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本麒麟はなぜ、ビールになるのか 8年間磨き続けた「うまさ」の真価

2026年10月、ビール系飲料の酒税が一本化され、市場は大きな転換点を迎えた。
この変化を見据え、11月4日にビールへと生まれ変わるのが、キリンビールの「本麒麟」だ。
その構想は、2018年のブランド誕生時から描かれていたという。
なぜ、8年の歳月をかけてビール化に至ったのか。
そして競争環境が変わる市場で、どのような存在を目指すのか。
発売から現在に至るまでブランドに携わってきた、キリンビール執行役員マーケティング部長の今村恵三氏と、
ビール類カテゴリーマネージャーの木村正一氏に、日経トレンディ発行人の勝俣哲生が聞いた。

酒税一本化で変わるビール市場 選ばれる理由は「うまさ」にある 酒税一本化で変わるビール市場 選ばれる理由は「うまさ」にある

勝俣 2026年10月1日、ビール系飲料の酒税が一本化されました。市場にとって大きな転換点ですが、生活者の選び方はどう変わっていくと見ていますか。

今村 お客様の購買行動はここ5〜6年で少しずつ変化しています。以前は決まった銘柄を飲み続ける方が多かったのですが、今は複数のブランドを選ぶ方が増えています。年間6ブランド程度を購入するお客様の割合は2020年には4割未満でしたが、現在は約6割に拡大。酒税の段階的な改正が進む中、ビールの楽しみ方はより多様化しています。今回の酒税一本化によって、その動きはさらに広がっていくのではないでしょうか。

勝俣 従来のように価格帯やカテゴリーで飲み分けるだけでなく、味わいや気分に合わせて複数のブランドを選ぶようになってきたわけですね。

木村 ブランドの選び方が多様化している一方で、ブランドを選ぶ際に最も重視されるものは、以前から変わっていないと思います。それは味わいです。「本麒麟」も2018年の発売当初から、徹底して本格ビールらしいうまさを追求してきました。選択肢が広がっても、この価値が変わることはないと考えています。

今村 私は、ビールカテゴリーの活性化を支えるのは、何よりも品質競争だと思っています。各社がよりうまい商品を開発し、お客様が新しいうまさに出会う。それによってビールを楽しむ機会が増え、市場全体が活性化していく。今回の酒税一本化は、その大きなチャンスとなるはずです。

キリンビール 執行役員
マーケティング部長

今村 恵三 氏

勝俣 その中で「本麒麟」は、ついに発泡酒②(旧新ジャンル)からビールへと進化します。今村さんは「本麒麟」の発売時はビール類カテゴリーマネージャーを務めていたと伺いました。実は、2018年の発売時からビール化を構想していたそうですね。

今村 はい。私たちは当時から、酒税が一本化される時代を見据えていました。だからこそ、新ジャンルというカテゴリーにとらわれず、最初から本格的な味わいを追求してきたのです。ブランド名に「麒麟」の二文字を冠したのも、そうした覚悟の表れでした。

木村 私は、発売当時はブランドマネージャーを務めていました。今でも覚えているのですが、開発当時、私が「新ジャンルらしい味わい」という言葉を使ったところ、今村から「それは違う」と明確に指摘されました。「我々が目指すのは、新ジャンルらしいうまさではなく、本格ビールらしいうまさだ」と。その考え方は8年間、一度も変わっていません。

好調であっても進化を止めない 8年間貫いたブランドの哲学 好調であっても進化を止めない 8年間貫いたブランドの哲学

勝俣 「本麒麟」は発売当初から大ヒットしましたが、それでも長くブランドを育て続けるのは簡単ではありません。苦しい時期もあったのでしょうか。

木村 最もつらかったのは、発売から数カ月で出荷停止になってしまったことです。予想以上に好評をいただき、生産が追いつかなくなりました。製法を少し変えてでも、お客様に早く商品を届けるべきだという声もありましたが、私たちは採用しませんでした。品質を変えてまで供給を優先することはできない、との判断からです。

今村 例えば、「本麒麟」の特長である「長期低温熟成※」の期間を短くすれば、生産効率を高めることもできたでしょう。しかし、お客様が評価してくださった味わいを変えてしまっては意味がありません。そこは譲れない一線でした。※ キリンビール伝統の低温熟成期間を1.2倍にした製法/当社ビール比

キリンビール マーケティング部
ビール類カテゴリー戦略担当
カテゴリーマネージャー

木村 正一 氏

勝俣 「本麒麟」らしさがうかがえるエピソードですね。そこから8年経った今も、多くの人に支持される理由はどこにあるとお考えですか。

今村 大きく3つあります。1つは、徹底したお客様理解です。「本麒麟」に求められるうまさとは何か。8年間繰り返し話を伺い、お客様と向き合い続けた結果が、毎年のリニューアルと進化につながっています。

2018年の発売翌年から毎年リニューアルを行い、
「本格ビールのようなうまさ」を追求し続けてきた「本麒麟」。
その進化は、いよいよ当初から構想していた
2026年のビール化へつながる

2つ目は、中味づくりへのこだわりです。開発では膨大な数の試作品をつくり、最終候補を絞り込んで、試飲を重ねています。その目的は、味をAからBに変えることではなく、Aの味をいかに高められるか。ほんの小さな誤差も比較しながら、丹念にうまさを磨き上げていくのです。これまで実施した試飲回数は、4万回以上にもなります。

そして3つ目は、ブランドの一貫性です。ブランドというのはメーカーのものではありません。お客様の心の中にあるものだと考えています。担当者が変わったからといって、その本質を変えるのはメーカーの都合にすぎず、やってはいけないことです。

勝俣 その点、「本麒麟」は顧客が抱くイメージを一貫して守り続けていますよね。しかし、うまさという王道で勝負し続けるのは、険しい道でもあります。競合も当然、そこを狙ってきますから。

日経トレンディ 発行人

勝俣 哲生

木村 それでも、逃げずにやり続けることが大切だと思います。独自性を求めて別の方向に進めば、ブランドの軸がぶれてしまいますから。「本麒麟」は本格的なうまさを追求するという一点に集中してきました。

勝俣 うまさの進化は、リニューアルのたびに実現されてきました。でも、それを毎年繰り返すのは大変ですよね。

木村 「なぜ売れている商品の中味を変えるのか」と問われることもあります。でも、私たちの答えは明快です。「もっとうまくできる方法が見つかったなら、迷わず取り入れる」と決めているからです。結果的に、それが毎年続いただけのことで、リニューアル自体が目的だったわけではありません。

今村 ビールづくりに、完成はあっても完璧はありません。お客様の嗜好も食生活も変化しますから、進化を止めれば時代とのずれが生じてしまう。今回のビール化も、私たちは「正常進化」と捉えています。ビールにすることがゴールではなく、よりうまい「本麒麟」を実現するための手段なのです。

「本麒麟」らしさを磨き上げ「あなたの一番うまい!」をビールでも 「本麒麟」らしさを磨き上げ「あなたの一番うまい!」をビールでも

勝俣 本格ビールとなった「本麒麟」は、2026年11月4日より全国発売されます。改めてその特長を教えてください。

木村 最大のポイントは、飲みごたえと飲みやすさの両立です。これまでの「本麒麟」はアルコール度数6%でしたが、今回は5%に変更しました。その一方で麦芽の比率を高めることにより、しっかりした飲みごたえを実現しています。また今回は、麦芽100%ではなく、あえて大麦を組み合わせて「麦100%」を採用しているのも特長です。過去のリニューアルで培った麦芽や大麦の知見を生かすことで、より「本麒麟」らしいうまさを引き出すことができました。

今村 今はビールに限らず、飲料全体でライト化、ソフト化の潮流があります。ただ、単に軽くするだけでは本格的な飲みごたえが失われてしまいます。この相反する価値をどう両立させるかも、開発の課題でした。

麦芽の使用比率を高め、
大麦を組み合わせた「麦100%生ビール」に。
これにより、麦由来の豊かな飲みごたえと
すっきりした飲みやすさの両立を実現

勝俣 味わいだけでなく、パッケージも刷新されています。

木村 変わったことを強調しすぎず、進化を感じていただけるようなデザインを意識しました。例えば、赤いボディカラーや聖獣のマーク、「本麒麟」の堂々としたロゴは、お客様にとってブランドを象徴する要素です。それらを大切にしながら、赤の質感や細部のデザインを見直しました。

今村 ロゴも少し小さくしています。ビールになったことを声高に主張するよりも、余白を生かすことで落ち着きや品質感を表現したかったからです。実際、長く愛されるブランドほど、基本となるデザインを守りながら、時代に合わせて磨いているものです。「本麒麟」も、そうしたロングセラーブランドの仲間入りを目指しています。

ベースカラーである赤の上質感を高めるとともに、
新エンブレムの採用により「本格ビール」への進化を表現。
より一層本格的なうまさを期待させるパッケージに

勝俣 もともとうまさを追求してきた「本麒麟」らしさと、ブランドの矜持が感じられます。

木村 8年間ずっとご愛飲いただいてきたブランドなので、大胆なパッケージ変更でお客様の期待を裏切ることはできません。コミュニケーションにおいても、「本麒麟」がより「本麒麟」らしく進化したことをお伝えしていきたいと考えています。

今村 「本麒麟」は、発売当初から「あなたの一番うまい! になる」ことを掲げてきました。お客様と交わしたこの約束を、これからもずっと守り続けていきます。

価格を超えた「うまさ」を究めビール市場の活性化を目指す 価格を超えた「うまさ」を究めビール市場の活性化を目指す

勝俣 新しいビール市場では、エコノミー、スタンダード、高価格ゾーンといった価格帯を行き来しながら、複数のブランドを選ぶ人が増えそうです。その中で「本麒麟」は、どのようなポジションを目指すのでしょうか。

木村 価格帯としては、エコノミーに位置している状況です。ビールになったからといって、急に贅沢感を訴求するようなことは考えていません。お客様が「本麒麟」に期待されるのは、本格ビールらしい味わいと品質感です。その中核価値を変えず、正々堂々とうまさを磨き続けていきます。

今村 今後は、スタンダードビールを基準に、味わいや価格、ブランドのイメージなどで飲み分けるお客様が増えていくでしょう。その中でも「本麒麟」は、日常の定番ビールとして選ばれるブランドであり続けたいと思っています。

勝俣 本質的なうまさを求めている人たちにとっては、これがスタンダードになっていくかもしれませんね。

木村 「本麒麟」は、お客様から「安いのにうまいね」とよく言われます。これは非常にありがたい評価ですが、「安いのにうまい」と言われているうちは、まだブランドとして十分ではありません。今回のビール化を通じて、「こんなにうまいのに安くていいの?」という反応が生まれるようなブランドに育てていきたいと思っています。

今村 私は、身近な価格帯の商品にこそ、メーカーの企業姿勢が表れると思っています。価格帯にかかわらず、持てる技術と情熱を惜しみなく注ぎ、最高の品質を追求する。「本麒麟」は、まさにそれを体現してきたブランドです。

勝俣 では最後に、今後の展望とメッセージをお願いします。

木村 目指すのは、日本で最も多くのお客様に選んでいただけるビールになることです。「本麒麟」をきっかけに、ビールを飲んでみようと思うお客様が増えれば、カテゴリー全体の活性化にもつながります。そのためにも、まずは新しい「本麒麟」のうまさを、多くの方に知っていただきたいと考えています。発売後もキャンペーンなどを通じて飲用機会を広げていきますので、ぜひ皆さまも一度体験してみてください。

今村 「本麒麟」にとって、ビール化は1つの大きな通過点に過ぎません。同時に、ビールの魅力や価値をあらためて伝える絶好の機会だと考えています。「ビールってやっぱりいいな」と思っていただけるきっかけの1つとなれるよう、「本麒麟」はこれからも「あなたの一番うまい!」を探究し続けてまいります。

取材で最も印象に残ったのは、「ブランドはメーカーのものではなく、お客様の心の中にある」という言葉です。頭では理解していても、実際に貫けているブランドはどれほどあるでしょうか。

「本麒麟」は、発売直後に出荷停止に追い込まれたときも、熟成期間を縮めて供給を優先する道は選ばなかったそうです。この8年間で重ねた試飲は4万回を超え、「あなたの一番うまい!になる」という顧客との約束を、ブランド担当者が変わっても守り続けてきた。その一貫性こそが、このブランドの強さなのだと感じます。

もう1つ心に残ったのが、「身近な価格帯の商品にこそメーカーの企業姿勢が表れる」という言葉です。価格が安い商品ほど、持てる技術を惜しみなく注ぐ。その矜持が、「こんなにうまいのに安い」という驚きを生み出しています。

酒税が一本化され、ビール市場は価格ではなく中味で選ばれる時代に入りました。各社がうまさを競い合えば、ビールを楽しむ人はきっと増えていくでしょう。8年越しでビールへと進化した「本麒麟」も、市場を活性化させる起爆剤になりそうです。