2030年へのロードマップ脱炭素の5分野で2兆円を投資 「脱炭素はビジネスチャンス」CDPの最高評価「トリプルA」を2年連続で受賞 積極的な情報開示を通して仲間を募る「Be the Right ONE(代替不可能・唯一無二の存在)であるかどうか」

豊田通商グループは、脱炭素をコストではなくビジネスチャンスと捉え、産業のライフサイクル全体で価値を生み出そうとしている。再生可能エネルギー(再エネ)や資源循環などを含む5つの分野にワーキンググループ(WG)を置き、2030年までに合計2兆円を投資する。風力発電とデータセンター(DC)を組み合わせてエネルギーの地産地消とDCの再エネ化を目指す事業や、再エネ由来の電力で低炭素水素を製造する事業など、従来の常識を超えるユニークな取り組みが、世界的に評価されている。同社の脱炭素事業をリードする唐戸潤氏に、全体像を聞いた。

2030年へのロードマップ脱炭素の5分野で2兆円を投資

脱炭素、再エネ、資源循環など、多彩な取り組みで業界をリードしています。環境経営の概要を教えて下さい。

豊田通商
執行幹部CTO(Chief Technology Officer)
唐戸 潤 氏

当社グループは「未来の子供たちにより良い地球を届ける」をミッションと定め、「リーディングサーキュラーエコノミープロバイダー」をありたい姿として掲げて脱炭素社会の実現を目指しています。「エネルギーをつくる」「エネルギーを集める・整える」「モノをつくる」「モノを運ぶ」「モノを使う」「廃棄物を処理する」「再利用する」といった産業ライフサイクルの各段階において、事業活動を通じてカーボンニュートラルに貢献しています。

豊田通商
執行幹部CTO(Chief Technology Officer)
唐戸 潤 氏

2021年7月に「カーボンニュートラル宣言」をしました。2030年までに、スコープ1と2を50%削減する計画です(2019年比)。また2025年8月、これを進化させ、スコープ3までを含めたネットゼロ宣言を行いました。商社として自社排出だけではなく、サプライチェーン全体の排出量削減を目標にすべきと考えたからです。これを確実に進めていくため、社長直轄の全社横断的な組織として5つのテーマでワーキンググループ(WG)を立ち上げました。「再エネ・エネマネ」「バッテリー」「資源循環・3R」「水素・代替燃料」「Economy of Life」の5つです。各テーマに関係の深い営業本部の執行役員がリーダーとなり、各本部のメンバーが横断的に参加しています。

5つのWGで進めるカーボンニュートラルの戦略マップ

当社では社長が陣頭指揮を執る「カーボンニュートラル推進会議」を月次で開き、各施策の進捗を確認しています。5つのWGを中心に各営業本部が横に連携し、新しい事業の創出と確実な前進を目指す体制です。2030年までに、5分野の合計で2兆円の投資を計画しており、具体的な投資実行は各WGが担っていきます。また同会議では営業本部毎のスコープ1・2・3削減ロードマップの進捗共有も行っており、脱炭素を事業機会として成長につなげる「Opportunity」と、排出削減などネットゼロ達成に必要な「Must Do」の両輪で、カーボンニュートラルを推進しています。

すでに具体的な活動事例や成果はありますか。

典型的な事例として、グループ会社のユーラスエナジーホールディングス(ユーラスエナジー)と連携して進めている、国内初の「風力発電所直結型グリーンデータセンター事業」があります。ユーラスエナジーは、1980年代から国内外で再エネ事業を展開してきたパイオニアであり、今日では風力・太陽光の発電容量で国内最大の実績を持っています。

同社は北海道の宗谷地域で、10件の風力発電所を運営しています。総連系容量は525.5MWに達し、国内でも最大級の規模です。風況に恵まれた風力発電に適した地域である一方、地域内の電力需要が小さく、また送電網の容量も不足しており、新たな風力発電所の建設が難しいという課題を抱えていました。

この課題を解決するため、風力発電所直結のデータセンター(DC)を設置し、電力をコンピューティングパワーに変える「宗谷グリーンデータセンターI(仮称)」の建設に向けて動き出しました。26年4月に着工し、27年中の稼働を目指しています。「エネルギーの地産地消」と「DCの地方分散化」の2つの価値を同時に実現します。

風力発電所の近隣地に建設する「宗谷グリーンデータセンターI(仮称)」の完成予想図。豊田通商グループは、本事業を通じて再エネのさらなる普及拡大とデジタルインフラの強化を図る

また、豊田通商、ユーラスエナジー、岩谷産業の3社が連携し、陸上風力発電で作った電力で水を電気分解し、低炭素水素を製造する事業も進めています。製造した低炭素水素は愛知製鋼の工場へ供給し、特殊鋼を製造する計画です。2025年9月30日に経済産業省の「低炭素水素等供給等事業計画」の第1号案件に認定されました。年間1600トンの低炭素水素を生み出す、国内最先端の取り組みです。

「脱炭素はビジネスチャンス」CDPの最高評価「トリプルA」を2年連続で受賞

豊田通商は、なぜそのような取り組みができるのでしょうか。

当社は得意分野がはっきりしたユニークな道を進む「異能の総合商社」を掲げています。風力発電、DC、水素の製造、金属や樹脂のリサイクルなど、当社には様々な分野に精通する人材が揃っています。一方で、比較的営業本部間の連携は取れてはいるものの、これまでは本部単位でのビジネスが中心となっていました。そこで、5つのWG及びカーボンニュートラル推進会議を組成し活動を本格化させたことで、全社視点での取り組みと部門を超えた連携を促し、専門性の高い人材の連携・共創が加速し始めています。

脱炭素社会の実現に向けて多くの企業が動く中、豊田通商の取り組みにはどのような特徴がありますか。他社に見られない強みや、社内外の連携が広がりやすい理由を教えて下さい。

最大の特徴は、「脱炭素をビジネスチャンスと捉えている」ことです。当社は早くから未来を見据え、化石燃料の輸入や化石燃料由来の発電事業から撤退してきました。こうした長期的な視点を持つ姿勢には、当社がトヨタグループの一員であることも影響していると感じています。

トヨタ自動車は、世界に先駆けてモビリティ・カンパニーへの変革を進めています。それに伴い、豊田通商に求められる役割も大きく変化しています。国際情勢やビジネス環境の変化が加速する中で、必要とされるサプライチェーンを安全かつ確実に確保することはもちろん、各社のニーズに応じた再エネの開発や、アフリカを含む新興国へ商圏を広げる実行部隊としての役割も期待されています。

トヨタグループ内の商社であり、自動車バリューチェーン全体を幅広く俯瞰できることから世界の変化をいち早く捉え、先回りして行動できるポジションにあります。これは、当社ならではの大きな強みだと考えています。

豊田通商の取り組みは、外部からどのように見られ、評価されていますか。

おかげさまで、様々な評価をいただいています。環境情報開示を評価する国際機関「CDP」の「気候変動」「フォレスト」「水セキュリティ」の全3部門で、2年連続で最高評価のAリストに選定いただきました。世界をリードする2万2,000社を超えるグローバル企業が参加する中で、2年連続で全3部門Aリストに選定された企業は世界でわずか8社にとどまり、日本企業では当社のみという極めて稀少な評価です。

また、日本経済新聞社が脱炭素への取り組みを評価する「NIKKEI GX500」(2025年版)では、最高評価の「S」をいただき、総合ランキング第2位という結果になりました。このような評価を励みに、今後も着実に取り組みを進めていきたいと思います。

積極的な情報開示を通して仲間を募る「Be the Right ONE(代替不可能・唯一無二の存在)であるかどうか」

環境に関する情報開示を積極的に進めている狙いは何でしょうか。

脱炭素社会は、1社だけで実現できるものではありません。だからこそ、パートナーや仲間を募るために、情報開示が欠かせないのです。

当社は本業のど真ん中で脱炭素と向き合って、具体的な事業を構築しています。その本気度を客観的な事実とデータで示し、取り組みに賛同してくれる企業や個人を広く募る必要があります。仲間が増えるほど、脱炭素の取り組みは一層推進しやすくなります。2025年には、総合商社として初めて「Science Based Targets(SBT:科学的根拠に基づく目標)」に申請し、対外的なコミットを明確に示しました。

そのSBT認定では、「スコープ3を2030年までに27.5%削減(2019年比)」と設定しました。その実現に向けた重要テーマは何でしょうか。

スコープ3は、サプライチェーンの上流から下流までを全て含みます。当社の場合、概算で実に1.5億トンものCO₂排出量と向き合う必要があります。

その中でも、自動車から回収した素材を再び自動車に戻す「水平リサイクル」は大きなテーマです。とりわけ樹脂の再生は難しい領域です。具体的な取り組みとしては、子会社のプラニックが、廃車の解体後に残るASR(自動車破砕残さ)から、再生しやすいポリプロピレンを精密に選別し、自動車製造へ戻す活動を進めています。

リサイクルでは、素材ごとの選別技術が重要です。回収した素材を仕分け、精度を高めていく工程は欠かせません。この取り組みを強化するため、2025年7月に米国でトップクラスの回収ネットワークを持つRadius Recycling社を買収し、100%子会社化しました。

こうしたリサイクル材や再エネなどをビジネスとしてバリューチェーン上の企業に供給することで、自ずと当社のスコープ3が削減するという形で排出削減と企業成長を両立させています。

脱炭素社会の実現に向けた2兆円の投資は、どのように進められますか。

2兆円は5つのWGの為の投資枠です。既存ビジネスの設備更新や規模の拡大とは別に、2兆円を投資します。

投資判断の軸は、当社のビジョン「Be the Right ONE(代替不可能・唯一無二の存在)」に資するかどうかにあります。風力や太陽光の発電所をただ増やすだけでなく、私たちは「この事業で当社だからこそ生み出せる独自の価値は何か」を常に問い続けています。財務リターンやCO₂削減効果はもちろん評価しますが、それだけでは不十分です。容易に模倣されない強みを発揮できるかが重要です。

今後の展望について、教えて下さい。

私たちはミッションである「未来の子供たちにより良い地球を届ける」を実現する為に、日々強い想いで挑戦しています。しかし脱炭素は当社だけの努力では実現しない地球規模の課題です。私たちは「Be the Right ONE」を掲げ、「異能の総合商社」として独自の価値を追求し続けていきます。私たちの理念に共感し、ともに新しい価値を追求していただける企業や団体を広く求めています。お互いの強みを掛け合わせ、足りないピースを補完しながら、大きな変革を実現していきましょう。

また、豊田通商グループは自らの「異能」を存分に発揮し、サステナブルな成長をともに目指していただける仲間を募集しています。これまでのキャリアで培ってきた経験や視点を、他の「異能」と掛け合わせ、地球をより良くする事業に挑むことができる環境がここにあります。

記事中の肩書きやデータは2026年3月時点の情報です

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