【TMIP(Tokyo Marunouchi Innovation Platform)】 丸の内エリアのイノベーションエコシステム形成に向けて、大企業とスタートアップ、産・官・学・街との連携で事業創出を目指すオープンイノベーションプラットフォーム
開催3年目を迎えた、大企業発の新規事業創出を表彰するTMIP Innovation Award 2025は会場を巻き込み大きな盛り上がりを見せた。“次なる本業になり得るか”を焦点に行われた審査で最優秀賞に輝いたのは、ビジネスだけでなく、文化をも変えるポテンシャルを持つ事業だった。
「まれに見るほどの会場の一体感とハイレベルなピッチの熱量が素晴らしい。プレゼンターはもちろん、事業アイデアもオーディエンスも毎年進化している」。特別審査員の入山章栄氏(早稲田大学大学院教授)がそう評したのは、2025年11月17日、丸ビルホール(東京・千代田)で行われたTMIP Innovation Award 2025だ。社内外の壁を越え、新たな価値や事業創出に挑む優れた事例を表彰する制度で、この日の最終選考には事前審査を突破した5名が登壇。事業内容をアピールし、市場性や革新性、社会インパクトについて審査員の質疑に応じた。
最優秀賞に輝いたのは、ジェイアール東日本企画の河原千紘氏による「Cheering AD」。これまで企業向けだった広告を“推し活”の場としてファン団体に開放し、出稿手続きも一新。「応援広告」という新たなビジネスモデルを打ち立てた。K-POPファンとしての河原氏個人の関心を起点に、広告会社のノウハウやネットワークを活用したこの取り組みは、事業性と実効性、伸びしろの大きさが評価され、入山氏のほか守屋実氏(新規事業家)、藤本あゆみ氏(一般社団法人スタートアップエコシステム協会代表理事)、松井健氏(日経ビジネス発行人)による満場一致で最高峰に。河原氏は「受賞はもちろん、イノベーション創出に関わる方が多く集まる場で事業についての話ができたことがうれしい。興味を持った方と一緒に推し活を盛り上げたい」と改めて抱負を語った。
優秀賞には、アサヒ飲料の菅沼剛氏による、自動販売機で回収した二酸化炭素を建材に活用する「CO₂を食べる自販機」と、東京ガスの新谷圭右氏による脱炭素経営インフラ「サステナブルスター」(日経ビジネス賞とダブル受賞)という、大きな社会課題の解決に挑む事業が選ばれた。
住友商事の菅谷百合子氏は、介護業界向けの間接業務効率化SaaS「FIKAIGO」を手掛け、来場者の心をつかんでオーディエンス賞を獲得。堂上研氏による株式会社ECOTONEのウェルビーイング産業共創プラットフォーム事業は、睡眠や食などに細分化されたメディアや新たなコミュニティの事業可能性を示した。
満員の会場に残る熱気は冷めやらぬまま、すでに2026年に向けた助走が始まっている。次に社会変革の風を起こすのはどの大企業か、期待が高まる。








TMIP Innovation Award 2025で日経ビジネス賞を受賞したのは、不動産業界の脱炭素経営プラットフォームを目指す「サステナブルスター」だ。東京ガス株式会社の新谷圭右氏は3年で不動産業界の標準ソリューションに急成長したことを明かしつつ、サービス誕生の背景やビジネスモデル、目指す未来を力強く語り、審査員をうならせた。
脱炭素経営インフラの新事業プランは多く見てきましたが、
「今こそ世の中を変えたい」「唯一無二のモデルを目指したい」という強い思いが届きました。
東京ガスそのものも刺激する存在になることを期待しています。
新谷 社外での表彰は初めてで、ステージ上でメンバー全員と記念撮影をしました。大企業の中で泥臭く挑み続けた3年間の努力に光を当てていただき、報われたと感じると同時に、事業が次のステージへと引き上がったことに身の引き締まる思いでいます。
22年9月に提供を開始した「サステナブルスター」は、不動産業界の脱炭素経営を加速させるクラウドサービスです。高度化・複雑化が進む環境報告業務に対し、エネルギー消費量などのデータ収集から集計、不動産業界で求められるあらゆる環境報告書作成までをオールインワンで対応できる唯一無二の垂直型SaaSであり、「1000時間かかっていた業務を100時間に短縮できた」と評価をいただいています。3年で業界標準のサービスへと成長し、現在は脱炭素経営支援のプラットフォームへの進化と横展開のタイミング。知名度拡大のためにも、立ち上げの思いを発信できる場として今回のアワードに応募しました。顧客の9割は丸の内近辺にあり、この地から不動産業界の脱炭素経営の新スタンダードを共創していきたいと考えています。
私は東京ガスに中途入社し、新規事業専門の部署でイントレプレナーとして100以上の事業アイデアを検討しました。5つの事業を立ち上げる中で試行錯誤を重ね、最終的に結実したのが「サステナブルスター」です。背景には、お客さまの差し迫った課題=バーニングニーズがありました。

チャレンジを続ける「サステナブルスター」メンバー
きっかけは、志願して兼務した営業でお客さまの声を直接聞く機会が増えたことです。不動産業界の脱炭素ビジネス市場は10兆円規模と巨大ですが、専門人材やノウハウは不足し、担当者に過大な負荷がかかっていました。“サステナビリティ担当部署の業務が全くサステナブルではない”現実を目の当たりにし、東京ガスの技術とアセットを生かせると直感したのです。
21年7月に稟議が通り、サービス開始までの1年間はアジャイルで開発を進めました。徹底したヒアリングで課題の解像度を高め、最小予算でβ版を作成。お客さまの反応をてこに改善し、予算と人員を確保するサイクルを高速で回しました。新規事業のゆりかごとなる部署に所属していたため、周囲の理解と応援には恵まれましたね。とはいえ、既存事業に最適化された社内システムなど大企業ならではの制約に苦労したのも事実です。しかし、困っているお客さまの存在が常に背中を押し、壁を越える力を与えてくれました。
新規事業の力で現在の本業を進化させ、未来の本業を創る─大企業が新規事業に挑む意義はここにあります。本業が持つ人材や資金、顧客基盤といった大企業ならではのアセットで事業をレバレッジすれば、社会課題の解決にもつながるインパクトを生み出せるでしょう。「エネルギーの会社から、エネルギーも手掛ける会社へ」の大きな変革に当事者として参画し、力を尽くしていきたいと考えています。