〈みずほ〉流、シンクタンクの再定義 〈みずほ〉流、シンクタンクの再定義

つなげる力と実装力で、社会課題の解決へ AI時代のシンクタンク 新生「みずほ総合研究所」、始動。 つなげる力と実装力で、社会課題の解決へ AI時代のシンクタンク 新生「みずほ総合研究所」、始動。

「知」の価値が激変している。
机上の調査やコンサルティング機能が生成AI(人工知能)に代替されつつあるなか、
シンクタンクの存在意義はどこにあるのか。
地殻変動に見舞われる2026年4月、新たな価値を創出すべく始動したのが「みずほ総合研究所」だ。
みずほリサーチ&テクノロジーズがみずほ銀行と経営統合し、
大手金融としては初のシンクタンク機能との一体運営を開始。
提言を社会実装へつなぐための戦略を、初代理事長に就任した牛窪恭彦氏に聞いた。

経営一体化で連携密度を上げ激変する社会に価値を

——シンクタンクを銀行内の組織として位置付ける狙いは何ですか。

地政学リスクやインフレ環境への転換、生成AIの台頭など、社会環境は激変しています。こうした転換期には、シンクタンク単体ではなく、みずほフィナンシャルグループの多様な機能を重層的につなげる「総力戦」での価値提供が不可欠です。金融機能との圧倒的な距離の近さを強みとし、専門知見を有するプロフェッショナル集団として、行内のシンクタンク組織「みずほ総合研究所」という新ブランドを立ち上げました。

〈みずほ〉ならではの金融×シンクタンクの
価値創造モデル

〈みずほ〉ならではの金融×シンクタンクの価値創造モデル

——もともと〈みずほ〉は企業の垣根を越えて連携を強化してきました。統合により、意思決定のスピードや質にどのような変化が生まれるのでしょうか。

高度な調査・分析機能とコンサルティング機能は〈みずほ〉の強みの源泉ですから、これまでもグループ横断で連携と協業を進めてきました。しかし別企業体である以上、物理的な距離をはじめ壁があったのも事実です。

統合により総勢500人規模のシンクタンク機能が銀行と一つの企業体となり、このうちコンサルティング機能はワンフロアで働く環境が整いました。連携の量と頻度を上げ、スピード感をもってクオリティを向上させる狙いです。早速、これまで接点の少なかった分野間での交流が生まれており、いずれ、爆発的なアイデアに結びつくことが期待できます。

政策策定の知見と実績を生かし上流から実装までを伴走支援

——みずほ銀行の伝統ある「産業調査部」とは、今後どのようなシナジーを発揮しますか。

産業構造論等のセミマクロな分析を得意とする産業調査部と、マクロ経済調査と個社の経営や専門テーマのコンサルティング機能を強みとするみずほ総合研究所は車の両輪です。例えば特定の産業について、世界的な課題やイシューは何か、日本固有の課題は何か、といった業界動向分析を行うのは産業調査部です。それを踏まえて、みずほ総合研究所のコンサルティング部門が具体的なソリューションを導き出して戦略構築を支援し、投資が必要になれば即座に銀行のファイナンス部門が動く。この一気通貫体制が強みです。

〈みずほ〉には、金融機関として事業評価、ファイナンス面での検証能力が組織文化として根付いていますから、業界の未来や社会課題について議論の早い段階から参画し、ビジネスとして具現化し、さらに融資、実行支援まで伴走することが可能になります。

みずほ総合研究所 理事長

牛窪 恭彦

——みずほ総合研究所は、みずほRT時代から官公庁向けの実績が豊富ですよね。

みずほ総合研究所は約500人のエコノミストとコンサルタントからなりますが、いわゆる経営コンサルタントや戦略コンサルタントだけでなく、脱炭素や社会保障、医療制度、子どもの貧困など、より大きく複雑な社会課題に関する専門的知識を有するスペシャリストがそろっており、個別テーマを深く掘り下げています。

私たちは社会課題解決を支援する、社会課題オリエンテッドな組織です。それを起点に、政府の政策立案支援から、企業の国際競争力強化、事業承継やサプライチェーン構築に至るまで、多様なニーズと課題に対応するケイパビリティ(能力)を有しています。今回の統合によって、お客さま固有の課題をよく理解している銀行の営業部門との連携を加速させ、お客さまの課題と社会課題の解決を両立させて行きます。※みずほRT=みずほリサーチ&テクノロジーズ

——政策立案支援に関する知見を、民間企業のビジネスにどうつないでいきますか。

私たちは、脱炭素や社会保障といった複雑な社会課題に対して、国の取り組み方針を策定する段階から関与してきました。政府が数年先を見越して何をしようとしているのか、その優先順位や問題意識を把握していることは、民間企業のお客さまにとって「数年先の市場環境変化」を予見する強力な材料となります。

これらの知見により、私たちはお客さまがまだ気が付いていないリスクを見える化し、対応策を提案することもできますし、民間企業の現場で聞いたリアルな声を官公庁側に還元することで、政策の実効性向上にも貢献できます。この官と民をつなぐ役割は、日本産業の強化に資するものと考えています。

——解決したい社会課題を起点に、産学官のキープレイヤーをつないでいくオーガナイザーのような役割ですね。

そうですね。国の政策や指針は、民間の行動変容につながらなければ成果を発揮できません。例えば、物流業界では人手不足と運転手の過重労働が大きな課題です。これを克服すべく、自動運転トラックの社会実装を目指した公道実証に取り組んでいます。私たちは、商用車メーカーやスタートアップ等の民間企業、政府を含めてコーディネーションし、計画策定や業務支援、ビジネスモデルの検討を担いました。

国の政策を理解し、最先端の技術を理解し、運送現場の課題を理解し、事業化への道筋を理解していなければコーディネーションは成立しません。みずほ総合研究所は各分野の知見と、事業化の可能性についての「目利き力」を持つからこそ、つなぐ役割を果たせていると自負しています。

断熱住宅の普及促進事業支援も好例でしょう。断熱効果の高い住宅は脱炭素の文脈で政府も取り組みを進めていますが、私たちは「健康効果」という新たな価値に注目し、普及促進を後押ししています。高断熱住宅が健康に与える影響について、住環境研究所と共同で研究し、「高断熱住宅において、25歳以上の国民の脳血管系疾患による健康損失期間を17%削減する可能性」を見いだしたのです。これは医療や介護、予防という公衆衛生分野の知見やモデリングのスキルを生かし、健康の価値を可視化したものです。

立場の異なる組織体をつなぐこと、課題解決に別の視点から光を当てることがみずほ総合研究所の得意とするところです。

AI時代の「つなぐ価値」ともに課題解決に挑む

——生成AIの発達が著しい時代に、“人間”だからこそ価値を生むシンクタンクの仕事とはどのようなものでしょうか。

AIには「つなぐ」ことはできません。政策とビジネス、社会といった複数領域にまたがる知見を融合し、産学官のキーパーソンをつなぎ、ときには複雑な利害調整を行いながら実装を支援するという私たちの強みは、人間らしさそのものでもあります。

加えて、未発見の課題を見いだし、政府や企業に働きかけて、ともによりよい未来をデザインしていくのも我々の領域です。お客さま自身が課題を認識していなければ、AIに問いかけることもできませんから。

——今後、みずほ総合研究所はどのようにして社会課題の解決に貢献しますか。

社会課題に向き合い、関係者を巻き込み、ビジネスモデルを構築し、社会変容へとつなげることが私たちの役割です。〈みずほ〉のパーパス「ともに挑む。ともに実る。」の通り、〈みずほ〉、外部パートナー、グループのお客さま、ときにはライバルといわれる他のシンクタンクとも共創し、実装のメニューを増やすことが大切です。

そのためには、みずほ総合研究所の一人ひとりも高い志を持ち研さんを積む必要があります。今回の経営統合に先んじて、2024年度にグループ主要5社で共通の人事制度〈かなで〉が導入され、多様なバックグラウンドを持つ人材が切磋琢磨(せっさたくま)できる環境が整いました。例えば、統合前のみずほRTではシステム部門にしか海外拠点がありませんでしたが、これからはエコノミストやコンサルタントが〈みずほ〉の海外拠点で経験を積む機会が生まれました。こうした機会も十分に利用しながら、「調査・コンサルのみずほ」として不確実な時代の道しるべとなるべく、お客さま、ひいては社会課題の解決に貢献してまいります。

統合後もシンクタンクの中立性は厳格に維持される。
牛窪氏は、「〈みずほ〉のバリューである
『Integrity(誠実さ)』を基盤に、
『Need to Know』原則に基づいた情報管理を徹底し、
常にお客さまの利益を第一に考えます」と語る。