三井デザインテックの新たなる挑戦
業界初、家具で
「循環経済」の実現を目指す

ホテルやオフィス、住宅などの空間デザインやリニューアルを手がける三井デザインテックは、特注家具を対象に、設計から使用後までのライフサイクルに対応した資源の循環をサポートするサービス「CIRCULAR FURNITURE」を2026年4月から本格提供する。環境への影響を最小限に抑えて資源の循環を促す新しいデザインの手法「サーキュラーデザイン」で三井デザインテックが目指す未来像について、同社クリエイティブデザイン推進室長、堀内健人氏に聞いた。

 海外では、欧州を中心にサーキュラーデザインの実装が進む。25年に開催された大阪・関西万博でも、参加国や企業がパビリオンの設計を使用後の移設や部材の再利用を前提に行う事例が散見された。代表的なものがオランダ館だ。

 サーキュラーデザインのベースとなるサーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現をリードしてきたのは、オランダの建築家でRAUアーキテクツを主宰するトーマス・ラウ氏。建築資材に供給元や再生可能性などの“身分証明”を与える「マテリアルパスポート」という概念を提唱し、オンライン上のプラットフォーム「マダスター」で資材を個別に登録・管理することでスムーズな循環を促している。

 オランダ館はRAUアーキテクツが基本設計を手がけ、展示を終えた後は全ての部材を廃棄することなく再利用する仕組みを導入した。取り外しが容易なボルト接合を多用し、各部材にはQRコードを付けてどこに使った部材かすぐに分かるようにするなど、日本の建築基準をクリアしつつ解体・移設を容易にする工夫を凝らした。会期後はパソナグループに引き渡され、同グループの本社がある兵庫・淡路島に同じ姿で移設される。

 三井デザインテックは欧州視察の際に出会ったラウ氏の取り組みに共感し、万博の会期中にはオランダ館でトークイベントを開催するなど同館を支援してきた。26年4月から本格提供するCIRCULAR FURNITUREサービスも、ラウ氏のサーキュラーエコノミーの理念を継承したものだ。設計や製造、LCA(ライフサイクルアセスメント=製品の環境負荷を製造からリサイクルまで一連の流れで評価する手法)、トレーサビリティー(追跡管理)、再資源化までを包括支援するのは業界初の試みだという。

 同サービスの責任者である堀内健人クリエイティブデザイン推進室長に、サービス実施の背景、具体的なサービス内容などについて聞いた。

循環型経済への移行は
企業にとって火急の課題

 ──4月からCIRCULAR FURNITUREサービスを本格稼働する背景についてお聞かせください。

堀内健人氏(以下、堀内)  クリエイティブデザインセンターでは産学共同研究を通じた科学的知見の蓄積などに取り組んでいますが、中でもサーキュラーデザインは、三井不動産グループが25年4月に策定した街づくりにおける環境との共生宣言「& EARTH forNature」の重点課題の1つである「自然資源を循環させる」を体現する事業モデルと位置付けており、サーキュラーデザインを軸に企画、設計、施工、製作、サービスの確立を図って競争力の強化や他社との差別化につなげていきたいと考えています。

 26年度からは、東京証券取引所の上場企業に対し、企業本体だけでなくサプライチェーンを含めた気候関連情報の開示が段階的に義務化されていきます。また、28年度には新たに建てる建築物について、材料の調達から解体、廃棄物の処理に至るCO2排出量の開示を求めるLCA制度も導入されます。当社のクライアントもそう遠くない将来、ビルの入居や退去時のCO2排出量や、そこで事業運営をしている際に発生するCO2排出量を把握して提出するよう求められるようになるのではないかと考え、数年前から対策を考案してきました。

 サーキュラーエコノミーへの移行は国や社会のみならず当社のクライアントにとっても差し迫った課題であり、このCIRCULAR FURNITUREサービスを通じて早期の課題解決に貢献できたらと思っています。

環境負荷低減を可能にする
“サーキュラー家具”を活用

──具体的なサービスの内容は、どのようなものですか?

堀内  CIRCULAR FURNITUREは、当社の特注家具を対象に、設計・製造から、流通、再資源化までを一体管理するワンストップ・サービスです。サービスの内容は大きく4つに分かれます。

 1つは、脱炭素や循環を追求する当社独自の設計ノウハウを体系化した「サーキュラーデザイン設計」により、環境負荷を低減した家具を製造することです。

 2つ目が、家具のライフサイクル全体で排出される温室効果ガスの総量をCO2に換算したCFP(カーボンフットプリントオブプロダクト)を算出して環境価値を定量化し、サーキュラーデザイン設計の家具が従来の家具と比べてどの程度環境負荷を減らせたかを可視化すること。

 3つ目が家具に関する様々な情報をデジタル形式で一元管理・共有する仕組み(デジタルプロダクトパスポート、DPP)で、今回のサービスでは製品にQRコードを付け、いつでも情報が読み取れるようにしています。部材情報やCFP、リサイクル率に加え、メンテナンスの方法なども確認していただけます。

 最後の4つ目が、家具の材料の調達から製造、流通、廃棄に至るまでライフサイクルの全過程が追跡可能になること(トレーサビリティー)です。

 こうした4つのサービスを回す形で、ゼロックやディグル、ナカダイなどパートナー企業(下記の図を参照)の皆様にもご協力いただきながら、資源循環型のサービスを提供していきます。そして、本サービスによって、これまで家具がたどってきた使用が終わると廃棄される「直線のプロセス」を、役割を終えた後も回収して何らかの材料に戻す「循環型のプロセス」へと変えていくことを目指しています。

環境対応とデザイン性を両立
機能性も兼ね備えた作りに

──なるほど、本サービスを利用することで顧客企業は低炭素かつ循環促進型の設計で環境負荷が抑えられる、環境負荷がどれくらい軽減されるかに加えて循環の状況も“見える化”できる、さらに、そうした資源循環のプロセス自体が容易に追跡できる──といった多様なメリットを享受できるわけですね。サービスを推進していく上での課題はどんなところにあるとお考えですか?

三井デザインテックが手掛けたCIRCULAR FURNITURE「BENCH SOFA」は、20%のCO2削減率が期待できる。

堀内  本サービスを立ち上げるに当たり、準備段階から大切にしてきたのが「環境対応とデザイン性の両立」です。あくまで環境対応が第一義であり、そのためにはデザインは妥協しようという考え方では、クライアントも、当社も、不満を残す形になりかねません。

 サーキュラーデザイン設計の家具は接着剤を極力使わず、ビス打ちは見える部分に行うなど、将来分解する際にやりやすい製造法を採っていますが、同時にデザイン性や機能性もとことん追求した仕上がりになっています。

 東京・東銀座の三井デザインテック本社1階にあるオフィス空間「CROSSOVER Lab」はCIRCULAR FURNITUREのショールーム機能を備えています。25年9月には循環を実現する部材や建材、家具を実際に見て体感していただける「ANTENNA」エリアをオープンし、自社オフィス改修で発生した廃材から作った建材や、役割を終えた什器などをアップサイクルした家具の製作を行っています。

 ANTENNAに設置した家具の一部は、社内の部門横断ワークショップから誕生したアイデアを形にしたものです。こうしたワークショップを通して社員に部門を超えた接点を設けたことで、サーキュラーエコノミーを“自分ごと”として前向きに取り組む社員が増えたと手応えを感じています。最近はクライアントからも、このようなワークショップの開催を求められることが多くなりました。

──革新的なサービスだけに、顧客企業のニーズのレベルがそこまで高くないケースもあるように思います。どのように提案していく予定ですか?

堀内  おっしゃる通り、日本のインテリア業界や家具業界はサーキュラーデザインへの対応では後手に回っていて、特注家具においては、当社が本サービスで本格的に参入する形になります。従って、特注家具を受注した段階で、「このような方法もあります」とご提案差し上げるアプローチを想定しています。ゼロベースのクライアントには、「まずはCFPの把握から始めませんか?」というところから訴求を図っていきたいと思います。

 サービスプランとしては①1つ目のサーキュラーデザイン設計の家具の製造から2つ目のCFPの測定まで、②もう1段階進めて3つ目のデジタルによる一元管理まで、あるいは、③1~4のフルセットや、④4つ目の追跡機能(トレーサビリティー)から始めるという4パターンを考えており、クライアントごとに自社の状況に応じた最適なプランをお選びいただけます。

 本サービスについては私たちの考え方に賛同くださる企業にご利用いただくことを前提に、あえて事業目標や予算は立てておりません。サーキュラーデザイン実装の壁となっているのが、不透明な要素が多く、費用対効果が一概には示せないことです。「これくらいの予算なら割くことが可能」というスタンスの企業も多いはずなので、お気軽にご相談いただけたらと思います。

──サービスに対する顧客企業の反応はどうですか?

堀内  おかげさまで、非常に大きな反響をいただいています。既に数社とは取引が始まっており、うち一件が北海道の三井ガーデンホテル札幌です。26年2月のリニューアルオープンに合わせ、ロビーの受付カウンターや客室に、CIRCULAR FURNITUREの思想を反映した家具を置いています。家具のデザインは、オランダ館でのトークイベントに私と一緒に登壇した当社クリエイティブディレクターの田中映子が手がけています。

 近年は環境負荷の低減や脱酸素化が急務となり、経済産業省を中心に循環型社会への移行が提唱されています。企業様はSDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)の観点から早期の対応が求められる中で、対外的な訴求の仕方が分からなかったり、費用対効果が不透明といった理由で二の足を踏んでしまうことが多いのではないでしょうか。本サービスがアクションを起こす契機となれば、大変うれしく思います。

 本サービスは法整備への対応の準備にもなります。欧州のエコデザイン規則(ESPR=域内市場に流通するあらゆる製品の仕様における環境要件を定めた規則)では、28年から家具についても製品のライフサイクル全体にわたる動的な情報のデジタルによる一元管理が義務化されます。日本でも今後、こうしたDPP化が進んでいくと予想され、本サービスの利用によってそこに向けた準備ができるのは大きなアドバンテージになります。結果的に、企業価値の向上や、ステークホルダーの皆様のウェルビーイングの創出につながるものと確信しています。

三井ガーデンホテル札幌の受付カウンターや客室に、
CIRCULAR FURNITUREの思想を反映した家具を設置。

内装・インテリア空間も
27年度にサービス提供予定

──4月の本格稼働の後、どのような事業展開を考えていますか?

堀内  26年4月からのサービスのスタートは首都圏限定ですが、足元を固めた後は早期に全国展開を図っていきたいですね。さらに、27年度からは対象を特注家具から内装、インテリア空間全体に広げた「CIRCULAR INTERIORサービス」を提供し、28年度の日本でのLCA制度に先駆け、LCAやサーキュラー分野で先行する存在になっていきたいと考えています。

──最後に、サービス開始を前に事業への抱負をお願いいたします。

堀内  サーキュラーデザインの分野では欧州、中でもオランダが大きく先行しています。私たちはオランダ視察で同分野の第一人者であるラウさんと知己を得、その理念に感銘を受けました。製品を供給する側の一員として現状を変える必要性を痛感しましたが、日本の法規や日本人の感覚といった越えなければならない壁もたくさんありました。そうした中で「今できることから始めよう」と足を踏み出したのが、このCIRCULAR FURNITUREサービスです。

 特注家具という小さな枠組みからのスタートではありますが、家具業界やその他の業界へと連鎖していくことでラウさんの循環型建築のような大きなムーブメントを起こすことを目指して、着実に歩みを進めてまいりたいと思います。

資源流通サイクルに貢献する
同サービスにラウ氏も期待

 三井デザインテックは26年1月、ラウ氏が主宰する建設事務所のRAUアーキテクツと、サーキュラーデザイン分野における協業を目的とした基本合意を締結した。CIRCULAR FURNITUREサービスの思想的支柱となるラウ氏は、この新サービスをどのように評価しているのか——。ラウ氏本人にも聞いてみた。

 「三井デザインテックのCIRCULAR FURNITUREサービスは、日本におけるサーキュラーエコノミーの実現に向け、大変素晴らしい出発点を示すものです。日本のデザイン界は、資源を消費してもデザインの質を追求するのか、あるいは、環境に配慮してデザインを犠牲にするのかといった様々な試行錯誤から脱却する道を歩み始めたように見えます」

 ラウ氏はまた、製品の循環の実現に向けては「使用される材料がどこからやって来て、どこへ行くのか」という透明性が非常に重要だと指摘する。こうした透明性が確保されてこそ、地球上の貴重な資源が失われることなく、製品の役割を終えて解体された後も新しい場所で新しい命を与えられるからだ。大阪・関西万博のオランダ館のように。

 「CIRCULAR FURNITUREサービスは設計段階から完全な透明化を目指しており、分解しやすい、循環しやすいという視点での独自のサーキュラーデザイン設計は、私たちの建築と同じく、サーキュラーエコノミーを強く意識したものと言えます」

 ラウ氏も期待を寄せる国内家具業界初のCIRCULAR FURNITUREサービスは、日本の資源の流通サイクルをどう変えるのか。今後の動向に注目したい。

更に詳しい情報は、
三井デザインテックHPへ

https://www.mitsui-designtec.co.jp/

文/森田聡子 写真/三井デザインテック提供

三井デザインテック株式会社

TEL 03-6366-3131

https://www.mitsui-designtec.co.jp/