成田空港が第2の開港を迎える。発着枠はこれまでの約1.5倍に増える見通しだ。規模拡大を日本経済にどう生かすか。千葉県と成田国際空港株式会社(NAA)ではエアポートシティ構想を進める。2026年1月、日経BP総合研究所が県・NAAと開催したフォーラムでは、有識者を交えて空港都市圏づくりを議論した。
成田国際空港 代表取締役社長
藤井 直樹 氏
開会挨拶に立った成田国際空港株式会社(NAA)代表取締役社長の藤井直樹氏はまず、空港の現状と将来像を紹介した。特筆すべきは、取扱額ベースで日本最大の貿易港である点だ。成田空港は日本のものづくりを支える重要な拠点であり、旅客では羽田空港とともに首都圏空港として機能し、国際・国内ネットワークの両面で日本経済を下支えしている。
成田国際空港 代表取締役社長
藤井 直樹 氏
その成田空港では、空港面積を約2倍に拡大し、既存2本の滑走路のうちの1本を延伸するとともに、3本目となる新たな滑走路を整備する計画だ。併せて、旅客ターミナルの再編や貨物地区再配置も進める。こうした成田空港の拡張は“第2の開港”とも呼べるものであり、今後ますます拡大する首都圏の航空需要を一手に受け止める方針だ(図参照)。加えて、滑走路増設と貨物施設の再配置による物流機能の強化は、航空ネットワークの強化や周辺地域への企業立地促進などにもつながり、空港を核とした新たな経済圏形成を後押しする効果が期待される。
千葉県知事
熊谷 俊人 氏
藤井氏は「羽田と成田、合わせると滑走路7本となる。これだけの規模に拡張することで、近隣諸国の主要空港に伍する受け入れ能力を確立する」と述べた。
千葉県知事
熊谷 俊人 氏
続いて挨拶に立った千葉県知事の熊谷俊人氏は、「企業誘致が順調に進んでいること、また千葉県全域が国家戦略特区に指定されていることを背景に、新たな産業を起こす取り組みが進んでいる」と説明。
空港機能の強化を、産業政策や都市基盤整備と一体で進めることが、持続的な成長につながるとの認識を示した。
■「第2の開港」における成田空港の機能強化
B滑走路の延伸(2500m→3500m)、C滑走路の新設(3500m)により、年間発着枠を34万回→50万回へ拡大。旅客数、貨物量、空港内従業員数の大幅な増加が期待される
エアポートシティ構想実現へ
千葉県とNAAで新組織を設立
成田空港周辺では、千葉県が周辺市町と成田新産業特別促進区域基本計画を策定し、物流や航空宇宙などの産業集積を目指している。千葉県は、NAAと共同で空港内外の一体的発展を目指してNRTエリアデザインセンター(NADC)を設立した。新しい都市圏の名称は“空の都”を意味する“SORATO NRT(ソラト ナリタ)”に決定し、NADCでは“SORATO NRTエアポートシティ構想”の具体化を進めている。
熊谷氏は「構想の理念を広く周知し、民間企業や周辺市町と連携しながら、新たな産業や活力を創出し、誰もが心豊かに暮らせる地域の実現を加速していく」と今後の意気込みを語った。
東京大学 名誉教授
伊藤 元重 氏
基調講演では、東京大学名誉教授の伊藤元重氏が登壇。経済環境の変化として、需要不足経済から供給制限経済への転換を指摘した。「デフレからインフレへの移行により、実質金利は下がり、財政に追い風が吹いている。持続的成長には国内投資を拡大し、需要と供給の好循環を生み出す必要がある」と訴えた。
東京大学 名誉教授
伊藤 元重 氏
また米中対立などによるグローバル情勢の不安定化を踏まえ、「より柔軟なバリューチェーンの構築やCPTPP※1の強化、貿易・投資の再構築が求められる」と指摘した。人の移動は今後も拡大するとの見方も示した。
さらにGravity(重力)の概念を提示し、距離と経済規模が交流を決定づけるという経済学の重力モデルを引用し、「地理的に近く成長著しいアジアのポテンシャルは極めて大きい」と強調した。そして海外投資を呼び込む鍵として空港デザインの重要性を挙げた。
※1 CPTPP:環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定。
「空港」「産業」「地域」の視点で
日本として戦略的な役割を担う
NRTエリアデザインセンター センター長
筑波大学 名誉教授
石田 東生 氏
続く特別講演では、NADCセンター長で筑波大学名誉教授の石田東生氏が登壇した。海外の空港都市圏事例を紹介し、成功の条件として、①国家による明確な方向性提示②空港周辺を都市圏と捉える視点③企業誘致の政策パッケージの整備――の3点を挙げた。
NRTエリアデザインセンター センター長
筑波大学 名誉教授
石田 東生 氏
「NADCの使命は、空港と地域の未来像を描き、実装へのハブとなることである。空港・産業・地域の視点から、日本における戦略的な役割を担っていく」と語った。
産業集積の実現には柔軟な制度や規制緩和が不可欠であるとし、国際標準に合う土地利用規制、企業誘致のワンストップ体制などを提言。加えて、ウェルビーイングを重視した住環境の重要性も指摘した。
「成田空港周辺地域は、日本で最も伸び代の大きい都市圏である」と講演を締めくくった。
続いて登壇した敬愛大学特任教授で一橋大学名誉教授の根本敏則氏は、国際物流の動向を概観した。成田空港の国際航空貨物取扱量はこの20年で順位を落としている一方、FTZ(自由貿易地域)※2を導入した仁川空港(韓国)や桃園空港(台湾)は順位を上げていると指摘した。物流ハブ成立の条件として、立地、受け入れ環境(治安・教育・医療)、FTZ導入などを整理し、「条件を整えれば、成田にも挽回の余地は十分にある」と述べた。
※2 FTZ(自由貿易地域):輸出入貨物に対する関税の免除や軽減、通関手続きの簡素化といった優遇措置が適用される特別な区域。
国際航空貨物取扱の返り咲きにも
国家プロジェクトとしてFTZを
トークセッションでは、経済戦略、国際競争力ある産業集積、広域地域づくりの3テーマを議論した。
経済戦略のテーマでは、伊藤氏はアジアを軸としたバリューチェーン再構築の必要性を強調した。また、日本経済の最大の課題は低い生産性にあるとし、「デジタル・先端技術へ労働力と資本を速やかに移動させ、技術革新やR&D投資を拡大させるべき」と述べた。さらに、こうした構造的な改革を進める上で日本企業の国際化が不可欠とし、空港の戦略的重要性を改めて訴えた。
敬愛大学 特任教授
一橋大学 名誉教授
根本 敏則 氏
続く国際競争力ある産業集積のテーマで、根本氏は国際航空物流が長期的に堅調に推移する見通しと空港インフラ整備の進展を踏まえ、「国家プロジェクトとして、日本を代表する拠点空港においてFTZを導入すべきである」と提言した。
敬愛大学 特任教授
一橋大学 名誉教授
根本 敏則 氏
その上で、FTZにおいて国際間を流通する高付加価値部品や医薬品などのディストリビューションセンター機能を備えるなど、保税倉庫※3機能の強化を図ることや、世界中からFTZ内に部品を集め、最先端製品を組み立て輸出する保税工場※4の可能性について言及し、「付加価値創出型の企業の育成が重要になる」とした。
これに対して、NADCセンター長を務める石田氏は、明確なビジョンから遡って考えるバックキャスト的な進め方の危うさも指摘。「現状との間のギャップを可視化した上で、それを埋めるための戦術が必要である」と訴えた。
伊藤氏はFTZを念頭に「世界中からどのように投資を呼び込み、その成果が日本全体の成長にどう寄与するかを国として考えていくべき」と指摘した。
※3 保税倉庫:輸出入の手続き未了の外国貨物を、関税なしで保管可能な倉庫。
※4 保税工場:輸出品に限り、外国産材料に関税などを課さないまま加工・製造可能な工場。
シンガポールのMICEに学びたい
広域地域づくりのバリュー発信
トークセッション最後のテーマである広域地域づくりでは、産業集積を図る上で重要となる交通インフラの役割が議論された。
石田氏は「空港周辺は非常に優れた交通ネットワークを持つ地域になる。最先端技術を活用したデータ連携により、高い生産性を発揮できるシステムを構築していくべき」と訴えた。さらに「産業界、自治体、地域住民など、多様なステークホルダー間で連携し、そこで新たな価値を発見・共有していくことも重要である」とした。
一方、物流を専門とする根本氏は人流や物流の円滑化・効率化という観点から、公共交通機関の拡充や成田・羽田間の横持ち貨物輸送システムの整備を提案。「米国や中国では自動運転トラックの商用運行が開始されている。成田・羽田間でも早期に同様のサービス実現が考えられる」とした。
広域地域づくりを日本の成長戦略としてどう進めていくか――。伊藤氏は投資誘致の観点から空港インフラの可能性を改めて強調するとともに、広域地域づくりの価値を世界に発信する重要性を説いた。「シンガポールが打ち出したMICEのように、投資の結果どういうバリューが生み出されるかしっかり議論する必要がある」と締めくくった。
成田空港圏で始まるエアポートシティ構想が、日本の新たな成長モデルになる。第2の開港とともに、目が離せない。
