オセアニア、アメリカ、ヨーロッパ…3大陸の異能が結集
2014年創業。そのユニコーン企業は一度も、物理的オフィスを持ったことがない。「世界中から優秀な人材を採用できることは大きなアドバンテージ」とGrafana Labs(グラファナラボ)共同創業者のAnthony Woods氏は話し、創業当時を振り返る。
Grafana Labs
共同創業者
Anthony Woods(アンソニー・ウッズ) 氏
「創業メンバーは異なる大陸に居住していました。私はオーストラリア、Raj Dutt(ラジ・ダット)はアメリカ、Torkel Ödegaard(トーケル・オデガールド)はスウェーデン。会社を立ち上げる際に、1カ所に集まるのではなく、リモートで機能する組織を選択したのです」
Grafana Labsは、データの可視化ツールをOSS(オープンソースソフトウエア)として提供する企業として、2014年に設立された。その後、企業買収やさまざまな機能追加を経て、企業向けの可視化・監視システムであるGrafana Cloudをリリースした。単なるモニタリングではなく、システム全体を観測しトラブルの根本原因に辿り着くオブザーバビリティ分野。日本での認知はこれからだが、NVIDIA、Palantir、Microsoft、J.P. Morgan、デンソー、GREEなど国内外の業界を代表する企業で導入が進む。JAXA(宇宙航空研究開発機構)の月面探査機着陸、NASAの打ち上げ追跡でも利用された。
Grafana Labsは高い技術力と成長力により2025年のGartner®Magic Quadrant™ for Observability Platformsでリーダー企業に位置付けられ、「ビジョンの完全性」の観点でも高い評価を獲得。また2025年のForbes Cloud 100では前年から10ランクアップし、世界13位の非公開クラウド&AI企業に選出された。その勢いのまま、2025年4月にはARR(年次経営収益)が4億ドル以上に達している。
Grafana Labs は2025年のGartner®Magic Quadrant™ for Observability Platformsにおける「LEADERS」(リーダー企業)の領域に位置。かつ「COMPLETENESS OF VISION」(ビジョンの完全性)においても高い評価を獲得した
快進撃を続けるGrafana Labs。その誕生は、Anthony Woods氏とRaj Dutt氏の出会いから始まった。「当時、インフラサービスを提供する会社でRajと一緒に仕事をし、事業のアイデアを考えてプロジェクトをつくり上げていました。その時に、OSSのデータ可視化・監視プラットフォームを開発するGrafanaプロジェクトを知ったのです。すぐにプロジェクトの生みの親であるTorkelに連絡を取りました。話し合う中で意気投合し、一週間後には『一緒にやろう』と言っていたのを、今も覚えています」(Anthony氏)
2014年、創業当時の写真。最初の社名は「Raintank」だった。ほどなく「Grafana Labs」へと改称する
シリコンバレーを選択しなかった理由。OSSと商用化の両輪で成長軌道を拡大
一般的に、起業する際には独自技術をクローズし競争力の源泉とする。しかしGrafana Labsの共同創業者3人は、ソースコードが公開され、誰もが利用できるOSSをビジネスの根幹に据えた。それは何故か。
「まず考えたのが、大きなエコシステムをつくること。小さなパイでビジネスを行うよりも、何百万人というユーザーがいる大きなパイで収益化を図る方が、効率的かつ持続的に成長できると考えたからです。お金は後からついてくる。そう信じ、OSSコミュニティの拡大に集中する方針を貫きました。2026年現在、Grafanaコミュニティは全世界で2400万人に及びます」(Anthony氏)
OSSと商用化は矛盾しないのだろうか。Anthony氏の答えは明快だ。「OSSはビジネスモデルではありません。マーケットを大きく変える技術革新です。Grafanaコミュニティでは、自分の用途に合わせて使える柔軟性を重視します。一方、企業のお客様は、箱から取り出すだけですぐに安心かつ安定して使えるパッケージ的要素を必要とします。両者は求めているものが異なり、開発時の方法論も変わります。コミュニティのユーザーとお客様、両方の要望に耳を傾け応えていくことで、オブザーバビリティ分野でリーダーの地位を確立できたと思っています。大事なのは、両者の信頼できるアドバイザーになることです」
Grafanaコミュニティは、商用化製品であるGrafana Cloudの価値と進化に影響を及ぼす。コミュニティのユーザー動向は、一歩先の企業ニーズを先取りしているからだ。「Grafana Cloudが進むべき方向を、コミュニティが照らしてくれています。曲がる方向やタイミングなど、明かりに合わせてうまく航行するためには柔軟性が大事であることを学びました。Grafana Cloudで得た収益をコミュニティに投資し、技術革新の促進やエコシステムのさらなる拡大を図り、その成果をGrafana Cloudに生かす。OSSと商用化の両輪でサイクルを回すことで成長軌道を大きくしていきます」(Anthony氏)
スタートアップといえば、思い浮かぶのがシリコンバレーだ。資金、人材などのインフラが整っていることが成功を後押しする。Grafana Labsはシリコンバレーではなく、OSSコミュニティを選択した。
「Grafanaコミュニティには、新しいアイデアやイノベーションが渦巻いています。グローバルコミュニティに入ることができたのは、シリコンバレーにいなかったからこそ得られた利点だと思っています。一方で、資金調達はシリコンバレーで行っています。投資家を選ぶポイントとして、お金を持っているだけでなく、オブザーバビリティ領域に携わる実務者であることを重視しました」(Anthony氏)
Grafana Labsの軌跡。3人の技術者の意気投合から始まったプロジェクトが、全世界を巻き込む新たな潮流を生み出した
“M&Aされた”企業の創業者すらも、Grafana Labsに共感した
コロナ禍以後、日本企業ではコミュニケーション活性化、組織の一体感醸成を目的にオフィス回帰の傾向が強まっている。フルリモートのGrafana Labsでは、社員とのコミュニケーションやエンゲージメントの向上をどのように図っているのか。
「Web会議などリモート環境の整備はもとより、情報共有のためにドキュメント化も行っています。また年に数回、チームのメンバーが対面で会う機会も設けています。働く環境の整備で重視しているのは、社員の自主自立です。当社は素晴らしい人材を採用しており、彼らを信頼しています。リーダーが部下を細かく管理する手法は不要。当社ではフルリモートは企業文化であり、現在42カ国で才能豊かな人たちが働いています」
OSSコミュニティは、オープンであるが故にユーザー同士のコミュニケーションの密度が高い。信頼はコミュニティ成立のベースだ。そうした考え方がGrafana Labsのフルリモート文化にも生かされている。しかし、Grafana Labsと従業員の強い絆を結ぶ根底にあるのはそれだけではない。
Grafana Labs
CTO
Tom Wilkie(トム・ウィルキー) 氏
Grafana Labsが可視化ツールからオブザーバビリティへとアップグレードする。そのきっかけとなったM&Aがある。2018年に、Grafana Labsはオブザーバビリティ技術を提供するKausal(コーザル)を買収。その創業者であるTom Wilkie(トム・ウィルキー)氏は現在、Grafana LabsのCTO(最高技術責任者)だ。Grafana Labsへの思いをTom氏は話す。
「Grafana Labsは数多くの企業を買収しています。大きな誇りを持っているのは、私も含め、買収された企業の創業者がGrafana Labsで活躍しているということです。その理由は文化や組織にあると思っています。もっと大きなインパクトが残せるように、もっといい仕事ができるように、よりよい自分であろうとすることを奨励する文化があり、それを実現できる場であると信じています」
Anthony氏は、「事業は人である」と話し、核心を口にする。「Raj、Torkelと3人で事業を始めて以来、共に仕事をしてきた人たちがこの会社をつくったと思っています」
Grafana Labsにおける最初の日本人社員は、日本のGrafanaコミュニティのユーザーだった。日本のコミュニティ活動も活発化している。2025年11月にGrafana Labsは日本法人を設立。2026年1月には、国内企業のGrafana Cloud導入を支援する「Grafana Executive Briefing Center(EBC)」を開設した。
組織と従業員自身の成長が一致する文化の醸成は、変化の激しい時代を勝ち抜くベースとなる。最先端テクノロジーを有するGrafana Labs急成長の背景には、距離を超えた信頼に基づく、究極の人的資本経営があった。





