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大空間を快適に保っていたのは“鉄仮面”! 縁の下の力持ち、業務用大型空調機の世界

大型空調機の世界
大空間を快適に保っていたのは“鉄仮面”!縁の下の力持ち、業務用大型空調機の世界

2016.10.31

(文/磯 修)

私たちが普段よく訪れる商業施設やイベントホールは、季節を問わずいつでも快適な環境に保たれており、あまりの心地よさについ長居してしまいたくなる。エアコン本体を目にすることがないので、施設を訪れてもエアコンの存在を意識することはないが、裏では大空間用に設計された業務用大型空調機が日々休まず働いてくれている。

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そのような大型施設に設置されている業務用大型空調機だが、家庭用エアコンとはカタチも仕組みも大きく異なることはあまり知られていない。業務用大型空調機を生産するパナソニックの大泉工場(群馬県邑楽郡大泉町)を訪れてみると、まず目に入ったのが吸収式冷凍機と呼ばれる大型施設用の空調機。かつてのSF好き少年を思わずウットリさせるような“キカイ然”とした外観は、まるで鉄仮面のような存在感だった。

パナソニックの業務用大型空調機「ナチュラルチラー」。外観は家庭用エアコンとはまったく異なり、言われなければエアコンだとは分からないほどだ

側面から見ると、配管が縦横無尽に張り巡らされているのが分かる。金属板が多くのボルトで留められているところは、どことなく鉄仮面を連想させる

これだけゴツい外観だけに、運転の際はさぞ多くの電力を消費するのだろう…と思いきや、意外にも電力はほとんど使わないのだという。しかも、地球温暖化の要因になるとされるフロンガスを一切使用しておらず、使うのは水のみ。いかつい見た目に反し、驚くほど環境に優しいのだ。

さらに驚かされたのが、工場内の製造工程だ。アームが動いて作業をこなす産業用ロボットの姿はなく、厚みのある鉄板をダイナミックに曲げてボディーを形づくったり、組み合わせたパネルを寸分のすき間もなくきれいに溶接しているのは、腕利きの職人たちだった。

さまざまな場所で快適な環境を提供してくれているのに、普段の生活ではまず目にすることができない業務用大型空調機。今回は、パナソニックの業務用大型空調機の工場に潜入取材し、鉄仮面のような吸収式冷凍機を生産する職人たちの姿に迫った。次回のショールーム編では、災害などの停電時も安心と快適を提供する業務用空調機など、工夫を凝らした最新モデルのラインアップを見ていきたい。

歴史ある大泉工場で作られる、大きな吸収式冷凍機

今回訪れたパナソニックの大泉工場は、かつて軍用機をはじめとする航空機やエンジンを製造していた中島飛行機の工場だった。中島飛行機は、1平方kmにも及ぶ広大な敷地を有していたが、終戦と同時に米軍に接収され、のちに民間企業に譲渡された。大泉工場は、当時の東京三洋電機に譲渡され、三洋電機がパナソニックと一緒になったことでパナソニックの工場となった。現在、大泉工場では5000人ほどの従業員が働いている。

広大な敷地面積を誇るパナソニックの大泉工場。訪れると、近代的なデザインの事務棟が出迎えてくれる。中央のゲートをくぐった先には、さまざまな工場が建ち並んでいる

ランドマーク的な構造の事務棟を進んだ先にあるのが、業務用大型空調機の製造工場だ。戦前から受け継がれている伝統のある建物は、天井がとても高いのが特徴。かつて、大きな航空機を製造していたといわれる工場は、大きな空調機器を製造する工場に生まれ変わっていた。

業務用大型空調機を生産している工場。建物の面積が広いので分かりにくいが、3階建てのビルに相当する高さを持っている

天井が高いうえに、外光を多く取り入れる構造となっていることから、工場の内部は明るく開放感は十分だ

工場内には、職人の手によって使い込まれたさまざまな工作機械が所狭しと並んでいる。だが、近ごろの工場につきものの産業用ロボットの姿はない

大泉工場ではさまざまな業務用大型空調機を生産しているが、もっとも大きいのが商業施設や大型ホール、病院、ホテルなどの大空間を空調する「吸収式冷凍機」と呼ばれる機器だ。パナソニックでは「ナチュラルチラー」のブランドで展開している。ドーム型球場「東京ドーム」には、ナチュラルチラーのなかでも最大級となる吸収式モデルを4基設置。6畳用の家庭用エアコンに換算すると7000台相当のパワーで球場全体を快適に保ちつつ、従来よりも消費電力を3割カットすることに成功したという。

吸収式冷凍機は、人工冷媒であるフロンガスを一切使わず、水を冷媒として用いるのが特徴。内部を1/100気圧の真空状態に保つことで、水の沸点をわずか6.5度に下げて蒸発を促し、水の気化熱を利用して冷熱を得られるようにしたのだ。

吸収式冷凍機は省エネなのもポイント。特に、電気を使う以外に熱を利用して動かせるので、工場や大型自家発電機などで発生する熱を使って駆動できるのがポイント。本来は捨ててしまう廃熱を利用するので、エコロジーの観点でもきわめて優れている。

完成に近づいた吸収式冷凍機。配管が張り巡らされた独特の造形は存在感たっぷり。車輪を付ければ、蒸気を出して走り出しそうな気がする

人と並べてみると、吸収式冷凍機の大きさがよく分かる。もっとも大きいものは、全長が9mを超えるものもある

ひとくちに吸収式冷凍機といっても、大きさや形状は実にさまざま