単独無寄港で地球を一周 過酷なヨットレースにアジア人として初挑戦 一人vs地球

海洋冒険家の白石康次郎氏が、世界で最も過酷と言われるヨットレース「ヴァンデ・グローブ(Vendée Globe)」に挑む。これはアジア人として初の快挙であり、白石氏が少年の頃から抱いていた夢でもある。新たな冒険に夢を膨らませる白石氏に話を聞いた。

好奇心に突き動かされ、世界を駆け巡る冒険へと帆を立てる

単独無寄港無補給
世界一過酷と言われるヨットレース

私は今、長年の夢である「ヴァンデ・グローブ(Vendée Globe)」本戦出場に向けてヨットの装備を整え、心身のコンディションを高める日々を過ごしています。

ヴァンデ・グローブとは単独無寄港無補給、つまり一人で、どこの港にも寄らず、誰からの援助も受けずに地球を一周するヨットレースです。寄港を伴う「BOC Challenge」レースを2度制したフランス人、フィリップ・ジャントーにより発案されたスピードレースであり、「世界で最も過酷なヨットレース」と言われています。

8回目となる今大会のスタートは2016年11月6日。フランス北西部の大西洋に面した都市、レ・サーブル・ドロンヌを出発して、80〜100日間(2000時間以上)かけて地球を一周し、ゴールを目指します。コースは、まず大西洋を南下。喜望峰を抜けてインド洋に出て、オーストラリアのルーイン岬沖を帆走します。オーストラリアとニュージーランドの南側を抜けて南太平洋へ出て、南米大陸と南極大陸の間にあるドレーク海峡を抜け、大西洋に出たら北上して、再びレ・サーブル・ドロンヌを目指します。通常は10人前後で操舵する全長60フィート(約18m)の外洋レース艇をたった一人で操りながら、南半球1周およそ2万6000マイル(約4万8000km)の航程を、風のみの力で帆走します。

幾度となくチャンスを逃し、涙を飲みながらも諦めず、やっとつかんだ夢。その原点は、私が6歳の頃から暮らした鎌倉で眺めた風景にあります。目の前に広がる湘南の海を眺めながら、「いつか船で世界の海を巡りたい!」と夢を描き、地元の水産高校に進学。単独世界一周ヨットレースの第1回大会で優勝した故・多田雄幸氏の存在を知って、ヨットでの世界一周を志すようになり、多田氏に弟子入りしました。

厳しくも温かい人柄に満ちた師匠からは数多くのことを学びました。ヴァンデ・グローブについて知ったのも師匠の愛艇の中でした。船の図面を眺めながら、世界有数の過酷なヨットレースについて楽しそうに話す師匠の姿を見て、私もいつか出場したいと思いを募らせたのです。

あれから30年。多くの方々からのご支援のおかげで、ようやくスタート地点に立つことができました。11月のレース本番まで、より安全に航海できるよう、レース艇をさらにメンテナンスしたり、さまざまな事務手続きを行ったり、まだまだ準備が続きます。引き続き皆さまにご支援をお願いしているところです。

最も重要なのは決断力
頼れるのは「自分」だけ

「大海原にたった一人でいるのは怖くないですか?」とよく聞かれます。もちろん、予測のつかない自然にたった一人で挑むので、絶えず危険は伴います。一瞬も気を緩めることができず、睡眠も数時間に1度、30分~1時間の仮眠を取る程度です。

そんなレース中、最も重要なのは決断力です。頼れるのは自分一人。一度に二つのことはできませんから、今置かれている状況を見極めて、帆を降ろすべきか、舵を握るべきか、航海計器の情報を確認するべきか、即座に判断し安全に航海を進めていかなければなりません。先日、完走したヴァンデ・グローブのプレ・レース、「TRANSAT NEW YORK-VENDÉE」では、鯨と衝突して故障する艇が続出しました。私の艇も1度、鯨とぶつかりましたが大事に至らず、そのまま航海を続けることができました。運の良し悪しもあるでしょうが、決断力が良い結果を導いたのだと思います。

いざというときに良い決断を下すには、あらかじめ良い精神状態をつくっておかなければなりません。怒ったり、消極的な気分では良い決断など到底できません。日ごろから感情をコントロールし、常に前向きな気持ちでいることが重要です。まさに、知力、体力、精神力を総動員することで、ようやく世界一周はかなうのです。

海はいつでもあるがまま
そして冒険の時へと挑む

孤独かつ過酷な時間を幾度となく経験しながら、なぜ私は海を目指すのか。理由の一つは、世界中に友達ができるから。もう一つは、やはり海の美しさに魅せられているからです。地表の7割を占める海はいつでも、あるがまま。私はいつもその海の姿に感動を覚えます。

そしてもう一つ、そんな過酷なレースに挑む動機を問われれば、それは「好奇心」のひと言に尽きます。少年の頃、湘南の海で水平線を見つめながら、「本当にこの海の先に、外国があるのだろうか?」と思いを馳せていた、その好奇心が今も私を突き動かし、世界の海を駆け巡る冒険へと駆り立てています。

今回、ヴァンデ・グローブの過酷な環境を想定して、セイコーと共同開発した「プロスペックス マリーンマスター オーシャンクルーザー」は、私の挑戦を支えてくれる相棒のような時計です。ヨット乗りはもちろんのこと、見果てぬ世界への夢を抱く人や、冒険心を心に宿している人たちに使ってほしいですね。

(プロフィール)
海洋冒険家 白石 康次郎

1967年生まれ、鎌倉育ち。神奈川県立三崎水産高等学校(現・神奈川県立海洋科学高等学校)卒業後、単独世界一周ヨットレース優勝者の多田雄幸氏に弟子入り。94年、世界最年少単独無寄港世界一周を達成。その他、数々のヨットレースやアドベンチャーレースでも活躍。06年、単独世界一周ヨットレース「5 OCEANS」クラスⅠ(60フィート)に参戦し、歴史的快挙となる2位でゴール。さらに08年、フランスの双胴船「Gitana13」にクルーとして乗船し、サンフランシスコ~横浜間の世界最速横断記録を更新した。16年5月29日~6月11日に開かれた大西洋横断ヨットレース「TRANSAT NEW YOR K-VENDÉE」では14艇中7位で見事完走。「ヴァンデ・グローブ」の前哨戦となるこのレースを完走したことにより、11月6日から開かれるヴァンデ・グローブにアジア人として初参戦することが決まった。

[白石康次郎 応援クラウドファンディングのお知らせ]

過酷なヨットレース『Vendée Globe』に挑戦する白石康次郎さん。
出場には約3億5000万円もの資金が必要で、あと一歩のところまで来ています。
現在、クラウドファンディングで、ヨットの動力源になる帆(セイル)を購入するプロジェクトへの サポートを募集しています。詳しくは以下のアドレスをご覧ください。

白石康次郎オフィシャルWEBサイト www.kojiro.jp

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