三井物産  環境コミュニケーションリポート 三井物産環境基金の10年 ~未来につながる社会をつくる~ 福島の真の復興への道を拓く 高校生たちの地熱を使った養殖事業

第3回 学生リポーターの体験リポート

復興に必要な「実行する力」を育てる事業

東北大学大学院
農学研究科資源生物科学専攻
水圏動物生理学分野
博士前期課程1年

木谷 賛

※リポーターの所属先、学年などは取材当時の情報です

 現在、大学院で、マガキ養殖の効率化を最終目標に、マガキ幼生の神経の発達について研究しています。養殖にかかわる研究をしている身として、福島高校スーパーサイエンス部の養殖実証事業の内容や進捗を詳しく知りたいと思い、応募しました。

 また私自身、震災を経験し、さまざまな震災復興事業を見聞きしてきましたが、それが本当に復興につながるものなのか疑問に感じてしまうこともありました。高校生たちが取り組んでいる事業は持続可能なのかを自らの目でみたいとも思ったのです。

 実際に高校生たちが地熱を利用してウナギの養殖実証実験をしている土湯温泉に行き、ウナギの世話の様子や設備を見学し、飼養管理や今後の展望についてのお話をうかがいました。特に興味深く感じたのは、Bridge for Fukushimaの伴場さんや、スーパーサイエンス部顧問の遠藤教諭の、「高校生に徹底的に考えさせ自分でやらせる」という姿勢のもと、彼らが課題を見つけるところから、解決策を考え実行に移すところまで、主体的に取組んでいる点です。私は「高校生がここまでやっているなんてすごい」という感想を抱きましたが、彼らからは「特別なことをやっている」という自意識は一切感じられません。これがまさに、主体的な課題解決が身についていることを裏付けていると思います。

 このような人材を育成し輩出することは、長丁場になるであろう復興の促進になるだけでなく、課題を的確に捉えて解決策を模索し行動できる人材を必要としている、日本の社会全体にとっても大きな利益になると感じました。

好適環境水が入った水槽で一緒に泳ぐフグとウナギの様子を、土湯見聞録館で無料展示している

自ら最適解を考え行動する力を

 震災後の産業づくりについても、さまざまな方からお話をうかがい、成果が見え始めていることを知りました。福島は地震と津波に原発の被害も重なり、復興のハードルが高いため、その中でも生まれた成功例は、今後どこかで大震災が発生した際の有効なモデルケースになると考えられます。また南相馬市小高区の小高ワーカーズベースのように、震災があったからこそ見えてきた「震災前からの問題」に向き合う活動も知りました。これらは高齢化や過疎化の問題を抱える他地域のヒントになるものと思います。

 福島の街づくりや産業創出のために活動していらっしゃる方々は、共通して「自分にできることを現実的に考えて実行する力」を持っているとも感じました。さらに、課題を捉えて行動すれば状況は変えられるということ、大事なのは行動するかどうかだということを実感しました。今後解決しなければならない課題に直面したときは、自ら最適解を考え行動する積極性を持って挑んでいきたいと思いました。

 国や公的機関の助成金の多くは、大きな研究開発事業に向いていると思います。しかし、今回みた福島高校の事例のように、小さくても地域に確かな利益をもたらすものも存在します。そのような事業が、資金が足りないがために存続できなくなってしまうのはもったいないことですし、地域にとってマイナスです。民間企業が柔軟な姿勢でこのような活動を支援することは意義があると思います。特に三井物産のような、広報力もあるグローバル企業なら、小さいけれども優れた活動を世界に発信できます。認知度が上がれば、活動の連鎖を起こすことにもつながるはず。その点でも、意義が大きい支援だと感じています。

土湯温泉街を取材中に、同行の学生リポーターたちと木谷さん。「土湯温泉始め福島が、東京からこんなに近くて、こんなに魅力ある土地とは知らなかった。もっと発信していきたい」

第3回 学生リポーターの体験リポート

「今を変える復興」から「未来に繋げる復興」へ

名古屋大学大学院
理学研究科生命理学専攻
博士前期課程2年

海老原 哲男

※リポーターの所属先、学年などは取材当時の情報です

 大学院で植物をターゲットに、特定の遺伝子・タンパク質がどんな働きを持っているのかを研究しています。将来的には、遺伝子組換え生物に有用物質を効率的に作らせるシステムを構築し、他分野への協働・貢献を目指したいと思っています。

 しかしながら、このような研究活動を進めていく上で、「人に知られる機会が少ない」ということが課題の1つだと捉えています。そこで科学研究だけでなく、誰かの想いやその取り組みを、分かりやすく自分の言葉で伝えられる人間になりたいという気持ちが芽生え、それが今回の学生リポーターの活動内容と重なりました。同時に私自身、東日本大震災以降、自分なりの考え方や形で東北の方々の見ているものに近づきたいという思いもあり、学生リポーターに応募しました。

 今回の行程は、初日にBridge for Fukushima代表理事の伴場賢一さんに案内していただき、福島県東部の飯舘村、川俣町などを車窓から見つつ、いわゆる浜通りのエリアを訪ねました。避難指示区域である南相馬市小高区では、地域で事業を展開している株式会社小高ワーカーズベースの和田智行さんが、現在の同地が抱える課題について説明してくださいました。次いで福島市では、県立福島高校の生徒によるウナギの養殖と南国果実の栽培事業について、プロジェクト立ち上げの経緯や活動状況などを取材しました。

 2日目は、実際に土湯温泉地域で行っているウナギの養殖風景を見学させていただきました。生徒さんたちはみな、将来研究者になるのではないかと思うくらい、真剣に取り組み、「ウナギの養殖を福島の名物にできたら」と意気込んでいました。

 その後、津波の被害を甚大に受けた地域の一つである相馬市で、市内の高校3年生の松本光基さんから、福島の特産物を全国に届ける相双地区高校生プロジェクトtreesの活動の説明がありました。また地域産業の育成に努めている復興支援センターMIRAI 所長の押田一秀さんの案内を受け、津波が襲った海岸部に足を運びました。人の命だけでなく、地域の景観、産業や伝統といった特色など、震災で失ったものの大きさを改めて感じた時間でした。

 2日にわたり、南相馬市小高区、福島高校、相馬市での活動・取り組みを見学させていただき、地域や世代が違っていても目指すもの、見ているものは同じ方向にあるように感じました。共通の目的は、これからの福島県を担う「若手人材育成」だと思います。風評被害の克服と、福島における若い世代の定住率向上を目標に、事業活動の垣根を越えて取り組んでいる様子が見られました。

 中でもやはり、福島高校のスーパーサイエンス部やtreesのように、高校生も活動に参入している点に興味を引かれました。それぞれ、「やらなきゃいけない」という使命感・責任感だけでなく「やりたい、やってみたい」という興味や意欲を持ち、また自分なりに出会いや発見などの楽しみを見出して活動に価値をつけながら、のびのびと地域のために取り組んでいます。そんな取り組みが、10年後、15年後、どんな形になって福島県を支えているのかとても楽しみです。

津波の被害から水産物直売所を再建した、相馬市のカネヨ水産で。現地の状況について、産業復興支援に取り組む押田一秀氏に質問する

被災地外から何ができるか、熟考し行動を起こす

 今回の活動を経て、被災地の方々が「地域」「人」「仕事」「物」、失ったものを、1つ1つ時間をかけて取り戻そうとしている姿に胸を打たれ、勇気づけられました。さらに、福島高校のウナギの養殖事業は、「今を変える」ことではなく「未来に繋げる」活動です。このように、原発事故の事実も背負いながら、強く前を向いている姿勢は、個人や企業、他の地域も模範とすべき精神だと思います。

 そんな姿を見て、私自身は、今進めている研究や、大学で所属・運営しているサイエンスコミュニケーションサークルなどで、より「誰かのため」をモチベーションに、活動を深めていきたいと思っています。自分の目の前の課題や、今すべきことを熟考して、どんな形になるかはまだはっきりとしていませんが、被災地支援に繋げていくつもりです。

 今回の取材を通じて分かったことの一つとして、どの活動も自分たちだけではできず、周りとの連携を必要としていることがあります。アイデアは現地にあっても、実現するための資金、人手、広報などは、自分たちだけでは賄いきれない。三井物産の環境基金は、それぞれの活動の基盤を作り、同時に人や地域、文化を繋げている。それが連鎖して次の課題の解決に繋がっているように思います。

 今回、福島県へ行き、現地の方と繋がるきっかけをくださった三井物産さんをはじめ、取材をさせていただいたみなさんに心から感謝いたします。また東北に遊びに行きたいと思います。

福島高校スーパーサイエンス部が活動する生物実験室にて実験水槽の説明を聞く

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