シンクタンクからコンサルティング、IT実装までを手掛けるNRI(野村総合研究所)が、AIエージェントの本格実装に乗り出している。生成AIの活用が広がるなか、同社が焦点を当てるのは、業務プロセスやデータ基盤と密接に連動するエージェントの設計だ。日本カストディ銀行とのPoC(概念実証)を通じて見えてきた企業変革の最前線に迫った。

“AIネイティブ”に
至るまでの道筋

株式会社野村総合研究所

AIソリューション推進部
エキスパートコンサルタント

中川 敬介

 AIはもはや付加的なものではなく、不可欠な存在になりつつある――そう語るのは、AIソリューション推進部の中川氏だ。

 NRIは現在、技術調査(R&D)を進めながら知見を蓄積し、複数企業とのPoCを通じて実践的なノウハウを積み上げている。中川氏によれば、企業のAI活用には3つの段階があるという。

 「第1段階は既存業務へのAIツール導入。第2段階が、基幹システムと連携するAIエージェントの活用。そして第3段階が、最初からAIを前提に設計された“AIネイティブ”なシステムの構築です。現在、多くの企業は第2段階への移行期にあります」

 第2段階への移行は、単なるツール導入とは異なる。基幹システムと連携し、業務プロセスそのものにAIを組み込んでいくからだ。NRIは、その移行期にある企業を支援し、AIエージェントの活用を具体化していきたい考えだ。

PoCでメール業務を
再設計

日本カストディ銀行

システム統括部DX推進室
DX推進課 課長

向 哲良

 そうした姿勢を具体化した取り組みの一つが「メールAIサービス」だ。

 始まりは、NRI社内の金融機関向けヘルプデスク業務だった。担当者は日々届く大量の問い合わせメールを確認し、過去事例を検索して回答文を作成。負荷の高いこの業務をAIで効率化できないか――。AIソリューション推進部が中心となって開発を進め、社内で検証を行った結果、およそ30%の効率化を確認した。

 同様の課題を抱えていたのが日本カストディ銀行だ。同社DX推進課の向氏はその背景をこう語る。

 「当社は資産運用に関わる事務オペレーションが中心で、ナレッジの多くがメールに蓄積されています。照会対応では過去メールを参考にすることも多く、適切な検索ワードが分からなければ、新人が必要な情報に辿り着くまでに多大な時間を要するという課題がありました」

 ある部署では1日に約500件のメールを受信。それらのメールには顧客に質問回答する対象と、添付ファイルを自社システムへ投入する対象があり、それぞれの作業を行う必要がある。特に顧客へ回答する業務は、メールの受信から内容確認、担当振分、対応要否の確認を経て、過去の膨大なメールから類似事例を検索し、それらを参照して回答案を作成するという一連のプロセスで構成される。

 この一連の作業が現場の大きな負担となっていた。そこでエキスパートアカウントマネージャーの染川氏が、特に「過去事例検索」の効率化を目的とした「メールAIサービス」のPoCを提案。海外業務に焦点を当て、過去2年分のメールから問い合わせの多い約60ケースを設定して有用性の評価を行った。その結果、類似事例の検索精度において7〜9割という極めて高い水準を確認することができた。

株式会社野村総合研究所

資産運用サービス事業二部
エキスパートアカウントマネージャー

染川 千佳

 「メールAIサービス」の大きな特徴は、キーワード一致に依存しない点である。英語表記や略称、言い回しの違いを吸収しながら、「何を問われているのか」をAIが文脈的理解をした上で検索することが可能なのだ。その結果、従来のキーワード検索では拾えなかった専門知識を有する人間に近い細やかなニュアンスを含んだ関連メールも抽出できるようになった。本サービスはAWS環境上のAmazon Bedrockで構築され、クラウドのスケーラブルな基盤上で最新AIサービスを活用している。

 また、一般的な生成AIの活用では、署名や定型的な挨拶文が検索のノイズになりやすいが、本サービスではそれらを自動的に除去して「問いの核心」だけを抽出する仕組みを構築している。こうした泥臭いチューニングが、金融実務に耐えうる精度を生み出しているのだ。

 さらに今回のPoCで特徴的だったのは、事前のデータ整備を顧客側に求めなかった点だ。「AI導入では多くの場合、事前のデータ整理が条件になります。しかし、AIを利用して効率化を実現したいと切望する現場には当然その余力はありません。したがって、お客様に依頼する事前準備は素のメールデータをお送りいただくことのみとし、後は当社が持つ資産運用業界の知見を踏まえて学習・チューニングを行いました」(染川氏)。  

 向氏も、今回のPoCに踏み切った理由はそこにあったと振り返る。「これまでのAI活用では、まず自分たちでデータを整備しなければならないことが大きなハードルになっていました。金融の世界では、一言の誤りが大きな損失につながることも少なくありません。NRIさんは業務理解も深く、その緊張感を理解したうえで提案していただけた。だからこそ、安心して検証を進めることができたと感じています」。

“問いを投げるだけ”で
分析からレポートまで

株式会社野村総合研究所

AIソリューション推進部
エキスパートテクニカルエンジニア

牧 純一郎

 NRIがもう一つの柱として取り組むのが、現在研究開発を進めている分析AIエージェントだ。

 その特徴は、AIが単に指示を待つのではなく、自ら仮説検証の思考サイクルを回し続ける点にある。ユーザーがチャット形式で問いを投げかけると、AIはその答えを得るために必要な分析プロセスを自律的に組み立て、一連の処理を実行する。得られた結果から深掘りすべき特徴を見つけ出すとユーザーに提示し、新たな仮説に基づく次の検証へ進むべきかを確認する。もし期待する結果が得られなければ、AIは分析計画を自ら修正し、別のアプローチから再分析を試みることもできる。

 この仕組みを支えるのが、NRIのノウハウにもとづいて開発された「データ分析基盤」である。生成AIによる分析で最も懸念されるハルシネーション(もっともらしい嘘)を避けるため、実際の集計や統計処理は生成AI自体には行わせず、確実な計算能力を持つデータ分析基盤上のAPI群をエージェントが呼び出す形で実行される。ここには、アノマリー(異常値)検知や特徴抽出、さらには非構造化データを扱うテキストマイニング技術など、NRIがさまざまな顧客案件やアナリティクス業務を通じて培ってきた分析ノウハウやアルゴリズムが実装されている。

 「従来は担当者がデータを抽出・加工し、コードを書き、分析手法を選択していました。その一連の工程をAIが担います。確かな分析ツールを使いこなしながら、AIが自律的に結果を読み解いて検証を進めていく。ユーザーはその報告を受け、『さらにここを掘り下げたい』と指示を送ることで、AIと共に思考を深めていけるのです」とエキスパートテクニカルエンジニアの牧氏は説明する。

株式会社野村総合研究所

AIソリューション推進部
シニアデータサイエンティスト

倉田 拓実

 出力は数値の提示にとどまらず、分析結果を整理したレポート形式での提示も想定しており、さまざまな変更にも柔軟に対応できるよう設計されている。

 今後の進化について、シニアデータサイエンティストの倉田氏はこう語る。

 「現在多くのAIはユーザーからの依頼が処理の起点になっていますが、完成形としてイメージしているのは、必要な情報が揃った時点でAIが自ら動き出し、担当者は結果を見て判断するだけという世界です。それを実現するには、業務や業界の知識、データ構造を深く取り込むことが欠かせません。将来的には企業固有の知見を組み込んだ“1社1エージェント”として、分析の民主化を実現していきたいと考えています」

AIを新たな価値創出の
パートナーに

 中川氏は「NRIはAIエージェントを単なる効率化ツールではなく、人とともに価値を創出するパートナーとして位置付けている」と強調する。

 「AIエージェントを導入すれば魔法のように自動化が実現するわけではありません。要件定義や設計、データ整備など、従来と同様に地道な工程が必要になります。AI活用は単発のプロジェクトではなく、継続的に改善を重ねる取り組みだからこそ、初期構想から実装、運用、さらなる高度化までを見据えた支援が求められます。その一連のプロセスに伴走できることが我々の強みです」(中川氏)

 人とAIが協働する時代において、その設計図をどう描くかが企業の生存競争を決定づける。NRIは、強固なデータ分析基盤と深い業務知見を武器に、AIを「ただのツール」では終わらせない。構想から現場での確実な成果創出まで、企業ごとの変革を最後まで完遂する力強い伴走型パートナーとして、次なるビジネスの未来を共に切り拓いていく。

株式会社野村総合研究所

〒100-0004 東京都千代田区大手町1-9-2 大手町フィナンシャルシティ グランキューブ

https://www.nri.com/jp/

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