
SURGE
代表取締役社長
ユネ・マルケタトモ 氏

NTTイーアジア株式会社
代表取締役社長
長江 靖行 氏

NTT東日本株式会社
グローバルビジネス推進室長
日下 玲央 氏
インドネシアPT. Solusi Sinergi Digital(以下、SURGE)グループの通信インフラ会社・PT Integrasi Jaringan Ekosistem(以下、WEAVE)が提供する格安の光回線(FTTH:Fiber To The Home)サービスが快進撃を続けている。成功の舞台裏には、技術支援をはじめ献身的なコンサルティングを実施したNTT東日本グループの海外事業子会社・NTTイーアジアの存在がある。コンサルを経てWEAVEに将来性を感じたNTT東日本はNTTイーアジア経由で2025年に同社へ49%を出資している。驚異的な事業成長の深層を探った。
他の通信事業者に対して光ファイバーの心線・帯域を貸し出していたWEAVEが、低料金サービスの需要拡大などを受けてFTTH事業に乗り出したのは2023年8月のこと。最大200Mbpsの通信速度で月額10万ルピア(約950円)の低料金という画期的な一般向けFTTHサービス「STARLITE」(スターライト)の提供を開始したものの、一般向けの開通工事や設備敷設のノウハウを持っていなかったことから、当初の加入世帯数は20万程度と伸び悩んだ。そこで同社はFTTHの構築や保守、運用のノウハウを持つNTT東日本グループにコンサルティングを依頼。同グループに白羽の矢が立ったのは、もともと国際協力としてノウハウ提供や技術者派遣を実施しており、特に国営通信事業者のPT Telkomへの技術コンサルで、故障率を月9%から3%に改善するなど成果を上げたことにある。
同グループは2024年からコンサルを開始。業務マニュアルの作成や現地エンジニアへの技術指導などを行い、加入世帯獲得のスピードアップに貢献している。
コンサルの中で力を入れているのはエンジニアの育成だ。今後も、既に開設済みの「Tenjo」に加え、ジャワ島4カ所に研修センターを立ち上げる予定である。地方も含めすべてのセンターに同グループの社員が出向する。現地の言語や文化を学びながら、FTTH展開のノウハウと技術力を生かし、各種支援を実施する。
なぜ、同グループはインドネシアの通信インフラ事業に積極的なのか。実は、同グループとインドネシアとの関係性は30年以上に及ぶ。メタル電話回線の建設・運用の時代から現在のFTTHの技術支援まで長きにわたり、同グループは同国の通信インフラに携わってきた。不安定な海外市場で利益を上げ続け、ビジネスとしての持続性を保ってきた。
こうして長年、同国の通信インフラにかかわり、WEAVEへのコンサルにも手応えを感じたNTT東日本は、2025年7月に同社資本への49%出資を決断。WEAVEもまた、コンサルを通じて技術的なノウハウはもちろん日本人の持つ仕事に対する真摯な姿勢や安全に対する意識の高さに触れ、NTT東日本の出資を受け入れるに至った。出資から約半年後の2025年12月末には、加入世帯数が120万と急増。SURGE社長のユネ・マルケタトモ氏は「NTT東日本グループのナレッジを共有していただいたことで、低料金のサービスを維持しつつ、世界水準品質と運用効率向上をかなえることができました」と満足げに語る。
インドネシアでは従来、PT Telkomが主たるFTTHサービス提供者であった。だが月額料金は35万ルピア(約3300円)と、同国の平均月給(約2~5万円水準)と比べると安くはなく、低所得者層が加入するのは難しかった。現地では3Gバイトまで300円程度のプリペイド型スマートフォンが普及していたが、それでも4人家族で月額約1200円と、月給水準を考えれば負担がかかる。さらに、モバイル通信は通信品質が高くなく、ネットワークが不安定というデメリットもあった。
実はオンライン学習が進んでいる同国の学校教育では、校内の教材共有サーバーとのやり取りが多い。現地のユーザーによれば、教師とのやり取りにZoomなどのビデオ会議ツールを使うことも増えてきているという。
データ使用量が多いコンテンツを使うと、通信料金はさらに高くなる。こうした状況から教育現場などでも、廉価な月額固定料金で高速に利用できる通信サービスのニーズが高まっていた。
市民間だけでなく国の重要施策においても、光インフラ設備の構築は不可欠だった。世界銀行が公表したレポートは、発展途上国においてブロードバンド普及率が10%上昇するとGDPを1.3%押し上げる経済効果があるとの分析結果(「Information and Communications for Development 2009:Extending Reach and Increasing Impact」)を報告しており、インドネシア政府としても固定ブロードバンドの普及率向上を政策の一つとして掲げている。ただ、ジャカルタ以外の地域に光インフラ設備を新設するには費用がかかり利益率を圧迫するため、国営でありながらPT Telkomは政府の要望には応えることはできていなかった。

インドネシアの固定ブロードバンド世帯普及率はおよそ15%(2021年時点)と、50%を超えている他の東南アジア諸国に比べ大きく後れを取っている。一方でFTTHサービスの利用料は高額で、低所得者層には手が届かない存在だった
PT Telkomが費用面を理由にジャカルタ以外の地域における光インフラ設備構築に手が届いていないなか、ジャワ島を主要エリアとするWEAVEが固定ブロードバンドの月額利用料金を安く抑えられた背景には、様々な要因がある。
一つは同社が現地の鉄道会社から光インフラ敷設の独占許可を得て、沿線に約7000kmにわたる光バックボーン回線を保有していたことである。低所得者層の住居が多い沿線地域を、バックボーン回線から短距離の分岐回線で短期間にカバーできる。実際、現地ではいつ回線が引けるのかと工事を待ち望む声も多い。そこにNTT東日本グループのコンサルティングを受けたことで、爆発的に加入世帯を増やせたわけだ。現地の自治会長は「各世帯で毎月25万ルピアもの節約になり、地域全体でも大きなコスト削減につながっています」と絶賛する。
鉄道沿線という立地は、通信品質面でもメリットがある。「線路沿いは他者が侵入しにくいため、回線切断などが起きにくく通信品質も維持しやすいのです」とNTTイーアジアの長江靖行氏は指摘する。心配されていたオンライン学習の際も通信が安定し、「Zoomを使ったオンライン授業やデジタル教材へのアクセスがスムーズになりました」(現地のユーザー)。

ジャワ島の鉄道沿線には低所得者層が多く暮らしており、廉価な固定ブロードバンドの需要が高かった。WEAVEは沿線に集中して回線を敷くことでコストをかけずに設備を構築し、月額料金を安く抑えることに成功している
FTTHサービスを低料金で提供できる背景として、設備の簡略化や通信機器の安価な調達という点もある。WEAVEは、鉄道駅敷地内や乗車ホームにOLT(Optical Line Terminal:光加入者線端局装置)を置き、電柱などに取り付けた光スプリッタを介して、加入者宅内に設置するONU(Optical Network Unit:光加入者線終端装置)と光ファイバーで接続し、FTTHサービスを提供している。世界的にFTTHの普及が進んだことで、こうした機器の調達価格は大幅に下がっている。NTT東日本の日下玲央氏は「弊社が日本でサービスを開始した約20年前と比べて、通信機器の価格は5分の1に低下しています」と明かす。
また、WEAVEはFTTHサービスの営業・開通・保守を地元のパートナー企業である通信建設会社やインターネット接続事業者に委ねて、売り上げを双方で分け合うレベニューシェア(収益分配)方式を採用している。具体的には、WEAVEが売り上げの2割をパートナー企業に支払うこととし、また、WEAVEが鉄道会社に支払う土地代も加入者世帯数に応じて支払う契約としている。このビジネスモデルにより、WEAVEは開通や故障修理にかかる費用や固定費を削減しつつ、共存共栄を図れるようにした。
現地の人件費が割安なこともあり、WEAVEは2025年第1四半期から第3四半期の期間に売上高約71億円、営業利益約45億円と、50%以上の驚異的な営業利益率を達成した。「固定費を極限まで抑えたことと、低所得者層が支払える料金水準から逆算する考え方でサービス網を構築したことが成功のポイントです」(ユネ氏)。
通信機器の調達などに伴う初期投資のために、WEAVEは現地の銀行から約250億円相当の借入金がある。同社は金利負担を下げるため、NTT東日本グループの助言も踏まえ、国外企業が日本国内で発行する債券「サムライ債」への借り換えを検討している。現地銀行の借り入れが金利10%・返済期間1~3年なのに対し、サムライ債では日本の低い金利で返済期間も3~5年となるため、利子負担を下げた上で長期的な事業展開が容易になる。資金計画を盤石にすることで、今後5年間で1000万世帯の加入獲得をめざす。
ユネ氏はNTT東日本グループの支援を追い風に、通信インフラの普及を拡大させ、教育水準の向上や経済発展、引いては国内各地域やインドネシア国全体の人々の生活の質を上げたいと展望を語る。「私たちの目標はインドネシアでナンバーワンのプロバイダーになることです。NTT東日本グループにサポートいただきながら、いずれはインドネシアを日本と競えるような経済大国へと成長させていきたいと思います」。ユネ氏の夢の実現には、同グループの後押しが欠かせない。