食品大手のミツカングループは、日本エリアの経営基盤となるERP(統合基幹業務システム)を、SAPのクラウド製品を活用し刷新。日本独特の商慣習を持つ食品業界において、365日稼働かつ時間制約の厳しいチルド業務を含む広範な領域で、要件定義から本稼働までプロジェクト開始時の計画通りに進め、業務システムの刷新・統合・標準化を実現した。このSAP ERP刷新プロジェクトの立ち上げ経緯や成功のカギなどについて、ミツカングループと同グループを支援したPwCコンサルティングの関係者が対談を行った。
SAPジャパンが毎年発表している「SAP Appreciation for Partner Excellence」。SAPの戦略に沿った同社ソリューションの導入プロジェクトの推進、およびその成果を称える表彰制度だ。2026年3月に発表された「SAP Appreciation for Partner Excellence 2026」では、食品大手・ミツカングループのERPをSAP製品に全面刷新したPwCコンサルティングが、最も優秀なプロジェクトを表彰する「SAP Project of the Year」に選ばれた。
PwCコンサルティング 執行役員 パートナー 流通・消費財事業部の桂田武実氏は「PwCコンサルティングはSAPビジネスに全力で取り組んでおり、世界70以上の国々にスタッフを配置してSAP製品の導入を支援しています。今回の表彰は、私たちのそうした取り組みが評価されたものと受け止めており、大変うれしく感じております」と話す。
「SAP Project of the Year」への選出理由となったのは、ミツカングループが推進した「プロジェクトGENE(Group ERP for Next Era)」というSAP ERP刷新プロジェクトへの支援である。
「このプロジェクトの大きな狙いは、『環境変化に対応できる経営基盤をつくること』でした。そのためには既存の基幹システムを、柔軟で、変化に対応しやすい新時代のERPへと全面刷新する必要があると判断したのです」
このように語るのは、Mizkan Holdingsの執行役員でグループの日本・アジア事業の内務機能を統括するMizkan Partnersの代表取締役社長を務める杉本達哉氏である。
酒粕を使った食酢のメーカーとして1804(文化元)年に創業し、222年の歴史を持つミツカン。日本では確固たる地位を築いたブランドだが、今や海外売上比率が約60%に上っており、調味料だけでなく自然を生かした即食など、その事業領域も大きく広がっている。
「基幹システム刷新の背景としては、2つの側面がありました。1つは経営面、もう1つはシステム面です。
経営面の観点で言いますと、グローバル化が進み、海外売上比率が50%以上を占め事業規模が大きくなってきたときに、ホールディングスから各エリアの活動が見えなくなってきました。また、各エリアでの仕事の仕方がバラバラになってきたのです。これからさらに『限りない品質向上による業績向上』を果たす上で、これから起こるであろう環境変化に対応できるように経営基盤を強化することが経営課題であると認識していました」(杉本氏)
(写真中央)
株式会社 Mizkan Holdings 執行役員
株式会社 Mizkan Partners 代表取締役社長
杉本 達哉 氏
(写真左)
株式会社 Mizkan Holdings 執行役員 CIO
株式会社 Mizkan J plus Holdings
デジタルIT本部 本部長
松下 美幸 氏
(写真右)
株式会社 Mizkan J plus Holdings
デジタルIT本部 業務DX推進部 部長
嶋 祐介 氏
一方で、各業務を支えるシステム面にも、様々な課題が発生していたという。
「日本のエリアでは20年前に導入したERPと、それを補うために作り込んだスクラッチのシステムが乱立していまして、年間IT予算の約8割が老朽化対応、つまり現状維持のためだけに使われている状況でした。さらにシステムを理解している知見者に高齢化が進んでいまして、早期に刷新に踏み切る必要がありました。これらの課題を同時に解決するために今回のERP刷新プロジェクトが立ち上がったのです」
このように語るのは、Mizkan Holdingsの執行役員CIO(最高情報責任者)で、日本・アジア事業のIT・デジタル機能を担うMizkan J plus Holdings デジタルIT本部の本部長を務める松下美幸氏だ。
「とくに365日稼働、かつ時間制約の厳しいチルド製品の製造・出荷・輸送業務には、極めて精度の高いシステム運用が求められるというお話をうかがっていました。そのため、老朽化したシステム群などに対する限界を痛切に感じておられたのだと思います」と、PMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)の統括者として、ミツカングループのプロジェクトを支援したPwCコンサルティング ディレクターの加藤光裕氏は補足する。
これらの課題を抜本的に解決するため、ミツカングループは2021年にERPの全面刷新プロジェクトを始動した。杉本氏を含む経営陣がステアリングとしてプロジェクト全体を統括。松下氏がプロジェクトリーダーを務めた。
「スタートにあたって、プロジェクトのオーナーと徹底的に議論したのがプロジェクトの目的です。大きく4つの目的に絞り込みました」(杉本氏)
1つ目は、経営管理を高度化し、PDCAを速く回すための基盤をつくること。2つ目は、将来の事業環境やデジタルの進化、変化に柔軟に対応できる基盤とすること。3つ目は、グローバルに見える化、標準化し、統制環境を整え、業務を最適化させること。そして4つ目は、人と自動化を融合させ、仕事の付加価値と効果、効率を高めていくことである。
さらに、「単なるシステムの入れ替えにとどめるのではなく、現状否認を行って業務を作り替え、次世代まで継続可能な基盤をつくる、という強い思いを持ってプロジェクトに臨むことにしました」と松下氏は語る。
その「次世代まで」という想いを、プロジェクトメンバー全員、さらにはミツカングループ全体で共有するため、活動の名称は「プロジェクトGENE」とした。「Group ERP for Next Era(次世代のグループERP)」という意味と、次のミツカンをつくる遺伝子(Gene)という意味を掛け合わせたものだ。
(写真左)
PwCコンサルティング合同会社
執行役員 パートナー
流通・消費財事業部
桂田 武実 氏
(写真右)
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
加藤 光裕 氏
このようなミツカングループの想いを汲み取って、PwCコンサルティングは新しいグループERPの導入提案を行った。
その刷新範囲は、業績管理、財務会計、固定資産、原価管理、資金管理といった内務機能から、販売、生産、購買、在庫、物流、需給管理といったSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)業務の基幹システムまで、文字通り事業全体をカバーするものであった。
「日本の商慣習に合わせた商流・物流管理が必要なドライ事業に加え、365日稼働や時間的制約の厳しいチルド事業も含む広範なスコープでしたが、私たちPwCコンサルティングもミツカンの熱い想いを汲んで、次世代へつながるビジネス基盤となるように最新のソリューションを組み合わせた提案をさせていただきました」(加藤氏)
具体的には、会計、資金、SCMについては、SAPのコアソリューションであるクラウドERPの『S/4 HANA』、食品メーカー特有の販売費管理は『Vistex』、需給管理には『IBP』、業績管理と計画策定には『SAC・BW/4』、マスタの申請・登録管理には『BTP』と、適材適所にSAPのクラウド製品を組み合わせて活用することを提案した。
さらにPwCコンサルティングはソリューションだけでなく、ERP刷新プロジェクトを成功に導くための3つのポイントも提案している。
1つ目は業務標準化の徹底。従来の仕事の進め方を標準に合わせるFit to Standardを実践するには強い意思と実現の方法論が必要となるが、PwCコンサルティングが持つ業界知見と、SAPの知見をフル活用して、実践を後押しした。
2つ目は、次世代リーダーのアサインである。本稼働後も継続してERPを維持・改善するために、そのけん引役となる将来のリーダーの参画を促し、育成を図った。
「そして3つ目に提案したのが、全社で取り組みを推進することです。IT部門だけでなく業務部門を巻き込み、ワンチームとなって全社一丸で取り組んでいただく。PwCコンサルティングがパートナーとしてコミットすることはもちろんですが、ミツカンにも先頭に立って推進していただくことの重要性は強くお伝えしました。その結果、ミツカン150人超、PwC400人超が関わる連携体制が構築されたのです」と加藤氏は振り返る。
このPwCコンサルティングの提案に沿って、「徹底的に足元を見つめ直しSAP標準に業務を合わせるという姿」「全員で変革に挑む」という意識を共有できたことが、プロジェクトを成功に導く力になったと、「プロジェクトGENE」の関係者たちは高く評価している。
「とくに最終段階のテストとリハーサルには、IT部門と業務部門が力を結集して臨み、満足できない結果が出たら何度もやり直しをしました。稼働ギリギリまでトライ&エラーを重ねましたが、部署や所属会社に関係なく、チーム全員が本稼働というゴールに向かって動くことができました」と語るのは、プロジェクトのサブリーダーを務めたMizkan J plus Holdings デジタルIT本部 業務DX推進部 部長の嶋 祐介氏である。
桂田氏は「今回、当社が受賞した『SAP Project of the Year』は、ミツカン様と共に頂いたものだと思っています。日本特有の商慣習を持つ食品業界で、チルド事業の365日稼働に伴う厳しい時間的制約を含め、ドライ・チルド事業共に計画通りに無事本稼働させることができました。すべてのプロジェクトメンバーと社員の皆様が力を結集し、次世代につながるビジネス基盤の構築に挑んだ情熱は称賛されるべきであり、そのことがしっかりと実を結んだと思います。今回の受賞を励みに、PwCコンサルティングはこれからも、クライアントの業務変革を支援してまいります」と対談を結んだ。
なお、本記事で言及している課題はプロジェクト開始時点(2021年頃)のものであり、現在は新ERP基盤の下で継続的な改善を進めている。