日経ビジネス発行人が訊く変革期の経営戦略
THE INTERVIEW

「Be the ONE」に込めた決意
多様な知と技術を結集する、
唯一無二の存在として

日揮ホールディングス

代表取締役会長 兼 社長 CEO

佐藤 雅之 氏

PROFILE

1979年早稲田大学商学部卒、日揮(現日揮ホールディングス)入社。同社取締役兼CFO財務本部長を経て、2012年副社長、14年会長。17年より代表取締役会長CEO、25年より現職(代表取締役会長兼社長CEO)。

( 聞き手:日経ビジネス発行人 松井 健 )

社員と経営陣の思いが重なった「Be the ONE」

ー 2028年の創立100周年を前に、「Be the ONE 常識を超えて」という日揮グループのブランドメッセージを策定されました。その意図とメッセージに込めた思いをお聞かせください。

 「Be the ONE 常識を超えて」は、社員と経営陣が一緒につくったものです。社員から寄せられた725件の声には「唯一無二の価値をつくりたい」「多様な知恵や技術を一つにしたい」「グループの力を結集して大きな価値を生み出したい」という思いが共通していました。それらの思いを込めた言葉が「Be the ONE」です。そこに、前例や業界の常識にとらわれず、新たな挑戦を続けていくという経営陣の決意を重ね合わせて、このメッセージとしました。

日揮グループを唯一無二の存在へと導くブランドメッセージ
重なり合う“O”は、多様な知恵や技術をひとつにするという思いを表している。

ー 伝統ある企業でありながら、なぜ今、ブランドメッセージをつくったのでしょうか。

 2028年に創立100周年という節目を迎えることに加え、事業環境が大きな転換点を迎えているためです。これまで使ってきた「Mission Driven」というスローガンも日揮グループを体現していますが、 AIをはじめとする技術の急速な進化で、アイデアや情報までもがコモディティー化し、新たな価値創造が求められる時代になりました。変化を待つだけではなく、自ら変化を生み出す存在でありたいという思いがあります。そこで「日揮グループは何者か」「社会でどのような役割を果たすべきか」を改めて自問しました。

 日本初のエンジニアリング会社である日揮グループは、いつの時代にあっても、産業、ひいては社会の基盤を支える存在でありたい。それが創業者の志です。そのもとで遂行したプロジェクトは、世界80カ国、2万件以上。いずれも一つとして同じものはない「一品一葉」のプロジェクトであり、時には常識を覆す発想や手法を取り入れながら、技術とノウハウを培ってきました。

 私自身も20代の頃、欧米企業から「日揮には絶対にできない」と言われたクウェートのミナ・アル・アハマディ製油所建設という大型案件に現場で携わりました。イラン・イラク戦争下という過酷な環境のなか、自ら判断し、財務担当でありながらバックオフィス全般を担い、試行錯誤しながら完遂した経験は、まさに「常識を超える」挑戦の原体験です。

 改めて歴史を見つめ直し、我々の強みは社内外の多様な技術や知見をつなぎ、新たな価値へ昇華することにあると再認識しました。顧客の要望に応えるだけでなく、まだ気づかれていない課題を先取りし、解決策を提案する。変化を待つのではなく、自ら生み出す側に立つことが、これからの使命です。社員一人ひとりがブランドの体現者となり、これからも社会を支えていきたいと思います。

「一品一葉」を完遂する技術と人の結集力

ー 「一品一葉」のプロジェクトを通じて培った、日揮ならではの技術力と遂行力を具体例とともにお聞かせください。

 象徴的なのが、日揮グローバルと米国フルア・コーポレーションが共同で手がけたLNG Canadaプロジェクトの第1フェーズです。受注総額は1.5兆円超、年産最大1,400万トンの生産能力を持つ、当社グループ史上最大級の受注案件で、独自技術「J・I・Module」を初めて適用しました。この技術は、最大で大阪城天守閣と同程度にもなる巨大な設備を海外でモジュールとして組み立て、船でカナダ西海岸へ運び、数万点に及ぶ部品を寸分の狂いもなく据え付けることで、現地作業の大幅な削減を図るものです。厳格な環境基準への対応が求められ、コロナ禍にも見舞われるなかでプロジェクトを完遂できたことは、我々の技術力の高さを示すものであり、大きな自信となりました。

日揮グローバルと米国フルア・コーポレーションが共同で手がけたLNG Canadaプロジェクトの第1フェーズ

ー 多様な専門家を束ね、想定外の事態を乗り越えてプロジェクトを成功に導く原動力はどこにあるのでしょうか。

 やはり人です。エンジニアをはじめとする多様な専門人財が力を持ち寄り、ONEチームで一つの目的に向かう。そこに日揮の真価があります。多様な国籍の人財と協働する経験を積ませるため、若手には積極的に海外赴任の機会をつくり、早くから現地で活躍しながらリーダーシップを磨いてもらいます。また、国内であっても、高い専門性を持ち寄りプロジェクトを成功に導く力を養うことができます。私は「誰が言ったか」ではなく「何を言っているか」が大切だと考えています。互いを尊重し、立場を問わず建設的に意見を交わせる風土もプロジェクト遂行力の源泉です。

「深耕の5年」で変化を生み出す企業へ

ー 新中期経営計画「BSP2030」で日揮グループが目指す姿と、その実現に向けた重点戦略をお聞かせください。

 目指すのは「技術をつなぎ、一歩先のソリューションで課題に挑む協働者」です。2026年度からの5年間を「深耕の5年」と位置づけ、収益基盤を強固にしながら将来の成長基盤を築きます。重点戦略は「総合エンジニアリング事業の持続的な競争力強化」「機能材製造事業の成長加速」「ソリューションビジネスの拡充」の3つです。

 日揮グループの活躍の舞台は決してLNGだけではありません。総合エンジニアリング事業では、医薬品や食品工場などの一般産業分野も手掛けています。成長市場である半導体やデータセンター、非鉄製錬分野も伸ばしていきたい。多様なお客様のニーズに応えられる専門性の幅広さこそ、当社の強みと考えています。

 機能材製造事業では、半導体分野の製品のさらなる拡大を目指します。また、ソリューションビジネスの中核となるバイオものづくりは、神戸・ポートアイランドに研究所を開設し、将来の事業の柱に育つことを期待しています。

ー 未来を担う人財をどう育て、どのような会社をつくりたいとお考えですか。

 日揮グループにとって、最大の財産は人です。これまでの実績は一人ひとりの力の結集にほかなりません。今後は、個人と組織の学習を連動させ、知識やノウハウが循環する仕組みをつくる必要があります。そのために育てたいのが専門性に加え、広い視点で事業を考えられる「多能化された人財」です。活躍の場は、総合エンジニアリングから機能材製造、バイオものづくりまで多岐にわたります。20代からグローバルな舞台はもちろん、国内においても専門性を持ってONEチームで取り組める環境は、若い人財にとって大きな価値があるはずです。社員一人ひとりが新しい日揮ブランドの体現者として自分らしい挑戦を続けていってほしいと考えています。2028年に迎える創立100周年という節目は決してゴールではなく、新たなスタートです。「次の100年」に向けて、個の力を結集して新たな価値を生み出す、夢のある会社であり続けることが我々の願いです。

聞き手:日経ビジネス発行人
松井 健

1994年筑波大学卒業後、日本経済新聞社に入社。日経産業新聞編集長などを経て、2024年より日経ビジネスなど経営誌の発行人を担う経営メディアユニット長。

日揮ホールディングス

日揮ホールディングス株式会社

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