空気予報 空気の未来を考えよう
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“春先の空気”の最大の関心事
「花粉」に科学の視点で迫る

2017.02.01

(文・写真/佐保 圭=フリーライター)

3人に1人が花粉症で苦しんでいると言われている現在、「いかにして花粉に触れずに暮らせるか」「どうすれば、花粉の少ない、きれいな空気を実現できるか」は、多くの人たちにとって切実な問題となっている。

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花粉症を引き起こす花粉のことをもっと詳しく知るために、花粉が飛び始める季節の到来に合わせて、2016年12月23日から2017年3月20日まで、国立科学博物館(東京都台東区上野公園)で開催されている企画展「花粉と花粉症の科学」(主催:国立科学博物館、花粉問題対策事業者協議会)を取材した。

展示内容は、植物学の見地からアカデミックに解説する第1章から第3章と、花粉症への対処や対策に役立つ情報としての第4章から構成されている。

「第1章 花の誕生 - 植物にとっての花粉」では、3億年前に種子植物の配偶体として誕生した花粉が、風媒、水媒、虫媒、鳥媒と送粉様式を多様化させるなど、どのように進化してきたかをテーマにしている。巨大化した花粉の模型や、虫媒するハチなどの模型など、子どもたちの目も引く工夫が施されている。

花粉は丈夫な壁に覆われていて、酸にもアルカリにも溶けにくいため、化石として地層に残る。「第2章 花粉は語る - 花粉から何がわかるのか?」では、この花粉化石の分析によって太古の植生や気候変動を推測する研究が紹介される。この分野の第一人者である立命館大学古気候学研究センターの中川毅教授が採取したコア(連続柱状試料)から花粉を抽出・分析する手順を撮影した映像(約7分)は必見だ。

「第2章 花粉と人類 - 花粉のもつ2つの顔」では、人類が紀元前から薬や栄養源として花粉を食してきた歴史と、人類を苦しめてきた花粉症の研究の歴史について語られる。“食べ物”としての歴史で紹介される花粉のサプリメント、冷麺、ペットフードや、ミツバチの足から花粉を採取する道具の実物展示は、一見の価値がある。また、日本で花粉症を引き起こす原因と考えられるカモガヤ、ブタクサ、セイタカアワダチソウなど21種の植物の標本と、さまざまな花粉の電子顕微鏡写真は圧巻だ。

花粉症の歴史の解説によると、世界で初めての花粉症の報告は、1819年、イギリスの医師がイネ科の牧草の干し草に触れて発病すると考えた“hay fever(枯草熱)”だった。1873年、別のイギリスの医師がその原因を花粉と証明してから「花粉症」と呼ばれるようになった。日本では、1961年のブタクサによる花粉症が初の症例報告で、スギ花粉については、1964年の『栃木県日光地方におけるスギ花粉症 Japanese Cedar Pollionosis の発見』の論文が最初の報告だったという。

これら第1章、第2章、第3章の監修を担当したのは国立科学博物館 植物研究部 陸上植物研究グループ・研究主幹の田中伸幸氏である。東南アジアをフィールドとして植物分類学で種の多様性を専門に研究している田中氏は「花粉と多様性の関係」について、こう語る。「種子植物は、遠くまで雄性配偶体(花粉)を飛ばして有性生殖できるようになって、海から陸へ上がることができた。その際、花粉によって一番のネックになる『乾燥』に耐えながら、遠くにある同種の別個体に受粉するシステムを確立したことで、植物は多様化したのです」(田中氏)。

後編ではこうした花粉の知見を踏まえて花粉症に対して、どのような取り組みがなされているかを中心に取り上げる。

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