高史 氏
丸尾興商は静岡県で管工機材、機械工具、住宅設備機器などを販売する専門商社である。配送トラックと営業車約200台を所有している。このすべての車両にAIドラレコを導入。リスク運転を可視化し人事評価に反映した。優秀な従業員を評価すると同時に表彰し、リスク運転の改善が見られない従業員には社長との面談を義務づけた。
丸尾興商株式会社
代表取締役社長
丸尾 高史 氏
併せて社長号令によってハンズフリー通話を含めた運転中の電話を全面禁止したが、業界の連絡は電話が基本なので、四六時中電話がかかってくる。そこで、ピクトグラムと「シゴト<イノチ」というキャッチフレーズを記したステッカーを車両に貼付すると同時に、全取引先に対してその背景と、運転中は電話に出られない旨の要請文を送付した。丸尾興商の丸尾氏は、「ホームページに掲載したところ、岐阜の運送会社の社長から共感していただき、喜んでステッカーを差し上げました。さらに広がることを期待しています」と語った。
優秀賞日立グローバルライフソリューションズ株式会社
日立グローバルライフソリューションズ株式会社
取締役CMO
安藤 剛 氏
家電品、空調機器、設備機器等の製造販売、保守を手がける日立グローバルライフソリューションズ(以下、日立GLS)は、家電営業部門で保有する社用車約500台にAIドラレコを導入。AIドラレコのデータを徹底的に活用し、スコアが一定基準以下のドライバーを「レッドカード者」として拠点長との「運転改善1on1」を実施し、改善を促している。その結果2025年度上期のレッドカード者は1名(前年80名)と大幅に減少した。
日立グローバルライフソリューションズ株式会社
取締役CMO
安藤 剛 氏
日立GLSの安藤氏は、「事故を起こしたドライバーのデータを分析したところ、スコアが一定基準以下の場合、事故を起こす可能性が高いことが明らかになりました。そこで、一定基準以下のドライバーに対し運転の改善指導を行えば、事故を大きく減らせると考えました」と語る。
加えて期末に優良運転者を表彰し、安全運転を褒める文化を醸成。さらに事故発生時には拠点の全従業員での深掘り反省会を実施し、再発防止策を策定するなど、当事者だけでなく職場全員で事故撲滅に取り組むようにした。これらの取り組みの結果、2025年度上期の事故が1件(前年9件)と、大幅に減少した。
特別賞ヤマダインフラテクノス株式会社
ヤマダインフラテクノス株式会社
技術開発部・部長 兼 広報室・室長
深谷 亘 氏
ヤマダインフラテクノスは、主に橋の修繕や保守を行っている。従来は安全教育として外部講師による勉強会などを開催していたが、受け身の学習よりも体験学習が大切と考え、ソフトメーカーと連携して独自のドライブシミュレーターを開発した。
ヤマダインフラテクノス株式会社
技術開発部・部長 兼 広報室・室長
深谷 亘 氏
シミュレーターでは普通車だけでなく4tトラックの視点や内輪差、ブレーキ感覚なども再現している。発生頻度の高い事故事例が取り込まれており、現場で遭遇しそうな事故を安全に体験できるようになっている。
さらに「“いってきます”と言った人は“ただいま”と言う義務がある」という安全標語を作成し、工事の開始時と終了時に全員で唱和するようにした。ヤマダインフラテクノスの深谷氏は「この標語を使い始めてから、皆さんの意識が変わってきました」と語る。
現場の実態に即したシミュレーターは好評で、元請けにも利用が広がっている。「より多くの人に知っていただき、建設業以外にも広めていきたい。それによってビッグデータを収集して精度を高め、シミュレーターのパイオニアを目指したい」(深谷氏)
運送事業部門 受賞企業
最優秀賞西部運輸株式会社
西部運輸株式会社
安全指導部 取締役部長
占部 恵司 氏
広島県福山市に本社を置く大手運送会社の西部運輸は、グループで1600台の車両を保有する。同社は6年前にグループ会社が行政処分を受けた。そこで全社員が法令遵守の重要さを再認識。特に2024年問題に端を発した運転者の労働時間管理が急務であり、その解決のためにデジタルタコグラフを活用した時間管理を徹底している。また違反を起こしやすい長距離輸送はドッキング便(中継輸送)を導入した。
西部運輸株式会社
安全指導部 取締役部長
占部 恵司 氏
安全教育としては重大事故・構内事故の削減を重点目標に掲げ、“防衛運転”をキャッチフレーズに、独自の運転ルールを軸とした安全教育に取り組んでいる。動画共有サイトを活用したWeb安全講習会も実施。実際のドラレコ映像を使った具体的な内容で、いつでも何度でも閲覧できるとドライバーにも好評だ。アンケートを取ることで全員の視聴を促し、意見を書けるようにして、ドライバーとのコミュニケーションを図っている。
西部運輸の占部氏は、「6年前の出来事から本気で法令遵守と交通安全について考えるようになりました。その結果様々な取り組みを行い、その分費用もかかっています。しかしそれを乗り越えるため社内の分析やそれに基づく改革にも取り組み、会社全体を変革できました。これからも安全意識向上に向け、“防衛運転”実践への取り組みを継続していきます」と語った。
優秀賞名阪急配株式会社
名阪急配株式会社
人事総務部 安全衛生推進チーム チーム長
森 弘樹 氏
愛知県春日井市に本社を置く物流サービス会社の名阪急配は、以前から安全衛生推進チームを本社に設け、メンバー5人で事故防止や安全教育に取り組んできた。トップダウンで安全最優先に取り組んでおり、その具体的な施策として、現場でのきめ細かな安全運転指導を行う「添乗マイスター制度」を新たに導入した。
名阪急配株式会社
人事総務部 安全衛生推進チーム チーム長
森 弘樹 氏
認定試験に合格した添乗マイスターには手当を付けており、初任乗務員や事故惹起者への運転指導、管理者の指導力強化などに取り組む。現在17拠点で25名が認定され、本社と現場との橋渡し役として信頼されている。これらの活動の結果事故が減り保険料を削減。そこで得た資金をAIドラレコの導入など、安全強化に活用している。精神面のサポートとして臨床心理士に相談できる体制も整えた。さらに毎月民放ラジオを通じて、事故防止の啓発活動にも力を入れる。
名阪急配の森氏は「運送業は安全に届けて当たり前なので、このような形で評価していただき大変ありがたいです。取り組んできた甲斐がありました」と語った。
優秀賞日本交通株式会社
日本交通株式会社
葛西営業所 主任
森 晃太郎 氏
大手タクシー会社の日本交通は、若手育成施策の一環として新卒社員のみで構成された営業所を設置。運転経験の少ない新人ドライバーによる事故を防止するためにAIドラレコを導入した。AIドラレコのデータからリスク運転が多いドライバーを週次で抽出し、「セルフチェックシート」を使って自身で振り返りを実施。管理者と面談して対策を決め、1週間後に再度面談し改善状況を確認している。この活動の結果、事故発生率が減少するだけでなく、離職率も低下。採用時のアピールにもつながっている。
日本交通株式会社
葛西営業所 主任
森 晃太郎 氏
日本交通の森氏は、「新卒社員は運転経験が少ないので、そもそも自分の運転の何が危険なのかが想定できない場合もあります。AIドラレコは運転をかなり厳しくチェックするので、この運転がどういう事故につながるかを一緒に話すところから指導しています」と語る。
同営業所はパイロット的な取り組みを行っており、その結果を受けてAIドラレコを他の営業所にも拡大するなど、全社的な安全活動にも広げている。
特別賞株式会社アトランシード
株式会社アトランシード
代表取締役社長
伊藤 学明 氏
大阪府で食品に特化した配送サービスを提供するアトランシードは、「だろう運転からかもしれない運転へ」をスローガンに、交通安全に取り組む。毎週社長がグループチャットで時期や季節に合わせた注意喚起のメッセージを送信。安全運転に対する取り組みを文章化させ、事故を起こすと経営陣とマンツーマンで報告書を作成させている。
株式会社アトランシード
代表取締役社長
伊藤 学明 氏
2024年問題を受け、顧客と交渉し価格は変えず稼働を減らすことで、ドライバーの労働時間短縮と完全週休2日制を、給与を変えずに実現。休息がとれ、プライベートが充実することで、事故が減り離職率も低下した。
不定期で社長との面談も行っており、その際は仕事以外の問題も聞くようにしている。アトランシードの伊藤氏は、「子どもの受験や介護など、悩みがあればとにかく聞くようにしています。解決はできないかもしれませんが、少しでも協力できたらと思っています」と述べた。
これらの取り組みにより保険料が大きく低減。浮いた費用を従業員向けの医療保険に投資して、安心して働ける環境を強化している。
クロージング
関西大学名誉教授
関西大学梅田キャンパス長
安部 誠治 氏
審査委員を代表して関西大学の安部氏が閉会のあいさつとして、次のように述べた。「長年“墓標対策から予防対策へ”と言ってきました。起こったことを検証し対策を立てることも重要ですが、予防がより重要です。しかし、人も組織も万全を期することは難しい。そこで他社の活動を取り入れることが、かなり有効だと分かってきました。今日8社が表彰されましたが、惜しい会社もたくさんありました。ぜひ来年も多くの会社にエントリーいただき、この場で議論し、皆で安全性を高めていきましょう」
関西大学名誉教授
関西大学梅田キャンパス長
安部 誠治 氏
今回のイベントで発表された優れた交通安全の取り組みが共有されることで、さらにブラッシュアップされて、よりよい施策へと成長するはずだ。それによって、事故のない社会に一歩でも近づくことが期待される。