真の“SX”に挑む企業たち Striving for a sustainable future
DUNLOP(住友ゴム工業)
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GHG削減における自動車業界全体の難題、“Scope3”に果敢に挑戦

2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、自動車業界で重要な役割を担う主体の一つがタイヤメーカーだ。業界大手のDUNLOP(住友ゴム工業)は、自動車メーカーと原材料サプライヤーの「橋渡し役」として、温室効果ガス(GHG)削減に向けた様々な施策を推進している。
「真の“SX”に挑む企業たち ~Striving for a sustainable future~」特設サイトでは、真のサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)の実現に挑む企業と、それらの企業を支援するPwC Japanグループとの対話を通して、SXを実現する上でのチャレンジやその乗り越え方、SXに向けた取り組みのあるべき姿を探る。今回は、DUNLOPとの対話を通して、同社の先進的な取り組みを紹介する。

DUNLOPにおけるScope3の
壁を越えるための仕組みづくり

2050年カーボンニュートラルを見据え、製造業ではScope3(※1)排出量の算定・削減が大きな経営課題となっている。特に多階層のサプライヤーを抱える自動車業界においては、GHG削減の取り組みを進めるために、サプライチェーン全体の排出量の正確な把握が大きな壁となっている。

このような状況下で独自の取り組みでScope3排出量の算定・削減の成果をあげつつあるのが、大手タイヤメーカーのDUNLOPだ。同社は、SBT水準のGHG削減目標の設定をきっかけにサプライヤー向けのGHGデータフォーマット刷新、一次データ連携を段階的に拡大し、Scope3排出量の正確な把握に基づく削減戦略を進めている。

本稿では、同社がどのようにGHG削減を進め、Scope3における算定の仕組みを整えていったのか、その背景とプロセスを整理し、自動車業界におけるサステナビリティ経営への示唆を考察する。

※1 Scope3:GHGプロトコルで定義された、企業活動に関連するサプライチェーン全体の間接排出。

サステナビリティを
経営戦略の中心に据える

多くの示唆に富む取り組みの詳細は後述するとして、まずは同社がどのような課題認識の下でサステナビリティを経営戦略に位置付けてきたのか、その経緯を見ていこう。

DUNLOP サステナビリティ経営推進本部 本部長の石野崇氏は、このように語る。

「社会的な要請に応えるため、2021年にサステナビリティ推進部が発足し、サステナビリティ長期方針『はずむ未来チャレンジ2050』を策定しました。2023年にはESG経営強化のため同部と環境戦略推進部などと併せてサステナビリティ経営推進本部とし、GHG削減と資源循環を目指すサーキュラーエコノミーの独自構想『TOWANOWA(トワノワ)』をスタートさせるなど、取り組みを加速させています」

石野崇氏 永瀬隆行氏

(写真左)
DUNLOP(住友ゴム工業)
サステナビリティ経営推進本部
本部長 ※取材時

石野 崇

(写真右)
DUNLOP(住友ゴム工業)
サステナビリティ経営推進本部
環境戦略推進部
部長 ※取材時

永瀬 隆行

2023年は同社の2027年までの中期計画がスタートした年でもある。石野氏によれば、社長の山本悟氏は、一般的に財務指標が中心となる中期計画において、GHGを多く排出するタイヤ産業だからこそ、サステナビリティを経営戦略の中心に据えるべきだという認識を持ち、取り組みを後押ししたという。

こうした経営判断の下、DUNLOPはPwC Japanグループと協働し、社内方針と施策の間をつなぐ取り組みを進めている。

SX案件を多く手掛けるPwC Japan有限責任監査法人マネージャーの後藤裕加氏は、当時の状況をこう振り返る。

「企業に対する社会的な期待が高まる中、DUNLOPはCSRの枠組みを超えて、SXの視点で取り組みを進めてきました。戦略策定にとどまらず、具体的な削減の実行まで一貫して進められた点が印象的です。特に目標設定後、一次データの取得に早期から継続的に取り組み、サプライチェーン上の削減努力が反映可能なデータ基盤を築いてこられたことは、支援する立場として強い手応えを感じています」

木下尚悟氏 後藤裕加氏

(写真左)
PwCコンサルティング合同会社
エネルギー・素材事業部
執行役員 パートナー

木下 尚悟

(写真右)
PwC Japan有限責任監査法人
サステナビリティ・アドバイザリー部
マネージャー

後藤 裕加

SBTが生んだ社内変革
サステナビリティ経営の機運の醸成

DUNLOPの一連の取り組みの成果として特筆すべきなのが、GHG削減目標のSBT認定(※2)取得だ。

カーボンニュートラル目標

Scope1・2(※3)は、各拠点の取り組みが順調に進捗しているため、削減目標値を55%(2017年比)へ引き上げ、Scope3はカテゴリー1(原材料調達)は2030年25%削減(2021年比)、カテゴリー4(物流)は2030年10%削減(2021年比)の目標を設定出典:DUNLOP「カーボンニュートラル2030年目標値および主な取り組み」

※2 SBT認定:国際的な共同イニシアティブである「SBTi(Science Based Targets initiative)」が、各企業のGHG削減目標を科学的根拠に基づいて評価・認定する制度。

※3 Scope1:企業が自ら所有・管理する設備からの直接排出。Scope2:企業が購入・使用する電力・熱等の使用に伴う間接排出。

DUNLOPは、Scope1・2、Scope3(カテゴリー1)のGHG削減目標についてSBT認定を取得。しかも、Scope3は自社努力だけで完結しない領域であり、SBT水準での野心的な目標設定は社内にとっても大きな挑戦となった。

「ステークホルダーや社会から要求される水準が高まる中、必要性は認識していましたが、目標設定の考え方やガイドラインの読み解きも手探りでした。削減効果を積み上げてもSBT認定水準に届かないのではないか、総排出量25%削減というかなり野心的な目標を本当に達成できるのかといった不安の声もありました」(石野氏)

こうした暗中模索の状況はPwC Japanグループ支援の下、多部門とのワークショップや対話を重ねたことで改善されていったという。「生みの苦しみがあっただけに収穫も大きかった」と石野氏は振り返る。

「GHG削減目標のSBT認定に向けた取り組みは、結果としてサステナビリティ経営の機運を醸成し高めるための期間だったと思っています。議論を重ねるごとに社内のESG経営の関心や認知が上がり共通言語が確立、経営陣から各部門メンバーまでが一体となってコンセンサスを形成する土台ができたと感じています」

PwCコンサルティング パートナーの木下尚悟氏は、この目標設定プロセスそのものに意義があったと指摘する。

「野心的な目標設定をするとバックキャストで大きなギャップが見えてきます。しかし、そのギャップをどう埋めるかを考えるプロセスこそが、組織や取り組みのイノベーションの原動力になります」

水素で進めるScope1削減
エネルギーの地産地消に挑む

DUNLOPの取り組みは、GHG算定や削減に向けたKPIの策定、SBT認定取得など多岐にわたり、社内外の関係者を巻き込みながら実務と伴走している。社会的要請が目標設定から実行へとフェーズが移る中で、同社はどのような取り組みを進めてきたのか。

まずは自社由来の排出であるScope1・2削減について。DUNLOPは本社・グローバル拠点全体での省エネ化などの努力を重ねているのはもちろんだが、独自の挑戦では次世代エネルギーとして期待される水素の利活用に積極的に挑んでいる。

DUNLOP サステナビリティ経営推進本部 環境戦略推進部長の永瀬隆行氏はこう振り返る。

「水素エネルギーの使用は、2023年からタイヤ製造の主要拠点である白河工場でスタートしています。また、2025年には、同工場内に水素製造システムを導入し、水素の地産地消体制が整いました。タイヤメーカーにおいて、自社工場内で水素をつくってタイヤの製造に使用しているのは当社のみ。Scope1は削減が難しい領域ですが、今後のスタンダードになり得るイノベーションに取り組んだという意味で大きな意義のある挑戦です」(永瀬氏)

Scope3削減効果を測る
サプライヤー視点での「一次データ」連携

では、Scope3削減はどう進めてきたか。Scope3は自社の直接管理下にない排出であるからこそ、正確な可視化と算定がなければ、実効性ある削減にも、ステークホルダーからの評価にもつながらない。その中でDUNLOPが注力してきたのが、カテゴリー1(原材料調達)とカテゴリー4(物流)におけるサプライヤー・物流事業者とのGHG排出量の「一次データ」連携の高度化だ。同社が重視するのは業界平均値等の二次データでは捉えきれない、サプライヤー各社の実際の削減努力を反映する仕組みである。

カテゴリー1では、どのような取り組みを行っているのか。

同社は、企業規模やGHG算定・削減対応の成熟度が異なる多様な原材料サプライヤーに対し、説明会を通じて算定ノウハウやデータフォーマットを提供。毎年1社ずつ対話を重ねるサプライヤーエンゲージメントを通じて、GHG算定・削減対応のレベル向上に取り組む。

「DUNLOPは、ステークホルダーとのGHG削減に本気で挑み、高い削減目標を達成すべく、データの精度・品質にこだわっています。GHG算定・削減への理解度が異なる各社が負担に感じることなく前向きに取り組めるよう、PwC Japanグループとともに、マニュアルに沿って簡単に入力できるデータフォーマットを整備しました。算定レベルは2年目の今年度からすでに向上しており、サプライヤーからも理解度が深まったなどとの声をいただいています」(永瀬氏)

加えて同社は、サプライヤーから取得したデータを基に、さらに下流の自動車メーカーとのデータ連携にも挑み、サプライチェーンの「橋渡し役」を担っている。こうした取り組みが評価され、CDP(※4)から最高評価である「サプライヤーエンゲージメント・リーダー」に選定された。

※4 CDP(Carbon Disclosure Project):企業・自治体の環境情報開示の促進、評価を行う国際非営利組織(NGO)。

一次データ連携・エンゲージメントにおけるDUNLOPの役割

Scope3のカテゴリー1でGHG削減の成果を正確に可視化・算出するため、原料サプライヤーとのエンゲージメントを強化。削減量の業界平均値などを基にした二次データではなく、サプライヤーが固有に計測した一次データへの置き換えを進めている出典:PwC Japanグループ提供資料

また、カテゴリー4では、どのような取り組みを行っているのか。

同社は物流事業者との協働による削減を進めており、特に海上輸送モーダルシフトの取り組みは2025年に国土交通省海事局より「エコシップ・モーダルシフト優良事業者」の海事局長表彰を受けている。

「物流事業者とは、これまでもGHG削減や『2024年問題』に代表されるような人手不足などの課題に協働して向き合ってきました。輸送効率化やモーダルシフトなど様々な施策を進め、環境負荷軽減と物流の持続性の両立に取り組んでいます。一次データ連携についても、DUNLOPのカテゴリー4削減を進めることはもちろん、物流事業者にとっても燃費データなどの一次データを収集・管理することが物流効率化に寄与するのではと考えています」(永瀬氏)

分業構造が複雑な物流業界における一次データ連携は容易ではない。それでも同社は、物流事業者の削減努力を正当に評価、Scope3削減実績に反映させることが、結果として物流の諸課題解消につながると考え、試行を続けている。

「一次データ連携は、カテゴリー1を中心に進展しつつある一方、社会全体としてはまだ過渡期にあり、特にカテゴリー4では先行事例が限られる中での挑戦になります。そうした先が見えない状況下において一次データ連携に踏み込んだ点に、DUNLOPの先見性と推進力が表れていると感じています。現在、CFP(※5)算定・開示のニーズの拡大を受け、その意義と重要性がより一層高まっています。今後もご支援を通じて、さらなる高度化に貢献していければと考えています」(後藤氏)

※5 CFP:製品やサービスのライフサイクル全体で発生するGHG排出量を定量化した指標。

「一次データ」で業界をつなぐ
DUNLOPのScope3削減の推進

ここまで見てきたように、DUNLOPのScope3削減は単なるGHG削減施策の積み上げではなく、サプライヤーや物流事業者との「一次データ」連携を通じて、削減効果を正確に把握・評価できる基盤づくりに取り組んでいることに特徴がある。自動車産業のサプライチェーンの中間に位置するタイヤメーカーとして、業界全体の取り組みをつなぐ「橋渡し役」としての機能を積極的に強化してきた。

DUNLOPからみたGHG削減の今後について、石野氏も永瀬氏も業界全体での取り組みが必要だと口を揃える。

「製造業、特に自動車製造業においては、今後製品ごとのCFPが共通指標としてますます重要になってきます。GHG削減自体は各社との競争領域ですが、そのためのルールづくりや算定ロジック、データ連携の基盤づくりに関しては協調領域と捉え、業界全体で取り組めるような仕組みづくりを呼び掛けていき、各社の取り組み実績が適切に評価される体制を作っていければと考えています」(石野氏)

「水素エネルギーの導入や精緻な一次データ連携など、DUNLOPは業界でも取り組みを先行されているだけに、私たちも知見をアップデートし、新しいアイデアを提案していく必要があると身が引き締まる思いです。新しいチャレンジのお役に立てるよう尽力いたします」(木下氏)

石野崇氏 永瀬隆行氏 木下尚悟氏 後藤裕加氏
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