セガが進める独自のIP戦略「トランスメディア戦略」から学ぶ

日本発IPのグローバル展開と
収益化に向けた実践的戦略とは

生態系モデル「5つのC」から見えてくる
資金調達(Capital)の課題

内海氏のトランスメディア戦略に関する解説を受け、森氏も、「コンテンツ単独ではなく、IPを核に流通・金融・テクノロジー・コミュニティを束ねた生態系を構築し、丸ごと輸出する戦い方が日本企業においても求められています」とIP価値の増幅に向けた戦略のあり方を提示する。加えて、日本独自の生態系モデルおよび資金調達法として知られている製作委員会方式は、著作権の考え方の違いなどから海外市場でそのまま展開しにくいことも提示した。

内海氏も「製作委員会の一番の問題は、自社から見た交渉相手が1人に集約されていない点です」と指摘し、海外では権利・交渉の一本化が肝要だという。その上で、セガとしては「セガグループのIPの、より適切な枠組みでの映像化を進めていきたいと考えています」と今後の計画を明かす。

また、日本のコンテンツ産業のもう一つの課題として、コンテンツファイナンスに対する国の支援策についても意見を交換した。

「英国やフランス、ドイツ、韓国などが文化創造産業の構築に向けた取り組みを加速する一方で、日本では税制面など後れを取っている部分が多くあります」と森氏。

内海氏は「例えば、私たちは英国に拠点を置くグループ会社もありますが、その会社は英国政府によるクリエイティブ産業を対象とした税制優遇の対象となっています。日本では単発のプロジェクト支援が多いのに対し、こうした持続性のあるプログラムの創設の検討がより加速しても良いのではないでしょうか」と話す。

森氏はPwCコンサルティングが提唱するコンテンツの生態系モデル「5C」を軸に、日本の収益構造の仕組みの弱点について指摘する。

「5Cモデル」とは、コンテンツに投資し(Capital・資本)、コンテンツを創り(Creator・創作)、配信(Channel ・配給)を通じて、生活者がファンとなり関連グッズなどを購入・所有し(Commerce)、イベントへの参加やSNS上での交流といった体験(Community)として消費され、その経済活動が生み出す利益とロイヤリティが新たなコンテンツの創出へとつながる、という循環を指す(図表1)。

図表1 コンテンツの生態系モデル

コンテンツの生態系モデル
出所:PwCコンサルティング合同会社 エンタテイメント&メディア・インダストリー・イニシアチブ作成

「日本のコンテンツ産業の戦い方と勝ち筋を考える上で、とくにCapital(資本)については、『あるべき産業規模から逆算した公的マネーも含めた新たな資金への戦略転換』『大規模投資を可能とする省庁横断型ブレンデッドファイナンスの設置・運用』『事業者目線での支援メニューのワンストップ化』、さらに『複層的な金融支援の展開』へのいち早い着手が求められているのではないでしょうか」(森氏)

IP戦略におけるインターナショナライズ&
グローバルガバナンスのあり方

さらに、昨今のVOD主導のIP展開を例に、IPホルダーによるハンドリングに対する考え方などについても意見を交換した後、内海氏が自ら実践しているという海外でのセガのファンとの交流や、グローバル展開を進めていく上での組織づくりに関して深掘りしていった。

「セガのファンは世界中に驚くほど数多くいらっしゃるんです」と内海氏。世界的に有名なミュージシャンの中にも、セガのゲームの大ファンが多く存在し、ゲーム音楽の制作の中で実際にコラボレーションをするケースがある。こうした影響力を持つアーティストやインフルエンサーとの連携を通じた、自社IPのプロデュース強化も今後のチャレンジになってくるのではと語る。

留意するべきは、ローカルの差異を踏まえたインフルエンサーやメディアの活用だと2人は言う。

「日本ではまだ存在感が大きくないものの世界中で人気を集めるゲーミングプラットフォームが、すでにいくつか存在します。欧米の子どもたちからは、その中の2つがあれば十分だ、という声をよく耳にします。そうした実情に合わせて最適化を図る“インターナショナライズ戦略”については、どうお考えですか」と森氏。

それに対し、内海氏は、「ブランド浸透を図るためのメディアとして、テレビ・代理店だけに依存する従来のスタイルから脱却し、ソーシャルを含めた新興のメディアプラットフォームを組み合わせた仕組みを構築し、実践していくことが大事だと考えています」と語った。加えて、「ゲーム・おもちゃなどジャンルによってインフルエンサーが異なる点も押さえ、ベストな戦略構築に向け、日々チャレンジしています」と言う。

その上で、自社IPのグローバルの状況について、データで可視化する重要性を指摘。「ゲームはダイレクトディストリビューションで即日世界各国の数字が把握できるのに対し、映像については他社と連携した仕組みづくりが必要となってきます」と内海氏。

この点について森氏は、VODのプレイヤーをモニタリングする企業との連携など、PwCコンサルティング独自のアナリシスの特長に触れつつ説明し、オーディエンスに向けて「社内で新たなIP戦略に関する稟議を進める上でも、数字をどこまで把握するかが大きなポイントになります」と言う。内海氏は「プラットフォームによって異なる“クセ”を理解することも大事です」と指摘し、データへの解像度を高め、視野を広げていく重要性を語った。

取り組みのベースとなるグローバルガバナンス体制に関する森氏からの問いに対しては、「外に向けてグローバル化を積極的に推進する一方で、同時に求心力を強める経営を推進するべく、組織変革を現在進めています」と内海氏。さらに、今後の展望として、「IPを軸に主力のゲームに加え、商品化や映像化、音楽展開なども強化し、さらなる進化を目指しています」と語ってくれた。

「ソニック」が世界を再び熱狂させたように、日本発のIPには時代を超えて価値を増幅させるパワーがある。世界を相手にしたIP戦略の先に、日本のエンターテインメントが基幹産業として台頭してくる未来は近いと言えるのではないだろうか。