町田市が生成AIを活用し
市民向け
オンラインサービスと
職員の仕事の
進め方を変革

人口減少による担い手不足という課題を抱える町田市は、NTTデータとの共創によって生成AIを活用した市民サービスの向上や職員業務の効率化を推進している。目指すのは、生成AIを活用し、誰でも簡単に使える一気通貫のデジタルサービスである「バーチャル市役所」の実現だ。現在どこまで具体化し、どのような成果を生み出しているのか。町田市デジタル戦略室長の高橋晃氏とNTTデータの長谷川学氏が、マルチ生成AIプラットフォームの全体構造と3つのAIエージェントによるサービスの現状を紹介した。

爆速で進化する生成AI
タイムリーなサービスを提供し続ける基盤づくり

高橋 晃 氏
町田市
政策経営部
デジタル戦略室長
高橋 晃

 町田市は人口約43万人、都心から電車で約30分という利便性の高いエリアだ。しかし少子高齢化の影響は避けられない。「人口減少に伴い職員数も減少していくことが予想されています。限られたリソースで、どう行政サービスを維持し、向上させていくのかが大きな課題でした」と高橋氏は2022年当時を振り返る。

 転機となったのが、同年末のChatGPTの登場だ。生成AIの可能性に着目した高橋氏は、画像生成や文章作成の機能を市役所業務に活用できないかと考えた。一方で、AIを仕事でどのように活用したらよいかという点に加え、ハルシネーションやセキュリティーへの懸念もあった。そこで、高橋氏は、生成AI技術に関する知見を持つNTTデータに相談した。

 当時は、生成AIの行政活用事例はまだ多くなかった。そうした中、先端技術を活用してDXを推進したい町田市と、AI利活用を推進する体制を整えていたNTTデータの方向性が一致した。2023年5月29日、両者は生成AIに関する連携協定を締結し『市民向けオンラインサービス』『市役所の業務改革と改善』『利活用ガイドライン』の3つを連携項目として、本格的な共創をスタートした。

 「NTTデータは、AIシステムの開発・運用にとどまらず、AIガバナンスを含めて総合的に支援できることを強みとしています」と長谷川氏は振り返る。

 まずはじめに目指したのは、3Dアバターとチャットしながら市のホームページから必要な情報を得たり、オンライン手続きを進めることができる「市民用AIナビゲーター」と、職員の業務効率化を支援する職員用生成AIツールの実現だ。

 ここで大きな課題に直面した。「生成AIは3カ月もすると新バージョンがリリースされるなど進化のスピードが速く、従来の一般的な行政システムの更新サイクルでは対応が難しかった」と長谷川氏は語る。「この課題を解決するために構築したのが、マルチ生成AIプラットフォームです。複数の生成AIを柔軟に組み合わせ、バージョンアップに応じて素早く入れ替えられる仕組みをNTTデータと一緒に考え、作りました」と高橋氏は説明する。常に最新の生成AIサービスを市民・職員に提供し続けることを目的とした、行政システムとしては異例の設計だ。

魅力的なユーザーインターフェースで
AI利活用を当たり前に

長谷川 学 氏
株式会社NTTデータ
第四公共事業本部
デジタルコミュニティ事業部
第二ビジネス統括部長
長谷川 学

 マルチ生成AIプラットフォーム上に、3つのAIエージェントを展開することにした。市民の行政手続きをサポートする「市民用AIエージェント」、職員の業務効率化を支援する「職員用AIエージェント」、そしてオープンデータの活用を促進する「共用エージェント」だ。複数の生成AIを組み合わせられるプラットフォームの特性を生かし、それぞれの用途に最適なAI技術を選択・統合している。3つのエージェント活用による継続的な行政サービスの変革を目指す。

 開発で特にこだわったのが、ユーザーインターフェース(UI)だ。「町田市様のご希望を踏まえて、従来のような定型的なWebフォームではなく、直感的に操作ができ、視覚的にも訴求力のある画面を追求しました。専門知識を持たない利用者でも操作方法を迷うことなくパッと見て分かる、デザインにこだわりました」と長谷川氏は語る。「市民にも職員にも、ゲーム感覚で利用でき、思わず触れてみたくなるUIでなければ定着しません。3Dアバターによる親しみやすい対話画面を用意し、繰り返し使ってもらうことで、生成AIが日常の一部になっていくと考えました」と高橋氏は語る。

 このプラットフォームには3つのメリットがある。「第一に、最新の生成AIモデルやツールを柔軟に追加・入れ替えできるため、技術の進化に追従できます。第二に、複数のAIエージェントを一元管理できるため、運用がシンプルになります。第三に、オープンソース技術を活用することで、導入・運用コストを抑制することが可能です」と長谷川氏は説明する。

マルチ生成AIプラットフォームの構成
資料:東京都町田市 政策経営部 デジタル戦略室

 現在稼働しているのは、市民用と職員用の2つのAIナビゲーターだが、すでに大きな成果を生み出している。市民用は、バーチャル市役所ポータル「まちドア」と公式ホームページからアクセスできる。AIナビゲーターと対話しながら、知りたい情報を検索したり、オンライン手続きを進めたりできる仕組みだ。音声会話や多言語対応も可能だ。

町田市のバーチャル市役所ポータル「まちドア」でのナビゲーション
資料:東京都町田市 政策経営部 デジタル戦略室

 「ユーザーの問い合わせに対して、AIナビゲーターがリンク先やオンラインでの手続き方法を案内してくれて、様々な問い合わせから手続きまでをシームレスに進められます。3Dアバターと生成AIを組み合わせたサービスは自治体初ではないでしょうか」と高橋氏は胸を張る。行政手続きのオンライン申請件数は2024年度に10万件超に増加。2025年度のオンライン利用率は42%に達している。特に、子育て関連手続きの利用が多い。

 一方、職員向けのAIナビゲーターも高い評価を得ている。文章作成、議事録作成、データ分析など、業務に応じて選べる生成AIツールを集約。画像、PDF、スライドなど多様な形式のファイルをアップロードして分析や要約ができるマルチモーダル機能も備える。さらに、業務に特化した生成AIアプリを作成し、実行できる「マイクロAIエージェント」機能も提供している。

 「導入後、利用率は着実に上昇しています。2025年12月には正規職員の53.5%が週1回以上生成AIを活用するようになりました。これからも『ワクワクが止まらない』仕掛けを考えていきます」と高橋氏は手応えを語る。

 高橋氏はNTTデータについて、次のように評価している。「マルチクラウドでの取り組みだったため、どのクラウドで何のサービスを使うかといった検討が重要で、短期間で成果を上げられたのは、クラウドサービスを熟知したNTTデータの支援があったからです」

職員用AIナビゲーターの画面例
資料:東京都町田市 政策経営部 デジタル戦略室

プロンプトひとつで何でも解決する
AIコンシェルジュへ進化

 2026年3月からは、3つ目のオープンデータの活用を促進するAIエージェント「共用エージェント」の提供を開始する。「オープンデータファクトリーまちだ」と名付け、ダッシュボード画面から、誰でも簡単にオープンデータを活用できる。AIエージェントが、データの検索、ダウンロード、地理情報システム(GIS)による空間分析、グラフ化による可視化の4つの機能をサポートする。

 「オープンデータは公開されていても、どう使えばよいか分からず、活用が進まないという課題がありました。生成AIによって検索や分析のハードルを下げることで、市民や職員、企業が日常的にデータを活用できる環境をNTTデータの支援のもと整えます」と高橋氏は狙いを語る。データ活用が広がれば、新しいサービスの創出や、民間企業・大学との共創、地域課題の発見と解決につながると期待している。

 この共用エージェントの稼働により、当初計画していた3つのAIエージェント──市民向け、職員向け、データ活用──がすべてそろう。しかし、町田市の構想はここで終わらない。次の段階として見据えているのが「AIコンシェルジュ」だ。

 AIコンシェルジュとは、現在の3つのAIエージェントをさらに統合・高度化し、市民一人ひとりの状況に応じたパーソナライズされた支援を提供する仕組みだ。例えば、引っ越しや出産、介護など、人生のライフイベントに伴って必要となる複数の手続きや情報を、AIが包括的に案内・サポートする。

 「市民にパーソナライズされたサービスを提供し、困り事をプロンプトに投げかけることで解決できれば、市役所の在り方や職員の働き方も変わっていきます」と高橋氏は語る。

 「現在は手続きごと、部署ごとにサービスが分かれていますが、AIコンシェルジュは市民や職員の立場に合わせ、窓口サービスなどのフロントヤードからバックヤードの事務処理まで横断的にサポートします。まさにバーチャル市役所の中核を担う存在になるでしょう」と長谷川氏は説明する。

AIエージェントの先にAIコンシェルジュを見据える
資料:東京都町田市 政策経営部 デジタル戦略室

 人口減少により職員数が減少する中、従来通りの体制で行政サービスを維持するのは難しい。だからこそ町田市は、生成AIによる効率化と市民サービスの向上を両立させる道を選んだ。定型的な業務や情報提供はAIが担い、職員は市民の感情に寄り添った相談対応や、重要な決断、新しいサービスの企画に注力する──そんな新しい行政の形を、NTTデータとの共創によって実現しようとしている。

 マルチ生成AIプラットフォームという柔軟な基盤があるからこそ、技術の進化に合わせて継続的にサービスを改善できる。町田市の挑戦は、多くの自治体が直面する課題への一つの解答となるかもしれない。

株式会社NTTデータ 第四公共事業本部
デジタルコミュニティ事業部
石井
E-mail:Yudai11.Ishii@jp.nttdata.com

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