
みずほフィナンシャルグループが、今大きく変わろうとしている。企業風土の変革とブランド再構築に向けて、それまで金融業界と関わりのなかった多彩な専門人材を中途採用し、社内に変化と刺激をもたらしている。変革に乗り出した動機は何か、具体的にどのような取り組みをしてその効果は何か。世界の有力企業に対してブランド戦略やマーケティング領域を中心としたソリューションを提供しているカンター・ジャパンの佐々木亨氏が聞いた。(文中敬称略)
[ファシリテーター] 日経BP Insight メディアディレクター 小平和良
佐々木祖谷さんは中途入社ですが、それまでの経歴が興味深いですね。コーポレートカルチャー室を設置したきっかけやその役割も併せて教えてください。
祖谷みずほは2021年にシステム障害を起こしてしまい、企業風土を変革する必要がありました。そこでグループ内から社員を募って4つのワーキンググループを立ち上げ、経営とも協議を重ねる中で提言された変革の一つが、カルチャー改革のための専任役員(Chief Culture Officer)と、専任部署であるコーポレートカルチャー室の設置でした。
私は広告会社からキャリアをスタートし、日本を代表する製造業のコーポレートブランドやプロダクトブランドのプロデュースに携わることができました。次に、将来的なデジタルの可能性を感じてアドビシステムズに移り、マーケティングのDXをリードしてきました。
その後、みずほが、企業理念を刷新してリブランドを行うタイミングでご縁をいただき、2023年10月にコーポレートブランドディレクターというポジションで加わりました。中途入社ではありましたが、グループ内の様々な部署・肩書きの人と時間を共にしていく中で、私がやりたいことを理解して迎え入れてくれて、一緒に前に進めることができています。
佐々木金融業界はレギュレーションが厳しく、ブランド構築や差別化は容易ではありません。顧客体験をより良く差別化、向上させるためにも風土変革が必要です。どのように取り組まれたのですか。
祖谷広告会社は人が資産とも言えるので、「人に基づいたブランディング」が常に身近にありました。ソフトウェアを扱うアドビでは、顧客体験がブランドにいかに結び付くかを徹底して実践しました。金融業界においても、お客さまにどんな体験を提供できるかが重要だと思っています。「人」がブランドをつくり上げる最も大きなタッチポイントと考えると、「社員一人ひとりがどうあるべきか」が何よりも根本になければなりません。
2023年5月に企業理念を刷新し、「ともに挑む。ともに実る。」というパーパスを掲げ、それを実現するための価値観・行動軸として5つのバリューを定めました。「ブランド価値向上」と「企業理念の社内浸透・企業風土変革」は表裏一体なので、私が双方を担当しているのは自然なことだと捉えています。
佐々木企業理念はつくって終わりでは意味がありません。社内全体に理解・浸透させる仕掛けが必要になりますね。
祖谷グループCEOの木原(正裕)以下、経営陣が全国の拠点を訪問して、直接対話を重ねました。みずほが目指す方向性を伝え、社員の考えや声を聞く機会は、毎年100回以上に上ります。木原が社員の声を受けて、その場で関係部署に指示を出したこともあったそうです。こうした行動力と熱量を社員も感じ取り、前進する原動力になっていると感じます。
社員全員がパーパスとつながる鍵になるのは、エンターテインメントとトリートメントではないでしょうか。前者で言えば、「社長のおごり自販機」に、パーパスを文字った「ともに挑む。ともに飲む。」と掲示するなど、まるで大喜利大会のように社内コミュニティが盛り上がりました(笑)。みんながパーパスを身近に感じて自分の言葉で発してくれたのは、入り口としてすごく大きかったですね。
一方のトリートメントは、社内表彰制度 「みずほアウォード」の刷新です。以前は、大規模プロジェクトなどが表彰されがちでしたが、いかにバリューを業務の中で発揮したかを基準に再定義しました。例えば、ある支店が窓口時間外にお客さまに飲み物を提供しながら商品説明する「NISAカフェ」を始めたところ、「お客さまに喜んでいただけるなら、うちもやってみようよ」と全国の支店に自発的に広がりました。こうした活動を表彰することで「そういう取り組みが求められているのか」とイメージしやすくなりますし、それらの積み重ねは顧客体験や企業風土変革にも必ずつながっていきます。
佐々木社員一人ひとりの行動は、ブランド形成に向けた過程の一つになると思います。「人に寄り添う」「顧客志向」といった考えが根付いてきたわけですね。
祖谷あるべき方向に一歩踏み出せたとは思っています。「やっぱりみずほっていいよね」とお客さまに感じてもらうには、 全社員が企業理念を理解して同じ方向を向いて体現していく必要があるので、 インナーブランディングは重要です。
一方で、お客さまにも私たちの挑戦や変化を感じていただきたく、昨秋から「青さで、挑む。」をテーマにしたコーポレートブランドキャンペーンを始めました。加えてWebサイト「みずほジャーナル」でも、以前なら埋もれていたかもしれない話題や取り組みを掲載しています。
佐々木多くの企業は製品やサービスに注力して、インナーブランディングに重きを置いていません。特に海外展開している企業は、企業理念やパーパス、あるべきブランドの姿に対して日本からのガバナンスが効いておらず、危機感を持ち始めています。企業理念などを社内全体に繰り返し伝えて個々の持ち場や立場で体現していくことが重要で、それがお客さまにも伝わっていくと再認識しました。
祖谷コーポレートカルチャー室のメン バー約60人は、広告代理店でクリエイティブディレクターをやっていた人、アートディレクター経験者、テレビ局のプロデューサー・記者出身者など多彩です。「みずほのカルチャーやブランドをより良くしたい」という熱意を持って取り組んでいる心強いプロパー社員も多く、両者の掛け算で良い仕事ができていると実感しています。今後も変わり続けられるように努めていきます。
佐々木当社は、2006年より世界主要企業のブランド価値を定量化した「BrandZ(ブランジー)」という指標を基に、グローバルブランドTOP100、日本ブランドTOP50のランキングをそれぞれ発表しています。
また、当社ではお客さまのブランド構築支援にあたって、行動経済学やニューロサイエンスに基づいた「記憶に残る体験」を重視しています。顧客接点の量だけでなく、体験の質を重視することでブランドの差別化が可能になります。競争に勝つためには社内変革とともに、意味のある差別化の積み重ねが必要です。ブランド価値の定点チェックと改善の繰り返し、個々の社員の立ち居振る舞いが最終的にブランドをつくることになります。みずほはその成果が出始めていると感じました。本日はありがとうございました。
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