AIを活用して生産性を高め、新たな価値を生み出したい。そう号令をかけながら、肥大化したシステムやデータを前に足踏みする企業が目立つ。背景にあるのは、従来にない速さでAI活用を進めたいと焦る一方で、時間をかけて築いた複雑な仕組みがリスクや障壁となり、身動きが取れなくなっているという「過渡期のジレンマ」だ。散在するデータを経営資源に変え、AI活用を加速するにはどうすればよいのか。その突破口を、クラウド基盤の設計・構築から運用、セキュリティー、データ・AI活用までを一貫して支援する日本ビジネスシステムズ(JBS)執行役員の伊藤英啓氏に聞いた。

AI活用を阻む
「過渡期のジレンマ」

日本ビジネスシステムズ株式会社

執行役員
クラウドインテグレーション
&マネージドサービス事業担当
セキュリティ統括

伊藤 英啓 氏

 生成AIのPoCを実施し、Microsoft Copilotなども導入した。しかし、利用は検索や議事録、資料作成にとどまる。そうした企業は少なくない。伊藤氏が顧客企業を支援する中で感じるのは、AIへの期待と実際の活用との隔たりだという。

 「資料作成が1日から1時間に短縮されても、空いた時間で何をするかが定まっていない。業務を効率化した先で、AIをどう事業の価値につなげるのか。本来はそこから考えるべきで、いま多くの企業がその入り口に立っています」

 AIを事業価値につなげるには、社内に蓄積されたデータへのアクセスが不可欠だ。だが、その価値創出の道筋を探る間にも、AIの進化は続く。専門知識がなくてもAIエージェントやアプリケーションをつくれるようになり、現場が独自にAIを試し、業務に取り込める領域は急速に広がっている。こうしてAIの利用範囲が拡大するほど、AIが何のデータを参照し、どのようなリスクをもたらすのかを把握しにくくなる。全体像を掴めないまま利用だけが拡大し、データ統制の課題が一気に顕在化するのだ。これは、AI活用を全社展開するうえで、経営層が避けて通れない課題でもある。

 「これでは、アクセルとブレーキを同時に踏んでいるようなものです。経営層としてはAI活用を前に進めたい。同時に、ルールが整わないまま広げるわけにもいかない。相反する二つの判断の狭間で全社展開の判断が難しくなり、動きが止まってしまいます」(伊藤氏)

 このジレンマの根にあるのが、自社のデータの全体像が見えにくくなっているという構造的な課題だ。長年の事業拡大やシステム導入によって、基幹システム、クラウドサービス、ファイルサーバーなどが併存し、データは社内の至る所に散在する。保存先が増えるほど、データの所在だけでなく、誰が何を閲覧できるのかというアクセス権の全体像も見えにくくなる。

 人であれば、アクセス権があっても、内容から「開くべきではない」と判断して手を止めることがある。だがAIに、その判断はない。アクセス権の範囲内にあるデータを機械的に探しにいく。こうした権限の実態を把握しないままAIを利用すれば、想定外の機密情報まで拾い上げかねない。

 こうした問題はAIによって新たに生まれたのではない。これまで表面化しないまま積み残されてきたデータ管理やアクセス権の問題が、AIによって一気に顕在化したのだと伊藤氏は指摘する。

 データの散在に加え、組織の縦割りもAI活用を阻む。DX推進部門は活用を企画し、IT部門はシステムを運用し、情報セキュリティー部門はリスクを管理する。役割が分かれたままでは、データの利用範囲や許容するリスクを全社視点で判断できない。部門を超えて方針を定められるのは経営層だけだ。

 データの散在と組織の分断。AI活用の拡大とともに顕在化するこれらの課題を乗り越える鍵が、経営主導の「データガバナンス」である。

 「データガバナンスとは、企業全体のデータを整備された状態かつ安全に保ち、必要なときに使える状態をつくる経営の仕組みです。利用ルールと責任体制を明確にすることで、リスクを抑えながらAI活用を加速できます」(伊藤氏)

「守り」と「攻め」を
両立するデータガバナンス

 データガバナンスには、データを保護する「守り」と、その価値を引き出す「攻め」の両面がある。「守り」の観点で語られるリスクは、外部からのサイバー攻撃だけではない。見落としやすいのが、日常業務の中で生じる内部リスクだ。

 意図しないファイル共有、退職者アカウントの放置、過剰なアクセス権、AIサービスへの機密情報の入力、個人端末へのデータ持ち出し。いずれも悪意がなくても起こり得る。企業が気付かないまま、情報漏洩やコンプライアンス違反へ発展する恐れがある。

 一方、データを守るだけではAI活用を事業成果につなげられない。安全性を確保しながら、AIが必要な情報を正しく参照できるよう、データを整備する「攻め」の視点も必要だ。
伊藤氏は、AIとデータの関係をこう説明する。

 「AIはエンジン、データは燃料です。データが重複していたり、誤っていたり、更新されていなかったりすれば、AIは本来の性能を発揮できません。どれほど優れたAIを使ったとしても、信頼性に欠けるデータからは何も生まれないのです」

 この「燃料」をAIが安全かつ効果的に利用できる状態へ整える考え方が「AI Ready Data」だ。データの所在を把握し、重複や不要な情報を整理したうえで、適切なアクセス権と利用ルール、管理責任を定める。AIの参照先は構造化データに限らず、文書や音声、画像などの非構造化データにも及ぶ。こうしたデータの関係性まで整理しなければ、AIは必要な情報を正しくたどれず、期待した回答精度も得られない。

 もっとも、「AI Ready Data」は、データを一カ所に集約するだけで実現できるものではない。DWH(データウェアハウス)へ移しても、元のデータに誤りがあったり、アクセス権が適切に設定されていなかったりすれば、問題はそのまま残る。また、人事や勘定系などの重要なデータが古い基幹システムやオンプレミス環境に残されていることも多い。

完璧を目指さず、
データの棚卸しから始める

 では、散在するデータをどう統制すればよいのか。伊藤氏が最初に挙げるのがデータの棚卸しだ。

 「現状を把握できなければ、有効な手は打てません。大切なのは、最初から完璧な統制を目指すことではなく、データがどこにあり、どのような状態なのかを知り、『見えていない状態』を減らすことです」

 棚卸し後はデータを重要度に応じて分類し、利用ルールや管理責任を定めてアクセス権を見直す。すべてを一度に作り替えるのではなく、明らかになったリスクや、AIで活用したい領域から着手すればよい。

 JBSは、この取り組みをデータの「保護」と「活用」の両面から支援する。

 「JBS AI & Data ガバナンスオペレーションズ」は、生成AIの利用に伴うリスクを継続的に管理するマネージドサービスだ。リスクアセスメントで、意図せず外部に公開されているデータや機密情報に設定された過剰なアクセス権などを可視化し、是正。Microsoft Agent 365やVaronis製品などの導入から24時間365日の監視・是正までを担い、専任のTechnical Account Manager(TAM)が製品運用や定期的なレビュー、構成の最適化を支援する。

 一方、「AI Ready Data スターターパック」は、Microsoft Fabricを中心に、構造化・非構造化データを生成AIが安全かつ横断的に参照・活用できるよう整えるサービスだ。Microsoft 365上のデータなど、着手しやすい範囲からData & AIプラットフォームを短期間で構築。導入後の支援メニューとして、DataOps、データ利活用ユーザー支援、Microsoft Copilotの技術支援も用意し、現場への定着を支える。

 二つのサービスを軸に、ガバナンスの検討から基盤の実装、AI活用の定着、参照データの管理、日々の運用までを一貫して担える点にJBSの強みがある。AIの進化が加速する中、データガバナンスへの着手を先送りする猶予はない。伊藤氏は最後にこう呼びかける。

 「まずは経営層自らがデータの現状を把握し、部門をまたぐ課題に具体的な方針を示すことが必要です。AIの導入をゴールにせず、データを戦略的に活用できる企業へ変えていく。その一歩を今踏み出せるかどうかで1、2年後に大きな差がつくでしょう。経営者のみなさまには、今こそデータガバナンスをAI時代の重要な経営課題として捉えていただきたいと思います。その第一歩をともに考える機会を、ぜひ皆さまからいただければ幸いです」

日本ビジネスシステムズ株式会社

〒105-5520 東京都港区虎ノ門2-6-1 虎ノ門ヒルズ ステーションタワー20F

https://www.jbs.co.jp/

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