日本ガイシは、セラミック技術を核に事業構成を転換し、同時に人と組織の変革にも踏み出している。社員に挑戦を促す新規事業提案プログラムに、新たな共創の場づくり──。その延長線上にあるのが、2026年4月の社名変更だ。祖業の「碍子(ガイシ)」を外し、「NGK」へ。同社が変革と挑戦を続ける理由をひもとく。

足元の好業績に安住しない

中期ビジョン「Road to 2050」のもと、日本ガイシは新たな自己変革に挑んでいる。「独自のセラミック技術でカーボンニュートラルとデジタル社会に貢献する」ため事業構成を転換。2030年にはカーボンニュートラル・デジタル社会関連の売上高を全体の50%に、2050年には80%まで高める方針だ。

「挑戦は企業の成長に不可欠。その先に、社会課題の解決がある」。小林茂社長は、日本ガイシが目指すものを端的に示す。同社はこれまでセラミック技術を基盤に、自動車・電子部品の分野で世界的な地位を築いてきた。2026年3月期第2四半期決算では売上高・営業利益ともに過去最高を更新。だが、足元の業績が好調でも次の成長に向けた手は緩めない。

原点にあるのは、同社の源流にあたる森村グループの思想だ。海外市場を見据え、技術で社会課題を解決する姿勢が一貫している。日本ガイシは、日本陶器(現ノリタケ)のがいし部門から誕生し、がいしをはじめとする産業用セラミックスを事業の柱に成長してきた。その日本ガイシのスパークプラグ事業からは、日本特殊陶業が生まれた。時代に必要とされる技術を事業として切り出し、磨き上げる。「一業一社」の理念のもとで分離独立してきた歴史が、企業文化としての挑戦をグループに根付かせた。

数年前、EV化の進展を背景に、同社の主力である内燃機関向け製品の先行きが危ぶまれたこともある。だがその後、風向きが変わった。EV化は想定よりゆるやかに進み、内燃機関はなお健在。一方、AI革命は半導体関連製品の需要を押し上げた。結果として既存事業は堅調に推移し、デジタル分野に向けた新用途のセラミックスも誕生した。「2030年まではデジタル、2030年以降はカーボンニュートラルが本格化する」と小林社長は予想する。時間軸を引き直し、次の勝ち筋を描く。

新規事業提案プログラムを実施

社員に挑戦を促す仕組みも整えた。同社は2024年度から、社員や部門が持つアイデアを募る「新規事業提案プログラム」を始めた。審査を通過したものは6カ月間の調査を支援する。研究開発部門にとどまらずアイデアを広く募り、新規事業創出の可能性を高めるのが狙いだ。また、会社が社員の挑戦を支援する環境を整えるためでもある。

NGKの新規事業提案プログラムの流れ
図版
新規事業提案プログラムの審査を通過すると、勤務時間の最大2割と予算を獲得。役員1名がオーナーとして伴走し、マーケティング部門もサポートにあたる。制度開始から100件超の応募があり、うち7件が具体的な「可能性検討」のフェーズに進んでいる。

小林社長自身、若手時代から裁量を与えられ、自ら考え動く経験を積んだ。「今の時代は管理が行き届き過ぎている。予算や組織の論理に縛られず、夢をもって動く人間を応援したい」。プログラムに参加した若手社員の声は、その効果を物語る。

「部署の枠を越えた人との関わりが増え、視野が広がった」「研究開発部門に所属しており、顧客の声を聞きながら仮説検証する機会は初めて」「事業の全体像と収益への道筋が見えるようになり、仕事を自分事として捉えられるようになった」

こうした社員の声に、小林社長の手応えも大きい。「当社は、技術シーズ起点で挑戦を重ねてきた会社だ。しかし同時に、単なるプロダクトアウトに終わらず、お客様の厳しい要求を的確にとらえてきたという自負もある。社員にはさまざまなお客様と向き合う経験を積み、真のニーズを感じとってほしい」。25年7月には共創施設「NGK Collaboration Square DIVERS」が完成した。社内外の交流を促す場として、また社員の挑戦マインドを育む場として期待されている。

プログラムに参加した社員たちと話す小林社長

日本ガイシから「NGK」へ

2026年4月1日、日本ガイシは社名を「NGK」に変更する。背景にあるのは事業のグローバル化だ。海外ではすでに「NGK」ブランドが定着し、特に海外拠点の社員から社名統一を望む声が高まっていた。また祖業である電力向け絶縁体「がいし」製品の売上が全体の1割以下に低下している現状も踏まえた。小林社長は社名変更を「事業構成の転換と、グローバルでの企業価値向上に向けた決意」と位置づける。

小林社長が繰り返し強調するのは、「外に出ること」の重要性だ。世界を舞台に「お客様の困りごと」に向き合うことでこそ、技術は磨かれ、次の価値が生まれる。「お客様のサプライチェーンに欠くことのできない存在になることが、ビジネスを持続させる最大の要因だ」。企業の成長を支えるのは、こうした挑戦の積み重ねにほかならない。セラミック技術を核に人と組織を変革させながら、NGKは次の挑戦に向かう。

「NGK Collaboration Square DIVERS」の屋内。開放的で斬新なデザインが印象的だ
日本ガイシは2026年4月1日
NGK株式会社(NGK Corporation)へ
https://www.ngk.co.jp/