グローバル・サプライチェーンマネジメントは、静的全体最適化から、定期的再最適化へ、そして動的最適化へと主要な戦略を進化させてきた。次世代のサプライチェーンマネジメントでは、地政学的リスクなどによる環境変化に伴う供給ボトルネックの管理、ならびに需要自体の激変に向けたデマンド管理が戦略構築の要点となる。デマンドの変化に常に注目し、適宜管理を強化して、レジリエンスを向上させていくことこそが肝要だ。
サプライチェーンマネジメントの進化は、ERPやSCMなどのITの発展や社会情勢の変化に伴って、大きく3つの世代を経験してきたといえる。第一世代は、1990年代から始まる「静的全体最適化」の時代で、拠点構成(コンフィギュレーション)や接続(コネクション)を固定して需要と供給を統合するというアプローチがとられた。日本の製造業のいわゆる「すり合わせ」の強みで対抗できた時代だ。
第二世代は2010年代から始まる「定期的再最適化」の時代。サプライチェーンのグローバル化が進み、ここで特に重要なのは中国が主要な生産拠点に加わったことだ。この世代では、少なくとも年単位でデータを基に生産量や流量を再定義していくという方法がとられた。
そして第三世代は今まさに現在進行形で展開されている、レジリエンス強化に資する「動的最適化」の時代である。リーマンショックを皮切りに東日本大震災やコロナ禍を経験する中で、国際紛争などの地政学的リスクが高まっている。「そうした予測不能な変化に見舞われる中で、サプライチェーンのコンフィギュレーションとコネクションの双方を動的に最適化して、レジリエンス(回復力・適応力)を高めていくということが重視されています」と東京国際大学の松尾博文氏は語る。
レジリエンスを高めるために取るべき戦略とは、どのようなものか。それは企業のビジネスモデルや、直面するサプライチェーンの複雑性に関する特徴に応じて異なってくる。まず、半導体産業など、製造技術の制約で代替オプションが少ないケースでは、サプライボトルネックの管理を強化して、サプライチェーン上流のキャパシティの確保を優先すべきだ。
一方、自動車産業など、裾野が広く、サプライヤーのレイヤーが多重化するなど、サプライチェーン構成企業間関係の複雑性が高いケースがある。この場合、コントロールタワーで管理を行い、サプライチェーン全体にわたり、どこにどれだけの在庫を持つかを把握することになるが、そこにおける最適化を常に意識することがポイントとなる。
そして、日用雑貨など多彩な消費財を広範な市場に供給しているケースでは、サプライチェーンプロセスが多様な形態をとることができるので、オプションを使い分け、動的な最適化を進めることが肝要だといえる。
こうした観点から、例えば今後の日本の製造業におけるサプライチェーンを考えるとき、2つの軸における変革が必要だ。1つにはオムニチャンネル化を進め、サービタイゼーションに舵を切るなどの活動により、変化するデマンドのあり方を適切に管理していくことが必要だといえる。また従来の「すり合わせ」によるクローズドな世界から脱して、「標準化・モジュラー化・自動化・データ連携」によるオープン化を進める戦略を検討する必要があるだろう。「ただし、それは全方位的なものではなく、例えばデマンド方向で一方向にオープン化するなど、どこをクローズドで残し、どこをオープンにするかを適切に見極める必要があるでしょう」と松尾氏は話す。
企業がグローバルSCMにおいて持続的な競争優位を築くには、地政学リスクや経済安全保障などを背景に生じるサプライボトルネックを的確に管理することが重要である。その上で、デジタルビジネス各社に主導権を奪われて「エコシステムの下請け」化することを防ぐためにも、デマンドの変化に常に注目し、サプライチェーン下流の管理を強化していくことが肝要だと言えるだろう。