サイバー攻撃がますます激化している。中でもランサムウエア攻撃の猛威は凄まじく、2025年は大手企業が被害を受けるケースが相次いだ。物流や販売がストップし、実ビジネスに大打撃を被った企業もある。
ランサムウエア対策にはEDR(Endpoint Detection and Response)や多要素認証、それらを組み合わせた多層防御が有効とされる。だが、システム面の対策だけに偏っている企業が多いのではないだろうか。
実は、対策ソリューションの導入と同じくらい重要なのが、従業員のマインドセットの変革である。「メールの添付ファイルは安易に開かない」「私物のUSBメモリーを使わない」「シグネチャー更新は速やかに行う」。このような「やってはいけないこと」と「やるべきこと」を社内に周知し、それを確実に実践してもらうのだ。これにより脅威の侵入を大幅に減らし、システム面の対策の効力も高めることが可能になる。
「ただ、これが意外にできていないのです。当社が行った調査※でもその実態が明らかになりました」と日立ソリューションズの池田 洋氏は語る。
具体的には、組織からの依頼事項に対する社員の平均回答率(対応率)は67%で、実に3割の社員が要請に応えていなかった。また「重要依頼の対応忘れ」や「依頼元からの催促」の経験がある社員が38.4%いることも分かった。依頼されたことは忘れていなくても、実行が伴わなければセキュリティーは強化されない。パッチの適用漏れやルールの徹底不備が、リスク拡大の要因になってしまうだろう。
「これはランサムウエア対策に限った話ではありません。現在の企業では、ハラスメントの防止や協力会社への適正発注に向けた啓発、調査などが頻繁に行われています。そのような重要事項の確認漏れ・対応漏れが常態化すると、コンプライアンス上の問題や訴訟リスクを抱えることになってしまいます」と池田氏は強調する。
つまり、依頼事項や重要情報を周知徹底できていない状態を脱却することは、あらゆるビジネスリスクを低減する上でのカギとなるのである。
※「大企業における社内依頼の実態調査」(2025年7月実施、日立ソリューションズ)
このような情報伝達の問題を解決するためには、まず現状を知ることが肝心だ。
社員への依頼や連絡は、大多数の企業がメールで行っている。日々、大量の業務メールが飛び交う中で、依頼事項は埋もれがちだ。仮に気付いても忙しい中で後回しになり、「いずれ催促されるから、それまではやらなくていいか」といった受け身の対応が一般化している。「その結果、提出期限が守られなかったり、迅速な集計が求められる調査をなかなか進められなかったりする事態が発生しています」と同社の白石 健太郎氏は指摘する。
また「回覧板方式」の情報伝達にも問題がある。回覧板方式とは、役職上位者から段階的に情報を下ろしていく仕組みのことだ。責任の所在を明確化し、確実な伝達を実現できる一方で、手間がかかり伝達の遅延や途絶が起こりやすい方式でもある。
「先に挙げたセキュリティー対策の徹底やハラスメントの啓発などは、速やかに伝えることが重要な伝達事項といえます。回覧板方式は、このような情報の伝達に向いていません」と池田氏は言う。
このような状況を脱却するための方法として、日立ソリューションズは次の2つのアプローチを提案している。
1つ目は「させられる」から「自分からやる」への転換だ。社員が自ら「やりたくなる」仕組みを整えることで、自然な形で行動変容をうながす(図1)。「そもそも対応が遅れるのは、依頼事項が社員の中で『自分事化』されていないからです。そのせいで、依頼者にも何度も催促する負担をかけています。自分からやる組織へ転換することで、依頼者と依頼される側の両方のエンゲージメント向上を図ることができます」と白石氏は説明する。
図1「させられる」から「自分からやる」への転換
行動経済学に基づき、自然と望ましい行動を取りたくなる環境や選択肢を設計する。強制ではなく、心理的な働きかけで実行率を高める。ナッジ(Nudge)とは「そっと肘で突く」という意味だ
2つ目が情報伝達の2系統化である(図2)。例えば、業績報告や予算編成、営業戦略、人事評価、組織の改編や人事異動など、事業活動に関する情報は正確性・確実性が求められる伝達事項であり、これまで通りの回覧板方式が向いている。
図2 情報伝達の2系統化
回覧板方式が適さない伝達事項もある。情報を大きく業績系、ガバナンス系の2つに整理し、伝達経路を分けることで合理的な情報伝達を実現する
一方、セキュリティーパッチの適用やインシデントの初動対応、コンプライアンス対応など、企業活動全般に影響し、速やかに伝える必要がある伝達事項は別の方式で伝達すべきものといえる。「組織長が関与する必要のないアンケート調査や棚卸し、eラーニング、健康診断の依頼なども同様です。『正確性・確実性』と『スピード・効率』の観点で情報を精査し、伝達経路を分けることで合理的な情報伝達を実現できるようになるでしょう」と池田氏は語る。
この2つのアプローチを具現化する、新しいコミュニケーションの仕組みが、日立ソリューションズの「グループタスク リマインダーサービス」である。
このサービスは社内ポータルなどの社員全員が見るサイトに、一人ひとりにカスタマイズした伝達事項のTODOバーを設置するツールだ。そのほか、組織長や発信者(依頼者)に対しても必要な確認/管理機能を網羅的に提供する。
「日立製作所 研究開発グループ デザインセンタと連携し、人の行動変容を自然にうながすデザインを実装しています。例えば、デスクに付箋が貼られていたら、人は確認したくなるでしょう。TODOバーはそうした人の心理を捉えるようにデザインされています。これにより、『依頼事項の存在に自ら気付き、自らやる』組織への転換をサポートします」と池田氏は紹介する(図3)。
図3 社員が見る画面のサンプル(TODOバー)
ポータルサイトなどの頻繁にアクセスするページにTODOバーを設置し、常に目に入るようにする。依頼の回答状況、期限までの期間などが色分けされて表示され、やるべきことが直感的に分かる。他メンバーの回答状況も可視化されるため、自然と「自分からやろう」という気持ちになる
組織長や発信者向けには、依頼・回答状況を一覧表示する機能を提供する。組織長は自部門の、依頼者は全社の状況を確認可能だ。対応の催促もボタン1つで行える。「リマインド疲れ」を回避しつつ、ガバナンスを強化できるだろう。
サービスの導入後に同社が行った社内調査では、回答率が平均98.2%だった。重要な伝達事項の抜け漏れはほぼ防げており、経営リスクを低減できている状態といえるだろう。組織長や発信者の工数削減効果も大きく、導入5年目には年間3万9,000時間の時間的余力を創出できたという。
「すでに社員1,000名以上のお客さま企業が多数導入しており、中にはグループ全体で1万名超のユーザーを抱えるお客さまもいます。ただ、社内依頼管理の重要性や、現状の問題に気付いていない企業はまだ多く存在します。各自が依頼事項を自分事として捉え、期限を意識して主体的に対応する組織への転換を目指すことを、強くお勧めします」と池田氏は言う。
ランサムウエアを例に挙げるまでもなく、現在の企業ビジネスには多くのリスクが存在している。そして、その多くが不完全な情報伝達によって増幅されている。日立ソリューションズが提案する2つのアプローチ、およびそれを具現化して組織に実装するグループタスク リマインダーサービスは、これからの時代の組織運営に大きな価値をもたらすものといえるだろう。