関西2府1県を運行する大手バス事業者の阪急バスでは、2025年の「大阪・関西万博」を機にいすゞ自動車の大型路線EVバス「エルガEV」を導入した。早くから海外製EVバスを運行してきた同社だが、それでも国産EVバスの登場を待ち望んでいたという。“安心と信頼”の担保がその理由だ。阪急バスのトップとEV導入の担当者それぞれに、今回の導入がもたらした効果や将来の展望について話を聞いた。

満を持して導入した国産EVバス
いすゞ自動車との信頼関係に手応え

大阪府、京都府、兵庫県の2府1県を中心に路線バスを展開する阪急バス。創立は1927年と古く、2027年度に100周年を迎える老舗バス会社である。2025年11月末時点で保有するバス車両は786両、2024年度の年間輸送人員は約7870万人。阪急電鉄やグループの北大阪急行電鉄の主要駅を起点にした路線が多く、「地域の足」として広範なバスネットワークを築いている。

阪急バスでは、省エネを意識したエコドライブ、ハイブリッドバスや廃食用油をリサイクルしたバイオディーゼル燃料100%バスの導入など、以前から環境面での取り組みを意欲的に進めてきた。こうした姿勢を加速させたのが、グループ全体の脱炭素目標だ。阪急阪神ホールディングスグループは2030年度のCO2排出量を2013年度比で46%削減する目標を定めており、その達成に向けてグループの一員としてさまざまな環境施策に励む。

阪急バス 取締役社長
三田 和司 氏

2021年から試験導入を図ったEVバスは転機となった。グループ内のCO2排出の大きな要因は自動車事業で、中でもバスの比率が高いからだ。取締役社長の三田和司氏は「EVバスは走行時にCO2を排出しないので、環境負荷低減の効果は大きい。そうした点からも当社として重要な選択肢と位置づけており、今後も環境施策の柱の1つとして積極的に導入を進めていきたい」と述べる。

阪急バス 取締役社長
三田 和司 氏

当初は日本メーカーがまだ対応していなかったため、海外製EVバスを導入した。その後、運用に関する知見を蓄え、現在では全18車両まで拡大。このうち2両をいすゞ自動車の「エルガEV」で運用している。待ちに待った国産EVバス導入の決め手について、三田氏は次のように語る。

「ある程度の知見は海外製車両で蓄積できていたものの、国産車両の導入は今回が初めて。正直、性能面は未知数な部分もありましたが、資産として長く使う車両であること、そしていすゞとこれまで築いてきた関係性を考えると、アフターフォロー体制も含めて安心できると確信していました。何よりディーゼル車の時代からトラブル対応や日常のサポートを含めて丁寧に対応いただいた実績があります。国産である点も大きく、一定の性能水準を満たすことに加えて、安心感と信頼性は必須の要素と判断して決定に至りました」(三田氏)

阪急バスに導入されているエルガEV

通常運行に先駆け、まずはJRゆめ咲線の桜島駅から大阪・関西万博会場のシャトルバスで運行を開始した。万博で得た手応えを、三田氏はこう振り返る。

「実際に導入してみて感じたのは、加速性能が非常に良く、制動力も高いという点です。万が一を想定していすゞが手厚い異常時対応体制を構築してくださったこともあり、終始安心して運行に臨むことができ、運行中のトラブルは一度もありませんでした」(三田氏)

大阪市は大阪府と共同して万博開催を契機とした公共バスのゼロエミッション化に集中的に取り組んでいる

静粛性や快適性はもちろん
パワフルな登坂性能も魅力

万博の運行では、乗客から「振動が少なく、変速ショックもないのでとても乗り心地が良い」との声が多数寄せられた。エルガEVは段差のないフルフラットフロアを採用しており、乗車空間の快適さも静粛性とともに高く評価された。

万博の終了後には、大阪府茨木市周辺の2路線で路線バス運行がスタート。EV車を含めた新モビリティの導入推進を担当する瀧川文章氏は、「国産EVバスは以前から待ち望んでいた存在で、今回ようやく形になりました。通常運行における性能に関しても満足しています」と語り、このように続ける。

阪急バス
営業企画部 車両課長 兼 新モビリティ推進部 課長
瀧川 文章 氏

「いすゞのEVバスを配置している茨木営業所周辺を中心に、比較的走行距離が短い路線で運用しています。営業所周辺は鉄道駅から郊外の団地や住宅地へ向かう路線が多く、坂道が目立ちます。そうした環境でもエルガEVは登坂性能に優れているため、現在はあえて坂の多い路線に割り当てています。本当に登坂路での力強さは印象的で、いすゞの車両ならではの特長が際立っていると感じました。かつて馬力のあるいすゞのディーゼル車を使っていた頃を思い出すような感覚で、坂道でもしっかりとした走りを見せてくれています」(瀧川氏)

阪急バス
営業企画部 車両課長 兼 新モビリティ推進部 課長
瀧川 文章 氏

登坂性能に優れるエルガEV

発進時のトルクが強く加速性能が高いため、ドライバーからの反応も上々だ。現在、2両のエルガEVを日々ローテーションで運用し、毎日異なるドライバーが運転しているが、EVバスを運転するドライバーからも違和感を指摘する声は上がっていない。

「運転席のレイアウトやパネル、スイッチ類の配置がディーゼル車とほぼ同じで、普段の感覚のまま運転できるようになっている点は助かります。いすゞのコンセプト通り、EVでありながら現場に自然に溶け込む設計になっていて、そのおかげでスムーズに運用できています。運転のしやすさという点でもプラスになっています」(瀧川氏)

導入にあたってはいすゞ自動車の担当者が入念なレクチャーを行った。茨木営業所で運転操作やEVの特性、注意点についてアドバイスし、整備に関しても万全の教育体制を敷いたと話す。

「整備はグループ会社の阪急阪神エムテックに委託していますが、いすゞから委託先工場の責任者や担当者に対して直接ご指導をいただき、その内容を現場の整備スタッフへと展開しました。EVバスは内燃機関がない分、整備に関してはこれまでと大きな違いがあり、加えて高電圧を扱うことになります。ここは一歩間違えると大きな事故につながる恐れもあるため、整備や取り扱いに関しては重点的に注意点を共有しています」(瀧川氏)

茨木営業所に設置されている急速充電器

一方で、導入していくつか課題も見えてきた。ただし、これらに対しても徐々に解決されていくだろうと瀧川氏は見込んでいる。

「導入して見えてきた航続可能距離や充電、運用面の課題はありますが、事業者の声を取り込みながら一つひとつ改善していけば、より完成度の高いEVバスに進化していくはずです。エルガEVは2024年に発売されたばかりで、まだ初期段階。今後、想定していないトラブルが起こる可能性もゼロではありません。路線バスは定時定路線で運行していますので、バスをご利用のお客様に対して、ご迷惑をお掛けすることは避けなければなりません。これまで以上にアフターフォローをしっかりお願いしたいのと、国産メーカーとして、ユーザーが本当に満足できるEVバスの開発を引き続き期待しています」(瀧川氏)

工場見学で安全性を実感
今後も一緒に取り組みを進める

三田氏は先日、いすゞの路線バス「エルガEV」の製造工場を訪れた。製造現場を見ることで、車両づくりの考え方や体制をより深く理解したいとの思いがあったからだという。

「国産メーカーのものづくりの水準が高いことを実感しました。要所要所で熟練の技術が求められる工程があり、その“手づくり”が品質につながっているのは事実。私は阪急電鉄に長く勤務しましたが、鉄道もバスも人の命を預かる乗り物ですから、確かな安全性は絶対に譲れない。そう考えると、信頼性の面で海外製車両が簡単に追いつけるものではないと感じました。長年の関係性の中で培われた対応力や柔軟性こそが、国産EVバスの強みなのではないでしょうか」(三田氏)

今後はEVバスの特性を考慮したうえで、適した営業所、適した路線に順次導入していく計画だ。また大容量の蓄電池を搭載していることから、非常用電源としてBCP(事業継続計画)にも役立てていく。「実際に一部の営業所では、EVバスから電気を供給する訓練も行っており、“いざというときの電源になる”という新たな価値が見えてきています」と三田氏。こうした新たな価値を踏まえ、最後に三田氏はこう締めくくった。

「EVバスは確実に車両性能が向上し、加速性能が良くなるだけでなく、ブレーキ時に発電する回生機能によって1kWh当たりの走行距離も伸びていくはずです。そうなれば環境負荷の低減だけでなく、エネルギー使用量そのものも抑えられます。いすゞ自動車には、これまで培ってこられた車両技術を活かしながら、事業者が求める安全性を確保しつつ、環境にも優しいバスを製造していただけることを強く希望します。これからも、ぜひ一緒に取り組んでいきたいと思います」(三田氏)

企業理念の理想像に「ひととまちに優しい阪急バス」を掲げる阪急バス。日々安全に徹し、地域住民に愛されるバス会社であり続けるためにも、環境に配慮したEVバスは欠かせない。ここで紹介した阪急バスの挑戦は、多くのバス事業者にとって脱炭素と付加価値創出のヒントになるだろう。

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