


人的資本経営をめぐり、人材戦略の策定や情報開示は進んだ。だが、それを現場で実行に移す段階にはなお壁が残る。問われるのは、蓄積した人材データを配置や育成といった日々の意思決定にどう生かすかだ。カオナビは、その答えとして「Talent intelligence(タレントインテリジェンス)」を掲げ、対話型AIエージェント「KTi(ケーティ)」の提供を始めた。経営、人事、現場をデータとAIでどうつなぐのか。変革の狙いをCEOの佐藤寛之氏とCPOの井上英樹氏に聞いた。


戦略を描くだけでは、
カオナビは、4,500社を超える企業にタレントマネジメントシステムを提供するHRテクノロジー企業だ。2025年6月には米カーライル・グループの資本参加を受けて株式を非公開化。短期的な成果にとらわれず、AI時代を見据えた中長期の成長投資を加速させている。
同年10月、ビジョンを「タレントインテリジェンス」へと刷新。データとAIの力で人的資本(Talent)に知性(intelligence)をもたらし、「個」の力を最大限に引き出すプラットフォーマーとして、組織と社会の変革を推し進める。
「これまで当社は、SaaSを通じて人材データの一元管理や活用を支援してきました。これからは、その基盤の上で人材データとAIを掛け合わせ、経営の意思決定に新たな視座を示すところまで踏み込んでいきます」と佐藤氏はビジョンに込めた狙いを説明する。
ビジョンの実現に向け、同社はこれまで、目標管理や評価などの日常業務を通じて人材データが自然に蓄積され、社内に分散するさまざまなデータも取り込める基盤を整えてきた。顧客企業でも、社員の価値観やキャリア志向を配置や育成に生かすほか、人事部門にとどまっていた情報をミドルマネジャーや現場でも活用できるようにするなど、新たな動きが広がっている。
一方、人的資本経営全体を見渡すと、実行の段階にはなお壁が残る。井上氏は、人事部門の実情をこう語る。
「本来、人事が時間を使うべきなのは、人と向き合い、データから次の打ち手を考えることです。しかし実際には情報収集や運用の定着に追われ、多くの現場では具体的な施策まで踏み込みきれていないのが実情です」
実行を担うミドルマネジャーも、業績責任に加えて育成や配置、離職防止を担うが、全社戦略を日々の判断に落とし込むための支援は乏しい。
カオナビがタレントインテリジェンスの中核に据えるのは、経営・人事の意思決定から、ミドルマネジャーによる日々の判断、チームメンバーのキャリア形成までをデータとAIで支えることだ。人材戦略を描いて終わらせず、組織の実行へとつなげる。そこに同社の狙いがある。
データが巡るほど、
データとAIによる支援の精度を左右するのが、人材データの質と量、鮮度である。だが、継続的な収集は容易ではない。
「データを一元化したいのは経営や人事です。しかし社員には、自分の情報を出すことで何が返ってくるのかが見えません。AIから役立つ提案や支援が返れば、よりよいデータを入力しようとする。そこから新たな行動が生まれ、データも更新される。この循環が必要です」(佐藤氏)
カオナビは、この循環を「インフィニットモデル」と呼ぶ。変化の激しい時代に、正解は一つに定まらない。データを基に対話し、行動する。その結果を再びデータとして蓄積し、組織はその時々の答えを更新していく。目指すのは、自ら学び、人事変革を進める「自走する組織」だ。
その自走を支えるAIは、汎用AIとどう違うのか。井上氏が挙げるのは、AIが参照するデータと示唆の土台となる人事の専門知である。
「汎用AIから得られるのは基本的に一般解です。一方、カオナビには外部には出回らない、企業固有のリアルタイムな人材データと、4,500社を超える企業への支援を通じ、10年以上にわたって培ってきたタレントマネジメントの実績やノウハウがあります。この二つを掛け合わせるからこそ、その会社の状況に即した示唆を導き出せるのです」
人材の「地図」を 個社固有の人材データとタレントマネジメントの専門知を実際の意思決定へとつなぐ。そのために同社が開発したのが、2026年10月に提供を開始する対話型AIエージェント「KTi(ケーティ)」だ。
「最もこだわったのは、分析結果を返して終わるのではなく『次に何をすべきか』まで示すことです。提案を受けて人が動けば新たなデータが生まれ、AIはそれを基に次の提案を返す。こうしてデータと行動が循環するインフィニットモデルをプロダクトとして実現しようとしています」(井上氏)
第一弾で支援するのは、社員のキャリア形成と社内人材の発掘だ。社員はAIとの対話を通じて、自社でどのようなキャリアを描けるか、どのスキルを伸ばすべきかを考えられる。企業は新しいプロジェクトや部署を立ち上げる際、必要な経験や能力を持つ人材に加え、挑戦する意欲のある社員も候補として見いだせる。今後は配置や1on1、育成などへ用途を広げ、経営、人事、管理職、社員それぞれの意思決定をつなぐ基盤へ進化させる計画だ。
ただし、カオナビが目指すのはAIが人の判断を代替する世界ではない。
「AIの強みは専門性と再現性を高め、人の意思決定の可能性を広げることにあります。論理やデータで担保できる部分はAIに委ねる。一方、人は相手の感情に向き合い、最終的な判断を下す。人にしかできない仕事へ力を注げる環境をつくる。それが、我々の目指すタレントインテリジェンスの姿です」と佐藤氏は未来への展望を示す。
井上氏もまた、「データの探索や定型的な作業をAIが担うことで、人事はそこから見えてきた課題を読み解き、次の打ち手を考えることに軸足を移せます。管理職も、社員一人ひとりと向き合う時間を増やし、対話そのものの質を高められるでしょう」と、人とAIの役割分担がもたらす働き方の変化を見通す。
カオナビの挑戦は、いよいよ新たな局面へ。佐藤氏は最後に、その決意を言葉にした。
「タレントマネジメントシステムのリーディングカンパニーとして、我々は一人ひとりの才能や個性を可視化し、一元管理して生かす仕組みを日本に広げてきました。その結果、組織にどのような才能や個性があるのかを見渡す『地図』はできました。次は、AIでその地図をナビゲートするステージです。SaaSとAIの両輪でタレントインテリジェンスを実現できれば、日本の働き方そのものを変えられる。そのために必要なテクノロジーを、我々はお客さまと試行錯誤を重ねながら形にしてまいります」
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