日本の労働市場は大きなギャップを抱えている。働き手を求めながら人が集まらない現場と、本来の力を発揮できないまま埋もれている個人。このミスマッチに対し、テクノロジーと現場改革の両面から挑んできたのが「タイミー」だ。同社は「スキマバイト」という枠を超え、働くことを通じて人生の可能性を広げる社会インフラへの進化を目指している。AI時代の到来を見据え、労働の価値はどう変わり、企業と人はどう結び直されるのか。代表取締役・小川 嶺氏に、その構想と現在地を聞いた。

「1日だけ」が開く、
可能性の扉

株式会社タイミー

代表取締役

小川 嶺

 面接も履歴書も必要なく、1日だけ働くことができたら。そんな誰もが思い描いた働き方を可能にしたのがタイミーだ。アプリで仕事を選び、ワンクリックで申し込み。働いたその日に報酬を受け取れる。2018年に誕生したサービスは、少子高齢化による人手不足を背景に急速に広がり、登録者数は1200万人を突破(2025年10月末時点)。日本の労働人口の約15%が利用するサービスへと成長した。

 同社が掲げるのは、「一人ひとりの時間を豊かに」というビジョンと、「『はたらく』を通じて人生の可能性を広げるインフラをつくる」というミッションだ。その原点を、小川氏はこう振り返る。

 「学生時代に立ち上げたアパレル事業がうまくいかず、日雇いの仕事を探すために電話をしたり、登録会へ参加したりしていました。ただ、現場の雰囲気は行ってみなければ分からず、報酬の支払いもまちまち。もっとシンプルで、その日のうちにお金がもらえ、事前に情報が分かる仕組みがあればと思ったのです」

 18歳で祖父を亡くし、「人生の時間は有限である」と強く意識したことも大きく影響した。最も多くの時間を費やす「働く」時間を豊かにしたい。その思いから、タイミーは生まれた。

 そんな同社が大切にするのは、「まず一歩を踏み出せる状態」をつくることだ。
「未経験の業界と『自分にはこれしかできない』という先入観。この二つが、多くの人の可能性を狭めています。しかし、1日だけなら気軽にトライできますし、その体験が先入観を取り払ってくれることもあります」(小川氏)

 例えば3Kのイメージが先行しがちな物流の仕事も体験するとその印象は大きく変わる。実際に、コロナ禍で打撃を受けた飲食業界の人々がタイミーを通じて物流現場で働き始め、環境や相性の良さに気づいてそのまま定着する例も多くあったという。タイミーでの経験が、本人すら気づいていなかった新しい可能性の扉を開いた一例である。

AI時代の「はたらく」と
「信頼」の再定義

 AIやロボットの進化が加速し、自動化が進む一方、「人にしかできない仕事」の価値は再評価されつつある。米国では「ブルーカラー・ビリオネア」という言葉も生まれ、日本でもエッセンシャルワーカーの賃金は上昇傾向にある。こうした環境変化を踏まえ、小川氏が次に掲げるテーマが「時間の切り売りから信頼の積み重ねへの転換」だ。

 タイミーでは、働くたびにGood率、バッジなどの勤務実績がデータとして蓄積され、「信頼」として積み重ねられる。従来の信用が学歴や職歴といった静的な情報に依存していたのに対し、AI時代に重視されるのは「現場でどれだけ価値を発揮してきたか」という動的な実績だ。

 この信頼をキャリアへとつなぐ象徴が「タイミーキャリアプラス」である。タイミーを通じた勤務実績に基づく「タイミー履歴書」を用い、書類選考や面接をスキップし、働きぶりだけで正社員としての採用が決まる事例も生まれている。

 例えば障がい者手帳保有のワーカーは、正社員を目指し就職活動を続けるも面接にすら辿りつけずにいた。しかし、物流の現場で実績を重ねた結果、その正確さと誠実さが可視化され、企業側から「正社員として迎えたい」と声がかかった。書類では伝わらなかった価値が、タイミーでの実績によって見いだされた瞬間だった。

“信頼の好循環”が回る社会インフラの構築

 「懸命に働いた実績が可視化され、それが次のより良い仕事や高い時給、ひいては金融的な信用につながっていく。タイミーが目指すのは、積み重ねた“信頼”が報われる社会をつくること。そして、その“信頼の好循環”が回る社会インフラを2030年までに完成させることです」と小川氏は意気込みを語る。

 この構想を現実にするには、タイミーを「日本になくてはならないサービス」へと進化させる必要がある。

Timee VISION 2030 |積み重ねた「信頼」が報われる社会をつくる
https://corp.timee.co.jp/vision-2030/


 同社は物流・小売・飲食・ホテルの他、漁業・農業などの一次産業、さらには介護・福祉領域にも本格参入。導入事業者数は20万社を超えた(2025年10月末時点)。一方、スキマバイトだけではなく、長期アルバイトや正社員へつながるキャリアの導線を整備。働き方を多様化させることで、一気にサービスの拡大を図る構えだ。

 こうした進化の土台となるのが、ワーカーファーストの姿勢とそれを現場で具現化するBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)だ。

 日本の深刻な人手不足に向き合うには、業務そのものを「未経験でも即戦力として動ける形」へと組み替える必要がある。物流倉庫では作業を細分化し、初めての人でも迷わず動ける工程設計を実施。営業は現場に入り、どこに負荷が生まれ、どの作業が機能しづらいのかを把握し、改善まで伴走する。

 再構築された工程は働き手にとって“登れる階段”となる。小さく切り出されたステップを一つずつ越えるたびにスキルと評価が蓄積され、「信頼パス」として可視化される。未経験でも段階的に挑戦の幅を広げられ、努力が未来の選択肢へとつながっていく仕組みだ。

 一方で、社会インフラを担う以上、安心・安全の確保は大前提だ。タイミーでは、不正利用対策の強化や求人チェックの厳格化などこれまでも継続的に基盤整備に多くのリソースを投じている。その根底には、「信頼は安心・安全な環境の上にしか積み上がらない」という考えがある。

 社会貢献にも大きく寄与する。2025年春の米騒動では、備蓄米を精米して市場に流通させる工程で人手不足が深刻化。タイミーはサービス利用料無料の取り組みを実施し、供給の加速を下支えした。緊急時に労働力を柔軟に動かせるという特性が、社会インフラとしての価値を明確に示した事例となった。その特性を生かし、今後も業界団体と災害時における連携の強化に取り組んでいく。

 さらに、70を超える自治体と連携し、職業体験の設計やシニア就労支援を通じて地域が抱える人材課題にも踏み込む。若者が「地元に仕事がない」と都市へ流出し、地元企業は「人が来ない」と嘆く。このミスマッチを埋めるため、教育機関や地域企業と連携し、地元に眠る働く機会を可視化。その結果、求人掲載件数は増え、人手を確保できたと喜びの声が届くようになった。

 「自分たちでつくってきたものをいい意味で壊しながら、あるべき姿に近づけていく。労働の在り方が変わる時代だからこそ、企業と働き手をもう一度つなぎ直し、その先に積み重ねた信頼が報われる社会をつくりたいと考えています」

 小川氏の言葉は、タイミーが「攻めの加速」へとギアチェンジしたことを確信させた。

 スキマバイトから始まったサービスは、働く価値そのものを再設計する段階へ。タイミーは、“社会にとってなくてはならない存在”となるべく、その歩みを加速させていくだろう。

※記事中の肩書きやデータは公開時点の情報です

株式会社タイミー

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