博報堂DYホールディングス
代表取締役社長

西山 泰央

1989年博報堂入社。2019年同社執行役員、2023年取締役常務執行役員、2024年博報堂DYホールディングス執行役員(兼任)。2025年博報堂DYホールディングス代表取締役社長に就任。

博報堂DYホールディングス
代表取締役社長

西山 泰央

1989年博報堂入社。2019年同社執行役員、2023年取締役常務執行役員、2024年博報堂DYホールディングス執行役員(兼任)。2025年博報堂DYホールディングス代表取締役社長に就任。

共創のマーケティングで社会課題に向き合う 博報堂DYグループが描くサステナビリティの現在地

共創のマーケティングで、 社会課題に向き合う 博報堂DYグループが描くサステナビリティの現在地

気候変動をはじめとする地球規模の課題が深刻化する中、企業にはこれまで以上に社会への責任ある関与が求められている。そうした時代において、博報堂DYグループはサステナビリティを経営の意思決定そのものに組み込み、「共創のマーケティング」への転換を進めている。その思想と実装の現在地を、博報堂DYホールディングス 代表取締役社長 西山泰央氏のメッセージと具体事例からひもとく。

変革期に博報堂DYグループは
サステナビリティとどう向き合うか

「今は、100年に一度の変革期だと捉えています」

博報堂DYホールディングス 代表取締役社長の西山泰央氏は、サステナビリティを経営の重要テーマに据える理由をこう表現する。大量生産・大量消費を前提とした20世紀型の経済モデルは限界を迎え、AIをはじめとする技術革新や気候変動・人権問題の深刻化などが同時多発的に社会構造を揺さぶっている。こうした環境下で企業に求められているのは単なる効率化や一時的な成長ではない。

「企業が社会や生活者の変革にどう向き合いどう貢献するのか。その姿勢そのものが問われています」

西山氏は、サステナビリティをCSRとして扱うのではなく、経営判断の軸として貫いていくべきものだと捉えている。

西山氏が重視している考え方は「共創」だ。社会課題が複雑化し、単独の企業や組織だけでは解決が難しくなる中で、どのように人や知をつなぎ、力を重ねていくかが重要になっている。

博報堂DYグループはこれまでも、生活者発想を起点に、企業や社会のパートナーとして価値づくりに向き合ってきた。また2005年に環境省のコミュニケーションをサポートした「チーム・マイナス6%」に代表されるように、単なる広告の手段にとどまらず、生活者の意識や行動の変化を通じて社会を動かす取り組みを積み重ねてきている。その延長線上に、現在のサステナビリティに対する姿勢がある。

西山氏が描いているのは、生活者、企業、行政、大学、スタートアップなど、多様な主体が協働できる「場」を整え、「共創のエネルギーを最大化していく」ことだ。立場や専門性の異なる人たちが、同じ未来像を共有しながら知や技術を持ち寄る。単なる連携や情報交換にとどまらず、博報堂DYグループのクリエイティビティを触媒として知識やノウハウが交わり、その場自体が社会の「共有地(コモンズ)」として機能する状態を目指している。さらに、共創を通じて生まれたアイデアを議論で終わらせず、仕組みや事業、産業モデルとして社会実装していくことまでを見据えている。

なぜ広告会社が環境・脱炭素に向き合うのか

広告会社が気候変動などの環境問題に取り組むことに違和感を覚える人もいるかもしれない。だが西山氏は、むしろ必然だと語る。

「広告会社は生活者の価値観や欲求を社会に翻訳し、経済活動として実装してきた存在です」

気候変動への対応として進められている脱炭素社会の実現は単なる技術導入や制度設計の問題ではない。新しい価値観やライフスタイルを社会にどう根付かせるか。そのプロセスが問われている。博報堂が行った調査では「脱炭素」「カーボンニュートラル」という言葉の認知度は9割を超える一方、日常的に行動に移している人は3割強にとどまる。このギャップを生んでいるのは、生活者の無関心ではなく「行動したくなる設計」が不足している現実だ。

「脱炭素」「カーボンカリキュレーター」
という言葉の認知度は9割を超える

一方、日常的に行動に移している人は
3割強にとどまる

「環境配慮が『正しいこと』『我慢すべきこと』として語られてきたことで、生活者自身の喜びや価値と切り離されてきた側面があります」

だからこそ、生活者発想とクリエイティビティを強みとする博報堂DYグループが果たす役割がある。環境課題を「義務」ではなく「自ら選びたくなる価値」へと転換し、行動変容を促すこと。それが、広告会社としての責任だという考えだ。

こうした考え方を理念や思想にとどめるのではなく、具体的な形として社会実装していくことが重要になる。そのために博報堂DYグループでは、映像制作やイベント、デジタル領域など、グループ内に点在していた専門性や知見を横断的に掛け合わせ、生活者の行動変容につながる取り組みを進めている。

共創を、構想から社会実装へとつなぐ
博報堂DYグループの取り組み

グループ内の知見を結集した
「サステナクリエイティビティ for Carbon Neutral」

中核事業会社である博報堂ではサステナビリティを理念やメッセージにとどめず、具体的な実装へとつなげるための枠組みとして、グループ横断で企業の脱炭素化や環境課題解決を支援する統合ソリューション「サステナクリエイティビティ for Carbon Neutral」を立ち上げた。これまでグループ内に点在していた脱炭素や環境領域に関する知見や人材を集結させ、戦略設計からクリエイティブ、実装までを一気通貫で支援する。
この枠組みのもとで重視しているのは、環境配慮を制約条件として扱うのではなく、クリエイティブや体験の価値を高める過程に自然と組み込んでいくことにある。生活者の行動変容を起点に、社会の変化へとつながっていく設計をどう描くか。その問いに向き合いながら、さまざまな実践が生まれている。

環境教育プロジェクト「メタもバース」

その象徴的な事例の一つが、同グループの地球中心デザイン研究所が日本財団、慶応SDM未来共創イノベーション研究室と共に手がけた環境学習イベント「メタもバース(META‑MOVERSE)」だ。
「アマモの減少によるアサリ漁獲高の激減と生態系環境の変化」という現実を認知してもらうことを目的としたこのイベントでは、ドローンによるセンシングデータをもとに浜名湖全体をデジタル空間上に再現。マインクラフトの世界の中で、将来世代の子どもたちがアマモを植える体験ができる仕組みを構築した。参加者がアマモを植えると、その数に応じた二酸化炭素の吸収量が可視化され、魚や貝など生き物の種類が増えていくという、遊びながら海の環境再生を体感できる設計となっている。加えて、ゲーム内で植えた座標と連動して、実際の浜名湖でもアマモが植生されるなど、バーチャルとリアルをつなぐデジタルツインとして機能することも目指している。
楽しい体験を入り口に、理解と行動へとつなげていく。生活者の行動変容を起点に社会課題に向き合う姿勢がここに表れている。

環境負荷の低減に寄与する「バーチャルプロダクション」

映像制作の領域では、博報堂プロダクツが業務提携している株式会社HCAと協働し、バーチャルプロダクション事業を開始。LED背景と実写をリアルタイムで合成するこの技術は、もともと映像表現の高度化を目的に進化してきたものだ。具体的には、クルマのロケ走行シーンを屋外ロケに頼らず、すべて室内で再現できるほか、人材会社の採用広告では、エグゼクティブ向けの面接シーンを役員室のような会議室で撮影し、そのまま一般の社員向けの面接シーンまで、セットを組み替えることなく背景や演出の切り替えによって複数のクリエイティブのパターンを展開できる。こうした手法により、撮影に伴う移動や大規模なセット設営が減り、環境負荷の低減にもつながっている。重要なのは、環境配慮を制約条件として押し付けるのではなく、クリエイティブの可能性を広げる過程で自然と環境負荷低減が組み込まれている点にある。

CO₂排出量を可視化する「SUSTAINABLE ENGINE CARBON SIMULATOR」

イベント領域においても、同様の思想が反映されている。博報堂プロダクツでは、イベント開催に伴うCO₂排出量を可視化する「SUSTAINABLE ENGINE CARBON SIMULATOR」を提供し、イベントの企画段階から環境負荷を把握・調整できる仕組みづくりを進めてきた。
重要なのは、単に数値を算出するだけではなく、その結果をもとに、主催者や関係者が「どこを変えれば、どのような影響があるのか」を理解し、次の選択につなげていく仕組みだ。単なる数値算出にとどまらず、行動の結果が見えることで、行動変容を促し、環境配慮が現実的な判断として組み込まれていくツールとして活用されている点が特徴である。
また、この取り組みは個別のイベントにとどまらず、イベント業界全体へと広がり始めている。業界団体との連携を通じて、算定の考え方や手法を共有し、イベント制作における標準的な仕様として活用していく動きも進んでいる。

地球と人類の共生を実現するための共創プラットフォーム
「Planetary Platformers Initiative」

こうした思想や実践を博報堂DYグループの枠を超えて社会に開いているのが、西山氏が共同代表理事を務める「Planetary Platformers Initiative(PPI)」だ。企業、スタートアップ、研究者、行政などが立場を超えて集い、技術や解決策を持ち寄る前に、「どのような未来を目指すのか」という問いを共有する場として設計されている。

博報堂DYグループのクリエイティビティを触媒として、多様な知恵やノウハウが交差し、その場自体が社会の「共有地(コモンズ)」として機能する状態をつくることだ。そして、そこで生まれたアイデアを議論で終わらせるのではなく、仕組みや事業、さらには産業モデルとして社会に実装していくことまでを視野に入れている。

共創を未来へつなぐために

これらの取り組みに一貫しているのは、生活者の行動変容を促し、社会の変化を生み出そうとする姿勢である。

「生活者一人ひとりが、自分の選択や行動が社会とどうつながっているのかを実感できること。その状態が自然に生まれ循環していくエコシステムをつくっていきたいと考えています。私たちは、産官学をはじめとする多様なパートナーと共創しながら、複雑で難解になりがちな社会課題を、生活者の行動変容を促し、社会の変化へとつながっていくナラティブへと翻訳していく。環境配慮や脱炭素といったテーマも、正しさとして押し付けるのではなく、『自分も関われる』『自分で選べる』価値として社会に実装していく。そのための場をつくることが、博報堂DYグループの役割だと捉えています」

サステナビリティを経営の中核に据え、共創を通じて社会実装までを見据える。博報堂DYグループの取り組みは、広告会社の枠を超え、企業と社会の関係性そのものを再構築しようとする試みといえるだろう。

株式会社博報堂DYホールディングス

〒107-6320 東京都港区赤坂5丁目3番1号
赤坂Bizタワー
https://www.hakuhodody-holdings.co.jp/

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