アジャイル体制への転換で組織や開発プロセスを変革
仮説検証プロセスを確立し、 AI駆動開発の本格推進に向け、 内製化や人材育成へ挑戦
三菱電機ビルソリューションズ(以下、MEBS)が展開する
ビル利用者向けスマートフォンアプリ「BUILDAYS®(ビルデイズ)」。
KDDIアジャイル開発センター(以下、KAG)による支援の下で進んだ同アプリの機能追加、
さらには組織体制や開発プロセスの刷新について、経緯や効果を両社のキーパーソン3人に聞いた。
アジャイル開発の導入で
アプリの機能拡大を加速する挑戦
――まずは、MEBSが展開している「BUILDAYS」の概要について教えてください。
MEBS・塩原義浩氏(以下、塩原氏) 「BUILDAYS」は、ビルで働く人々の行動をスマート化するアプリです。もともと当社は昇降機や入退室管理システムなどのビル向けの機器、システム、ソリューションの開発をしていますが、昨今のスマートビルディング需要に合わせ、デジタルサービスを掛け合わせた価値提供が必要との認識があり、これが開発のきっかけとなりました。
特徴は、ITベンダーが主に提供している一般的なアプリと違い、ビル設備・システムと連携できる点です。利用者にとっては移動や手続きのストレスの低減や新しい体験価値の提供、オーナーにとっては資産価値とテナント満足度の向上、そしてビル管理者にとっては日々の業務の省力化を図ることを目指しています。
MEBS・甲斐正太郎氏(以下、甲斐氏) 企画開始は2022年ごろ。基盤アプリとしてさまざまな機能のミニアプリを追加することを前提に設計しており、利用者が必要なサービスを選んで使える仕様となっています。スマート入退とエレベーター連携の2つのミニアプリを搭載する形で24年7月にリリースしました。
――その後、KAGをパートナーとする「BUILDAYS」の機能拡大プロジェクトがスタートしたと伺っています。これにはどのような狙いがあったのでしょうか。
塩原氏 基盤アプリである「BUILDAYS」は、スピード感を持ってミニアプリを追加してこそ価値が高まります。私が所属するシステム開発部は、アジャイル開発でアプリのリリースを加速させるという役割を果たすための部署として設置されました。ただ、当社はもともとウォーターフォール型で開発をしている会社のため、アジャイル開発に対応する知見やノウハウが不足していました。またAIを活用していかなければならないとも思っており、アジャイル開発、AI駆動開発、AIサービス開発を得意とするKAGさんにパートナーとして協力を依頼したのは、この点を補完していただくためです。
甲斐氏 KAGさんをパートナーに選んだ決め手は2つ。1つは、我々自身でアジャイル開発をやり切れる組織に生まれ変わりたいという思いがあったので、内製化まで伴走してもらえる点を重視しました。
そしてもう1つが、KAGさんの出自がKDDIであることです。社会インフラとして高いサービス品質が求められる点も当社と共通していますし、ウォーターフォール型からスタートした文化をお持ちなので、アジャイル体制への変革を目指す当社にとっては多くの示唆を与えてくれるのではないかと考えました。
組織と開発プロセスを改善し
技術負債の解消を目指す
――「BUILDAYS」の機能拡大プロジェクトを通して、モダンな開発体制へと生まれ変わるにあたり、どのようなハードルがありましたか。また、そのハードルに対し、KAGはどのように支援されたのでしょうか。
甲斐氏 変革を進めるにあたってのハードルは3つありました。1つ目は組織づくりです。ウォーターフォール型では要件定義や設計などを段階ごとに決める必要があるため、企画や開発、運用が縦割りで動くことになります。個別最適により品質は担保されるものの、どうしてもサイロ化が避けられず、いかに全体最適へとブレークスルーするかが悩みでした。
KAG・平井友樹氏(以下、平井氏) ウォーターフォール時代には、MEBS様が仕様決定や設計を行い、バックエンドやスマートフォンアプリの開発は別会社が担当していたと伺っています。それぞれの会社がテキストでのやり取りはあったものの、テキストや仕様書を介したコミュニケーションだけでは意思疎通が十分ではないという課題を受け、会社の垣根を越えたスクラムチームを組織し、対面ワークを通してコミュニケーションを促進していきました。従来の組織構成を変えたことで当初は戸惑いを感じられた部分もあったかと思いますが、メンバー間の相互理解が進んだことで開発スピードを向上させることができました。
塩原氏 2つ目のハードルは、開発プロセスです。機能確認テストやデプロイ作業が手作業だったため時間もかかっていましたし、属人化は再現性の面で課題があり品質の低下を招きかねません。加えて、AIをどう活用するかについても課題を感じていました。
平井氏 KAGはAI駆動開発について豊富な実践知を有しており、数多くのサービスをAI駆動開発にて実施してきています。また全社的にもClaude Code for Enterpriseを導入し、エンジニアのみならずさまざまな職種でAIを活用しております。
サービス開発におけるAI導入は、開発スピードの向上に寄与するのはもちろんですが、プロセスが属人的な手作業のままでは目詰まりが起こり、AI開発のスピードの恩恵を生かし切れません。開発工程の中での限定的なAIの活用だけでは、一部の工程が速くなるにとどまります。そこで、CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)手法を導入し、テストやデプロイの自動化に取り組みました。
自動テストを整備したことでエラーを早期に発見できる体制へと移行しつつあり、デプロイ工数は約半分へと削減できています。プロセスの自動化とAIの活用は開発の効率と質の面でも重要な部分です。現在はAIの恩恵を受ける土台が整ってきたところですので、今後もセットで進めていき、より柔軟でスピード感のあるアジャイル×AI駆動開発プロセスの実現を支援していきたいと考えています。
塩原氏 3つ目のハードルは技術的負債です。当初、スマートフォンアプリ開発の経験があまりないメンバーでスタートしたため、レガシーな設計やコードなどが残り、開発の足かせになっている状態でした。これについてはまだ解決途上ですが、アジャイル開発体制や、今後さらにAIを生かすためにも、KAGさんの協力を頂きながら改善に取り組んでいるところです。
標準プロセスを整備し、
明確な判断軸を持った
仮説検証型
アジャイルプロセスが定着
――このプロジェクトを通して得られた成果を教えてください。
塩原氏 大きかったのは標準プロセスを確立できたことです。言葉の定義を整理、ガイドラインとして共通言語化したことで、サービスデザイン、開発、リリースといった各フェーズで何を仮説検証し、どの状態なら次へ進めるか、うまくいかなければどこへ戻るかが明確になりました。これに伴い「BUILDAYS」のミニアプリ開発の質も向上し、26年5月には予定表と連携できる新たなミニアプリを追加したほか、複数のミニアプリの開発が同時進行しています。
平井氏 PoC(概念実証)やMVP(実用最小限の製品)といった言葉の解釈は、人によって異なるので、手戻りを抑え効率を高めるために、判断基準を整理してプロセスを標準化できたのは大きな成果だったと思います。
甲斐氏 この取り組みを通して、アジャイル体制への変革の重要性は経営層にも徐々に浸透しています。ただ、不確実性への懸念はまだ十分に払拭できていないため、実績を積み重ねながら、社内での情報共有を続けていくことで目線がそろっていくと考えています。
――MEBSは、当初から内製化を目指されていたとのお話がありました。この点について、KAGはどのような支援をされましたか。
平井氏 スクラムチームを編成する全員を対象に、ロードマップとスキルマップを策定しました。前者は中長期のゴールの明確化、後者はスキルの数値化により、育成への活用やメンバー間の相互理解といった狙いがあります。
また、開発担当者を対象に、当社のエンジニアがペアプログラミングやモブプログラミングを通じて実践的ノウハウを提供したり、定期的な勉強会やハッカソンによるスキルの底上げに取り組んだりしています。さらに、サービス開発に関する横断的なAI活用についても導入から活用といった全プロセスでご支援しています。
塩原氏 スキルマップは当初、開発担当者の自己評価や目標管理のためのものでしたが、内製化や人材育成を進めるためにどうすれば効果を得られるかをKAGさんに相談し、プロダクトオーナーやスクラムマスターも含めた形にアップデートしました。
甲斐氏 今回のプロジェクトで、組織や開発体制も含め「BUILDAYS」の基盤が整ったと思っています。今後は、自社だけでなく外部と連携したエコシステム構築も視野に入れたいですし、AIを活用したサービスデザインのあり方についても伴走いただけることを期待しています。
――最後にMEBSから、アジャイル変革への一歩を踏み出せずに悩んでいる経営層に向けてのメッセージをお願いします。
塩原氏 アジャイル開発は、変化の激しい時代に適した手法ですが、ウォーターフォール型からの移行にはさまざまなハードルがあります。当社の今回のケースのように、アジャイル導入やAI活用に長けたパートナーを見つけ、伴走支援をしてもらうのは有効な一手だと考えます。
