データとAIで「つなぐチカラ」を強化 KDDIが切り拓く通信の枠を超えた「価値創造」

既存システムの調査・分析に
AIを活用する

増田氏が語るように、KDDIの基幹系システム移行プロジェクトは23年にスタートした。その発端こそ、スクラッチ開発で増築を重ねてきた約160ものシステム群が利用限界を迎えていたことにあるが、このプロジェクトの真意は単なる「延命措置」ではない。

「合併以来、KDDIは事業の拡大に合わせてシステムを構築し続けてきました。その結果、アーキテクチャやSLA(サービスレベル合意書)、運用ルールが乱立し、運用現場には限界が来ていました」と増田氏は振り返る。

通常であれば、こうした大規模な刷新は、リスク回避のために外部ベンダーへ一任するのが定石だ。しかし情報システム本部は、事業継続のために基幹系システムをクラウドへとモダナイゼーションするだけでなく、そのプロセスを通じて「内製化」を実現することを目指す。将来の競争力を生むための投資であるという判断がKDDIの経営層からも下され、プロジェクトは始動した。

情報システム本部は、移行にあたって4つのクラウド基盤を検討した。その中から最もふさわしい基盤として選んだのが、オラクルの「OCI(Oracle Cloud Infrastructure)」であった。

「選定にあたっては、データベース性能、可用性、移行容易性、コスト、障害統制の5点をとくに重視しました。『OCI』は、4つの候補の中で、これらの条件を最も満たしていました」と増田氏は評価する。

プロジェクト開始から約2年。現在、対象システムの約3割がOCIへの移行を完了し、29年の完全移行に向けて着実に進めている。特筆すべきはこの巨大な移行作業において、内製化を断行している点にある。さらに、既存システムの調査・分析プロセスにAIを活用したことで、生産性の高い作業が実現しているようだ。

「もちろん、移行後の業務効率化や生産性向上には大いに期待していますが、私たちが手に入れた最大の財産は、AIを駆使して移行そのものをスピードアップし、コストを劇的に下げる『方法論』そのものです」と増田氏は胸を張る。

この成功体験は、単なる社内改善にとどまらない。「移行のノウハウは、今後グループ会社のモダナイゼーションに転用できるだけでなく、将来的には外販することも視野に入れています」。

システムをただ載せ替えて終わりにはしない。その移行プロセス自体を、次のビジネスへと昇華させる。情報システム本部は、システムの守り手から、新たな価値を創造する主役へと、その役割を劇的に変えようとしている。

ライフサイクルコスト最適化と
強靭な事業基盤の確立へ

プロジェクト自体は現在も進行中だが、すでに「OCI」への移行が完了したシステム群に関しては、大きな効果が得られているという。

1つは、運用の標準化と内製化によるコストとリスクの低減だ。かつてのオンプレミス環境では、急成長の過程でシステムごとのアーキテクチャやSLAが複雑に混在していたが、クラウド移行に合わせてこれらを統一・標準化したことで、複雑性が解消され、運用コストの大幅な削減と業務の効率化が実現している。

「さらに大きいのは、内製化によって外部ベンダー任せにせず、自社でコントロール可能な範囲が広がったことで、開発から保守・改修に至るシステム全体のライフサイクルコストを最適化できています」(増田氏)

そして2つ目の効果は、「事業継続性(堅牢性・レジリエンス)」の飛躍的な向上である。オラクルが提供する東日本と西日本のデータセンターを活用したDR(災害復旧)サイトを構築できる環境により、物理的な災害対策が強化された。これにより、「サービスを止めない」という守りの強化だけでなく、機会損失を防ぎ積極的にビジネスを展開するための強固な基盤が整いつつある。

「au ID管理システムなどは、大規模なキャンペーンを行うと瞬間風速的に大きな負荷がかかりますが、『OCI』にはデータ処理量に応じて負荷を調整できるオートスケール機能があるので、サービスが止まる心配はありません。しかも、こちらで調整する必要がないので、ただでさえ足りない運用の手が奪われずに済むのもありがたいですね」と増田氏は語る。

前述した移行プロセスについては、開発工程の見直しやAIを活用したことで人手による工数が大幅に削減。インフラにかかるコストにおいては2割から最大6割の削減効果が表れているそうだ。今後は、新たなシステムの開発にもAIを積極的に活用していく予定で、すでにPoCを始めている。

KDDI情報システム本部の変革と新たな価値創造

図2

また、増田氏は移行プロジェクトにおけるオラクルの対応について、「情報開示やコミュケーションをしっかり取ってくれる点が頼もしい」と評価する。

「自分たちでシステムを運用するオンプレミスから、運用サービスの提供を受けるクラウドへと変わるので、どのように運用しているのか?といった情報をしっかり伝えてもらえるかどうかは重要なポイントでした。その点、日本だけでなく、米国のオラクルの技術者とも日常的なコミュニケーションができるようにしてもらえたことは、大きな安心感につながっています」(増田氏)

「OCI」への移行が進むにつれ、クラウドに載せ替えられた事業用システムは1つずつ活用段階に入っていく。

増田氏は、「一元化されたデジタルデータやAIを活用しながら、新たな事業やサービス価値をどんどん創造していきたい。これからが、ますます楽しみです」と力強く語った。

増田氏
「ただシステムをクラウドに移行するのではなく、それによって経営や事業そのものを大きく変えたい。これは、今回のプロジェクトに関する経営層からの強い要請でした」と増田氏