「ご契約いただいた時が、お付き合いの始まり。」
——35年で築いた信頼の基盤
住友商事が工業団地ビジネスに本格参入したのは1990年代初頭のことだ。インドネシアを皮切りに、フィリピン、ベトナム、ミャンマー、インド、バングラデシュへと展開し、現在はアジア6カ国で計10カ所の工業団地を自社で開発・運営している。日本の総合商社が直接投資で工業団地を開発する例としては最大規模を誇る。
工業団地の総面積は東京ドーム750個に相当。入居企業は約640社にのぼり、そのうち約8割を日本の製造業が占める。多くは中小企業だ。働く従業員はおよそ24万人。「日系企業がアジアでものをつくり、それを世界に展開するために不可欠なプラットフォーマー」と住友商事の福田繁夫ユニット長は、同社の工業団地ビジネスをそう定義する。

工業団地ユニット
ユニット長福田 繁夫 氏
「なぜ、総合商社が工業団地を手掛けるのかと聞かれますが、それは単なる不動産賃貸ではなく、総合商社としての強みを活かせる事業だから。自社や関係企業がもつ材料、技術、物流などと連携させることで、日系製造業の生産活動を包括的にサポートし、Win・Winの関係を築くことができるからです」
中小企業が初めて海外進出する際、現地語もわからない、法制度や行政手続きもわからないといった課題は避けて通れない。そういった企業のチャレンジを支える場としても住友商事が果たしてきた役割は大きい。
ハードインフラ(道路・電気・水道)の整備はもちろんのこと、住友商事が力を入れているのがソフト面のサポートだ。言語や法律、行政手続きに精通した常駐の日本人スタッフが、入居企業の設立支援から日常的な相談対応までワンストップで幅広く寄り添う。「ご契約いただいた時が、お付き合いの始まり。」——これが同社の根本的なモットーだ。
新たな製造拠点として台頭するベトナム・タインホア
——第四タンロン工業団地(タンロン4)の挑戦
「チャイナプラスワン」の潮流を受け、製造業の生産拠点として世界的な注目を集めるベトナム。住友商事は1997年以来、ハノイ市内から車で約1時間圏内の地域に3つのタンロン工業団地を展開してきた。しかし、ハノイ近郊では大型の区画確保の難しさや、経済成長に伴うブルーワーカーの大量採用の難しさが顕在化しつつある。そこで目を向けたのが、新たなフロンティア、タインホア省だ。
タインホア省はホーチミン市、ハノイ市に次ぐベトナム第3の人口を擁し(省行政再編前のデータ)、賃金水準も比較的抑えられている。縫製業をはじめとする製造業がすでに進出しているが、今後はハノイ近郊の産業集積エリアの拡大に伴い、自動車・機械・電子部品など多様な業種のさらなる進出が期待される地域だ。
住友商事の黒木啓祐第二チーム長が担当する第四タンロン工業団地(タンロン4)は、高速道路ICからわずか5分という好立地で、ハイフォン港へも3時間でアクセスできる。2026年3月11日に着工し、完工は2027年初旬を予定。総事業費は約170億円、第一期の開発面積は約167ヘクタールにのぼる。操業に欠かせない電力・水インフラの安定供給のため、200年に一度の豪雨にも耐えうるインフラを設計(盛土実施、排水キャナル・貯水池設置など)。近年リスクが高まる台風への堅牢な備え(電線の地下埋設化)も整える。

工業団地ユニット
第二チーム
チーム長黒木 啓祐 氏
所在地 ベトナム タインホア省タインホア市
開発面積 167ha
設立年度 2025年(2026年より入居可能の予定)
入居企業数 ―(2025年現在、開発中)
開発事業者 住友商事株式会社
着工前の段階にもかかわらず、すでに自動車部品・電子部品・食品・包装資材など幅広い業種からの引き合いを受けているという。「将来的には30~50社の入居を見込んでいる」と黒木氏は語る。
タンロン4では、これまでのベトナムの工業団地でも実施してきた、入居企業向けの情報連絡会を開催する予定だ。現地法令や操業に関連する実務情報を共有し、企業間のネットワーキングも促進する狙いがある。さらに、タンロン4ならではの特長として黒木氏が挙げるのが、自然共生・自然再生への取り組みだ。工業団地の設計段階から環境への配慮を組み込み、現地の在来種を活用した緑地づくりにも取り組むなど、環境と調和する次世代型工業団地の姿を描く。単なる土地造成ではなく、インフラ、太陽光発電、DX(デジタルトランスフォーメーション)など、社内の様々な部門が連携し、入居企業に高度なインフラやサービスを提供できるのも総合商社ならではだ。
「次のフロンティア」バングラデシュ
——モデル経済特区「バングラデシュ経済特区」の可能性
バングラデシュは現在、製造業の進出先として急速に存在感を高めている。人口1.7億人超という巨大市場と若年労働力の豊富さ、そして依然として競争力のある人件費。中国とインド、ASEANのほぼ中間に位置する地理的優位性も見逃せない。ミャンマー情勢などの影響もあり、「次の工業団地開発の候補地」として世界の注目が集まる一方、縫製業以外の産業多角化が課題となっていた。
そうした中、投資環境を大きく好転させる2つの動きが相次いだ。2026年2月には民主的な総選挙が平和裏に実施され、BNP(バングラデシュ民族主義党)が議会の3分の2を制した。また同月には日本とバングラデシュの間でEPA(経済連携協定)が締結。関税の低減のみならず、投資に関するルールなども改善されることで、日本企業のバングラデシュへの進出に追い風が吹いている。
なにより新政権は投資促進、雇用創出を最重要課題と位置づけている。「経済政策重視のBNPによる政治的安定性確立の兆しの下、バングラデシュへの投資意欲が急速に高まりつつある」ことを、住友商事の朴正太第一チーム長は現地で肌で感じてきたという。

工業団地ユニット
第一チーム
チーム長朴 正太 氏
朴氏が担当するBSEZ(バングラデシュ経済特区、Bangladesh Special Economic Zone)は、首都ダッカ中心部から車で約1時間圏内のアライハザールエリアに位置する。日本政府の円借款によるインフラ整備が進み、洪水対策として、現地盤から+4メートルの盛土工事を実施。「100年に一度の大雨・洪水が起きても、工業団地が浸水しないというレベル」(朴氏)の高品質なインフラだ。
所在地 バングラデシュ ダッカ管区 ナラヤンガンジ県(ダッカ市内から約60分)
開発面積 190ha(拡張中)
設立年度 2019年
成約済企業数 11社(2026年3月末時点)
開発事業者 バングラデシュ経済特区庁(BEZA)、独立行政法人国際協力機構(JICA)、
住友商事株式会社
BSEZはバングラデシュ政府から唯一の「モデル経済特区」として認定されており、そのクオリティは公的にも評価されている。BSEZの強みは、第一に立地そのものの優位性、第二に高品質なインフラ、そして第三が、住友商事の最大の差別化要因とも言えるソフト面でのサポートだ。
そのソフトサポートの要となるのが、BSEZ内に設置された「ワンストップサービスセンター」と日本人常駐による支援体制だ。「工業団地をつくるにあたってはソフト面のサポートを行うセンター機能が不可欠とバングラデシュ政府に働きかけ、受け入れていただいた」(朴氏)。現地政府や経済団体との強力なコネクションも住友商事の強みの一つといえる。また、住友商事から日本人派遣員2名が常駐し、会社設立・各種ライセンス取得・行政手続き、さらには人材採用、日常的な相談対応まで全面的にサポートする。
「バングラデシュや工業団地事業全般に精通しているのは勿論のこと、入居企業様に寄り添い、そのお悩み解決のために全力を尽くせる優秀な人材を派遣させていただいております」と朴氏。派遣員が進出企業の社員に人間的に寄り添い伴走することは、現地での孤独感を軽減し、安定した操業への支えになるはずだ。
「共に現場を持ちながら共に成長を描ける事業」
——日本企業への熱いメッセージ
日本企業の海外進出は、件数で言えばピーク時に比べて減少傾向にある。しかし「まだまだチャンスがある」と福田氏は語る。すでに進出しているグローバルメーカーに対し部品やサービスを供給する企業の進出意欲は引き続き根強い。加えて、巨大な人口を抱えるアジアの内需市場を自社成長のバネにしたいという企業も増えている。
今後の事業展開においても、住友商事は地方自治体・金融機関・商社独自のネットワークを駆使して中小企業の海外進出を積極的に後押ししていく方針だ。特に近年は地場企業の海外進出を支援する地方自治体との連携を強化している。
「何よりありがたいのは、すでに我々の工業団地に進出している企業からの生のご意見。成長市場の中で安心して事業を営んでいるという声が、それに続こうとする企業の決断を後押ししてくれます」——入居企業の成功こそが、住友商事の工業団地ビジネスの最大の価値であり原動力だ、と福田氏は改めて強調する。
何もないアジアの広野に水や電気を引くところから始まった住友商事の工業団地開発。その35年の歴史は、各国の政治・経済・産業についての知見の集積や人的ネットワークの形成を促した。しかも、社会情勢や社会課題の変化に応じて、絶えずそれをブラッシュアップしていることがわかる。そうした経験の蓄積が、アジア進出を検討する日本企業にとって最大の安心感につながっているといえる。
「入居企業と共に同じ現場に立ち、共に成長を描ける」ことこそが、工業団地事業の醍醐味だ。その価値は、海外進出に挑む企業にとって大きな安心材料となるはずだ。



