「日経トレンディ」の人気企画「2018年ヒット商品ベスト30」に、今回唯一のアルコール商品が登場した。キリンビールの『本麒麟』だ。今年3月の発売以来、3カ月で1億本を突破する凄まじい“売れ行き”に加え、「力強いうまさとコク」にみる“新規性”、そして多くのビール類飲用者を新ジャンルに呼び込んだ“影響力”、の3つが高く評価されたかたちだ。

久々の大型新ブランドの登場に、日経BP総研 上席研究員の品田英雄も大注目。『本麒麟』の魅力とここまで売れている理由について、キリンビール株式会社 代表取締役社長の布施孝之氏に直撃した。

「お客様第一」の発想から生まれた、新しいうまさ

品田 新ジャンルが登場してから14年。成熟期を迎え、爆発的なヒットが生まれにくくなったといわれるなか、『本麒麟』は発売直後から絶好調の売れ行きです。日経トレンディの恒例企画「ヒット商品ベスト30」にも、数多の商品やサービスを抑えて堂々のランクインを果たしました。

布施 一報を聞いたときは、心から嬉しく思いましたね。誠心誠意を込めて作ったものがお客様に支持していただけた、という自信につながりました。この結果を受けて、お客様にあらためて感謝申し上げるとともに、こだわりをもって開発・生産・営業に励み、お客様に『本麒麟』を届けてくれた社員全員にお礼を言いたい気持ちでいっぱいです。本当にありがとう。

品田 『本麒麟』は、発売から3カ月で1億本を突破し、『キリン のどごし<生>』以来13年ぶりの大型新商品といわれています。ここまで爆発的にヒットした理由は、どこにあるとお考えですか。

布施 素材と製法へのこだわりなどいろいろありますが、最も大きな理由は、会社の組織風土が変わったから。それが大前提にあります。一言でいうと、「お客様のことを一番に考える会社」を目指した。開発から生産、マーケティング、営業に至るまですべての判断基準のものさしを「お客様」に置き換えたのです。我々が経験上「うまい」と信じて作っているビールも、「お客様にとって本当のところはどうなのか」と徹底的に突き詰め、プロダクトアウト的な発想を排除し、お客様を真に理解するところから始めたのです。

品田 そこで見えてきた「お客様」像とは?

布施 現在、ビール類家庭用(量販)市場で約5割のシェアを占めているのが、新ジャンル。いわばお客様に最も身近な商品なのです。でもお客様のお声を聞いてみると、「本当はビールを飲みたい」のに、「安いから飲んでいる」というご意見も多かった。そうしたお客様にご満足いただくためには、ジャンルやカテゴリーを超えて、本当にうまいものを届けることこそが我々の使命だと考えました。

品田 そうしたお客様を満足させるために、『本麒麟』ではどんな挑戦をされたんですか?

布施 目指した本格的なうまさを実現するために、3つのポイントに注力しました。1つは、『キリンラガービール』にも使われているドイツ産ヘルスブルッカーホップを一部使用した点です。このホップは、爽やかな香りと上質な苦みを特徴とし、直近市場に増えている、華やかでフルーティーな香りとは対照的。これだけでも味わいはかなり変わります。2つ目は熟成期間。当社主要新ジャンル比で1.5倍もの時間をかける長期低温熟成を行うことで、雑味を抑え、味を澄み渡らせてコクを高めています。長期化することで生産効率は落ちるのですが、お客様調査では長期低温熟成のほうが「本格的な味がしてうまい」というお声もあり、この製法を採用しました。これも、お客様のことを一番に考えて現場が動いた結果です。

品田 「お客様第一」の価値観から生まれたこだわりなんですね。3つ目のポイントは?

布施 飲みごたえのある強いボディを実現するために、アルコール度数を6%としました。こちらもお客様調査において、新ジャンルで一般的な5%よりも6%のほうが圧倒的に評価が高かったためです。結果、「今までにない満足感がある」とのご評価をいただいています。

うまい、楽しい、幸せ。ビールの本質的な魅力を追求して

品田 和名の「麒麟」を冠したネーミングや、インパクトのある赤いパッケージも、『本麒麟』の特徴です。店頭でもとても目立っていますね。

布施 インパクトあるでしょう? これでダメならもう後がないっていう覚悟で、パッケージの色はキリンのコーポレートカラーである赤を、前面にキリンのシンボルである聖獣ロゴを採用しました。

品田 パッケージからも“本気感”がヒシヒシと伝わってきます。とはいえ、「麒麟」の文字や聖獣ロゴ、コーポレートカラーを新ジャンルに使うにあたっては議論の中で反対意見もあったのでは?

布施 それはありましたね。以前なら、議論の結果不採用ということもあったかもしれません。でも『本麒麟』に関しては、味だけでなくパッケージにおいてもお客様へ事前に徹底調査をし、お客様から高い支持をいただいています。その絶対的なバックボーンがあるので、社員も自信を持って提案できるし、上層部もそれならと納得しやすい。そういう企業風土に変わってきたからこそ、『本麒麟』のような商品を世に出すことができたのです。

品田 なるほど。企業風土の変化が影響していたのですね。会社の空気が変わったな、と感じられたのはいつ頃からですか?

布施 今年(2018年)からですね。そのドライバーとなったのが『本麒麟』であることは間違いありません。発売直後から勢いよく売れたおかげで全社に弾みがつき、「お客様第一」のものづくりが成功したことで社員のマインドも向上しました。こうした好循環を生み出せたことを考えると『本麒麟』はキリンビールにとって極めて大きな意味を持つ、象徴的なブランドだといえるでしょう。

品田 『本麒麟』でスタートダッシュを切った2018年。年末の売り上げも期待できそうですね。最後に、キリンビールさんのものづくりに対する想いや今後の目標についてお聞かせいただけますか。

布施 足元の数字はよくても、全体的なトレンドとしてビール類のマーケットが縮小しているのは事実です。昔と比べて、ビール類に触れる機会、魅力を感じる場が減ってきているのでしょう。でもビール類の持つ価値は今も昔も変わらず、おいしく楽しく飲んで、幸せな気分になれるということ。その魅力をお客様に広くお伝えするために、メーカーとしては「お客様に望まれる味」を探り続けながら、本質的なおいしさを追求していきたい。お客様に喜ばれ、明日の活力になるようなビール造りを進めていくことこそがマーケット全体の活性化につながると信じ、これからも魅力ある商品開発に努めていきます。

品田 おいしくて楽しくて、ウキウキするし、ほっとできる。ビール類の魅力ってまさにそこですよね。若者のビール離れなんてよく言われますが、『本麒麟』は若手社員が中心となってつくり上げた商品。その背景に「お客様第一」に根ざした大胆な企業変革があったことを知り、ますますブランドに好感が持てました。「2018年ヒット商品ベスト30」にアルコール飲料として唯一のランクインは納得できますね。今年の年末は、『本麒麟』がより一層うまく感じられそうです。