日本総研のファクトをベースとした“1.5人称”の伴走支援 三菱重工の高い技術力を生かしたグリーンイノベーションの“リアル”で持続的な社会実装に貢献

グローバルなサステナビリティの指針として、日本政府はパリ協定・IPCCレポートといった国際的な枠組みに基づき、GX(グリーントランスフォーメーション)推進政策を進めている。一方、脱炭素の実現には様々なハードルがあるのも事実だ。新たに生まれている視点や課題も踏まえながら、カーボンニュートラルに挑戦する三菱重工業と、その成果の社会実装を支援する日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門のメンバーが意見交換を行った。

理想から“リアル”な現実路線で社会実装へ
転換期を迎えたカーボンニュートラルの潮流

三菱重工業(以下、三菱重工)は、エネルギー、航空、防衛、各種産業機器など、陸・海・空、宇宙まで広がる幅広い領域で製品やソリューションを提供する、エンジニアリングとものづくりのグローバルリーダーだ。世界的に製造業が脱炭素に取り組む中、同社も2021年10月に独自のカーボンニュートラル宣言「MISSION NET ZERO」を発表。その実行体制を整えるためにカーボンニュートラル推進室が発足した。推進室長の森原雅幸氏は、近年のカーボンニュートラルを巡る潮流をこのように説明する。

「これまでの脱炭素はCO₂排出量の削減成果や環境視点に偏っていましたが、エネルギーの安定供給や経済性、安全保障といった面から見直しが進み、今はもう少し現実的な移行過程を重視する“リアル”な路線へと変化しています。当社は脱炭素をエネルギーの課題と捉えて、S+3E(※)のバランスを早くから意識してきました。工場は約100年続き、残るものですから、単なる技術開発で終わるのではなく、しっかりと社会実装され、持続可能なビジネスとして成立するかを見通しながらグリーンイノベーションに挑戦しています」

※安全性(Safety)、エネルギーの安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境への適合(Environment)
三菱重工業
カーボンニュートラル推進室長
森原 雅幸
1996年、三菱重工業に入社。主にエネルギーや環境分野の取り組みに従事。2022年にカーボンニュートラル推進室長に就任。同社のカーボンニュートラル宣言「MISSION NET ZERO」に向けた基本戦略の立案や全社的な共通施策の企画・実行などをリードしている。
森原 氏

新規事業開発・研究開発を専門とし、日本総合研究所(以下、日本総研)で技術系メーカーからインフラ、ライフスタイルまで幅広い企業の事業開発プロジェクトに携わる岡田匡史氏は、「計画や技術開発に終始するのではなく、事業として実装・商用を本気で目指すものが増えて来ています。柔らかい絵姿ではなく、具現化やその事業性が強く求められるフェーズとなったのだと思います」と、実効力の重要性を説く。

岡田 氏
日本総合研究所
リサーチ・コンサルティング部門
事業開発・技術デザイン戦略グループ
部長/主席研究員(プリンシパル)
岡田 匡史

また、民間企業向けの環境エネルギー分野で実績を持つ日本総研の猪股未来氏は、こうした潮目の変化を受けて、コンサルタントの役割にも変化が起きていると語る。

「多くの企業で、国際的潮流に合わせた守りの脱炭素から、新規事業やインフラ輸出といった攻めの脱炭素へのシフトが進んでいます。私たちコンサルタントも、トレンド調査の結果やデータを提供するだけでなく、新規事業における機会とリスク、目標を立てる側と実行する側の橋渡しなど、より踏み込んだご支援の必要性を感じています」

日本総合研究所
リサーチ・コンサルティング部門
環境・エネルギー・資源戦略グループ
副部長/主席研究員(プリンシパル)
猪股 未来
猪股 氏

TMT分野の戦略を専門とし、日本総研のストラテジー&インダストリーユニット長として戦略コンサルティング領域を束ねる浅川秀之氏は、国の主導権争いが石油産出量のような資源だけではなく、グリーンイノベーションの技術力などにも波及し、重視されるようになっていることに触れ、「こうした変化に対応し、地政学や地経学もパラメーターに加えながら戦略コンサルティングを考える時代になってきたと感じています」と話す。

浅川 氏
日本総合研究所
リサーチ・コンサルティング部門
ストラテジー&インダストリーユニット
ユニット長/主席研究員(プリンシパル)
浅川 秀之

脱炭素実現にはブレークスルーが必要
技術を“追い込み”、新たな価値提供を強化

理想から社会実装への転換という大きな潮流の下で、三菱重工はどのような取り組みに注力し、脱炭素に“リアル”に向き合っているのか。

森原氏は、「当社の事業でとくに象徴的なのが、発電プラント用ガスタービンです」と語る。化石燃料である天然ガスを使うガスタービンは、カーボンニュートラルの観点で敬遠される懸念もあったが、そのガスタービンが堅調に推移している。AIの普及によるデータセンターの増加などで世界的な電力需要の高まりを受け、同社の発電プラント用ガスタービン事業は好調である。その理由について、森原氏はこのように解説する。

「人口減少が続く日本でも電力需要が伸びると言われています。増える電力需要に対して、どう電力を供給していくか。脱炭素も大変重要な論点ですが、同時に、安定供給、燃料調達、経済性をバランスよく解決することの重要性を社会が再認識したのだと感じます。エネルギーの課題として脱炭素に向き合い、リアリティを求めることが、実は脱炭素の成果を早く長く実現するのだと思います」

さらに森原氏は、「現在の技術だけで脱炭素を実現するのは困難だが、現状技術でもやれることはまだまだある」との見方を示した上で、三菱重工の特徴的な取り組みを紹介する。

「脱炭素実現のためには、新たな技術開発だけでなく、既存技術との組み合わせや既存技術をうまく使う技術のブレークスルーが有効です。当社では、自社工場を課題と機会の宝庫と位置づけ、設備類型ごとにモデル工場を定めて省エネの限界突破に挑戦しています。また、三原製作所(広島県三原市)を『MISSION NET ZERO』のロールモデル工場に設定し、新しい知見や技術の検証を通して、製品の効率的な使い方まで含めた価値提供を強化しています」

岡田氏から「自社工場では検証も兼ねた技術的な“追い込み”も可能ですが、クライアントに提供する際はコストと効果のバランスも重要です。その点はどうお考えですか」と問われると、森原氏はこう応じた。

「三菱重工は事業ごとに独立した評価制度を導入しています。いわば、社内にお客様がひしめいているようなものですから、社内間のやり取りでも、技術はもちろん、コストと効果も厳しい目で評価されます。また、原子力や防衛産業に携わっていることもあり、会社には“技術に甘えを許さない”という思想が根付いています。それは脱炭素も例外ではなく、技術的に追い込むことは当たり前、という考えで脱炭素に取り組んでいます」

三原製作所のカーボンニュートラル化の全体像

三原製作所のカーボンニュートラル化の全体像
「MISSION NET ZERO」のロールモデル工場に設定された三原製作所。社内外の関係者が共創する拠点として、エネルギーをより有効に活用できる技術やノウハウを実験的に集積・導入し、新しい知見や技術の持続的なアップデートに取り組んでいる

コングロマリットとしての強みを起点に新たなビジネスモデルを追求
「エコシステムは取り組んだ結果として立ち現れる」

脱炭素に向けた取り組みは、言うまでもなくグリーンイノベーションとは地続きだ。森原氏は、コングロマリットとして多様な技術・製品を横断的に組み合わせられる点を三菱重工の強みの源泉に挙げた上で、グリーンイノベーションの進捗について、「グリーンイノベーションと言えばCO₂回収技術が典型ですが、社会実装に向けては、既存技術との組み合わせや複数プレーヤーとの協働も含め新たなビジネスモデルが必要です」と分析する。

これを受けて猪股氏は、「コングロマリットも肥大化するとセクショナリズムに陥りがちですが、三菱重工様が既存技術の集積で新たな価値を生み出そうという思考ができるのは、マーケットインの戦略があるからだと思います」と評価する。

森原氏が話す「新たなビジネスモデル」の具体像として、単一資本を越えたエコシステムの形成を挙げたのは岡田氏だ。

「一般的にビジネスモデルは個社として勝つことを目指しますが、今後は排出量取引も導入される中、グリーンイノベーションも自社単独ではなく複数プレーヤーが参画する形になるのは間違いありません。その場合、地域と連携するなどの経済圏を構築して競争力を高めていく新しい仕掛けが必要だと考えています。実際、当社が支援するプロジェクトでも、公募時にとどまらず地域産業を巻き込む経済ブロックを構築したことが評価され、他地域からも誘致を受ける事例や、原材料の地政学リスクを回避し、サプライチェーンのリサイクルやトレーサビリティを含む新しいエコシステムを構築する事例などが出始めています」

森原氏はエコシステムについて、「最初から目的とするのではなく、取り組んだ結果として立ち現れるもの」と話し、「リアルな社会実装に足る技術があり、ステークホルダー間でディールがうまくいき、コストと品質のバランスが実現できる状態」と定義する。

「当社は多様な技術が強みではありますが、CO₂の回収はできても、輸送や貯留といった面では他企業との連携が不可欠です。エコシステムを持続させる意味でも、一社だけが得をしたり我慢を強いられたりするのではない仕組みを考えていく必要があると思っています」(森原氏)

これを受けて猪股氏も、「お客様だけを見るのではなく、お客様の先、さらにその先、つまりは一人ひとりの生活者、そして社会全体を見ることで、最終的な便益が現実に生活の中に組み込まれていき、持続性につながっていくのだと思います」と行動変容の重要性を説く。先に岡田氏が挙げた地域連携の経済圏や地政学リスクに対応したサプライチェーンの事例も、森原氏や猪股氏が見据えるエコシステムの具体的な姿だと言えるだろう。

“1.5人称”の距離感と様々なインテリジェンスで
機会損失を減らし、技術を生かし切る術を提供

新たなビジネスモデルとしてのエコシステムはまだまだ模索の途にあるが、ここまでの対話からもうかがえるように、進むべき方向は見え始めている。

森原氏は今後の課題として、投資資金の確保、経済性との両立、そして実現する技術を挙げ、「常に変化する状況にどう適応していくかが重要ですし、1つの成果が上がってもすぐに次の適応すべき課題が出てきますので、3年先、5年先を見越した取り組みは重要だと考えています」と語る。

三菱重工が見据えるリアルな社会実装やエコシステムにつながっていく新たなビジネスモデルづくりにおいて、森原氏が期待するのが日本総研の立ち位置だ。

「クライアントの側から見てありがたいのは、日本総研さんは提案の背景にファクトに対する強いこだわりがあるということです。これはシンクタンクをベースにしているからこその強みだと感じています。また、コンサルティングファームとしての関わり方が、良い意味で近すぎず遠すぎない、いわば“1.5人称”であることが絶妙です。変化が早い現在、当社が気づかない点を指摘していただく必要がある一方、2人称や3人称では距離感が遠すぎる。ファクトをベースにしっかり踏み込んで伴走していただけるからこそ、リアルな社会実装に資するご支援をいただけているのだと感じます」(森原氏)

森原氏の期待を受け、浅川氏はこう応えて対話を締めくくった。

「日本の製造業を見渡すと、技術や製品の強みを生かし切れていないケースはまだまだあると思います。こうした機会損失を少しでも減らし、新領域の実現可能性を切り拓くため、様々なインテリジェンスを生かしながらビジネスモデルやエコシステムを提供できるのが当社の強みです。今後もクライアント様が有する技術を生かし切るという視点で貢献していければと思います」(浅川氏)