
「老いる国」は衰退するのか? 急激な高齢化が進む中、日本の未来に対する悲観の声が渦巻いている。そんな中、人口構造変化をむしろ事業変革や組織変革のチャンスと捉え、積極的に成長へと結び付ける新たな企業戦略が注目を集めている。「ロンジェビティ・トランスフォーメーション(以下、LX:長寿社会に向けた企業変革)」という新概念を提唱する日本総合研究所(以下、日本総研)と、ウェルビーイング領域でいち早くLXを実践しているSOMPOグループに、取り組みの要諦について聞いた。
少子高齢化の動きは、確実に速度を上げている。2040年には65歳以上の人口が3900万人以上に達し、高齢化率は約35%となる見通しだ。
おのずと生産年齢人口は減少の一途をたどり、日本の国力は衰退していく。そんな悲観的な未来を想像している日本人も少なくはないだろう。しかし、本当にそうなるのだろうか――。
「確かに15歳以上64歳未満の生産年齢人口は、2040年までに1000万人以上減少すると予測されています(※1)。しかし、それが国力の衰退に結び付くとは限りません。なぜなら65歳以上でも若々しく、活躍している人が増えているからです」
このように語るのは、日本総研 リサーチ・コンサルティング部門 高齢社会イノベーショングループ 部長/プリンシパルの紀伊信之氏である。
日本総研リサーチ・コンサルティング部門
高齢社会イノベーショングループ
部長/プリンシパル
紀伊 信之 氏
紀伊氏が所属する高齢社会イノベーショングループは、「超高齢社会に最適化された社会システム作り」に向けた調査研究やコンサルティングサービスを提供しているグループだ。産・官・学・民の各領域と緊密なリレーションを築き、各ステークホルダーを仲介するハブとして、官には政策提言、民には事業開発の支援などを行っている。
紀伊氏によると、「いわゆる高齢者の肉体年齢は、この20年で5~10歳ほど若返っていることが様々な研究結果からも明らかで、65歳を過ぎても働き続けている人は約960万人にも上る」という(※2)。
「65歳以上も含めると、労働力人口の減少には一定の歯止めがかかっており、それらの人がいかに活躍できる場を提供できるかが、今後の国や企業の成長に大きく影響することになります。一方で、高齢化の進展は、新たなビジネスの創出や、事業の見直しによって収益力を高めるチャンスにもつながります。この両面で事業変革や組織変革を推進し、さらなる成長を追求するのが、当社が提唱するロンジェビティ・トランスフォーメーション(以下、LX)なのです」(紀伊氏)
日本総研は2026年、これからの社会を「超高齢社会」ではなく「長寿社会」と捉え、その変化に対応しながら企業変革を進めていくLXを提唱した。2026年8月には、長寿社会における企業の成長戦略と組織変革をまとめたホワイトペーパー「『長寿』社会の到来。企業に求められる変革と成長戦略とは? ~ロンジェビティ・トランスフォーメーション(LX)戦略~」を発表している。
ロンジェビティ(Longevity)とは、「長寿」や「長生き」のこと。「人が長く生きる」ことをポジティブに捉え、成長機会として活用し、高齢化による経営リスクにも対応するというのがLXの考え方だ。長寿化によって高齢者の消費活動や、従業員、地域を担う人としての存在感が高まることを前提に、事業や顧客接点、組織、人財戦略を再設計するというのが、具体的なアプローチである。
日本総研が描くLXのフレームワークは、「事業戦略」「組織戦略」の2つに分かれ、それぞれ「攻め」と「守り」の両面で構成される。
「長寿社会の到来を機会と捉え、新しいビジネスを創造する『攻めの事業戦略』と、高齢化に合わせて既存事業や製品・サービスを見直す『守りの事業戦略』。さらに、高齢者の能力・経験・ネットワークを生かし、シニア人財のさらなる活躍を推進する『攻めの組織戦略』と、高齢化に伴う組織・人財・業務へのインパクトの最小化や仕事と介護の両立支援を目指す『守りの組織戦略』。この4つの方向性から全社的な経営変革を進めることが、LXの要諦であると考えます」と紀伊氏は語る。
日本総研が提唱するLX、ロンジェビティ・トランスフォーメーションとは、長寿社会化をポジティブな成長機会として捉え、高齢化による経営リスクにも対応する経営変革だ。長寿を機会と捉えて新規事業を開発する「攻めの事業戦略」、高齢化に合わせて既存事業を見直す「守りの事業戦略」、シニア人財のさらなる活躍を促す「攻めの組織戦略」、高齢化による組織・人財・業務へのインパクトを最小化する「守りの組織戦略」の4つの方向性での変革を提言している
※1 出所:内閣府「令和8年版高齢社会白書」
※2 出所:総務省「労働力調査」、独立行政法人労働政策研究・研修機構「2023年度版 労働力需給の推計―労働力需給モデルによるシミュレーション―(成長率ベースライン・労働参加漸進シナリオ)」
経済産業省によると(※3)、「健康づくりや高齢化関連産業」の市場規模は、2020年には約25兆円規模だったが、2050年には77兆円規模まで成長すると見込まれている(※4)。日本においては数少ない成長産業の一つであり、その機会に参入する「攻め」と「守り」の事業戦略は、大きな果実をもたらす可能性が高い。
「長寿社会では、従業員が高齢化していく中で、誰もが働きやすいように自社組織を改革することやシニア人財の積極登用も求められます。ですから、LXにおいては事業変革だけでなく、組織変革も同時並行で進めるべきだと考えるのです」と紀伊氏は語る。
この日本総研が提唱するLXの取り組みを、いち早く実践している企業がある。保険をメインに、長寿社会を見据えた多様なサービスを提供しているSOMPOグループだ。
「当社は損害保険事業を祖業としていますが、2015年に介護事業に本格参入するなど、比較的早い段階から人口構造変化を見据えた事業変革を推進してきました。長寿社会において、とりわけ大きな社会課題や個々のお客さまの課題となり得るのは、『介護』『健康』『老後資金』の不安と不足です。
そこで、この『3つの不』の解消を目標に既存事業全体をバリューチェーンとしてお客さまのLTV向上を図る事業戦略への見直しや、生命保険・介護事業活動で得た強みを生かした新規事業創出に取り組んできました。また、日本の介護を持続可能な産業とすべく、2026年7月には介護事業者の経営にワンストップで伴走するSOMPOケアソリューションズを新設しました。将来を見据えて進めてきた企業変革のベクトルが、結果として日本総研が提唱するLXと同じ方向性だったと言えます」
そう語るのは、SOMPOホールディングス ウェルビーイング事業部長の松原良太氏である。
SOMPOホールディングスウェルビーイング事業部長
松原 良太 氏
これまでにも損害保険の枠を超え、生命保険や介護、ヘルスケアなどの新しい領域に事業を拡張してきたSOMPOグループは、2025年10月、新たなサービスを開始した。「親とあなたの健康・介護・お金をともに考える」をキャッチフレーズに、知識と支援経験が豊富なコンシェルジュの助言と最適なサービスをワンストップで提供する「ウェルビオ」だ。介護が必要になる前のシミュレーションや備えの提案から、介護施設の紹介、相続・終活など、一生涯をサポートする。
「ウェルビオは相談料を一切頂かず、『3つの不』に関するありとあらゆるお悩みにお応えしています。AIに聞けば何でも答えてもらえる時代ですが、親の介護や老後のお金といった問題については、家族の人間関係や人生観など個別の事情を踏まえ、親身になってくれる専門家に相談したいという方も多くいらっしゃいます。
コンシェルジュは介護施設の元施設長やケアマネジャー・看護師・社会福祉士・介護福祉士・ファイナンシャルプランナー・相続診断士などの有資格者によって構成されており、高い専門性がお客さまから高く評価されています。長く保険や介護事業に携わり、経験豊富な人財がそろっている我々だからこそ提供できるサービスです」
このように語るのは、「ウェルビオ」などを提供するSOMPOグループの新たな事業会社、SOMPOウェルビーイングの執行役員、島谷岳大氏である。
SOMPOウェルビーイング執行役員
島谷 岳大 氏
さらに、『3つの不』の相談窓口であるウェルビオ事業で得られた「仕事と介護の両立支援」に関する知見を企業向けに提供するサービス「ウェルビオBiz」はSOMPOグループ内においても導入され、誰もが働きやすい環境づくりを目指すグループ全体の組織変革に活かされている。
こうした取り組みについて、日本総研の紀伊氏は「新規事業の創出や既存事業の改革を行うにあたっては、どうすれば自社のケーパビリティで高齢者の課題を解決できるか、という視点を持つことが重要です。SOMPOグループの取り組みは、まさにその解を導き出した好事例だと言えるでしょう」と高く評価する。
SOMPOウェルビーイングが提供するコンシェルジュサービス「ウェルビオ」の世界観。保険や介護等を通じて培ってきた顧客接点や知見を生かし、『3つの不』の解消に向けた新たな事業の創出と既存事業の進化に取り組んでいる
※3 出所:経済産業省「第4回新事業創出WG事務局説明資料(今後の政策の方向性について)」(2024年3月22日)
※4 出所:経済産業省「第4回新事業創出WG事務局説明資料」(2024年3月22日)を基に日本総研作成
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/shin_jigyo/pdf/004_02_00.pdf
では、日本企業がLXを成功させるために重要なポイントは何か?
紀伊氏は「ひと口に高齢者と言っても、年代や健康状態、加えて価値観やライフスタイルは十人十色。抱えている課題も多様です。それらを適切に細分化しながら、課題についての解像度を高め、経営戦略に生かすことが大切です」と提言する。
その点、SOMPOグループは、もともと備えている「現場で課題を見つけ出す力」を発揮しながら、それを新サービスの創出やサービスの改善につなげている。こうしたアプローチは、世界的に見ても現場力が強い日本企業の多くに適用できそうだ。
一方、「SOMPOグループは、『3つの不』をライフタイムで解消するため、ライザップや鎌倉新書などのグループ会社や外部パートナーとの連携を通じて、バリューチェーンの最適化を図る取り組みを行っておられます。『誰と組み、価値をどうつないでいくか?』という発想の下で変革に取り組むことも、成功のポイントではないでしょうか」と語るのは、日本総研 リサーチ・コンサルティング部門 ストラテジー&インダストリーユニットのユニット長/プリンシパルを務める浅川秀之氏である。
日本総研リサーチ・コンサルティング部門
ストラテジー&インダストリーユニット
ユニット長/プリンシパル
浅川 秀之 氏
浅川氏が率いるストラテジー&インダストリーユニットは、高齢社会、ヘルスケア、エネルギー、通信・ハイテクといった幅広い領域で、産業や企業が抱える課題の解決を支援する組織である。各分野に関する深い知見と、経営戦略の策定や新規事業の創出に関するノウハウを組み合わせることで企業の成長戦略や事業変革を支援している。また、個別企業向けの支援にとどまらず、日本の重要な社会課題に対する研究・政策提言も行っており、こうした活動から得られた知見を生かした、日本企業の文化、社会の課題・構造を理解した戦略提供を得意としている点に特長がある。
「事業戦略を描き出す力が強く、紀伊のような実務リーダーが多数在籍しているので、日本企業の文化や社会の課題・構造を理解した戦略策定や実行支援ができます」と浅川氏は説明する。
また、LXを実践してきた立場から、「成功させるには、現場のサイロ化と現状維持バイアスをいかに打破するかが重要です」と語るのは、SOMPOホールディングスの松原氏だ。
「浅川さんがおっしゃるように、当社は『つなぐ・つながる』をテーマに連携のミッシング・ピースを埋めながら、『3つの不』を解消するバリューチェーンの強化を図ってきました。こうした取り組みに欠かせないのは、部門の壁を取り払ってグループが1つになること。当社は2027年4月にグループ持株会社の社名をSOMPOホールディングス株式会社から『SOMPOグループ株式会社』へと変更しますが、これを機に各事業会社の結束をさらに強め、LXを最大の成長機会として追求し続けていきます」と、松原氏は今後を見据える。
最後に浅川氏はこう結んだ。
「日本総研は、産・官・学・民とのネットワークを最大限に生かし、LXを政策から実行まで一気通貫で支えていきたい。3~5年後、日本のLXが世界一だと胸を張って言えるように。そのために、陰ながら全力で支援していきます」
お問い合わせ
株式会社日本総合研究所
https://www.jri.co.jp/
“親の介護どうする?”に、新しい選択
介護の相談窓口「ウェルビオ」
https://www.sompo-wb.co.jp/wellbio/
11/18(水)16:00より、LX推進の考え方・ポイントを解説するオンラインセミナーを実施します。下記のリンクよりお申し込みの上、ご参加ください(要事前申し込み)。
https://www.jri.co.jp/seminar/261118_715/detail/オンラインセミナーでは、とくに新規事業の創出と既存事業の改革に焦点を当て、持つべき視点や具体プロセス、高齢顧客の変化を踏まえたバリューチェーンの見直しに関して事例を交えて解説します。