
クラレ
代表取締役社長
川原 仁氏
1984年クラレ入社。繊維事業の海外営業やドイツ駐在を経て経営管理部へ。ビニルアセテート樹脂カンパニー長などを歴任し、2021年から代表取締役社長。
——今年6月に、創立100周年という大きな節目を迎えました。
当社は1926年に岡山県倉敷市で創立しました。当時の先端技術であった化学繊維レーヨンを事業化し、1950年代には初の国産合成繊維として世界に先駆けてビニロンの工業化に成功。日本の合成繊維産業の発展に寄与しました。現在では、スペシャリティ化学企業としてグローバルに事業を展開しています。
当社は創立以来、「世のため人のため、他人(ひと)のやれないことをやる」を使命とし、新しい素材を生み出してきました。独創的な技術へのこだわりこそが、私たちクラレの原点です。
例えば、光学用ポバールフィルムは、液晶ディスプレイの偏光板の素材として不可欠な、当社を代表する製品の一つです。また、当社が開発したEVOH樹脂「エバール®」は、樹脂として最高レベルのガスバリア性(気体を通しにくい性能)を備え、食品や医薬品の包装材として広く使われています。脱炭素時代の重要な要素技術としても期待されています。
さらに近年では、水や空気を浄化する活性炭にも注力しています。2018年には米カルゴン・カーボン社を買収し、活性炭の世界シェアでトップに立ちましたが、今後は世界的なPFAS規制の強化などを背景に、生活環境の改善に貢献する事業として、さらなる成長を見込んでいます。
——中期経営計画「PASSION 2026」の手応えはいかがですか。
創立100周年の「ありたい姿」を描いた長期ビジョン『Kuraray Vision 2026』、その実現に向けた中期経営計画「PASSION 2026」では「3つの挑戦」を掲げています。
1つ目は「機会としてのサステナビリティ」です。サステナビリティを新たな事業機会と捉え、積極的に進めています。
2つ目は「ネットワーキングから始めるイノベーション」です。「PASSION 2026」のスタートと同時に「イノベーションネットワーキングセンター」を設立しました。顧客との接点を広げ、社内のビジネスユニットやコーポレートの研究開発をつなぐ組織です。現在、70~80人規模の組織に成長し、外部の協力企業やお客様との共同開発を進めています。
3つ目は「人と組織のトランスフォーメーション」です。当社グループは、社員の4割強が外国籍という、グローバルな組織になりました。「One Kuraray」を合言葉に、人事制度や社員の意識、仕事のやり方の変革を進めるとともに、デジタルに精通した人材が元気に活躍する企業体を目指しています。
——オープンイノベーションと研究開発のビジョンについて教えてください。
グローバル市場でリードするため、オープンイノベーションを積極的に活用し、投資を続けています。
代表的な例が、細胞培養ソリューションです。当社がグローバルに優位性を持つポバールを素材とした微細球体であるマイクロキャリアは、弾力性があって細胞が壊れにくい、透明で観察しやすい、培養後の細胞を取り出しやすいといった複数の利点があります。研究機関や医療機関との協創で社会実装を目指しています。
また、活性炭の細孔サイズを精密に制御する技術は、次世代の電池材料や高性能触媒担体などの製品として実用化されることが期待されています。
グローバルの市場競争は、年々厳しさを増しています。今後も研究開発投資の2~3割は先端研究に充て、本当に強い技術の種を自前で創出し、世の中の有望な技術を取り入れたり、組み合わせることで、技術のコアを強くしていきます。
——「生産」よりも「安全」を重視する姿勢について教えてください。
長い歴史の中で、尊い命が失われる事故も経験しました。その事実を真摯に受け止め、2006年に「安全はすべての礎」という行動原則を策定。以来、心に刻み実践してきました。従業員はかけがえのない財産であり、人を傷つけないことを企業活動の原点に据えています。
その上で、サステナブルな社会の実現に貢献する製品やサービスを供給し、挑戦していくこと。一過性の事業に終わらせず、持続可能であること。この「挑戦」と「持続」が重要なキーワードです。今後はさらに経営の「機動性」と「スピード」を重視します。
創立100周年は、通過点に過ぎません。これまでの歴史に学びながら、自然環境と生活環境の向上に貢献していきます。