井坂:世界的にものづくりの変革の機運が高まっているわけですが、資金や人材が豊富な大企業が先に進む一方で、慎重に構えたままという企業が依然として数多くあります。このままでは、いわゆる二極化が進むのではないかと懸念しています。
革新の動きは大企業がリードする形で製造業全体に広がるはずです。遠くない将来には、中堅/中小企業にも及ぶでしょう。二極化の傾向を放置しておくと、業界の変化に追随できない企業の中に事業を維持できなくなるところも出てくる恐れがあります。この結果、製造業全体の競争力が伸び悩むことになりかねません。
先頭グループの多くが2020年を一つのマイルストーンにしています。後に続く中堅/中小企業が追い付くのに10年かかったとしても2030年には、製造業の革新が業界全体に広がることになります。
川野:欧州のものづくり改革のロードマップを見ると、2030年あるいは2035年を一つの目標にしています。つまり、2020〜2030年の間に製造業は大きく変わる可能性があります。製造業だけではなくて、もしかしたら農業などほかの分野にも生産性を向上させる様々な仕組みが及ぶかもしれません。
この過程で、様々な足かせになっている既存の仕組みの「断捨離」も必要なのではないかとも感じています。税制の優遇や償却の特例のような制度を整備して、あらゆる規模の企業が最新のデジタル技術を試しやすい環境が整うとよいと思います。
井坂:IoTだけではなくてAI(人工知能)やAR(拡張現実)のような革新的な新技術がどんどん出てきています。これらの技術が導入しやすい環境ができて、実際に導入する企業が増えれば、そこからまた新しいアプリケーションのアイデアが出てくるでしょう。それによって、製造業を革新する動きが加速するかもしれません。
いずれにしろ技術はあくまで道具であって、何をしたいのかと問われたら、やはり人の仕事のレベルを上げていくことだと思います。そのために、「まずは一歩を踏み出すべき」というメッセージを製造業の皆さんに訴えていきたいと思っています。本日はどうもありがとうございました。